セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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 モンスターハンターとセーラームーンのクロスオーバーです。小説の挿絵やイラストなどもTwitterやPixivで投稿してます!


ココット編
オープニング:咆哮


 森が、どこまでも鬱蒼と広がっていた。

 思う存分伸びた梢は日光を遮り、その先にある葉が風に擦れ合って音を奏でていた。

 

 その中をある一つの人影が駆け、パキリと枝を踏みつけたところで一旦止まった。

 息を堰切らせているその影の正体は、セーラー服の少女だった。

 彼女は、お団子でまとめて腰まで届くほど長いツインテールを垂らしている。シルクのように滑らかな金髪は、この薄暗い森の奥では一層輝いて見える。

 

「まだ、来てる……?」

 

 少女は、しゃがんで息を整えながら背後にひしめく木々へと振り返る。

 微かに聞こえる、大地を何かが踏みしめる音。

 直後、そこに牙の並んだ大きな口が現れ、木々を小枝のように薙ぎ倒した。

 

「ひーーっ!」

 

 少女は自らに向かう大口に対して横に飛び込み、一難を逃れる。

 顔に泥を付けた少女が急いで振り返った先に、赤い飛竜がこちらを青い瞳で睨んで立っていた。

 飛竜の全身は黒と赤の刺々しい鱗で覆われ、口の中に豪壮な牙を見せている。その2本の脚は大木のごとく大地に屹立し、その先には刃物のように鋭い爪が鈍く光る。

 少女が再び逃げ出すのを見た飛竜は、脚の上で畳んでいた翼を広げた。

 

 走っている少女の身体が影に包まれた。

 彼女が背後にある太陽を見上げると──

 

 陽を遮り、翼をはためかす巨大な影。

 間もなく、そこから燃え盛る球体が落ちてくる。

 

 着弾、炸裂。

 

 それは少女のすぐ後ろだったため直撃こそしなかったものの、爆風で少女はあっけなく吹き飛ばされ、森林の中で開けた所に転がり出る。

 

 少女は、腰を庇いながらよろよろと立ち上がる。所々かすり傷こそあれ、奇跡的に重傷は負っていない。

 少女に落ち着かせる暇もなく飛竜が目前に舞い降り、地を鳴らした。

 両者の視線がぶつかり合う。

 飛竜の喉が大きく膨らんだ。

 

 咆哮。

 

 草が揺れ、木々がきしむ。

 少女のツインテールとスカートが激しくたなびき、彼女はうずくまって目と耳を塞いだ。

 それが収まってから、やっと彼女は前に視線を戻す。

 

「こうなったら…!」

 

 飛竜は口元に炎を燻らせる。

 彼女は、胸のリボンに付いているコンパクトを掴んで叫んだ。

 

「ムーンコズミックパワー、メイク・アップ!!」

 

 コンパクトの蓋が開く。その中央にはピンクのハート型の水晶がはめ込まれている。

 指を水晶に走らせると、それはオルゴールの音を響かせながら突如マゼンタの輝きを放ち、炎を吐こうとした飛竜の視界を遮った。

 

 バレリーナのように片脚を上げて回る彼女の肢体を無数のリボンが取り巻き、光が弾けると同時に衣装を形作っていく。

セーラー服とレオタードを融合したような、身体にフィットした白い服。赤いブーツ。青いスカート。最後に月のマークが付いたティアラとアクセサリーが現れ、彼女の顔を鮮やかに彩る。

 光の中から1人の女性が現れた。さっきまで逃げ惑っていた無力な少女の姿はもう、そこにはない。彼女は怖れることのない凛々しい顔で相手を見つめ、優雅にブーツの音を響かせながら前に進み出た。

 

「乙女を追っかけ回す悪い子には、痛い目にあってもらうわ!!」

 

 口上を叫びながら彼女は両手を交差させ、人差し指を突きつけた。

 

「愛と正義の、セーラー服美少女戦士『セーラームーン』!月に代わって、お仕置きよ!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 飛竜が、咆えながら突進してくる。

 セーラームーンは華麗な身のこなしで跳躍し、軽々とその攻撃を避け飛竜の背後に着地する。

 飛竜は振り返り、火球を吐こうと口内を光らせた。

 

「セーラームーン・キック!」

 

 かけ声と共に彼女は飛び上がり、飛竜の頭に横回転蹴りを入れる。その威力は華奢な少女が繰り出したものとは思えないほど強く、飛竜の頭は大きく仰け反った。

 飛竜が蹴られた方向に視線を戻した時、既に少女は高い木の枝の上から飛竜を見下ろしていた。

 

 彼女は懐から変わった形状の杖を取り出す。ピンク色の柄の先には王冠のついたハート型の宝石が付いており、それを金の枠組みとリボンが彩っている。

 

 飛竜は既に炎を口に溜め、火球を放とうとした。

 彼女はそれをバトンのように回してから、飛竜に対して真っ直ぐ構える。

 

「ムーン・スパイラル・ハート・アタック!」

 

