「……で、そのアニメを見るために一時間も遅れたんですか」
「うん」
「私緊急ーって言いましたよね!? なんでそっち優先しちゃうんすか!?」
煩いなあ。後で見返そうとすると不思議と一週間経っちゃうからしょうがないんだよ。
冷房の入った涼しい部屋で氷の入ったコーラをストローで喉に流しこみながら、目の前でいかにも怒ってますとふくれる成美のことも適当に流しておく。
誠に遺憾ながら俺は寝起きなんだし、不満を垂れるより一時間で面倒臭い話を聞けるくらい脳をすっきりさせたことを褒めるべきだ。……うまい。
「……んで進展って何? くだらないことだったら
不満たらたらな感じ全開で成美に視線を向けると。やけに自信に満ちる成美の笑みが目に入る。
なんだこいつ。前よりも辛い世界に三年とは行かないまでも一ヶ月くらい放り込んでやろうかな?
「ふふーん」
「……何その顔。そんなに自信あんの?」
「もちろんっす! これっすよ!!」
成美が手に持っていた携帯の画面を見せつけてくる。
俺よりも新しい最新機種。……羨ましくなんか無いけど、なんかすっげーむかつくな。
まあ俺は大人だし何も言わないでやろうと、心の中でちょっとだけ毒を吐きながら画面を眺める。
これっぽちも調節していない無駄に明るい画面に写っていたのは、一枚の写真とでかでかと空に書かれている編集で付けられた文字。
「……
「はいっす。おそらくここに目的の奴──
呆れるほどに自信満々などや顔で断言する成美だが、なんでそうなったのか心の底から疑問が湧いてくる。
公式では
──
正直何処から湧いたのかも分からない程度にはまったく身に覚えのない話なのだが、どうしてかこれがどこかのSNSで注目を浴びてしまったらしく、オカルティックなラジオ番組が組まれるくらいには広がってしまっているのだ。
正直無視すればそれで済む話ではある。……あるのだが、生憎この話を無視するなど俺には耐えきれる訳がなかった。
例え俺が
……まあ成美の実力アップにも都合が良いので、修行代わりに押しつけてるけど。
「なんでここなの?」
「ちょっと待って下さい……ほらこれ! このサイトに書いてあったからっす!」
ぽちぽちと現代っ子らしく慣れた手つきで操作し、改めて画面を向けてくる。
灰色の画面に映る数字と文字の羅列群。日常で発することのない汚い言葉の応酬は、何というか新鮮味すら感じられてくるが、これは一体……?
「……何これ?」
「
知らねーよビービーキューって、バーベキューかよ。逆になんでお前は知ってるんだよ。
「BB9はオカルトを専門とする匿名掲示板で、都市伝説とか心霊現象とか超能力とか一般人的には未だに縁の薄い非科学を主に取り扱ってるんすよ。元々
「はえー」
成美はえらく流暢に全く聞いてない概要まで話し始めるが、まあ聞かなくても良さそうなのでコーラ飲みながら適当に相槌を打っておく。
こういうのって話し始めると止まんないんだよなぁ。
……それにしても、こんな少女がネットの掃き溜めをうっきうきで見ているとか世も大分末ってんな。
「──んで? 結局何が書いてあったの?」
「その中のこの部分……これっす! この
すさまじく背景から浮いたフォントででかでかと書かれているタイトルのページ。
成美はそのページを勢いよくスライドしまくって、あるところでぴったりとストップさせる。
えっと何々……?
「調べてみたら
へえー、そんなところがあったんだぁ。
初回と言えば
ちょっと緊張してたのもあってやりすぎちゃったんだよね。
実際は俺が出て行ったときにはもう街は七割ほど壊滅してたんだけど、まあ一回呑み込んで演出も派手だったから全部俺のせいになったっていう華々しい出だしになってしまったんだっけ。
なすり付けはちょっとに癇に障ったけど、まあ結果として
「どうっすどうっす?? ちょっとは興味とか出てこないっすか? 行ってみたくならないっすか??」
「いやまったく。こんな根拠もない眉唾一つで動くわけないだろ」
「ええー!?」
俺の反応が予想と違ったのかやたら大きく不満を垂らしてくる成美。
むしろなんでこいつが、こんな信憑性も糞もない一言でどや顔をしちゃえるのか疑問で仕方がない。その前向きさが一番都市伝説だろ。
「でもー、そんな信憑性もない噂で動いているんだから今更じゃないっすかあ?」
「……うっ」
「調査も露払いも私にやらせるなら、一回くらいは私が行き先決めてもいいっすよねえ?」
無駄に甘ったるい、如何にも媚びを売っていますと言わんばかりの声のくせして随分と鋭い指摘をしてくるじゃあないか。
確かに
でもこの神社、ここから一時間くらい掛かる何とも言えない場所らしいから面倒臭いんだよなあ。
転移とか無駄にリスクがあるの使いたくないし今読む本とかないから電車乗りたくないしどうしよっかなぁ──。
「怖いんすか?」
「……はっ?」
「師匠の力が届かなかった神社だし、もし神様が降臨しちゃったら勝てないかもーとか考えてるんすか?」
はっ? ──はっ???
「まあそれならしょうがないっすよねえ? いくら天下の
「…………ったら」
「何すか?」
「行ってやるって言ってんだよ!! ほら、さっさと準備しろ!!」
「──はいっす!!」
自室の安物の椅子よりお気に入りの椅子から跳ねるように立ちあがる。
そこまで言われちゃ黙ってるわけにはいかない。例えどれだけ陳腐な挑発であろうとも、こんなにむかつく顔をしている
成美がうっきうきで準備を始めるのを見ながら、勢いよくコップを掴んでコーラを一気に飲み干すと少しだけ冷静に戻った気がする。
……まあ言っちゃったもんは仕方がない。とりあえず、最寄りの駅がどこか調べないとなぁ。
たくさんの評価と感想ありがとうございます。
期待に応える且つ無理のないように書いていきたいと思いますので、読んで頂けたら嬉しいです。
ちなみに、明日はあるかわかりません。