かつての悪は愉しみたい   作:ゴマ醤油

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 四方から迫りくる、短くも鋭利なクナイを持ちながら抉り混む連撃。

 繰り出される殺意の(やいば)。成美は必死に身をよじりながら回避し、魔力を込めた拳で弾き続ける。

 

 ──縛りを設けたとはいえ、やっぱり今の成美にはちと厳しいか。

 

 一歩間違えばすぐに圧されるであろう苦戦を強いられているが、まあ予想通りの望んだ展開だ。

 

 力任せの暴力が大半の(ヴィラン)とは違う研鑽。殺意を技に変えた、遙か彼方より積み重ねし技量を前にしたのは、おそらく初めてに近いだろう。

 技術というのは実に恐ろしい。場合によっちゃあ、一の技量が百の力に勝ることだってあるくらいには警戒しなくてはならないものだ。

 

 ……ま、万や億を相手には出来ないんだけどね。

 

「──疾っ!!」

「邪魔だよ」

 

 こちらに飛びかかってくる黒づくめの装束の攻撃を最小限の動きで避け、額を人差し指で触れ魔力を流して昏倒させる。

 まったく……。せっかくあいつの修行なんだからこっちに来ないで欲しいんだけどな。

 

 まあ結界に引っかかったのは俺だし、抵抗するあいつより棒立ちの俺を押さえに掛かるのは当然のことか。

 残るはひいふうみい……大体十五ほど。 未だに影を潜める者や後ろで補助の術に徹している輩もいるし、随分と統率のとれていることじゃあないか。

 

 夜の神社が好きなチンピラ集団じゃないことは、格好を見れば何となく理解できる。

 近接やってるのは闇夜に紛れるために作られた装束。そしていかにも神に仕えていますと言わんばかりの神社によく見かける格好をした後ろの連中。

 

 忍者と巫女。嗚呼、まさに日国(ひくに)の闇に紛れる秘密組織に相応しい格好じゃあないか。

 ……ま、こんなちゃちな贄集めをしているようでは程度が知れるというもの。こんな方法でしか目的に近づけない小物集団だと自ら言ってくれているようなものだ。

 

(ほら、早く片付けなよ? この程度なら余裕でしょ?)

(そん、な、こと、言ったって!! すっごく、やりに、くいんですよっ!!)

 

 たどたどしい念話を繋ぎながら、どうにか少しずつ数を減らしていく成美。

 初めての暗殺術を前にやりにくいで済むのはすごいと思う。俺だったらとっくに縛りなんて無視してると思うし。

 

 横から迫る忍びの腕を掴んでクナイを奪い、後ろの巫女目掛けて投げることおおよそ四度。

 補助の術を組んでいる者をすべて倒し終わるとあとはもう流れ作業。自らで力を操ることは出来ないのか、成美の速度にまるで対応出来ず倒れていく。

 

「──ぷっはぁー!! 終わったー!!」

「お疲れー」

 

 未だ隠れるもう一人に気づかないままやりきったかのように一段落する成美。

 気づかないかー。せっかく頑張ってもこれじゃあ赤点ものかなー。

 

「お疲れじゃないっすよ!! すっごい疲れたんすからね!?」

「そか」

「大体何すかあの縛り! 戦闘衣装(ドレス)はまだわかるっすけどなんで武器もダメなんすか! おかげで死ぬかと思いましたよ!」

 

 案の定成美はこっちにめちゃくちゃ文句を言い始めてきたが、まあこれに関しては言っても仕方がないだろうな。

 何せ今回設けた縛りは戦闘衣装(ドレス)の着用と武器の使用を禁ずるの三つ。まあ一つは当然として、もう二つは急に課されれば戦闘が困難になるものだ。

 

「しょうがないだろう? お前は今話題沸騰中の(ヴィラン)。戦法一つで正体が露見しかねないんだから、同じ武器なんて使って良いわけないだろうが」

「……まあそうっすけど」

戦闘衣装(ドレス)もそう。正義の味方(ヒーロー)でも滅多にしない公開変身を(ヴィラン)がやるなんて愚行、よっぽどの阿呆じゃなきゃやらないからね」

 

