セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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再会は荒漠の地で②

 乾いた空気。

 照り付ける太陽。

 草原と砂漠の狭間にある空は、熱風を年中地上へ送り続ける。

 サバンナ特有の気候を有するその土地は、狩人の間では『砂原』と呼ばれていた。

 

 その広大な土地にある渓谷の間に伸びる狭い道を金髪の少女がただ2人、杖をついて老人のようによたよたと歩いている。

 

「美奈子ちゃん……もう来てない……?」

「多分……大丈夫」

 

 汗だくになった彼女たちは、日陰に入るとどさっと砂の混じりかけた地面に腰を下ろした。

 

「……で、ここ何番エリアだっけ」

「分かんないわ……地図失くしちゃったし……」

「そもそもあたしたち……どこの道から来たっけ……」

「分かんないわ……あいつから逃げるので必死だったし」

 

 美奈子が答えると、虚ろだったうさぎの瞳からみるみるうちに涙が溢れた。

 

「うえええぇ、こんなとこ来るんじゃなかったー!!」

「諦めちゃダメようさぎちゃん! あたしたち2人で大儲けするんでしょ!?」

「そうだけど、帰れなかったら意味ないじゃなーーい!!」

「……仕方ない。あの手を使う時が来たわ」

 

 泣きじゃくるうさぎにそう美奈子は呟くと、後ろを向いてガサゴソと何かをまさぐる。

 

「……あの手?」

「こうなりゃ、最後の奥の手よぉっ!」

 

 彼女が叫びつつ取り出したるは──

 木の枝で出来た棒っきれ。

 

「てぇぇぇいっ!」

 

 地面に垂直に刺し、掌を離す。

 棒は何も言わず一方向に向けて、ぱたん、とだけ音を立て倒れた。

 行き先は、砂と熱風が吹き抜けてくる細い道。

 

「よし、こっちよ!」

「……やっぱ来なけりゃよかったわ」

 

 うさぎは肩を落としつつ、美奈子と共に棒の指す方向へ歩いていく。

 

 ずっと歩いていると、より一層風に熱がこもってくるのを感じた。

 

「あれ、これって……」

 

 そのまま視界が開けた先にあったのは──

 広い、海のように広い砂地。

 手前には魚型のモンスター『デルクス』の砂上を泳ぐ群れが、遠方には陸を深く絶つ谷と地平線まで続く向こうの大地が見える。

 

「あ、あらぁ、すごい砂漠ぅ……」

「……」

「うさぎちゃん、そんな目をしないで!! 今回はちょーっと運が悪かっただけよ! そう、悪かっただけなんだから!!」

 

 死んだような顔をしているうさぎを美奈子が宥めていると、ガァンッと何かがぶつかる音がした。

 

「ん?」

 

 恐る恐る前に出て、左手に広がる砂漠の空間に視線を移すと、

 

「げっ……ディアブロス!」

 

 うさぎは苦虫を噛んだような顔をして、急いで近くの岩陰に隠れた。

 大きく湾曲した双角を持つ砂色の生き物が、同じ姿の生き物と激しく角を突き合わせていた。

 美奈子もうさぎと同じようにしながら、ギリギリと歯を噛み締めていた。

 

「あいつ、今日も手当たり次第に喧嘩吹っ掛けてんのね! ヤなタイミング!」

 

 角竜ディアブロス。

 別名、『砂漠の暴君』。全長約30m。

 飛竜種に属し、種族の遺伝子に従って立派な翼を持つが空を飛ぶことはほぼない。

 サボテンを食べる草食性だが、性格は凶暴。

 縄張りに入った者は人だろうと竜だろうと、その巨体一つでの突進、体当たりで灰燼と化す。

 

 この数日、うさぎたちも散々追いかけられたためその脅威はまざまざと見せつけられている。

 中でも恐ろしいのはやはり、襟巻状の頭部から生える豪壮にねじれた角。

 突進とともに繰り出されるその威力は岩盤を突き通すほどであり、人がまともに喰らえばまず命はない。

 

「グオオオオッッッ」

「ガアアアアアアア」

 

 今はその双角を互いのそれにぶつけ合い、力を比べ合っている。

 引いては押し、押しては引く。

 生来のプライドと縄張り意識の高さゆえ、彼らにとっては避けられぬ喧嘩だった。

 

