一面真っ白な壁に包まれた、水槽以外に何もない部屋。
俺の
「……あそこのやつ。あれからやばい気配がむんむん漂ってるすよ」
そんな俺とは違い、まるでそこにしか目が行かないといった様子の成美。
若干震える指で中央の水槽を指差しながらそれでも気にはなるのか、警戒する猫のようにゆっくりと近づいていく。
こつこつと足音を響かせながらもようやくその目の前に辿り着くと、ようやく何が入っているのかを確認できた。
(……種か?)
青みがかった水に浮かぶ、おおよそ握り拳一つ分の黒い丸。
微弱に脈打つそれから連想されるのは心臓──芽吹かずともわかる強い命の鼓動に近しいものだった。
確かに奇妙な力は感じる。少なくとも俺はこんな違和感のある力を感じた事はなかった。
だが、身が震えるほどの何かがあるわけでもない。例えどんなに気味が悪くとも、こんな程度の量なら別に気にする必要なんて欠片も見いだせない。
だが成美は、そのこれっぽっちの力に尋常じゃない警戒を露わにしている。
だから何かあるはずだ。例え頭はポンコツでも、こいつの感覚とセンスだけは信じても良いはずだから、多少は疑うべきだ。
(……どうする? 放置しても良いけど壊しちゃう?)
「……そうっすね。しこたま怖いし、残したままにしておくと眠れなさそうなんで、派手にやっちゃうっすよ」
成美はちょっと後ろに下がり、左手に持つ銃を地面に置く。
白い銃は一度形を失い液体となり、すぐに巨大な白い筒──大砲に姿を変えた。
「
勢いのある声の直後、爆弾でも爆発したかのような轟音。
脳を揺らさんとばかりに響く衝撃と鼓膜を破きそうなほどの音と共に、極太の白が水槽目掛けて一気に奔り厚いガラスを物ともせずに黒丸を呑み込む。
貫かれた部分からどばどば零れる液体。
うん、確かに当たった。とりまこれで終わりだろうし、とっとと帰りた──。
(──っ!!)
気分を帰宅テンションに変えていたその瞬間、突如としてあの気味の悪い力が膨れあがってくのを感じ取り、黒い何かがあった方を見る。
まるで重力がないかのように、ただ宙に浮かび続ける黒。
先ほどまでに微弱な力とは違い、無視することの出来ない異質な存在感。
ありえない、今のは完全に命中したはずだ。未熟とは言え今の成美の魔力には神の力も含まれている。少なくとも邪なる物がこれで滅されないはずは──。
そこまで考え、この力の気持ち悪さについてようやく考えが浮かんだ。
なんで成美だけが不快ではなく恐怖を抱いたのか。そしてどうしていきなり膨れあがったのか。
──おそらく神力、神の力によるもの。
この黒い何かはまるで水を吸ったスポンジのように、僅かな養分のみで急成長する植物のように!! 成美の魔力に混ざる神の力を吸って今ここで成長──いや、羽化したのだ!!
そして恐怖とは本能の警報に他ならない。
ならば成美は感じ取ったのだろう。目の前にあるこれの正体を、直感で感じ取ったのだろう。
つまりこれは神を相手取り、それでいて人を直接害することのない力。
「……なん、っすか。なんすかあれ!?」
(多分だけど
「……
対象を定めることでそれのみに絶大な効力を発揮する強力な誓約の武器。場合によっては素人でも強力な
……けど、あれはそんなに万能な物じゃないのは疎い俺ですら知っていること。
何せ人類側は、一年前にこれで巨大な人災を引き起こした前科がある。俺と
それに、あれはまだ神を設定できないはずだ。
神を殺すためには根本的に規格不足で、人の手で作るにはあと三百年は掛かるってどっかの基地の資料に書いてあった気が──。
「ははははっ!!! 神が、我らが
いつ起き上がったのか、いつの間にか部屋に入ってこようとしていた空気の読めない馬鹿がなにやら感涙を露わにするも、すぐに成美の弾丸を脳天に食らって倒れる。
その刹那、黒い何かは倒れた肉体の方向に飛びつくように向かっていく。
「何なんすっ──っち!!」
(馬鹿、打つな!!)
「えっ!?」
銃を向ける成美は戸惑いながらも俺の言葉で発砲を留まる。
妨害のなかったその黒は男の背中にぶつかり、溶けるように体に染みこんでいく。
糸に吊された人形のように空に舞い、あまりにも異常に跳ねるその体。
健康的な皮膚は深く渋い市紅茶に変色し、その体は人の形を逸脱し四肢は蔓のように伸び、壁や地面にへばりついていく。
「なんで止めたんすか!!」
(お前の魔力だと逆効果。闇雲に当てても吸われるのがオチだろうが)
「そうっすけど!! あれ、放置は絶対まずいっすよね!!」
魔力については未だそこらの制御が出来ない成美が悪いとして、目の前で始まった急激な変化に驚くのもまあ無理はない。
(落ち着け。俺の弟子ともあろうものが、こんな程度でパニクんな)
「こんな……こんな程度って言いますけどぉ」
(お前は神を殺すんだろ? ならこんな苦難一つ、容易く乗り越えて見せな)
「……師匠」
部屋の色が根によって変わっていく。
一本一本が己を蝕み命を奪いかねないのを理解しながらも、成美は両の手に刃を持ちその原因を睨み付ける。
そうだ。お前はこんな中途半端な、完成しているのか定かでない兵器一つに負けることは許されないはずだ。
(さあ来るぞ。気張っていけよ!!)
「──はいっす!!」
迫り来る数多の根は、槍となって成美を狙う。
先ほどまでの震えはもう成美はなく、その恐怖に臆することなく剣を構え走り出した。
文章量が少ない癖に、中々更新できず申し訳ございません。
なんとか週三くらにはしていきたいです。