かつての悪は愉しみたい   作:ゴマ醤油

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 あのデカ屋敷を襲撃してから早三日、俺たちはすっかり元通りの日常に返り咲いていた。

 今いるのは無駄にでかい成美のハウス。今日まで休みにしていたので、なんだかえらい久しぶりな気分だ。

 

『以上のことから昨日死傷者を出したとされる(ヴィラン)に遭遇した際、すぐに避難するようにして欲しいとのことです。では次のニュースで──』

「……難儀なことで。……ずずずっ」

「そういえばこいついませんでしたねぇ。……ずずずずっ」

 

 冷房の効いた部屋の中、程良く温かいコーヒーを片手にぼんやりとテレビを眺めながら、そういえばこいつを探してたんだったなと今更ながらに思い出す。

 

 結局、あんな組織を潰したところで黒色82が何なのかは特にわからなかったからなぁ。

 そもそもあれがあの組織の作ったものなのかすら知らないし、気がついたら組織潰しが本命になっていた感も否めないしなぁ。

 

 まあ似たような黒い塊はあったけど、あれはゾンビとグールくらい非なる感じする感覚だったから別物だろう……うん旨い。

 

「……何故煤塊(すすだまり)が? あ、こちら昼食です」

「ありがとうー! うーんおいしそーっ、いっただきまーす!!」

 

 運ばれてきたハンバーグに意気揚々とナイフを入れ、雑にカットした肉を口の中に運んでいく成美。

 空に昇りながら鼻孔を擽る香ばしい肉の匂いに酔いしれながら、俺もナイフを手に取り──さっき呟かれた言葉に疑問を抱く。

 

「……煤塊? 何それ?」

「先ほどのニュースの(ヴィラン)のことですが。確か黒型82とそんな感じの呼称で」

 

 目の前の黒髪の美女──滴は自らの言葉なんてどうでも良さそうな感じ全開で、成美の皿の肉の塊をた食べやすいサイズに切り分けていく。

 こいつが成美の家に住み着いてからずっとこんな感じだ。……甘やかしすぎでは? 

 

「先日成美様が討伐なされた成長型兵器(グローリーウェポン)。その前作における失敗作の一つで、呑み込み貯蓄することに特化させようとした人工呪力塊です。父様と科学班は早々に見切りをつけ凍結させたのですが、一体何処から漏れたのか」

「……売ったりしたんじゃあないの? あむっ」

「……まあ有り得なくはないです。ですが生憎、その辺りの謀りに関与していませんので、これ以上の知識を持ち得ません」

 

 店にも負けない絶品に舌鼓を打ちながら聞くには実に重たい話だなと、そうは思いながらも口と脳みその両方でそれぞれを噛み砕いていく。

 成長型兵器(グローリーウェポン)ねえ。そんじゃあ、あれは概念殺し(ノクトキラー)じゃあなかったのか。

 

「ノクト……単一兵装(シングルウェポン)とは違うのか?」

「鋭いですね。実はそれほど大差はなかったはずです。殺して終わりにするのではなく、力を吸うことで成長させることで既存の単一兵装(シングルウェポン)を越え神を殺す──それこそが、この兵器に課せられた目標(ゴール)でしたから」

 

 はえー。そりゃ随分とご大層な兵器をお創りになるものだなぁ。想像以上に壮大な話を聞かされたので、もう何かお腹いっぱいになってきた気がする。

 まあそれでもハンバーグは美味しいから食べるんだけどね。だって残すともったいないくらいによく出来てるし。

 

「もぐっ、そもそもなんでそんなの作ってたの? 殺したい神とかいたりするの?」

「……残念ながら詳しくは。ただ、研究自体は十年前──父が当主となった直後に開始されたのだと聞かされました」

 

 成美のコップに冷えた水を注ぎながら、その言葉にちょっと申し訳なさそうに返す滴。

 まあ娘だからと言ってもそこまで聞かされるなんてこと、よっぽどの子煩悩でもそうそうあるわけないから仕方ないだろう。

 

 ぶっちゃけ別に詳しくなかろうと、関連あることがわかっただけ大収穫なんだよね。

 俺も時代遅れの世間知らず系(ヴィラン)なのは間違いないし、成長型兵器(グローリーウェポン)なんて物騒なもんがあるってことを知れただけでも充分過ぎると言えよう。

 