「今日もあっちが勝つかな?」

「いや……正直もう決まってるわよこれ。明らかに大きさ違うもの」

 

 彼女たちが注目しているのは体格が大きい方のディアブロス。

 うさぎたちを追い回したのもこの個体であった。

 

「ヴヴヴヴヴッッ!!」

 

 彼は頭突くようにして相手を押し返し、一瞬の隙を作る。

 そこから身を翻し、両刃斧状の尻尾で相手の頭を一打。

 ゴッ、と鈍い音、同時に相手の頭がそちらに吹っ飛ばされ、その身体ごとよろめいた。

 

「ガアアッ、ガアアア……」

 

 挑戦者は負け惜しむように情けない悲鳴を上げ、たまらず背を向けて走っていった。

 それを見送るディアブロスは、息を吸った。

 

「ギィャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァッッッッ!!!!」

 

 天上を仰ぎながら、その巨体に見合わないほどに甲高い絶叫。

 戦いの唯一の勝者に許された、勝利の雄叫びである。

 彼は、この地を治める強者であった。

 その様は傲岸不遜なまでの自信に満ち溢れ、歓びすらも少女たちに伝わってくるようだった。

 

 双角の下に埋もれかかった鋭い目が、地上近くに戻って来る。

 

「あっ……」

 

 そこから伸びる視線が、ちょうど少女たちと重なった。

 うさぎたちの顔が青く染まる。

 

「グルゥゥゥアァァァ……」

 

 草食動物とは思えない鋭い前歯の外側に、長く伸びる二対の牙。

 その下から、次はお前たちが相手か?と聞くかのように黒い息が漏れた。

 

「し、し、失礼しました~……」

 

 うさぎと美奈子はゆっくりと岩陰に隠れ、直後、砂漠とは正反対の方向へと全力ダッシュした。

 そもそも彼女たちの目的は狩猟ではないのだ。厄介事は避けるに限る。

 ディアブロスは視界から邪魔者が消えたことを確認すると満足そうに首を回し、傍に群生しているサボテンへと向かっていった。

 

──

 

「あ……!」

 

 今にも干からびようとしていたうさぎの顔に、光が戻ってきた。

 向こうには大樹が見え、目の前には泥沼が広がる。

 沼の近くには荷車があり、大量の麻袋の山が積んである。

 

「も……戻ってきた!?」

「やったあああ……」

 

 2人は叫んではしゃぎかけたがすぐにそのテンションをしまいこんで、共に周囲をそっと見渡す。

 

「……あいつ、いないわね?」

「……うん」

 

 数分後、彼女たちは泥に足をつからせ、せわしなく手を動かしていた。

 

「えいっ、とりゃっ、とぉっ……」

「ふぅっ、はあっ、ぜいっ……」

 

 大型スコップで掬い上げられた沼の泥は、次々に荷車に放り込まれていく。

 少女たちの顔や防具には、相当な量の乾きかけた泥がこびりついていた。

 

「……美奈子ちゃん、本当に大丈夫だよね?」

 

 後方を見ながらスコップを動かすうさぎの呼びかけに、美奈子は恐る恐る沼を振り返って見渡してから再び前を向いて答える。

 

「た……多分大丈夫よ! まだ朝だし、いざとなったら逃げりゃあいいし!」

「で、でもさぁ、もうこんなに溜まったし、やっぱそろそろ素直に助けを待っても……」

「ダメよ! あたしたち、依頼書に泥半分あげますなんて書いちゃったんだからなるべく取り分は増やしておかないとっ!」

「うげー、意地になってるぅ……」

 

 スコップを操る手を焦らせる美奈子に、うさぎは苦い顔をした。

 その視界の隅に、あるものが入った。

 

「あっ……美奈子ちゃん、見て!」

「え?」

 

 うさぎが指差した先に、砂塵と熱風に揺らめいて2人の人影が浮かび上がる。

 それは確かに、こちらに向けて歩を進めていた。

 

「まさかあれ……」

「助けよ! 助けが来たんだわ!」

 

 さっきまでのやり取りなど忘れたようにスコップを放り出し、2人はその人影に手を振る。

 

