かつての悪は愉しみたい   作:ゴマ醤油

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 近くにあったちょっと高そうなお店に入り、案内されたテーブルに移動する。

 中は随分と綺麗で清掃が行き届いているのが一目で分かり、学生の慎ましい財布にはちょっと辛いかなという場違い感が非常に辛い。

 ……最近外食が多いしちょっと懐に余裕がないんだけど、お金足りなくなったらどうしようか。

 

「光君ハンバーグ好きだったでしょ? ここ友達に連れてきてもらったことあるお店ですっごい美味しかったから、一回連れてきたかったんだー」

 

 ……ここハンバーグのお店だったんだ。看板なかったから分からなかったわ。

 ハンバーグは昨日も食べたんだよなぁ。別に一週間連続とかじゃない限り飽きやしないけど、出来れば別の日に来たかったなあ。

 

 ちょっと残念に思いながら何にしようとメニューを開いて見てみると、思わず大きく目を見開いてしまう。

 え、一番安いので三千円……? 昨日の店もそこそこ高かったしアイスもそこそこしたから、今お財布にはお札二枚しかないんだけど足りるかなぁ。

 

「……えっと、じゃあこれで」

「それで良いの? これとか美味しいよ?」

「いやいや大丈夫大丈夫。やっぱ初めてだとシンプルな奴食べたいからさ」

 

 手入れの行き届いているすらりとした指が、四千五百円くらいの頭がおかしくなる値段の品を指してきたので、一瞬頷きそうになるがすぐに体の良い言葉で誤魔化す。

 嗚呼、本当に美味しそう。こんなことなら昨日見栄なんて張らずに、成美の分出さなきゃ良かったなぁ……はあっ。

 

 大体あいつ、どう考えたって俺より金持ってるだろうになんでたかってくるんだよ。

 あいつの家の物とかどう見たって俺じゃあ買えないリッチなインテリアばっかだし、持ってる携帯だって去年出た最新モデルじゃあないか。側だけなのか? 

 

 慣れた様子で注文している白姉を見ながら、馬鹿一人にすらけち付けなきゃやってられないくらいに虚しい世知辛い我が懐事情に嫌気を持つ。

 ……はあ辛っ。白姉にもちょっと気を遣わせちゃったし、今日は欠片も良いところないなぁ。

 

「……で、何悩んでいるの?」

「実はね? 訳あって面倒見てる娘がいるんだけど、その娘との距離感が分からないんだぁ」

 

 店柄からか無料の癖して他とは違う爽やかさを感じさせる水を飲みながら、白姉の話にも耳を傾ける。

 

「ちょっと気難しい娘でね? 冷たかった最初よりは仲良くなれたと思うんだけど、私に変な尊敬みたいなのを持っちゃったらしくて……逆に遠くなっちゃった気がするんだぁ」

 

 グラスを持ちながら、少し物寂しそうな顔を見せる白姉。

 

 多分白姉は、普通に話して普通に笑い合える友好関係を築きたかったんだろう。

 白姉はその容姿と能力故昔から特別扱いされる事が多く、竜兄などに迷惑を掛けてしまったこともあり、自分をぐちゃぐちゃにしてしまいそうなくらい荒れていた時期があった。

 

 自分よりも他人が傷つくことを極端に拒む白姉。

 もし正義の味方(ヒーロー)なんてやっていたら、救えるはずもない悲劇に胸を痛め、誰にも見えないところで擦り切れる痛々しい英雄になっていただろうな。

 

 そう考えると正義の味方(ヒーロー)になりたいって言ったのが竜兄で良かった。

 竜兄ならそういう世渡り上手そうだし、あんまりその手の才能なさそうだから危険は少なそうだしね。

 

「光君ならそういうときどうする?」

「俺? 俺なら好きにさせておくかな」

「えっ?」

 

 俺の回答に対し首をかしげる白姉。あの馬鹿ならあざといで終わるけど、白姉がやると許せちゃうなぁ。

 

「多分だけど距離感を計ってるんじゃないかな? 元々冷たくしてたんなら、どうすれば良いかわからなくなってもしょうがないよ」

「……そうなの?」

「うん。まあ反抗期みたいなものだよ」

 

 要は態度を改めたいけど素直になれないから変に接してしまうってだけの話だ。

 面倒を見てるなら年下だろうし、ちょっと他とは違う感出てる白姉が相手だったらちょっと拗くれても不思議ではないはずだ。

 そういうときに気を遣われるともっと拗れそうだし、大人な気持ちでスルーするしてやるのも年上の務めってやつだろう。

 

「そういうのなのかなー?」

「もちろん違う可能性だってあるよ? 普通に尊敬してるだけかもしれないし、変わらず接してあげるのがあっちにとっても一番楽なんじゃないかな?」

「……そっかー。うん、じゃあもうちょっと待ってみるよ」

 

 自分の中で結論を出せたのか、表情もすっかり晴れ模様に戻った白姉を見て、この人には悩んでいる顔なんて似合わないなと思う。

 

「お待たせしました。こちら自家製ハンバーグとスペシャルハウスハンバーグです」

 

 そんなことを考えていると、濃厚な肉の香りと共にやってきた料理。

 昨日のとは比較にならない肉の輝きが五感を一気に覚醒させ、よだれを垂らしてしまいそうなくらいに食欲を一気に膨れあがらせる。

 

 ……これが三千円のハンバーグ、昨日のあれがただの肉団子にすら思えてしまうわ。

 

「湿っぽい話は終わりにして食べよっか!!」

「そうだね。──頂きます」

 

 感謝の気持ちをしっかりと空に捧げ、ナイフでこの肉の宝石を切り分ける。

 

 肉が溶けるという食感を初めて味わいながら、ただただ無心で食べ進めた至福のランチ。

 白姉との久しぶりの買い物は、ちょっとリッチな世界を味わうという実に楽しい時間だった。




 次回から突入します。
 明日はありません。
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