かつての悪は愉しみたい   作:ゴマ醤油

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 机に伏しながら過去の己を呪わずにはいられない。

 一体どうしてこうなってしまったのか。俺ならもっと上手くやれるはずだった、例え人より劣るとももう少しくらいましに成すことが出来たのではないか。

 

 そうとも。数多の誘惑の内一つくらい振り切ることが出来ていれば、あるいは少しは違う結果になっていたのではないか。

 後悔などしても仕方が無いのは十二分に理解している。それでもああすればよかったともしもを考えてしまうのが人の性──変えようのない業なのだ。

 

「おーい遠野。今日カラオケ行かない?」

「……ごめん。そんな気分じゃない」

「おおう重傷だな。お気の毒ー」

 

 そんな奴とは対照的に机に俯き絶望している俺。そんな俺に心から哀れんでいるとでも言いたそうなくらいの同情にすら、今はまともに返す余裕はなかった。

 はい。テストはほとんど出来ませんでした。平均点なんて夢のまた夢でした。

 

 いやね? 全部が出来なかった訳じゃあないんだよ? ちゃんと出来た科目だってあるんだよ? 

 ただ予想の斜め上くらいに苦手科目が壊滅的だっただけ、一言で言ってしまえばそれで終わりなのだ。

 

 何で理系科目ってあんなに難しいの? 一度だけ見たことある、第一大陸(ファーデア)の世界で一番難しいらしい言語くらい理解不能なんだけど? 

 日国史(ひくにし)とかも死ぬほど嫌だけどまだましだ。時々出てくる見たことある奴ら(かみども)の偉業とか聞いてるだけでむかついてくるけど、あんな偉ぶっているふざけた奴らが頑張って信仰を守ろうとしているんだと考えたらちょっと笑えてくるしね。

 

 ……まあいいや。とりあえずとっとと帰ろうかな。

 適当に放置したあいつがどんな風になっているか確かめないといけないし、それになにより──。

 

「あら、そこは机よ。這い蹲るなら地べたにしなさいな」

 

 この鬱陶しい声が耳に入ることがないように思っていたのに。

 何でいるんだよこいつ。今日まで部活は禁止だし、大概の生徒はもう下校してんだろうが。

 

「……烏間(からすま)。なんでまだいんの? 学校大好き人間かよ」

「少なくとも貴方よりは好きよ。今だってテストの問題について聞きに行っていただけですもの」

「……あっそ」

 

 それは結構。実にまじめなことで良いですね。

 

 威張れる対象を見つけたガキ大将のように踏ん反り返っている烏間の顔は、実に俺を苛つかせてくれることだ。

 まったく、白姉を見習ってほしいものだ。同じ美形でもどうしてこう天と地ほどの差があるというのか。こいつの美貌は外見だけの張りぼてなんだろうな。

 

 言いたいことを言って満足したのか、抱えていたノートを鞄に入れて帰る支度する烏間。

 俺もこいつが帰ったら帰ろうかなと適当に準備を始めだした時だった。

 

「──っ!!」

 

 一瞬何かに驚いたかのような小声を出し、犯人を見つけた警察みたいに教室を駆け出す烏間。

 一見意味不明な焦り。しかし俺には、俺と同じような人間なら何となく理解できるはずだ。

 

 ──少し遠くで急に力が現れた。

 

 俺基準なら欠片の脅威もない、本当に大したことない力の量。それでも、平和を願うのであれば無視できない邪気のこもった力──つまりは(ヴィラン)の出現の証だ。

 

 けど、これに反応するのは自分が一般人ではないと宣言するのと同じ事だ。

 力はわかる人にしかわからない、どんなに優秀な人間でも理解していなければ感じることの出来ないもの。一部の例外はあれどそれが普通のはずだ。

 

 つまり、あいつは超常を遠い存在としていない非日常に足を突っ込んだ人間。それも最近入ったばっかりのほぼ初心者(ニュービー)正義の味方(ヒーロー)である可能性が高いだろう。

 

 この世界はそんな決まりはないはずなのに、いろいろ秘密厳守が多い。実在する神は拝むことすら難しく、英雄協会ですらSPの内情に関しては外部に漏らさないように徹底しているくらいには隠されたものなのだ。

 

 日常のみに生きる者にとって、超常的力はあくまで正義の味方(ヒーロー)の使う不思議なもの、それが一般的な常識だ。

 だから日常で力を感じた際、知らない人(いっぱんじん)にわかるくらい表情に出すのは呆れるほどの正直者かよほど感情的になっているか、あるいはまだ慣れてない奴くらいだろう。

 

 そんな事情を少しでも知っている(ヴィラン)や野良正義の味方(ヒーロー)なら、些細なへまでも正体に繋がる恐れがあるので滅多にやらかしはしない。

 つまりあいつは力と出会ってまだ間もない新人。それも、義心に満ちた正義の味方(ヒーロー)である可能性が高い、これが結論。

 

 そこまで考えて、こんな考察は時間と脳の無駄だなと気づく。

 

 あの女がどんな人生送ってようが俺には露程も関係はないのだ。

 あの毒舌の裏には秘める善性がありましたー、なんてお涙頂戴な展開があったとしてもどうでも良い。

 もし俺にとっての害となるなら潰すだけ。それまでは放置でも問題ないだろう。

 

 鞄を持ち、のんびりと歩きながら帰路につく。

 さてどうなっているか。出来ればちょっとは面白いと見ていてたのしいんだけどなぁ。

 

 ──なんて、ちょっとでも期待した俺の気持ちはすぐに裏切られる。

 

 黒自世界(ブラックワールド)に戻った俺が最初にしたのは、それはそれは大きなため息。

 真っ黒な大地にポツリと浮いた点のようにボロ雑巾のように転がる少女に対しての失意の表れ──それだけだった。




明日は投稿できるか分からないです。
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