セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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再会は荒漠の地で①

 

「うう〜〜……」

 

 地平線まで続く大空と海、天辺で昼間も明かりを灯す灯台。世界各地から舟が集い、また離れていく。

 その光景が、うさぎたちがいる位置からは全て俯瞰できた。

 

「うぐぐぐぅ……」

 

 ここはタンジアの港。貿易商人なら誰もが憧れる夢の地。

 うさぎたちがいるのは、ハンターが依頼を受注する出発港にある三つ星レストラン『シー・タンジニャ』。

 彼女のすぐ隣では人の背を超える肉がアイルーによって焼かれ、その傍にある巨大鍋では蟹やら野菜やらが蓋からはみ出すほど煮込まれ、美味しそうな匂いを垂れ流している。

 だが、それを横目に見たうさぎの顔は苦しげである。

 彼女がテーブルに向かい直ったかと思うと、

 

「おカネが、なぁーーーーいっっ!!」

 

 その両掌が叩きつけられ、揺れるテーブル。

 手元には紙袋詰めのシーフード味スナック『タンジアチップス』。

 そして、自分と仲間たちにはコップ入りのお冷がそれぞれ1杯ずつ。

 

「うさぎちゃん、行儀悪いわよ」

 

 ルナにはそうたしなめられ、料理人のアイルーは哀れそうな目で見てくる始末。

 

「オナカ……ヘッタ……スナック……アキタ……」

 

 か細く呟き机に顔を突っ伏すうさぎの腹は、絶えず鳴り続けていた。

 

「大食らいはこうなると悲惨よねぇ」

 

 それを観察する、ちびうさを始めとした仲間たち。

 

「何だか申し訳なくなってきたわ……」

「仲間をここまでひもじくさせてると思うとね……」

 

 亜美は白と桃色を基調とした振袖の婚礼衣装のような防具、まことは蒼い甲殻に覆われた甲冑に棘がついた荒々しい鎧を着込んでいる。

 さらに武器も防具と似た色彩のものに新調し、ライトボウガン『狐水銃シズクトキユル』、ハンマー『王牙鎚』をそれぞれ携えていた。どれも、以前に狩ったタマミツネとジンオウガの素材で作ったものだ。

 

「仕方ないわよ、これから先は相手するモンスターだって強くなるんだから。多少の倹約は覚悟しないとね」

 

 レイも武器は『灼炎のルーガー』のまま、アラビアンな軽装『城塞遊撃隊』の防具へと武具の新調を行っていた。

 

 これまで狩りで稼いできたとはいえ、報酬金は常に狩猟に参加する4人で頭割り。そこに猟団として共通で払う交通費、宿代、そして今回のような武具製作費も重なれば必ず免れない事態であった。

 かつてドスフロギィから今の装備を作った結果同じ憂き目に遭った美奈子は、ある程度慣れた様子ながらつまらなそうに一冊の本を取り出した。

 

「仕方ない、取り敢えず代わりに文字を頭に詰め込んどきますか……」

「おっ、偉いぞ美奈。情報収集とはいい心がけじゃないか」

 

 白猫のアルテミスに賞賛を受けつつ美奈子が開いたのは、月刊情報誌『狩りに生きる』。

 基本的に狩人の生活に役立つあれこれが書かれているのだが、彼女が開いたのは狩りに()()()()()方。役立つ方は改めて見ることもない初心者向けの記述ばかりだ。

 冊子後方には掲示板、狩人同士で話題になっている噂、そして今回新たに女性向けコラムが設けられていた。

 タマミツネの滑液を使ったシャンプー、リオレイアに学ぶ恋愛処方箋……など、実用性こそ別として様々な女性ハンターを対象とした記事が載ってある。

 

「へー、ハンターさんたちも最近、美容を気にする人多いのね……ん?」

 

 ある1ページに目を見張ると、彼女はうさぎの頭を掴み自身の方へと向かせる。

 そしてそのページを開いたまま、冊子をドンッとその目の前に据え置いた。

 

「うさぎちゃん、これ読んで!!」

「え? 何よもー……」

 

 最初は、渋々視線だけを動かして読んでいたうさぎ。

 だが、みるみるうちに彼女の瞳に生気が宿り始める。 

 たちまち、冊子を手に取って熟読し始める。

 

「こ、これは……!」

「ね!? これなら元手ゼロで大儲けよ!」

「大儲け!」

 

 すっかり蘇って半身を起き上がらせたうさぎは美奈子と頷きあうと、勢いよく立ち上がった。

 