「こっち、こっちぃーー!」

「ここよ、ここよーー!!」

 

 だが、その詳細が明らかになるにつれ、その元気のよさは少しずつ収まり。

 次第に、疑念へと変わっていった。

 

「え、ちょっと待って……」

「……いや、見間違いよね……?」

 

 戸惑った2人は顔を見合わせ、もう一度向こうを見る。

 

 1人は背が高く短い金髪で、鋭めな顔立ち。

 もう1人は少し背が低く波立った海色の髪、そして柔和な表情をしていて。

 彼女たちはいよいよ目の前にやって来たが、うさぎたちは目をまん丸にしたまま。

 何度も目を擦り確認するが、光景は変わらない。

 ふと、うさぎが考えを閃いて美奈子に振り向く。

 

「そうよ、美奈子ちゃん! あたしたち、炎天下でこんな作業してたから幻覚見てんのよ!!」

「そ、そうよね〜〜! やっぱうさぎちゃんの言う通りきちんと休憩に行かないと! ほら、さっさと洞窟に……」

「やはり依頼書のひどい字と内容、お団子のものだったか」

「貴女、もうすぐ高校生になるのだから悪筆はそろそろ治した方がよろしくってよ?」

 

 黙ったまま、うさぎたちはもう一度目の前の人物を見つめる。

 

「……久しぶりだな、お団子」

「隣にいるのは、美奈子よね?」

 

 海風を撫でたように優しい、懐かしい声がした。

 しかもそれはこの世界の言語ではない。

 仲間以外から久しぶりに聞く、れっきとした滑らかな日本語で。

 

 夢のような光景である。

 いや、彼女たちにとっては夢に違いなかった。

 だって、自分たちの世界にいるはずの人たちがすぐそこに見えるのだから。

 

「本当に……はるかさん?」

「……みちるさんも、そこにいるの?」

 

 うさぎと美奈子の問いに、はるかとみちるは微笑みつつ頷いた。

 

 再会。

 

 その時はあまりに突然に訪れた。

 何処からか吹いた風に、花びらが舞ってゆく空白の時間──

 

「ボアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!」

 

 それは、うさぎと美奈子の身体が宙に舞って終わった。

 

「……へ?」

 

 彼女らを上空に突き飛ばしたのは、岩のような質感を持ち泥に塗れた王冠。

 迎えに来た2人は驚愕のあまり、言葉もなく口をただ開けることしかできなかった。

 

 土砂竜ボルボロス。

 

 空を舞う飛竜種に対し、陸上生活に特化する道を選んだ獣竜種という種族に位置する。

 主には沼に棲んでおり、避暑と乾燥防止のため泥を浴びる習性がある。この個体は一帯の沼を縄張りとしていたのだ。

 うさぎたちは、真っ逆さまに沼へと落っこちた。

 

「プリンセスッ!!」

 

 はるかたちは、沼へ頭から突き刺さっている少女たちへ急いで駆け寄る。

 

「立てるか!?」

 

 畑からカブを抜くように引きずり出すと、彼女らの腰から上は泥まみれだった。

 

「ダ……ダイジョウブイ……」

「これ頸椎逝った絶対逝った」

 

 目を回しつつ立ち上がる2人の顔を見て、はるかは張り詰めていた顔を少しだけ緩める。

 

「軽口を叩けるくらいなら、問題ないようだな」

 

 だがその安心も束の間、土砂竜ははるかたちの姿を認めるとばしゃん、ばしゃんと足音を立てて迫り、睨んで来る。

 王冠を被ったように平べったく大きい頭部、小さく退化した前脚、それに比べ強靭に発達した後ろ脚。

 所々赤みがかった茶褐色の甲殻にはいずれにも溝があり、そこに泥を纏わせ滴らせていた。

 

「ボルボロス……沼地に潜んでいたのね」

「今はプリンセスを護るぞ!」

 

 はるかたちは変身スティックを掲げてセーラー戦士へとその姿を変える。

 

 土砂竜は、何故か非常に虫の居所が悪いようだ。

 さっそく頭部を下げ地面に接するまでに低く構えると、ポゥーッと高く汽笛のような音が鳴った。

 頭上部にある鼻孔から吹き出た蒸気によるものだ。

 

