かつての悪は愉しみたい   作:ゴマ醤油

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 成美によって引きずり出され膝をつく忍は、見かけだけで言えばさっきまでの連中と大差なかった。

 ただ一つ違う点は頭を隠さずに出し後ろで髪をまとめていること、それと一人だけ魔力が多いということか。

 

 それにしても今の投擲、凡々集団に属しているにしちゃあ中々のもんじゃあないか。

 

 先ほどの手裏剣にはしっかりと魔力が籠もっていた。

 つまり先ほどの三下共とは違い一人でも戦闘の可能な人間、それも結構な手練れってことになる。

 

 もしもの話だが、こいつが先陣切って向かってきていたら成美は勝てなかったかもしれないな。

 

「……くっ。まさかこのような醜態を晒すとは……」

「そのまま逃げれば良かったじゃん」

「……仕方ないことだ。いくら薄縁とはいえ、同胞を消した貴様等二人を前におめおめと退いてしまえば処分は避けられない。だから少しでも軽くするためには貴様等を消すしかなかったのだ……」

 

 低めだが伝わりやすい、諦観を乗せた声色。抵抗する気は無いらしい。

 さてさてこいつをどうしようか。正直持っている情報は他の奴と変わらないだろうし、適当にいじって捨てとくのが最適だとは思う。

 

 ──しかし、しかしだ。こんな磨けば光りそうな便利な石ころをむざむざ野に返すのはもったいないんじゃあないか。

 

(ねえ成美。お前こいつを手懐けてみてよ)

「……はあっ!?」

 

 夜だというのに急に大声を上げた成美に驚く忍。

 煩いなあ。せっかく念話したってのに、んな大げさな反応されてちゃあ意味ないじゃないか。

 

(何言ってるんすか師匠!! 敵っすよこいつ!!)

(だからこそさ。こいつ使えそうだし、それにお前には部下が必要だよ)

 

 前者と後者の二つとも心からの本音だが、主に思うのは後者の方だ。

 俺は部下いなくても問題なかったが、こいつがもし一人で悪党続けてたらそう遠くない未来で手痛い失敗をすることだろうという確信がある。

 

 俺が隣にいるうちならまだ良い。終わった後で死ぬほど嗤ってやるが、それでも出来る範囲でフォローしてやれる。

 

 だが、必ずいつかは一人で戦わなければならないときが、俺と道を分つ時が来るのは避けようのない未来だ。

 その時に自らを守れるのは、己自身と後ろを任せられる仲間のみだ。神を殺すのであればこいつ自身が成長するのは当然として、俺という不確定じゃあない戦力を何人かは用意した方が良い。

 

 幸いなことに今なら即戦力じゃなくても構わない。まだ神殺しに向けて本腰を入れていないこの時期なら多少なりとも余裕はあるから問題ないし、それに何より初期から付いてくる腹心とか中々にそそられるしね。

 

(ま、どっちでも構わないさ。お前が気に入るのならそれも良いかもなってくらいの話だし、とりあえず言葉でも交わしてみたら良いんじゃじゃないかい?)

(……じゃあちょっとだけっすよ)

 

 しぶしぶと言った様子で納得し忍の方を向き直す成美。

 しっかし念話が下手だなこいつ。この思考ダダ漏れ状態もとっとと改善させなきゃダメだなぁ。

 

「んんっ!! さてそこの忍者さん? 良ければ一つ、私と取引しませんか?」

「取引……だと?」

「はい。上手くいけば貴女も仕置きを免れ、尚且つ勝ち馬に乗れるというとってもお得な話っすよ?」

 

 余裕を見せつけるように忍の前に立ち視線を合わせる成美。

 初陣から思っていたけど一度始めると上手いよな。雰囲気だけはもう俺より悪党だもん。

 

「……裏切れと。つまりはそういうことか」

「話が早くて助かるっすねえ。私はどちらでも良いんすけど、ここで死なすにはちょっともったいないって思ったんすよ」

 

 いかにもどちらでも良さそうなくらいに平坦な口調で話す成美。

 いや、事実あいつにとってはどうでも良いんだろう。俺が提案しなければそのまま送り返しましょうって言って終わりにしただろうしな。

 

「……末端を倒した程度で良い気になるな。貴様等など宵闇が総力を挙げれば即捻り潰される程度でしかない。……遺憾だが、一度関わってしまえば逃れることは出来ない巨大な組織なのだ」

 

 何も知らない無知を嘲るかのように、成美の意見を鼻で嗤う忍。

 ……なるほどな。こいつに中にある諦めは自らの運命への嘆き、現実を変えられない自身への失望なのか。

 どんな悲劇を抱えているかは興味はないが都合が良い。こういうタイプは要因さえ取り除けば交渉に応じてくれるから可能性はあるんじゃないか? 

