かつての悪は愉しみたい   作:ゴマ醤油

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 電車に揺られながら約一時間。都市部から若干離れた我が地元からも離れ、更に田舎感の増した殺風景な場所にその神社はあった。

 周りに馴染むこじんまりとした木造建築。ちょうど今夏だし、ちょっと砂糖水塗ったら虫がわんさかでそうで嫌になる事間違いなしの場所だ。

 

「……本当にここ? 聖地って言うからもっと派手なのかと思ったわ」

「神社に何求めてんすか? ほら行くっすよ!!」

 

 初めてテーマパークに来た子供みたいなスキップで鳥居をくぐる成美。

 観光気分で無駄にちゃんとしたカメラなんて持ってきたお前の方がここに何かを求めてると思うんだけどな。

 

 まあいちいち気にするのもあれなので、のんびりと神社の敷居を跨いでいく。

 

「……へえ」

 

 空気が変わった。まるで外からエアコンの付いた部屋に入った時のように、のどかなだけの自然な空気がどこか超然的な──人ならざる存在の気配を漂わせ始めた。

 

 神社と言ってもその大半は信仰欲しさと人の欲に塗れた場所。神の気配がこうまで濃い場所は滅多に存在しない。

 なるほど、つまりここは紛れもなく神の居城。その辺の集金地帯とは異なる本物の聖地ってわけだ。

 

 暑さにやられていたメンタルがちょっとだけやる気になっていくのを自覚する。

 偽闇(にせシャドウ)と繋がってるのかはさておき、もしかしたら神のお姿でも拝見できるかもしれないなァ? 

 

「師匠ー! 早く早くーっ、早くするっすよー!!」

「……はいはい」

 

 まあ、あいつは欠片も気づいていないようだけどな。

 まったく、力の本質は俺よりも神に近いんだから少しは察してくれると引き締まるんだけどなあ。……無理か。

 

 歩きながら周囲を見回すが、生憎見かけはごく普通の神社。

 残念ながら、気づく人にしか特別感のないであろう五分で満喫出来るお手頃な場所でしかないな。

 

「……そういえば、月波(つきなみ)ってどんな神なの?」

「ええっとすね……。何でも天那岐(アマナギ)の実の弟で、月と死を司る神らしいんすよ」

 

 明日ている最中暇だったので成美に月波(つきなみ)について聞いてみると、意外と簡単に説明してくれる。

 月と死か。確か天那岐(アマナギ)が太陽と生、後は豊穣だったはずだから……月波(つきなみ)はほとんど正反対の性質ってわけだ。

 

「……天那岐(アマナギ)って弟とかいたんだ。聞いたことなかったわ」

「あんまり有名じゃないっすけどね。中学でも習わなかったし、高校の範囲とかじゃなかったんすか?」

「今のところは出てきてないな。それに天那岐(アマナギ)程信仰の厚い神の弟なら、なおさら小学生で習いそうなんだけどなぁ」

 

 別にちゃんと勉学していたわけではないけれど、それでも月波(つきなみ)が本当に天那岐(アマナギ)の弟なんだったら一度くらいは聞いたことがあるはずだ。

 

 天那岐(アマナギ)第三大陸(トレプス)における最高格の神。つまりこいつの追う大神(ジーナス)とほぼ同格の神だ。

 そんな知名度の高い神の弟ならもう少し知られてても言いとは思うのだが、なんでこんなに差があるんだろうか。

 

「……謎だなぁ」

「意外としょうもない理由なんじゃないっすかね? 例えば弟の端麗さに嫉妬したとか」

「ないな」

「えー」

 

 しょうもないことだとは思うけど、それでも容姿の話ではないことだけは断言できる。

 会ったことある身からすれば、天那岐(アマナギ)は過剰を越えていると言って良いほどには自分に自信を持っているタイプだった。

 

 あれはどう考えても己を一番だと思っている。決して人を蔑まず、全てを下に見るのみの傲岸不遜な神。それこそが天那岐(アマナギ)のはずだ。

 

「ま、どうでも良いさ。そんなことを知るためにここに来たわけじゃあないしね?」

「……そうっすね。残念ながら何もなさそうですし、参拝だけして帰りましょうか」

 

 ……参拝はするんだ。君、神は嫌いなんじゃなかったっけ? 

 

 えらくちゃんと祈る成美の隣に立ち、ポケットに入っていたピカピカの五円玉を賽銭箱に投げ込む。

 小汚い縄とぶんぶんと振り鈴を鳴らし、特に願うこともないけれど何となく覚えていた二礼二拍手一礼をしておく。

 まあせっかくだし、俺もこのぼろくさ……ちょっと古い神社にお金を落としてあげよう。(ヴィラン)の施しだ、苦渋を舐めながら受け取るが良い。

 

「……んじゃ帰るか。今日は母さん遅いしどっか寄ってくか」

「まじっすか!? じゃあ肉がいいっす!! ハンバーグっす!!」

 

 日もすっかり下がり、あんまり外に痛くない暗さになったので夕飯の提案をすると、それはもう勢いよく肉を所望してくる成美。

 すっかりと気持ちを肉一色に切り替えたこいつを見ていると、釣られておなか減ってきた。

 

 夏の思い出作りにちょっとだけ来た甲斐があったなと適当に満足しながら帰ろうと、鳥居まで足を進め足をくぐらせようとして──。

 

「──っ!?」

 

 バチッ!! と極大の静電気でも発生したかのような音を上げ、俺の足が弾かれる。

 何これ……結界か? 

 

「えっ師匠!? 大丈夫っすか!?」

「ちょいびくったが問題ないよ。それよりなんだろうねこれ……?」

 

 成美が振り向きこちらに駆け寄ってくるが特に問題はない。本当に弾かれただけだ。

 今度は手を鳥居に向けて伸ばしてみると、先ほどと同じように手が空間に拒絶されたかのように弾かれる。

 成美が問題なく通れたところを見ると、どうやら対象は俺だけらしい。

 条件が分からない。力の質から見て神が直接貼ったわけでもないし、一体何で俺だけが通れないんだ? 

 

(……まさかここ、当たりか?)

 

 おなかも減ったし面倒臭いから壊して帰ろうかと思ったところで、ふと脳裏に過ぎるのは一つの推測。

 もしかしてここ、当初の目的の手がかりになったりする場所だったりするのか? 

 

「悪辣なる物め。我らが神の礎となるが良い!!」

 

 案の定、どこにいたんだというくらいにわさわさと出てくる人共に心の底から嫌気が差す。

 ……はあっ、めんどくさっ。勘弁しろよ……本当まじで。




 誤字多くて本当ごめんなさい。修正してくれる方、本当に助かってます。
 明日はわかんないです。七割くらいはないと思って下さい。
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