 直後、発進。

 己の身で地面を削ってくる様は、まさに生きた弾丸。

 

「危ないっ!」

 

 はるかとみちるは、うさぎたちを庇いつつ横に跳ぶ。

 何とか突進を横に避けるとボルボロスは振り向き、身体を乗り出して震わせる。

 すると泥が大量に飛散。

 それはうさぎたちと美奈子に頭上から被さり、彼女たちはいわゆる泥だるまの姿に。

 

「あっ、はまっちった!」

「いやーん、動けなーい!!」

 

 それだけでなく、周囲に泥だまりが出来たことで天然の壁が作られる。

 はるか──セーラーウラヌスはそれを見て小さく舌打ちした。

 

「小賢しい奴だ……」

「私にやらせて頂戴」

 

 みちる──セーラーネプチューンが髪をなびかせ前に出ると、腕を天上へと掲げる。

 

「ディープ・サブマージ!!」

 

 空間から放たれた激流が泥の壁を貫通し、そのままボルボロスへと直撃。

 

「グオオッ!?」

 

 大きく仰け反ると共にボルボロスの全身から泥が洗い流され、濡れて艶の出た甲殻が露わになった。

 ついでに彼女は、出力を小さくしたもう一撃をうさぎたちへ。

 それだけで泥は弾き飛ばされ、うさぎたちは無事解放された。

 

「みちるさん、さっすがぁ!」

「これで泥も飛ばせないわね!」

 

 うさぎと美奈子はすぐさま山盛りの泥を積んだ荷車に駆け寄り、取っ手を引っ掴んでスタンバイ。

 すっかり逃走準備は完了である。

 

「おい、そんなもの置いてけ!」

「これはあたしたちの命より大切なものなんですー!!」

「タンジアチップスと水だけの生活なんてもう、懲り懲りよ!!」

 

 セーラーウラヌスが呼びかけたが、2人の少女の意志は変わらない。

 

 ボルボロスは、再び人間たち目掛けて突進を仕掛ける。

 ウラヌスに続いて、うさぎたちも荷車を引いて回避。

 ネプチューンはその光景に目を丸くする。

 

「はるかさん、みちるさん、こっちにいつもあたしたちが使ってる逃げ道があるんです! ついてきてくださいっ!」

 

 うさぎたちはボルボロスに背を向けると、沼と反対側にある2つの岩肌の間に駆け抜けていく。

 

「あの子たちとは思えないパワーだわ……」

「全く、仕方のない仔猫ちゃんたちだ」

 

 半ば呆れつつ、ウラヌスたちはうさぎたちの後を追う。

 沼の地帯を抜けるとその先は渓谷を望める開けた場所、通称『エリア4』。

 そこからは砂地に続く道、草原に続く道、そして最も左手に平べったい口を開けた洞窟が見えた。

 

「こっちです、こっちーー!!」

 

 うさぎたちが慣れた足取りで洞窟へと駆けこんでいくのを、ウラヌスたちが追う。

 ウラヌスたちが足を踏み入れると、すぐ近くにもう一つ、泥入りの袋が積まれた荷車が。

 うさぎと美奈子は荷車から離れると、ぜぇぜぇ息を切らしながら地面にくたばっていた。

 変身を解いたはるかは、荷車に高く積みあがった袋を見上げた。

 

「本当に君たち、泥を集めてたんだな……どれだけ集めたんだ?」

「え、えーと、ざっと一日300回くらいは?」

 

 うさぎの回答に、流石の2人も驚きの表情に変わる。

 

「……それは、ボルボロスも怒って当然ね」

 

 彼からすれば余所者に不法侵入された挙句、ウロチョロ家を引っ掻き回されるのだ。はた迷惑もいいところである。

 

「で、どういう訳で高級泥パックとやらを?」

「お、お金に困っておりまして一発逆転を狙おうかと……」

「貴女たち、ハンターになってもいろいろと大変そうね」

 

 呆れているのかかえって安堵しているのか、みちるは苦笑いを浮かべる。

 その言葉で、うさぎは改めて気づいて目の前にいる人物たちを見回した。

 感動的な再会こそ、縄張りの主に邪魔されてしまったが。

 