「……ま、いっか! どうせ師匠は探せって言うっすからねー」

「いや? もう夜も暑いしスルーかなーって」

「……えー」

 

 いつの間にか食べ終わっていた成美が呆れを含む目を向けてくるので、皿の上に乗っていた四分の一の肉塊を上げると、一気にきらきらした表情に変わる。

 現金というか単純というか迷う切り替えの早さ。いつか掛かっちゃいけない誘惑にしれっと乗りそうで怖いなぁ。

 

「……気まぐれすぎません? かの(シャドウ)がこんなに大雑把だとは思いもしませんでした」

「……そりゃ当然さ。やりたいことを好き勝手にやるのが(ヴィラン)というもの。大義のために非道を成すとか、そんなご大層に生きたりはしないんだよ」

 

 これ以上追うと、また朱槍に遭遇するかもしれないって危惧もあるししょうがない。

 まあ、この前あいつがいたことは面倒いから言ってないから、成美からすれば本当に俺の気まぐれにしか映らないだろうな。

 

「……もぐっ、師匠は適当っすからねー」

「煩いよ」

「──あぐっ! 痛いっすよ!」

 

 俺の肉を食っといて、なお生意気な口をした成美に黒球をぶつけながら、皿に残った最後の一口を放り込む。

 あー美味しかったぁ。住ませる場所ないから無理だけど、やっぱ俺も世話役の部下欲しいなあー。

 

「ごちそうさまっす!! 美味しかったよ滴!!」

「……ありがとうございます」

 

 なんてことのない成美の心の底からの感謝。

 だが滴はそれを耳にした時、まるで心から救われたかのような──憑きものが落ちたような顔を見せた。

 

「……不思議です。あれほど抜け出せないと嘆いていたのに、こんなにあっけなく願いが成就するとは思いもしませんでした」

「……ふーん」

 

 冷めたコーヒーで喉を潤しながら、彼女が何を抱えていたのか何となく理解した。

 別に心を読んだわけじゃあないから詳細は知らない。どんな悲劇を通ってきたのか、どれほど心に嘘をついてきたのかくらいはわかるつもりだ。

 

 滴は改まった態度で俺と成美に目を向ける。

 最初に見えた曇りある死人の瞳は何処にもなく、雫を貯めた人の目をした女がそこにいた。

 

「……今一度感謝を。そして成美様──新しき我が主に忠誠を捧げましょう」

「──うん! よろしくね!」

 

 滴の心に、初めて出来た部下に笑顔で応えた成美。

 これが成美にとって最初にして最高の部下である美女とので出会い……うーん、言葉にするとなかなか良いシチュエーション、絵になるわあ。

 

「ということで食休みは終わり! 早速(ヴィラン)活動しに行くっすよ!!」

「えっ、これから見たいアニメが──」

「ほら師匠、早く準備準備っ!! ほらほらほらっっ!!」

 

 これから一服しようとしていたのに、もうこれ以上ないくらい上機嫌で身支度を整え始める成美。

 皿もコップもいつの間にか下げられている。うーん時間に厳しい、実に噛み合う師弟なことで。

 

 ……せめてもうちょっと休憩してからにしてくれないかなぁ。

 まあやる気があるのは良いことだと、脇腹痛くならないか心配になりながら重い腰を上げる。

 

 ま、急がず焦らずけれど止まらず。

 どうせ神月祭で何か起こるんだし、それまでに出来る範囲で伸ばしていこうか。

 

 目指すは一ヵ月後。何が起きるかわからない、けれど何か起こるのはわかる大きいお祭り。

 わかっているのはただ一つ。どんなに厄介な事件だとしても、成美にとって間違いなく得難い経験になるはずだということ。

 

「んじゃ、改めて実力を見せてもらおうかな」

「承知。主に恥じぬよう力を尽くしましょう」

「もちっす! 今日こそあの青鴉をいてこましてやるっすよー!!」

 

 ──嗚呼、久方ぶりに楽しみだ。




 ここまで読んでくださっている方、本当にありがとうございます。
 これで二章は終わりです。三話ほど幕間みたいなものを上げてから、三章である神月祭編に進みたいと思います。
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