かつての悪は愉しみたい   作:ゴマ醤油

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「あーここもはずれっすよぉ。ドア開いてるから来たことあるっぽいし、一体どんな構造してるんすかねぇこの屋敷は!!」

(そりゃここ三回目だしね)

 

 成美の億劫な心情をそのまま表したかのようなため息にに釣られながら、こっちも大きな欠伸を零す。

 

 突入からおおよそ一時間程経過し、あれほどいた敵共もほとんど姿を見せなくなっていた。

 あらかた伸したおかげでたいした妨害もなく、残っているのはあの忍といまいち掴めない変な力の塊とその周辺にいる雑魚共、そしてあの紅蓮の魔力色を持つ奴のみだ。

 

 忍の場所と変な奴は距離は離れていないからおそらく続いた部屋とかそんな感じだし別に良いが、あいつだけは未だこっちに来ないのがすっごい気になる。

 何かを待っているかのように、こちらの索敵にすら入りたくないと言わんばかりに位置を変えながら近づいては来ないのは実に奇妙なことだ。

 

 ま、こいつはそんな奴がいることにすら気づいてなさそうだけどな。

 

 それにしても、虱潰しでやってるくせに、どうして同じ部屋に行き着くんだか。

 実は方向音痴だったりするのか単純に運が悪いのか、それとも道を覚えようとしていないだけのどれなのか、ちょっと気になるわ。

 

「師匠ー。ヒント下さいよヒントー」

(ないよ。自分で探しな)

「んえー?」

 

 実に情けない呻きを上げなら露骨にへこたれる成美を肉球で連打しながら、あの忍との距離の近くに心の中でもう一度ため息を吐く。

 

 ここから見える曲がり道で行ってない方向なんてあとひとつだろうに、どうしてここまで来て迷うのだろうか。

 ……多分直感で動いてんだろうな、三回目なん最初に曲がった道にもう一回突撃しやがったし。

 

「ふーむ。……よしっ」

(……はあっ、行ってない道進めば?)

「え、行ってない道っすか……あ、そういえばあっち行ってなかったすね!!」

 

 剣を棒に変形させ、倒れた方に行きますなんてふざけた道の決め方をしようとしていたところに一言言ってやると、思い出したかのようにその方向に歩き出す。

 もうちょい索敵とか結界とか教えておけば良かったか。いや、そうでなくてもこんな初めて来たテーマパーク巡りみたいに雑な探索するなんて思いもしなかったし、結局あんま変わらない気がするわ。

 

 俺の呆れに気づくことなく、もう敵も来ないからか随分と余裕を持てながら罠を回避して歩く成美。

 扉を開けては何も無し、障子を蹴破っても人影すらない光景に毎回律儀にため息を吐きながら、それでも一歩一歩地道に調べていく。

 

 そしてついに、この通路の最奥にある障子の前に到着した。

 

「……ここっすね」

 

 成美は少し前までのポンコツ味を引っ込めたように、正面にある二枚の大きな障子を──正しく言えばその先にある気配を真剣な様子で見つめる。

 扉越しでも感じる程に異常に鋭い気配、流石のこいつでもこれは気づけるか。

 

 位置的にこの部屋の中があの忍のいる場所で、これから待ち受けるであろう連戦前の最後の休憩場所というわけだ。

 

(んじゃ、邪魔しないよう降りとくからがんばっ)

「……もちろんっす」

 

 弾むように勢いよく肩から飛び降り、成美が扉を開けるのを顎を掻きながら成美が障子を開けるのを待つ。

 

 成美は普段の軽口も発さずにこちらにこくりと頷いた後、深呼吸をして自分を整えながら障子に手を掛けてずらしていく。

 

 中は随分と広く、驚くほど何もない大部屋。

 何畳あるか数えるのも億劫になる畳の張られたその空間の中央に、案の定黒装束を纏った人影があった。

 

「……ようやくか。随分遅かったな」

 

