セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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蒼紅流星③

「僕たちとしたことが、全く気づけなかった」

「子どもの勘の鋭さを舐めたのが間違いだったわね」

 

 すぐそこに植物ごと水没した道が見える、水陸の境目であるエリア4。

 ナルガクルガの猛攻から逃れたウラヌスとネプチューンは、抱き合う奇面族を厳しい表情で見つめていた。

 

「ブ、ブブゥ……オレチャマたち、これから一体どうなるッチャ……」

「んなもん分かるわけないンバ!」

 

 最初、2人はカヤンバを見つけたら戦闘は避け、キャンプへ連れ帰るだけで依頼を済ませようと考えていた。勿論その方が、正体がバレる心配は少ないからだ。

 だが、状況は予想の斜め上を行った。

 

「まさか2人で結託して隠れ、僕たちの変身を観察していたとはな。抜け目のない奴らだ」

「いやいやいやいや偶然、偶然ッチャ!」

「そ、そうンバ!いくら何でもオヤブンの座をかけて対決しようだなんて、そんなこと思わないンバ!!」

「ヨケーなこと言うなっチャ!!!!」

 

 ウラヌスはため息をつき、ネプチューンは暗い表情で俯いていた。

 

「もう…あの村にはいられないかもね」

「ああ。本来ならこいつらを始末するべきだろうが」

 

 ウラヌスの蒼い瞳に宿る氷のような冷たさに、子どもたちはブルリと震えあがる。

 

「シ、シマツ?」

「き……きっとハ、ハンティングされるってことンバ!」

「ンギェ〜〜〜〜!?!?」

 

 チャチャが頬を押さえて絶叫していると、

 

「その必要はないわ、ウラヌス」

 

 ネプチューンが呼びかける。

 

「私たちはいずれ……」

「分かってるさ。使命さえ全うすれば、あの村とも一切のしがらみはなくなるからな」

 

 続きを遮るように答えたウラヌスは目を細める。

 

「そして……こいつらとも、永遠に会うことはなくなる」

 

 どこか意味ありげな感情を抑えた言い方にチャチャは疑問符を浮かべていたが。

 やがて、恐る恐る口を開いた。

 

「そもそもの話ヂャけど、なんでそれがバレたら駄目なのッチャ?」

 

 ネプチューンは怪訝そうに顔を上げ、ウラヌスは眉をひそめて振り向く。

 

「貴様は何を言ってる? 僕たちは村の外から来た何処とも知れないよそ者、そいつが得体の知れない力を持っているとなれば排除するのが道理だろう!」

 

 彼女は当然すぎるはずのことに疑問を持たれ、初めて苛つきを顔に滲ませた。

 今度は、奇面族たちの方が戸惑いを見せる。

 

「こいつ、何を言ってるッチャ?」

「チャチャ、こいつらお前とどれくらい話したンバ?」

「んーと、これまでのオレチャマの呼びかけへの回答率、統計で約5.5%キープ中ッチャ!」

「ンバ!? じゃあ奇面族のこともなーんにも知らないに決まってるンバ!!」

 

 カヤンバはウラヌスたちの方に向き直り、胸を張って言った。

 

「じゃあこのワガハイが教えてやるンバ。我らが誇り高い種族『チャチャブー』、またの名を『奇面族』を!」

「……それがいったいどうしたっていうんだ?」

 

 ウラヌスは顔をしかめながらも、まずは話を聞くことにした。

 

 奇面族は、子どもくらいの背丈の人型種族である。

 背に見合わぬ強靭な肉体と高い知性を持ち、かぼちゃの仮面と腰に葉っぱを身につけ族長の元で集団生活を営む。歌と踊りを専ら好み、縄張りを侵す者には竜だろうとヒトだろうと積極的に応戦する。

 その危険性ゆえか、彼らをモンスターとして撃退対象に据える地域も少なくないらしい。

 

 この事実を聞いたウラヌスたちは驚きを隠せなかった。モガ村の住人はそれを一つも口に出すこともなく、ごく自然にチャチャを一員として受け入れていたからだ。

 

「……その種族の出身となると、最初はさぞかし苦労したでしょうね。モガ村の人たちに受け入れられるのは」

 

 思わずネプチューンは憐憫の情を向けるが、カヤンバははっきりと首を横に振る。

 