 まあ武器については、こいつが徒手空拳で対人戦が出来るかを見るためでもあるんだけどね。

 変身に関しては要対策かな。認識阻害の結界なんかを何処でも張れるようにさせないと、急な襲撃に対応出来ないしな。

 

「……全員生きてる。うん、まあ合格かな」

 

 俺が生かした一人の頭を掴みながら、成美が相手にした奴らの中から生き残った数を数える。

 三つ目の縛り通りに全員息はあるな。一人くらいは勢いでやっちまうかと思ってたけど、思いの外頑張ったんじゃあないかな。

 

「……師匠の方も死んでないっすね。本当に殺さないでよかったんすか?」

「さあ? 別に殺さなくてもどうとでもなるし、いろいろと聞きたいこともあるしな」

 

 掴んでいた男を放り捨てて、また違う人を掴みながらちょっとだけこいつの割り切りの良さに驚く。

 

 俺からしたらぽんぽんと殺していけるお前がすごいと思う。

 (ヴィラン)デビューからまだ半年も経ってないはずなんだけど、どうしてそんなに躊躇いがないんだろうか。

 

「一つだけ言ってあげるけど、復讐者を名乗りたいならその極端さをどうにかした方が良い。殺すしか選択できない(ヴィラン)なんて三流も良いところさ」

 

 ま、そんな器用なこと。今のこいつにはできっこないし求めないけどな。

 自分以外の生殺与奪を御してこそ一流の悪というもの。ただ闇雲に殺していく凶戦士(やばんじん)なんて獣たちだけで十分だし、こいつにはもうちょっとスマートな悪党になってほしいしね。

 

「ま、今は力を付けるんだね。選択の権利は強くなって初めて得られるものなんだからさ?」

「……はいっす」

「よし。やることやったし、とっととこいつら処理して帰ろうか」

 

 話している間に覗いていた記憶。その中でましなものは宵闇っていう組織名と組織の場所、それと至高の存在なる何かの復活が目的ことくらいしかなかった。

 まあ名前とか目的には欠片の興味も湧かないけど、次に行く場所がわかったことだけでも収穫かな。

 

 持っていた男をさっき放り投げた奴の上に捨て、至る所に転がっているぼんくら共を浮かせて同じ場所に集めていく。

 全員集め終わったところで足下から伸びた黒で全員を呑み込みすぐさま引っ込めると、先ほどまであった人の塊は影も形も見えなくなった。

 

「……あいつらどこやったんすか?」

「記憶いじって通常時の待機場所に戻しといた。いやー、こいつら場所は正確で助かるよ」

 

 俺の転移はちょっと制限があり、しっかりと覚えている場所か俺の魔力の残っている場所にしか移動できない。

 戦闘時には特に問題ないけど普段使いには不便という難儀な塩梅だが、まあその方が余計なこと考えないで済むので改善していないんだけどね。

 

「さて、そろそろ行こうか。食べたいのはハンバーグだっけ?」

「そうっす。近くにお店があるのはサーチ済みっすよ!! 早く行くっすよ!!」

「はいはい。ちょっと待って──」

 

 そう言おうとした次の瞬間、隠れていた最後の一人が動いた。

 

 言い終わる前に放たれた、成美の背後を狙う三振りの手裏剣。

 先ほどまでの攻撃のどれよりも(はや)く迫る刃。瞬き一つの合間にすべてが成美の背に突き刺さるだろうと思いながら、まあ自業自得なのでスルーする。

 

「──せいっ!!」

 

 しかし予想とは異なり、まるでわかっていたかのように身を翻し全ての手裏剣を弾き一つをそのまま掴む成美。

 ……へえ。もしかして、泳がせていただけだったりするん? 

 

 掴んだ刃はそのまま勢いごと返すかのように投げられ、突き刺さった茂みの中から悲鳴が起こる。

 成美はすぐさまその茂みに駆け、隠れていたその人物を引きずり出した。




たくさんの誤字修正や感想、評価ありがとうございます。
やれるところまでやるという方針は変わりませんが、ちょっとでも続けられるように頑張りたいと思いますのでよろしくお願いいたします。

 更新ですが、明日はたぶんないです。
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