かつての悪は愉しみたい   作:ゴマ醤油

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 次々と迫る黒装束の意識をまた一人と奪いながら、無駄に広い屋敷の廊下を走る成美。

 

 建物内に入りおおよそ十五分。数えるのが面倒臭くなった三十くらいから、急に成美の動きから無駄が減り簡単に敵に対処し始めた。

 まるで環境に適応した生物のように、気配の掴みにくい忍の不意打ちすら最初から分かっているかの如き動きで的確に払っていく。

 

「旋炎け──がはっ!」

 

 炎を纏った腕を魔力を流しながら掴み後ろから飛んでくる矢の盾にした後、その方向にぶん投げ処理する。

 

(……昨日はもうちょい苦戦してなかったっけ?)

(これだけ見ればっ、慣れるっすよ──!!)

 

 突如として開いた床と天井から迫るクナイ。

 完全な不意打ちにも関わらず、こちらに念話しながら最低限の動きで躱しながら両手の銃で飛んできた方向を打ち抜いた。

 

 ……いや慣れるって言う話じゃないだろこれ。

 

 傷つけられた所々も時間を巻き戻したかのように元通りに修復されており、最初のほうで付けられた顔の傷も見当たらなくなっている。

 確かにやり方自体は教えはした。けれどもつい一月ほど前までは、負傷しても魔力で補強して誤魔化すだけしか出来なかった少女が、軽くとはいえ熟せるようになっていることは知らなかった。

 

 昨日言った念話もちょっとは修正されているし、やっぱりこいつ素が天才なのかもしれないな。

 

「……ここもはずれ。なんでここ、こんなに広いんすかねぇ」

 

 障子を蹴破り部屋に進入し、閑散とした中に成美は最早抑えることなくため息を漏らしながらまた廊下を進み出す。

 これで三十部屋くらいか。いくら扉を開けようとそこに待つのは罠と敵襲、後は如何にも外れな何もない場所。虱潰しで探しているからか、完全に迷子と言って良い惨状だった。

 

 どうやら広範囲の索敵とかはまだ出来ないらしい。

 俺は出来るから何となくここがゴールだなって位置に見当は付いている。だがまあ出来ないのが悪いし、ここはしこたま迷って必要性を認識してもらおうか。

 

 小刻みに揺れる小さい肩で前足を伸ばしながらそう決めて、残りの敵数をゆっくり数えていく。

 あれが十だから大体あの塊が百くらいで残りは十が四つほどだから……、あと大体百ちょいか。

 

 このペースで行けばそんなに掛からず殲滅できるだろう。まあ大体が殺しきれてないと思うし起き上がってくるやつもいるかもしれないけど、まあそんなのは誤差だろうよ。

 

 それよりも疑問なのは何故か遠くに待機している一人。この屋敷内に存在する、強力な三つの力の内の一つだ。

 俺の索敵でようやく感じ取れる程に隠された、力を持った強大な存在。あの部下(仮)じゃないのはわかるが、それにしちゃあこの組織から明らかに浮いている奴が成美を迎撃しようともせず、ただ一点に立ち止まっていた。

 

 そいつの放つ魔力の色を見て、人々に希望を照らす太陽の如き魔力色を持つ正義の味方(ヒーロー)がふと脳裏に過ぎるが、それはありえないとばっさり両断する。

 なにせそいつは、数少ない俺が認めた本物の正義の味方(ヒーロー)。俺と異なる形で人域の果てに辿り着いた、現代の英雄と言っても過言ではない男だ。

 

 そんな奴が、こんな何やってんのか分からない裏の組織にいるわけがないし、いてはいけない。

 まあ赤色の魔力色は珍しくないし、おおかた似ているだけの結構強い奴なんだろう。

 

 もしかしたらそいつがこの結界を張っている奴で、流石にやられるわけにはいかないから隠れているとかそんな感じかもしれない。

 さすがは大組織。昨日の忍以外にも厄介なのは多そうだし、成美にはちょうど良い壁になりそうだなぁ。

 

 いきなり抜ける足元や一気に迫る針付きの天井など、どちらかといえば力に頼らない罠の方に苦戦しながら少しずつ踏破していく成美。

 