「全然そんなことなかったンバ! それどころかチャチャに関しては、間抜けにもジャギィに襲われてピンチなところを前のコブンに助けてもらったのがこいつとモガ村の馴れ初めンバ!」

「ブ!! それを言うならカヤンバもッチャ! お前だってここでドボルベルクにちょっかい出して追いかけられたのを救われて……」

 

 意地でも隠したい黒歴史なのか、チャチャは杖を振りやけになって反論し始める。

 それに負けずと早口で言い返すカヤンバを、ウラヌスは見つめていた。

 

「……じゃあ、モガ村の人たちはお前たちを最初から偏見なしで見てくれたというのか?」

 

 言い合いが過熱しそうになったところでその発言に気づき、チャチャは慌ててセーラー戦士たちに向かい直った。

 

「とにかく、お前らはきちんと人を見てないだけッチャ! 村長もそのセガレも、アイシャも交易船の船長も、竜人のおじちゃんもその農場で働くアイルーもみんないいヤツらッチャ! 今更変身するヤツが1人や2人くらい、何が問題っチャ!」

「そうンバそうンバ!! 世話してくれる人たちすら信じられないだなんて、今までよくハンターやってこれたンバ!」

 

 子どもたちの言葉に、ウラヌスは迷うようにネプチューンと視線を合わせる。

 

「少なくとも、村を今すぐ出なきゃいけないわけじゃないみたいね」

 

 先ほどから一転変わって、安心したような微笑みを彼女は浮かべていた。

 

──

 

「あっ、いーこと思いついたンバ!」

 

 2人の戦士たちの後を追いかけていたカヤンバは突如振り返り、チャチャにビシッと杖を突きつけた。

 

「ワガハイとオマエ、どっちが狩猟に貢献できるか競争ンバ! それで勝った方が『オヤブン』を名乗れることにするノダ!」

「むむっ、それはいいアイディアっチャ! 受けて立ってやるっチャ〜!!」

「どうしようと勝手だが、僕たちの足手まといにはなるな。こちらとしては黙って大人しくテントにいてくれた方がよっぽどありがたいくらいだ」

 

 『オヤブン』だの『コブン』だのという言葉も聞き飽き、ウラヌスはいい加減うんざりとしていた。

 

「いいじゃない。せっかく狩猟に協力してくれるというのだから、意気込みある方がよろしくってよ」

「いくら身体が頑丈とはいえ、子どもにあまり期待を背負わせるのも可哀想だぜ」

 

 相方からの言葉に、彼女はいまいち気乗りでない顔で答えた。

 

 ナルガクルガは、エリア2で鹿に似た草食生物、ケルビを捕食していた。

 カツン、カツン、カツカツン。

 苔むしたピラミッド状の古代遺跡を背景に、嘴がかち合う音が鋭く響く。

 そこにセーラー戦士と奇面族とが姿を現すと、彼はすぐさま戦闘態勢に入った。

 

「ある程度傷は負わせている。恐らくあの捕食も、消耗の証だ」

 

 相方に、そして自分にも言い聞かせるようにウラヌスはスペースソードを構える。

 ナルガクルガは残光を煌めかせて跳びまわり、再び死角を取ろうとする。

 

「さあ、いつでもかかってらっしゃい!」

 

 ネプチューンもディープアクアミラーを構え、相手の動きを観察する。

 前回より視界が開けているので不意打ちを食らいにくく、その点では有利。

 だが、迅竜にとってもそれは同じであった。

 

「ギシャアッ」

 

 先を更に上回る勢いで回り込み5、6mほど距離を開けると、ナルガクルガは毛を逆立てた尻尾を振り回し棘を射出。

 それは道を作るようにこちらへと次々に地に突き刺さって来るが、ウラヌスたちは難なく身を反らしてかわす。

 だが、攻撃はそれに終わらない。

 ナルガクルガは正面に噛みつきながら獣らしく猛然と突っかかってきた。

 

「冷静さを失ったか」

「良い的になったわね」

 

 ウラヌスとネプチューンは必殺技を同時に発動。

 手から放たれた二色の光球は刃翼、左肩に命中。

 凄まじいエナジーの爆発は、確実に竜の身体に痛撃を与える。

 

「グギィ……ッ」

 

 だが、ナルガクルガは怯まない。そのまま目の前の虚空に噛みつき、なおもしつこく食らいつこうとしてくる。

 