「みんな! あたしたち、砂原に採取ツアー行ってくる!」

「どうしたのよいきなり」

 

 うさぎの言葉にレイが驚いていると、美奈子がその後を継ぐ。

 

「見つけたのよ! この状況をひっくり返す、とびっきりの秘策をね!」

「……えぇ?」

 

 一同が怪訝な視線を向けてきたのは予想の範疇だったらしく、うさぎたちは得意げにその秘策の内容を明かした。

 だが、それを聞いた彼女たちの反応は揃って微妙だった。

 

「それ、火山で鉱石を掘ってくる方が高く売れるんじゃ……」

「そんな簡単に上手く行くものかしら?」

「如何にも2人らしく向こう見てないって感じね」

 

 まこと、亜美、そして最後のレイの言葉でうさぎはムッとした表情になる。

 

「何よ3人とも、ノリ悪いわねぇ! ならあたしたちだけで行かせてもらいますから!」

「ま、みんなは装備作りを頑張った分今回は休んで休んでー!」

 

 美奈子にそれぞれ肩を叩かれてはぁ……といまいち納得していない一同。

 それを他所に、2人は武器を担いで意気揚々と階段を降りていく。

 身支度もほどほどに彼女たちは水兵服を着た笑顔の受付嬢と受付をかわし、出発口に立つ。

 

「じゃー、行ってくるっ!!」

「1週間以内には帰って来るわーー!!」

 

 そのまま彼女たちは高速船に乗って砂原のある方面へと繰り出していった。

 

「大丈夫かな……確かに砂原は火山に比べりゃ危険度はマシだけど」

「どーせ変なところで大ドジやらかして、泣きべそかいて帰ってくるでしょ」

 

 純粋に心配げなまことに対し、ちびうさはかなり薄情な予測をする。

 

「2人とも仮にも上位ハンターよ。今更そんな変な失敗するわけ……」

 

 ルナはそう宥めかけてから少し頭を捻った後、

 

「いいや、絶対するわ」

 

 真顔で前言撤回した。

 

──

 

 タンジアの港と海を通して繋がる木造の孤島、モガ村沿岸で小さな波飛沫が立った。

 

「ほら、こう掻けば抵抗が無くなって早く泳げるダロ?」

「さぁ、もう一度試してみるっチャア!」

 

 やんちゃそうな顔の人間の子どもと奇面族の子どもチャチャが海面から顔を出し、目の前にいるはるかに指示してくる。

 彼女はそれに濡れた顔を拭いながらため息をつく。

 

「ったく、簡単に言ってくれるよ。みちるは生まれつき海の力を貰ってるから大丈夫だろうけどさ」

「あら、コツさえ掴めば簡単よ? ほら」

 

 みちるは息をたっぷり吸うと流れるような動きで海中に潜る。途端に、彼女は水を支配したかのように滑らかな動きで水中を舞い始める。

 人間の子どもはうぉー、と感嘆の声を上げた。

 

「相変わらずあのネエちゃん、スッゴイ泳ぎが上手ダナ!」

「海の力って言ってたけど、まさかミチル、魚の遺伝子でも持ってるンバ!?」

「ものの例えってやつだよ、おチビちゃん」

 

 そうはるかはカヤンバに答えると自らも息を吸って潜り、みちるを追いに行った。

 天然島にほど近いため、深度はそれほどでもない。

 彼女が目を開けてすぐ、陽の光を受けて色とりどりに光る珊瑚礁が見えた。

 熱帯魚の群れが縦横無尽に踊る中、みちるは待っていたわと伝えるように微笑んだ。

 

 はるかとみちるは、装備をつけた状態で子どもたちから泳ぎ方を習っていた。

 この地域では水中での狩猟文化が発達している。

 当然、重い装備を着けて水中で動くには肺活量、水圧などの課題がある。

 それについては装備の軽量化、地上の空気を閉じ込める特殊構造、そしてモガ村の伝統的泳法や呼吸法に始まる訓練などにより総合的に解決している。

 

 はるかとみちるは手を取り合って絡み合うように泳ぎ、戯れる。

 綺麗な蒼の魚が2人の隣をゆっくりと泳いでくる様は、まるでこの海中の王国に来た彼女たちを歓迎しているかのよう。

 それから共に波にたゆたう海面を見つめ上げたのち、頷き合って海上へ。

 

「っはぁ!」

 