「そういえば! はるかさんたちもこの世界に来てたんですね!」

「ああ。守護戦士として月の王国のプリンセス、プリンスと仲間たちを救い出しにね」

「ううっ、これぞセーラー戦士の絆って感じよね!」

 

 はるかのクールな微笑みに感涙を指で拭う美奈子だが、すぐあることに気づく。

 

「あれ、はるかさんたちが助けに来たってことは、もしかしてさぁ……実質あたしたち、ほとんど()()()()()()しちゃったって感じ?」

 

 うさぎは少し遅れて、「あっ」と声を上げた。

 彼女たちの最終目的は元の世界に帰ること。こうして仲間が迎えに来てくれたということは、その望みは達成されたも同然なのだ。

 はるかたちの方を向くと、既に得心したように彼女らは頷いた。

 

「ええ。もちろんこの世界から出る目処も立っているわ。そうでもなければ、わざわざここに出向くことはないですもの」

 

 みちるからの返答を聞き、美奈子の顔がぱあっと陽の光を浴びたひまわりさながらに華やぐ。

 彼女の脳内を彩る、感動のフィナーレを飾る劇伴音楽。

 

「本当、本当なの!? あぁ、遂にこんな地獄生活ともおさらば──」

「みーなーこーちゃーん!?」

 

 はしゃぎかけた美奈子の肩を、うさぎが持ってぐわんぐわんと揺らす。

 

「この世界にいるデス・バスターズのことはどうすんのよ!? テスト万年赤点のあたしでさえ覚えてるのに、忘れたとは言わせないわよーーっ!?」

「わ、わすれちゃい、いないわよお、おおぉぉおおぉぉ……」

「警告しておく。今回、奴らとまともにやり合うのは避けた方がいい」

 

 はるかは、うさぎを真っ直ぐ指さした。いつの間にか、彼女は顔を『戦士』としての冷たい表情へと変えていた。

 

「前回と違い、奴らの狙いは君たちそのものだ。無限の力を持つ幻の銀水晶、そしてセーラー戦士のパワーを奪ってファラオ90を復活させようとしている」

「え? あの親玉は前に倒されたんじゃ!?」

「デス・バスターズが復活しているということはそういうことさ。奴はこの世界の裏に密かに巣くい、ここを拠点に実体化の機会を窺っている」

「貴女たちは、彼らによってこの世界に誘き寄せられたのよ。将来、目覚める主の生贄とするためにね」

「誘き寄せられた……?」

 

 みちるの発言をうさぎは繰り返してから、ごくりと生唾を飲む。

 自分たちがこの世界に来たのも、最初からデス・バスターズの計画のうちだったのだ。

 はるかは厳しい表情のまま、うさぎを真っ直ぐ見つめ問いかけた。

 

「むしろなぜ、そこまでこの世界でデス・バスターズを倒すことに拘る?」

 

 うさぎは先ほど揺すられていた美奈子と顔を見合わせて、

 

「ええっと、話すとながーくなるんですけど……」

「構わないわ。積もる話もあるでしょう」

 

 みちるの助言を受けて外を見ると、まだ日が暮れるにはたっぷり時間がある。

 

 というわけでうさぎたちは、これまでのことを粗方話した。

 この世界から元の世界に帰るため、デス・バスターズを調べていたこと。

 その手がかりとして、彼らが従える妖魔のゴア・マガラとそれに対抗しうる『金の竜』の行方を追っていること。

 そして、彼らがこの世界に棲む生命たちを妖魔の力を以て悪用しようとしていることも。

 

「妖魔化生物……ダイモーンに代わるデス・バスターズの眷属、ね。それは初耳だわ」

「それが最近になって出現しないというのは気になるな。相手がこっちの動きを知って何らかの罠を張ってる可能性がある」

 

 はるかとみちるは新たに聞いた事実を真剣に受け止めていた。

 その一方──

 

「だから少しでも探りを入れようって、ここらで噂に流れてる金の竜を追ってるんですよー!」

「そうそう!だから今度はモガ村の辺りを調べてみようって!」

 

 うさぎと美奈子は、元来の性格も相まって大いに会話が弾んでいた。

 彼女たちは『動』ではるかたちは『静』。その場の空気は完全に二分されていたが、モガ村の名前が出てきた途端、はるかの目の色が変わった。

 