「なっ!」

 

 ウラヌスとネプチューンは即座に避けようとするが、そこで運命を変えたのが地面に残っていた棘だった。

 ウラヌスは十分に後方へと跳べたが、一方のネプチューンの白い脚を近くにあった棘が薄く切り裂く。

 

「ぐっ……」

 

 脚を庇った瞬間を狙いすましたように迅竜は身を翻し、すれ違いざまに尻尾で流れるような跳ね上げ。

 ネプチューンは腹に大きな一撃を受け、吹っ飛ばされる。

 

「ネプチューン!」

 

 思わずウラヌスは叫び、地に転がった彼女を抱きあげる。

 ネプチューンは気丈に振る舞い、よろめきながらも立ち上がる。

 

「大丈夫よ……動けるわ」

 

 だが腹を抱えて苦しげな表情をしている辺り、決して馬鹿にはできない被弾のようだ。

 チャチャとカヤンバはそれまでナルガクルガを追って杖を振るっていたのだが、それに気づくと2人で頷き合ってその杖を交差させた。

 

「よし、今こそ活躍の時ッチャ!」

「ンバーーッ!!」

 

 チャチャとカヤンバは腰を低くし、杖を真横に。そのまま陽気に口ずさみ、滑るように走りながら踊り始めた。

 ウラヌスはその滑稽にも見える動きを見て、一気に表情に怒気を孕ませた。

 

「おい、何を踊ってる! これはお遊戯じゃないんだぞ!!」

「遊んでねぇっチャァ〜〜。黙って戦ってれば良いっチャ〜〜!」

「ほら、早く動かないと攻撃飛んでくるンバ~~!」

 

 失望。

 その二文字がウラヌスの心に浮かんだ。

 大切な人が傷つけられ、敵は今も確実に2人を仕留めんと跳びまわっている。

 よりにもよって、こんな時に。

 

「やはり、所詮は違う世界の住人だな」

 

 次は眼前に着地したナルガクルガに語るように、ウラヌスは呟く。

 犬歯を剝き出しにして唸り、背後には低く構え据え置かれた黒鞭。

 それを見て、ウラヌスは相方を安全な後方に突き飛ばしつつ跳ぶ。

 

 一閃。

 

 尻尾が円を描く。

 

「そこだ!」

 

 敢えて飛び込むウラヌスは、スペースソードに高周波を宿らせる。

 その落下の勢いで首元に迫ろうとしたが。

 

 神速、二連。

 

 脚が逆方向に返ってきた尻尾に鞭打たれ、彼女は派手に吹っ飛んだ。

 

「ぐあああっ!」

「ウラヌス!!」

 

 もっと深くに飛び込んでいれば、あるいは。

 反省も虚しく、彼女の身体は地面に放り出された。

 

「ンン~~、ンン~~……ホイッホ!」「ンッバー、ンバンバ……」

 

 奇面族の子どもたちは頭を逆さにして回転しては飛び跳ね踊っている。

 力を振り絞り立ち上がったウラヌスの目前に迫ったのは、嘴。

 

「ぐっ……」

 

 噛みつかれはしなかったが、小突かれて彼女の脚がふらつく。

 直後、ナルガクルガは尻尾を頭上に掲げ力を込め始める。

 あの、必殺の尻尾叩きつけだ。

 

「……こんなところで、やられてたまるか!!」

 

 彼女は横っ飛びしながらスペースソードの柄に力を込め。

 再び地面を割ったその尻尾目掛け剣を光らせた。

 

「スペースソード・ブラスター!!」

 

 数度振り下ろすと、斬撃のエネルギーが刃となって放出。

 それは棘の開き切った迅竜の尻尾に直撃、高周波エネルギーにより幾つもの傷をつける。

 

「キイイイィィィアアアッッッ!!」

 

 ナルガクルガは思わぬ痛手に仰け反り、絶叫した。

 それと同時に。

 

「よし、完璧……っチャ!!」

「こちらも完了ンバ!」

 

 子どもたちが揃って低くした腰を振り終える。

 すると、2人の身体に異変が起こった。

 先ほどまで感じていた痛み、腹の重みなどが急速に消えていく。それどころか、身体の芯から力が湧き上がってきたのだ。

 ウラヌスは戸惑い、奇面族たちに振り向く。

 