 曰く付きと告げているかのように、やけに沢山のお札で固定された扉もお構いなしに吹っ飛ばして侵入していく。

 

「はえー、なんかいっぱいあるっすねー」

 

 ようやく見つけた他とは違う部屋に笑みをこぼしながら、そこいらに置かれた物を手に取っては眺め始めたので、俺も肩から降りて適当に見てみることにした。

 お札が貼られているにも関わらずおどろおどろしくべたついた魔力を持つそこら中の物。多分だけどこれ、ほとんど呪われた品とかじゃないかなぁ。

 

「見てくださいよ師匠!! これ宝の山ですよ!!」

(……ねえ、なんでそんなウキウキなの? これ絶対曰く付きの物だよ?)

 

 こいつはなんでこんな、一推しのアイドルグループのライブ会場みたいなテンションで物色しているのだろうか。

 

「えっ、浄化しちゃえばただの高級品っすよ? どれでも鑑定組で八桁付きそうなお宝達なんすから、ちょっとはテンション上がりません?」

 

 むしろどうして喜ばないのかと、成美は心の底から疑問に思っているような眼差しを向けてくる。

 

 なんて恐れ知らず、あまりにも認識が軽すぎる。

 確かに売れれば金にはなる。だけどもしお茶の間に流れたら、呪われる人急増で病院回らなくなるくらい危ない物もあるかもしれないんだぞ。

 

「……お姉ちゃんなら神呪でも祓えたんすけどね? よく穢れ還し(サイクルディット)の報酬で、おやつ買ってくれたりしてもらってたんすよ」

 

 成美は札の貼られた水晶玉を手に取りながら、懐かしそうに呟く。

 神の呪いすら祓えたのか。嘘か本当かわからないが、こいつの姉評を鵜呑みにすると馬鹿みたいに有能な姉だな。

 ところでディットってなんだろうか。おやつ買える程度のやつなら虫とかなのかな。

 

「──お、この刀良さそうっすね」

 

 適当に頭を悩ませていると、成美は正面の台座に飾られていた刀を躊躇いなく手に取る。

 他の呪物とは明らかに雰囲気が違うその一振り。可視化されてはいないが、封印から漏れる魔力の質が他とは一線を画している一番の大当たり(おおはずれ)。刀の形をしているだけの、俺ですら手には取りたくないなと躊躇しそうなくらいの呪詛を秘めた何かだ。

 

 それは何かまずい。少なくとも、今の成美が持つべきではない気が──。

 

(おいそれは──)

「これ呪われてないっすけど、なんでここにあるんすかね?」

 

 鞘から引き抜き、刃こぼれ一つない新品みたいな刀身を眺めながら疑問を零す成美。

 えっ、呪われてないのこれ。あからさまにやばそうなんだけど。

 

(呪われてないって?)

「どっちかって言うと神っぽい気配っすもん。これ越しでも変に映らないっすし、多分区別付かなかったとかそんな感じっすよ」

 

 モノクルを小突きながら何か偉そうに言ってくる成美。

 そういえば会った時から付けてたけど、そのモノクルって特殊機能とかあったりするのかな。

 

「ま、帰って見てみようっと」

 

 空間に白い穴が開き、刀は買い物かごに入れるくらいの気軽さでそこに放り込まれる。

 

(え、何それ)

「師匠の真似て作ってみたんすよ。容量はキャリーバッグくらいっすけどね」

 

 そんなの教えた覚えはないんだけど、まさか数えるくらいしか見せてない黒部屋(ブラックルーム)を模倣しちゃったりしたの? 

 出来ることと出来ないことがちぐはぐすぎないかな。こいつが凄いのか俺が不器用なのかわからなくなってくるわ。

 

「さあて行きましょう!! 次こそはそれっぽい部屋と人が見つかると良いっすねー!!」

 

 ひとしきり物色して満足したのか、他の物は取ることなく部屋から立ち去る成美の肩に乗り直した。

 

 入り口の死角から放たれる刃を掴んでへし折り、顔面に拳を突き刺し相手を天井に吹っ飛ばし、意気揚々と走り始めた。

 




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