「……モガ村に」

「はい! もしゴア・マガラもそこに居たとしたら、そこの人や生き物たちが安心して眠れないですよ!」

 

 うさぎのその発言に、はるかは僅かに目つきを鋭くした。

 みちるも同じくうさぎに注視しているようだったが、彼女自身も美奈子もそれに気づかない。

 

「……君たちは、そこを救うために行くつもりか?」

「当然ですよっ! デス・バスターズこそ、あたしたちセーラー戦士の敵じゃないですか!!」

 

 美奈子がそう言い張ると、はるかは目を伏せて荷車の縁に腰を降ろした。

 

「デス・バスターズこそがセーラー戦士の敵……か」

「はるか」

 

 呟いた彼女に、相方の声がかかる。

 

「恐らく、今はそのゴア・マガラという最終兵器を何らかの方法で最大級の妖魔として成長させている段階なのよ。そして、時を見てうさぎたちに襲い掛からせる……そうでもしなくては、この子たちに勝てっこない」

 

 そこから、決意したようにみちるは眉を引き締める。

 

「今はしばらく、この子たちと行動を共にしてみましょう」

「……みちる?」

「うさぎのことは前の件でよく分かっているでしょう? 本来の筋書き通り使命を果たすことはそもそもからして困難だわ。まだ、その時が来るまではいろんな可能性を探るべきよ」

「……」

 

 ちらりとうさぎを見てからの彼女の言葉に、はるかは何かを考えるように黙っている。

 

「なに話してんすか?」

「してんすか?」

 

 うさぎと美奈子にとっては、会話の意味がまるで分からない。姉妹のように一緒に首を傾げたが、みちるは首を振って微笑む。

 

「いいえ、こちらの話よ」

 

 はるかは顔を上げると、うさぎたちに向かって頷いてみせた。

 

「分かった。取り敢えずは君たちに協力しよう」

「ぃやったぁー!!」

「よっしゃーい!!」

「だが!」

 

 うさぎと美奈子は揃って喜んだが、すぐにはるかが釘を差した。

 

「……決して無茶はするな。でないと、僕たちのせっかくの努力が無駄になってしまう」

 

 彼女は荷車から腰を上げると、傾いた陽が覗く洞窟の入り口を見上げた。

 

「先ずは、このクエストを達成しなくてはね」

 

──

 

 うさぎと美奈子がそれぞれ泥の山を載せた荷車を引き、それをはるかたちが先導する形で外に出ると、

 

「うげっ……」

 

 うさぎは思わず声を漏らした。

 ボルボロスが、待ち構えるように駆けてきたのだ。

 それも、ご丁寧に泥を全身にまといなおした姿で。

 ため息混じりにみちるは変身スティックを取り出した。

 

「完全に恨まれてるわね、2人とも……」

 

 顔を覚えているのか、ボルボロスは真っすぐうさぎたちに突進してきた。

 

「ちょおっ!」

「ごめん! 謝るから絶対許して!」

 

 許されるはずがない謝罪をしつつ、荷車を持った2人は全力で駆けていく。

 

「そのまま真正面にある道を上がれ! そうすればキャンプが見えてくるはずだ!」

 

 うさぎたちははるかの指示に従い、顔を紅くし息を荒げながら先を急ぐ。

 はるかたちは再び変身し、セーラー戦士の姿へ。

 ボルボロスは今度こそならず者たちを成敗しようと、頭を下げた。

 

 その時、大地が低く呻いた。

 

「なんだ……この揺れは」

 

 ウラヌスたちでさえ膝をつかざるを得ない震動。

 だが、ボルボロスは一向に気にしない。

 そのまま一直線にうさぎたちの方向へ。

 

「ひいいいい!!」

 

 その軌道に、砂漠に続く道から垂直に向かってゆく土煙。

 天然の王冠が、荷車へと迫りかけた時だった。

 

 砂塵が噴きあがる。

 

 ボルボロスはちょうど彼がうさぎたちにしたのと同じように、下から現れた双角によって宙を舞った。




というわけでセーラー戦士たちの再会です。登場人物はSの3話意識してます。はるかさんみちるさん登場時のお決まりの『ドゥードゥー』はボルボロスによりキャンセルされちゃってます……。
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