「まさか、お前たちが?」

「そう! これこそ奇面族代々伝わる、超回復ダンスッチャア!」

「仕組みは聞かれても機密事項ンバ! ほれほれ!気にしてる暇あったら殴りまくるンバーー!!」

 

 ウラヌスとネプチューンは言葉を受け、顔を見合わせる。

 

「それならそうと……最初から言え!」

 

 完全に調子を取り戻した彼女らは、軽くなった表情で再び戦場へと飛び込む。

 

 その後、戦士たちは奇面族と協力して、順調に獲物へ傷を負わせていった。

 さすがに迅竜とて無敵ではなく、ウラヌスたちの調子と反比例するように次第に動きに翳りが見え始める。

 

「ンッチャア!!」

 

 相手が脚をもたつかせながら着地したところ、チャチャのブーメランによる一撃は刃翼を破壊。

 ナルガクルガはバランスを失いその場に転倒した。

 

「ワガハイも負けていられねぇンバーー!!」

 

 カヤンバの渾身の杖による攻撃は竜の片目を潰し、隻眼にした。

 そこへ光球による追撃を加える戦士たちは、その活躍を見て

 

「中々やるわね、あの子たち」

「……僕も、随分と学ばされたものだ」

 

 なりふり構わなくなったナルガクルガは、再び尻尾叩きつけを狙う。

 だが、それこそウラヌスたちにとって待ち望んだ瞬間だった。

 

「他人を、経験だけで判断してはならないと!」

 

 高周波をスペースソードに漲らせ、横に振り下ろされた尻尾目掛け縦に振りかぶる。

 

「ギャワアアアオオオオオウゥゥッ!?!?」

 

 切り裂かれた尻尾の先端が宙を舞った。

 ナルガクルガは衝撃に悲鳴を上げて倒れ込み、何とか敵を捉えようと立ち上がる。

 だがその口元からは涎が垂れ、眼は限界を迎えかけて血走っていた。

 

「さぁネプチューン、いよいよ行こうか」

「えぇ。行きましょう」

 

 もう一度回り込んだナルガクルガは、戦士2人へと駆け寄る。

 それを迎え撃つように、彼女たちも正面から距離を急速に縮めていく。

 迅竜は脚を止め、敵を打ち据えんと横向きに尻尾を振るった。

 

 だが、構わず彼女たちは前方に跳び、身体を捻り、

 そしてすり抜けた。

 尻尾を切断したおかげで、リーチが短くなったのだ。

 眼前に広がるのは、無防備な頭。

 

 少女たちの掌が金色と海色に光る。

 

「ワールド・シェイキング!!」

「ディープ・サブマージ!!」

 

 ナルガクルガの身体は、2つの光に吹っ飛ばされた。

 

──

 

「で、モガ村のみんなにこのことは明かすッチャ?」

 

 帰路に着いた時、チャチャは戦士の状態を解いたはるかにそう聞いてきた。

 

「そうだな……」

 

 少し考えたあと、彼女は優しげな表情を浮かべ、チャチャたち奇面族と同じ視線の高さになるよう屈んだ。

 

「実は僕たちのこの力は、さっきの理由以外にも人に正体を知らされすぎると弱くなってしまうんだ。だから、あまり簡単には明かせない」

「そ、そんな裏設定が!?」

「驚愕ンバ!!」

 

 彼らの反応を見たはるかは、頷きながら拳の小指だけを突き出し、それを差し出す。

 

「だから、他の人には言わないって約束してくれるか?」

「チャパッ! 秘密の組織みたいでカッコいいッチャ!」

「分かったンバ!!」

 

 チャチャとカヤンバはそれに答えて景気よく指切りげんまんをして先に進むが、みちるは首を傾げてはるかに耳打ちする。

 

「そんな設定あったかしら?」

「モガ村にはたまに交易船が来る。村以外に伝わったら厄介なことになるかも、だろ?」

 

 彼女は微笑んで、人差し指を唇の前に据えた。

 

「一応念のため、さ」

 

 彼女の顔は、何かのしがらみから解放されたように爽やかだった。

 いつの間にか夜が明けて、地平線が黄ばみ始めていた。

 

「そういえば、カヤンバ。なぜ貴方たちが喧嘩したか、よかったら教えて下さる?」

 

 ネプチューンの姿を解いたみちるは、そうカヤンバに何となしに聞いてみたのだが。

 