 隣に置いていた剣を掴みながら正座を崩し、視覚に一切の違和感を抱かせない程滑らかな動作で立ち上がる忍。

 以前と違って顔はさらけ出しているが声は昨日と同じ。えらく中性的だとは思っていたが、まさか女だったとは思わなかった。

 

「ちょっと道に迷ったんすよ。お姉さんが出迎えてくれたら良かったんすけどね?」

「これなければその程度だったという話。小娘一人にわざわざ時間を割く程無意味な浪費はないだろうよ」

 

 成美を射貫く実に鋭く冷たい、死神の鎌のように震え上がらせる眼。

 それでも成美は何ら怯える様子はなく、目を背けることはなく彼女を見据え続ける。

 

「……一人、か」

「何すか。私じゃ不満っすか?」

 

 成美はその忍の言葉が気に入らなかったのか、不満と疑問を両立させたような声を投げる。

 

「当然だ。あの少年が来るのならばいざ知らず、貴様程度が単騎で宵闇を墜せるなどという、淡く虚しいだけの希望は抱かないさ」

 

 忍は失望をそのまま示したかのように目を閉じる。

 

 ──次の瞬間には、もう成美の目には彼女は映っていなかった。

 

 警戒していなかったわけではない。事実武装はしてたし、一瞬たりとも彼女からは目を背けはしなかった。

 それでも忍は成美の認識を上回り、彼女の首を切断するために手に持つ刀を真横に振るう。

 

「──っ!!!」

「ほう」

 

 奔る銀閃を身を翻して後ろに飛んでかろうじて躱す。

 剣先でなぞられた首の痛みをぐっと堪えながらすぐに銃で反撃しようとするが、すでに正面には彼女の姿は影も形もなかった。

 

「──だが遅い」

 

 背後から飛んでくる三つの手裏剣を躱した瞬間、成美の背後から振るわれる刃。

 成美の反応することすら叶わず、二発の斬撃は戦闘衣装(バトルドレス)に直撃し、勢いよく地面に叩き付けられる。

 

 その衝撃に抗うことも出来ずに地に伏す成美を視界に納めることなく、彼女の血を払うために刃を軽く降ろうとした。

 

「……何?」

 

 ──そして、ようやくその違和感に気づく。

 刃は汚れなき銀。つまり血の一滴すら付着することなく、倒れる少女の命は愚かその皮膚の一つすら傷を付けることは出来ていないのだと。

 

 その困惑を確かめようと死体に目を向けようとして──背後から襲う攻撃の気配が忍の体を動かした。

 

 高鳴る金属の衝突音。金属がぶつかり擦られる音が部屋に反響し、忍の刃が甲高い鈴のような音を鳴らしながら断ち切られる。

 

 折られたと認識した瞬間に後ろに距離を取ろうとする忍。

 

射出(ショット)っ!!」

 

 成美はその忍に刃の先端を向け、魔力の弾丸を忍に狙いを定めて放つ。

 身を守る刀は折ったし攻撃は通らなかった。いかに速度があろうと何かを隠し持っていようと、後はそれを準備する間もなく制圧するだけ──!! 

 

風纏(ふうてん)

 

 そう考えた瞬間、今にも銃弾が迫ろうとしていた忍を繭のように包む魔力の風。

 銃弾が風の壁に阻まれ消失したのを捉えながら、足に力を入れて身を浮かそうとする烈風に飛ばされないように踏ん張り続ける。

 

「──認めよう。お前は弱くないと、侮ったのは間違いだったと」

 

 収束する風は忍の刀に巻き付くようにうねり、折れた刃を補うように刃の形を創り上げていく。

 

「我が名は(しずく)。宵闇最強にして最も価値のない、器になれなかった哀れな生き物」

 

 侮りのない敵意と殺意を宿す瞳が荒々しく吹き荒れる暴風の刃と共に、今度こそ成美を殺すべく向けられる。

 

「そして後悔しろ。我が刀を抜かせたことを──!!」




 毎日更新は無理ですが、なるべく期間を空けず投稿していきたいです。
 
 
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