 はるかとみちるは向かい合って顔を出す。

 髪から水滴がキラキラ跳ねて舞い散り、彼女らの整った顔立ちをより一層際立たせた。

 

「君の顔……ここだとより綺麗に見えるな」

「そう言うはるかこそ」

 

 はるかが艶が増したみちるの豊かな髪を包むように撫でるのに、彼女はうっとりとした声で答えた。

 

「ブーー! また2人で勝手に遊んでるッチャーー!!」

「はよこっちの世界に戻ってくるンバーーッ!!」

 

 チャチャとカヤンバが全力で抗議しているところ、地上の桟橋に腰かけたアイシャははるかたちにすっかり見惚れていた。

 

「ホント、いつ見ても絵で描いたように美しいお二方ですねぇ~……」

 

 そこに村人の仕事を手伝いつつ、村長の息子が話しかけてきた。

 

「顔立ちを見るにずっと北の出身だろうが、この村にもよく馴染んできたよなぁ」

「ええ、もう昔っからここにいたみたいですよね!」

「しかし、人探しの件を考えると……あの人たちにとってもここらがそろそろ潮時かなぁ」

 

 海を見つめてぼやいた彼を、アイシャははっとした顔で見つめた。

 

 そう、はるかたちは人探しをしている。同郷の出身という16歳頃の少女たちを。

 だが、このモガ村は僻地中の僻地。人探しをするには不向きすぎる土地だ。街に出向いた方が効率は遥かに良い。

 だから見つかるにしろ見つからないにしろ、必ずいつかはあの人たちと別れねばならないだろう。

 

 アイシャは少しうつむき、海面をじっと見つめた。

 

「……大丈夫か、アイシャ?」

 

 だが、彼女はそんな自分を戒めるようにパンパン、と頬をはたいた。

 顔を持ち上げた時には既に、笑顔を取り戻していた。

 

「大丈夫に決まってますよ! 今日が最後だったとしても、元気いっぱいに送り出してあげますから!!」

 

 陸から上がってきたはるかたちは身体を真水で浄めると、早速カウンターに向かってアイシャに話しかけてきた。

 

「アイシャ、いつもの用なんだけど……」

「はい、人探しの情報ですね、ちょっと見てみます! どれどれ~〜……」

 

 受付嬢アイシャはいつもと変わらず溌溂と答えると、素早く手元の書類を読んでは積み、読んでは積み──

 空っぽになった『未確認』の箱を前に目を閉じ両手をついて立ち上がった。

 そして、目をカッと見開いて。

 

「うん! 音沙汰ナシ!!!!」

 

 そう大声で宣言され、やっぱり、という風に2人は苦笑いを浮かべる。

 

「うぅ~、お役に立てなくてすみません〜〜。やっぱり私がこんな調子じゃ街に行きたくなりますよねそうですよね〜〜」

 

 先ほどの会話の影響もあり、空元気虚しく完全に落ち込みモードに入ってしまった。

 くすん、と涙目で俯く、アイシャのしょげきった顔。

 だが、その顎が突如、細い人差し指でクイッと持ち上げられた。

 

「泣くなよ、君の可愛い顔が台無しだぜ」

 

 それをしたのは、はるかだ。

 彼女の線細くも精悍な顔が、アイシャの視界を一杯に覆う。

 

「ふぇぇっ!? は、は、はるかしゃん…!?」

 

 ぼふん、と音を立てそうな勢いでアイシャの顔と心臓が沸騰する。

 

「はるか。そうやって遊ぶのも程々にね?」

 

 はるかの背後が見えた瞬間、アイシャの背から血の気が引いた。

 『本妻』みちるの笑顔の裏に見える言い知れぬ圧。ズゴゴゴゴ、と渦巻く擬音が似合いそうな。

 それに気づいたはるかが慌てて身を引くと、みちるは一転して詫びるような表情をアイシャに向けてきた。

 

「ごめんなさいね、そうやって可愛い女の子の反応を見るのがこの人の悪い癖なのよ」

 

 流石のはるかもみちるには手綱を握られているらしい。みちるはアイシャには気遣うように優しく微笑みかける。

 

「人探しの件は気にしないで。ただでさえこの村にはたくさんお世話になっているんですもの、文句なんて言えた立場ではないわ」

 

 アイシャはほろりと先とは違う意味の涙を浮かべる。

 気高く気品がありながら、謙虚で気遣いがある。みちるもアイシャにとって憧れる女性の1人であった。

 気を取り直したはるかは、こほんと咳払いする。

 