 

「ふーん。つまり、組織さえなくなれば私に下ってくれるんすね?」

「……いや、下るなんて言った覚えは──」

「じゃあ提案っす。明日本拠地潰すので、それが成功したら私に付いて欲しいっす」

 

 人差し指を立てながらあっけなく言ってのけたその言葉に、忍の目は大きく見開く。

 大きく出たなあ。俺は手伝わないけど、こいつはその辺分かってて言ってるんだろうか。

 

「記憶は消さずに返しますから、明日は心置きなく殺しに来て欲しいっす」

 

 え、まじ? なんでそんな回りくどいことさせんの? 

 いや理由は分かるよ納得させたいんだよね? けど今のお前がそこまで出来るかはちょっとわかんないかなぁ……。

 

「……正気か?」

「もちろん。大組織の一つくらいは潰せないと、私もやりたいことが出来ないっすからね?」

 

 俺にはその言葉が、忍に向けた言葉というより己を律しているように聞こえた。

 大ボラ吐きまくるビックマウスになっているわけじゃあなさそうだな。それならまあ良いか。

 

(……ん?)

 

 とりあえず見守ろうと考えていた時、ふと何処から視線を感じ辺りを警戒する。

 話している二人気づかないくらいの僅かな視線。敵意はないが、微弱な神の力が乗っていると感じる気配。

 

 じろりと、神社の屋根に目を向ける。

 そこにはいた。欠ける月を背後にしているのにも関わらず、まるで月がそのまま屋根に座りこちらを見ているかに思える人の影──人ならざる力を発する存在が。

 

 こちらが見ているのに気づいたのか、暢気に手を振ってくる。……なるほど、どういう理由かは知らないが結界自体ははあいつが張ったのか。

 こんな寂れた神社に宿っているとは思えないに秘めた神力。強さは定かではないが、もしここで戦闘が始まれば手を抜けないくらいには強大な存在が、どうしてこんなところにいるんだよ。

 

 暇潰しに出てきたのか。……ま、今は敵対する気はなさそうだしスルーしよう。

 神なんぞとやり合っても得とかないし、向かってこない限り敵対する気は無いしね。

 

「──師匠!!」

「ん、ああ終わった?」

 

 再び成美の様子を見ていようと思った瞬間、すっごく近くに寄っていた成美に大声で呼ばれて少しびっくりする。

 ……漂っていた神の気配は消えた。何を考えていたのかは知らないが、まあ満足して引っ込んだらしい。

 

「終わりましたよ!! 見てなかったんすか!?」

「そりゃまあ正直どうでも良かったしね。それで? 結果はどうなったの?」

「明日攻め込むっす。報告はしないらしいっすから、それで潰せれば下についても良いって言ってたっす」

 

 頬でも膨らましそうなくらいには不満そうに結果を報告する成美。 

 まあ妥当なところか。初めての交渉にしちゃあ中々の成果じゃないかな? 

 

「というわけで明日はカチコミっすよ!! いやー楽しみっすね!!」

 

 こいつはピクニックにでも行くくらい気軽に物騒なことを口にするな。

 ……何かえらく脱線しているような気がするけど、まあ暇潰しの修行には良いだろうし別にいっか。

 

「じゃあ帰るぞー。とっとと店まで案内してくれー」

「了解っす! いやーようやくお待ちかねのハンバーグっすよー!!」

 

 もう鬱陶しいほどに肉肉唱えながら先を歩く成美。

 奢られる気満々のあいつにため息を付きながら、まあ良いかと歩き出した時──。

 

「……ん?」

 

 突然懐で存在を誇示してきた携帯電話に、母さんかなと思いながら歩を進めながら取り出して画面を確認してみる。

 

『明日開いてない? 良ければ一緒に出かけないかな?』

 

 予想通りの見慣れた会話アプリのアイコン。だが、送ってきた人物は俺の予想とは違う人物──白姉だった。




 感想は評価はくれると嬉しいのでいつでもお待ちしています。
 ちなみに明日はわかんないです。
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