「ダ……」

 

 彼は軽やかな足取りを止め、その場に俯いて静止した。

 

「あれは……ワガハイのガラスのようにピュアでデリケートな心を惨たらしく破壊した……史上最悪の大事件だったンバ」

 

 青い仮面をつけた奇面族の声は、今までにないほど沈んでいる。

 余程傷つけるような酷い仕打ちをしたのか、とはるかたちが振り向くと、チャチャは冷や汗をかいて非常に気まずそうに俯いていた。

 

「チャチャの奴は、命より大事な……それはそれは……」

 

 顔を上げたカヤンバは見るからに憎悪と敵意を滾らせ、杖で勢いよくチャチャを指し示した。

 

「ヤミーでキュートなスウィーツを、こいつは……勝手に全部喰らってしまったンバァーー!!!!」

 

 沈黙の後、チャチャはむしろいきり立って、

 

「……いやでもあれは、自分のって書かなかったカヤンバの自業自得っチャ!! あんな美味そうなお菓子を説明もなくテーブルに放り出してる方が悪いに決まってるッチャ!!」

 

 それにカヤンバは逆上して、

 

「ムキャーーーーッッ!! この後に及んで未だ反省しないンバ! ならワガハイはここに残るンバ!!」

「おうとも勝手にするがいいッチャ! コブンはこちらがありがたく頂戴してやるブ~!」

「んなわけあるかンバ! ワガハイが新しく村を作ってこいつらを御付きに雇うンバ!」

「プププ馬鹿丸出しー、ドボルベルクに叩き潰される未来が見えるッチャ~」

 

 子どもたちはまたしても、いつ終わるか知れない口喧嘩を繰り広げ始めた。

 それを見たはるかとみちるは、思わず小さく吹き出した。

 チャチャは敏感に反応して振り向く。

 

「な、何がおかしいっチャ!?」

「いや、なんとも理由が君たちらしいって思ってさ」

「ふふ。後できちんと謝っておきなさい、チャチャ。食べ物の恨みは恐ろしいわよ」

「ブ、ブウゥ……」

 

 それまで見たことのなかった彼女らの微笑に絆されて、チャチャの反抗心は途端に萎えてしまったのだった。

 

──

 

 数日後、モガ村にて。

 

「へへっ、今日も大漁だぜ! キレアジもシンドイワシもぴちぴち跳ねてらぁ」

「ああ、馬鹿! そいつははじけイワシ。死んで弾けたらヤだから、そっちの水槽に入れときな!」

 

 恰幅の良い漁港の女主人は、今日も今日とて男衆に指示して揚げられた魚を網からバケツへ仕分けていた。

 長らくこの仕事をやっているので、その知識と手際たるや達人の域に達している。彼女は一つの網の魚を片付けると、ふぅとため息をついて自身の腰を叩いた。

 

「はぁ~、本来なら喜ぶべきなんだろうけどねぇ。ここまで人手不足だと忙しくて忙しくてしょうがないよ……」

「女将さん、良ければ手伝うよ」

 

 女主人は顔を上げ、話しかけてきた人物の姿を認めるとにっこりと微笑んだ。

 

「お、そりゃあ助かる! 今日もありがとねー!」

 

 その人物、はるかはそれまで外で羽織っていた上着を脱ぎ、サラシを巻いた動きやすい姿になっていた。

 性別はどう見ても明らかなのだが、男衆たちは特に気にした風もなく喜びの声を上げた。

 

「やったぁ! はるかさんのお陰で仕事がぎゅんぎゅん捗るぜ!」

「昨日から徹夜して、御二人のために応援歌作ってみたんだ! 聞いてみる!?」

 

 歓談しながら漁師たちの手伝いをするはるかを、みちるは日傘を差して見つめている。

 

「んふふ、何だか私たちとはるかさんたちとの距離が少しだけ近くなった気がします!」

 

 そんな光景を、アイシャはクエストカウンターで微笑ましく眺めていた。隣では村長が、村の子どもと遊んでやっていた。

 

「うんむ、そうだのう。あのチビ助2人の手柄かもな」

 

 彼は頷きつつ、ゆっくりと顔を上げアイシャと同じ風景を見て目を細めた。

 

「あの2人もいつか故郷に帰るのだろうが……せめてその時、ここは良いところだったと少しでも思ってくれてたら嬉しいのぉ」

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