「僕らは近いうちに、タンジアの港に行こうと思ってる。お金も十分に貯まってきたことだしね」

「……じゃあ、お別れも近いってことですか?」

「まあ、そうかもな。みちるの言う通り、君たちが気負う必要はない。旅人がまた旅に出る、それだけのことさ」

 

 はるかはそう言ってくれたものの、アイシャは内心迷っていた。

 日頃お世話になっている2人にはせめて最後、何かお礼をしたいのだ。

 彼女がヒントを求めて記憶を掘り返してみると、会話が不自由なく出来るようになった頃、日傘を差したみちるが話しかけてきたことが思い浮かんだ。

 

『アイシャ、この村に日焼け止めってあるかしら』

『ありますよ! えーと……ほいっこれです! よかったらどうぞーー!!』

 

 鎧石と忍耐の種の成分、そしてアルビノエキスが配合された薬品の瓶を差し出すと、みちるは「まぁ、ありがとう」といつもに増してにこやかに受け取ってくれたのだった。

 

 察するに、みちるは美容に人一倍気を使っていることは確かだった。そして、はるかもみちると同じ香水や化粧品を使っているからセットでプレゼントするとなお良いかもしれない。

 

「……でも、そんな都合のいいものなんて一つも──」

 

 アイシャは迷いつつ、何気なく依頼書の束に目を通したのだが。

 

「はっ……」

 

 1つの紙切れを取り上げて読み込むと、カウンターに叩きつける。

 

「お二人とも、緊急の依頼です! ご確認下さい!!」

「えっ? さっきまでそんな様子じゃなかったけど……」

「緊急で来るから、緊急依頼なのです!!」

 

 その勢いに押し負け、はるかたちは当惑しつつ依頼書の内容を確認した。

 

 砂原からのSOS!

 依頼主:2人の少女ハンター

 依頼内容:うえーん! ボルボロスの沼から泥を取って大儲けしようって砂原に来たら、クーラードリンク落っことしちゃったーー!! 地図は風に飛ばされるしモンスターには囲まれるし、誰でもいいからおーたーすーけー!!!! あっ、集めた泥は半分あげるから、それで報酬ってことで!

 

「随分とおっちょこちょいな依頼主だな。それにこんな報酬じゃ、受けてやるハンターもいないだろうに」

 

 一通り読んだはるかはやや呆れた表情であるが、アイシャは知っていた。

 ボルボロスというモンスターの棲む沼の泥は、高級泥パックの原料として高値で売れることがあるのだと。この少女ハンターたちも、恐らくそれを狙って砂原に出向いたのに違いなかった。

 この報酬の一部を使って泥パックを作り、大金と共に渡せば2人とも驚くこと間違いなし。出発祝いとして、これ以上の贈り物はないというわけだ。

 アイシャは内心ムフフと笑い、作戦の成功を確信していたのだが。

 

「僕はパス。別に旨味も少なそうだしね」

「……え」

 

 はるかは苦笑しつつ手を振って断る。

 

「で、でも人が困って──」

「それはそのハンターたちの自業自得さ。少し待ってれば、現地ギルドからも救助が来るだろ」

「ちょちょ、ちょっと待ってくださいはるかさん、どうか話を……」

 

 アイシャがはるかの遠ざかる背に手を伸ばすも、敢無く望みが砕け散らんとしたその時。

 

「はるか。ちょっと気になることがあるのだけれど」

「何だい、みちる。まさか君まで……」

 

 みちるの一言に、はるかの足が止まる。

 

「ねぇ、この依頼書……よく見てみて。何か見覚えがない?」

「ん?」

 

 みちるは、はるかに何かを囁きながら依頼書を共に見ている。

 少しすると彼女の顔つきが変わり、打って変わって真剣な目でアイシャに振り向いた。

 

「分かった。その依頼、引き受けよう」

「ほ、ホントですか!?」

「ええ、是非とも頼むわ」

 

 それを聞いたアイシャは顔を輝かせ、

 

「……よくわかんないけど、いってらっしゃあ~~い!」

 

 そう口ずさみつつ、受付済印を依頼書に大きく叩きつけた。

 




うさぎたちについて、前回の渓流の件から、文中でも示された通りまことはインゴットS→ジンオウSシリーズ、亜美はアシラS→ミツネSに変更となります。武器も防具と統一です。これで自分の属性使えるね!
一応ですが、亜美のミツネSの基本的なイメージとしては『MHXX以前のガンナータイプ』です。(ちょっと活動的すぎるかもだけど…)
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