 宝石から、マゼンタ色の光線が放たれた。

 鮮やかなピンク色のフラッシュが飛竜を包み、甲高い悲鳴が響く。爆音と爆煙が一帯を覆い、生命の気配を示す音は消え失せた。

 少女は、沈黙の中飛び降り、煙の中に竜の居所を探す。

 

「……倒した……?」

 

 突如、鉤爪が煙をかき分ける。

 

 が迫り、少女を捕える。

 飛竜は少女を摑まえたまま空中へと飛び上がった。

 赤と黒の鱗に覆われた身体は全くの無傷であり、弱るどころかその目に激しい怒りを滾らせている。

 飛竜は、少女を掴んだまま地面にたたきつける。

 

「きゃっ!」

 

 飛竜は鷹のように爪で獲物を縛り付け、全体重を乗せて圧迫し続ける。

 少女の身体が、少しずつ地面に埋まっていく。

 次第に少女の息が苦しげになり、目から光が消えて虚ろになっていく。

 飛竜は怒りに任せたまま胸をそらせ、口に炎を走らせた。

 

「ファイアー・ソウル!!」

 

 飛竜の頭を巨大な渦を巻いた火柱が包み込む。飛竜は業火に包まれて怯んだ。

 

「その技は……」

 

 セーラームーンが、少し離れた先に2つの人影を認める。1人は火柱の出所であり、手を組んで印を結んでいた。もう1人は両手をクロスさせて構えている。

 

「シャボン・スプレー!!」

 

 その手から泡が放たれたかと思うと、辺り一面が霧に包まれる。飛竜は突然視界が遮られたせいで、戸惑って周りを見渡す。

 2人は同時に跳躍し、セーラームーンの近くに着地する。

 彼女たちもセーラームーンと同じような恰好をしているが、泡を出した少女はリボン、襟などが青を基調した色をしており、容姿も青色のセミショートヘアー、水色の瞳とおしとやかなイメージだった。

 もう一方の炎を出した少女は、赤を基調とした色のスーツであり、黒髪ロングにきつめな印象を与えるつり目と黒い瞳で、大和撫子らしい雰囲気をまとっている。

 

「さあ、今のうちに逃げるのよ、セーラームーン!」

 

「まったく、あんたはいっつも手間かけさせるんだから!」

 

 彼女たちを見つめ、セーラームーンは目に涙を浮かべる。

 

「セーラーマーキュリー……セーラーマーズ……」

 

 霧の中で咆哮する飛竜を背にして、3人はその場を去っていった。

 

────

 

「うさぎ、何勝手にあんなデカブツと1人で戦ってんのよ! ちょっとでも私たちが遅かったら大変なことになってたわよ!?」

「そ、そんなこと言われても怖かったんだからしょうがないじゃん!」

 

 丘に生える1本の木の下に、三人の少女が制服姿になって座って身を寄せ合っている。

 先ほど『セーラーマーズ』と呼ばれた黒髪の少女がうさぎと呼んだ金髪の少女を怒り、その横で『セーラーマーキュリー』であった青い髪の少女が、電子辞書のような機械のキーボードを叩いている。

 

「ほんっとあんたの動物並みの単純さには呆れるわ!」

 

 言葉の端々に棘がある黒髪の少女の名は、レイと言う。彼女に指を額にぐりぐりと押し付けられたうさぎは、一気に顔を険しくした。

 

「な、なによ! レイちゃんだってお高くとまって、威張りん坊で、意地悪でー!」

 

 子どもじみた反論に対し、レイはつんとした表情でそっぽを向いている。それに対し、青い髪の少女、亜美が、見かねたように横から口を出した。

 

「2人とも、そんなことで喧嘩してる場合じゃないわ。この間にも、あんな怪物がここに飛んでやってくるかも知れないのよ」

 

 彼女の諭す口調は穏やかだったが、飛竜の脅威を間近で経験したうさぎはぶるっと身体を震わせた。

 レイもため息を吐きつつも立ち上がり、空を見上げた。

 

「そうね。とにかく、今日中に安全そうな場所を見つけないと」

 

 空では既に陽が傾き、少しずつ赤みが混じり始めていた。

 3人はなだらかに続く丘陵地帯を練り歩き、見晴らしの良いところを探す。

 幸運なことに、彼女たちは脅威に出くわすことなくここ一帯で最も高い丘を見つけた。

 丘の頂点に登ると、彼女たちの視界は一気に広がる。

 

「なんて広いのかしら」

 

 レイが、思わず声を上げて感嘆した。

 丘を彩る緑が、風に合わせて橙色を混じらせながら波打っている。はるか遠方まで大小の山を覆う森林が深緑色の絨毯となって広がり、その間を縫うように大河が流れていた。

 何より彼女たちの目を引いたのは、その川の近くにある点の集まりだった。よく目を凝らすと、それら一つ一つが動いており、生き物の群れであることが分かる。

 うさぎは壮大なパノラマを見下ろしたまま、呆然とした様子で呟いた。

 

「……本当に一体、ここはどこなの?」

 


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