セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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再会は荒漠の地で③

 

 代わりに地中から現れたのは、乾いた色の甲殻から砂を垂れ流す飛竜の姿。

 翼を使いつつ地面から這い出したその生物は、訳も分からず目の前に落ちて来たボルボロスを赤色の瞳で見下していた。

 

「ディ……ディアブロスッ!」

「はるかさん、みちるさん、逃げて下さい! あたしたち、何度あいつの突進で轢かれかけたことか……」

 

 うさぎと美奈子は慌てて呼びかけたが──

 

「僕たちを誰だと思ってる?」

 

 セーラーウラヌス、そしてセーラーネプチューンは一向に動じなかった。

 それどころか、ディアブロスへと自ら歩いていく。

 砂漠の暴君は脚を引きずって去っていくボルボロスを後ろ見、それから目の前の彼女らに気づいた。

 

「……」

「さぁ、来なさい」

 

 ネプチューンの言葉の意味は知らずとも、こちらに退く気はないと判断したようだ。

 

「……グルオオオオオッッッ!!」

 

 ディアブロスは唸ると、真っ直ぐ突進してくる。

 その猛速は、闘牛を遥かに凌ぎ熱風をも引き裂く。

 だが彼女たちは攻撃を軽やかに跳んで避け、背後に回り込んだ。

 

「白き月の王国に仇なす敵を討つ、それこそが僕たちに課せられた使命……」

 

 ディアブロスは背後をカバーしようと尻尾を振り回すが、そもそも近づいていない2人には意味がない。

 彼女たちはただ、相手が来るのを待っているのだ。

 

「使命を邪魔するのなら、お前も例外ではない」

 

 両者の手に光が宿った。

 ディアブロスは屈んで力を溜め、肩を打ち付け彼女たちを突き飛ばそうとした。

 しかし距離が足らず、そこに立つだけの2人の鼻先までしか攻撃は届かない。

 

「そこよ!」

 

 ネプチューンの生み出した水属性の光球が、カーブを描いてディアブロスの腹に命中する。

 

「グオオオオッ……!?」

 

 砂漠での生活で経験したこともなかろう深海圧のエネルギーの直撃に、暴君の身体が丸ごと仰け反った。

 更にそこにウラヌスのワールド・シェイキングが頭部へ着弾。

 衝撃波の爆発が一時的な脳震盪を生み、ディアブロスは涎を撒き散らしつつたまらず後退した。

 

「つ……つよぉ……」

「うおおお……」

 

 うさぎたちは荷車を引っ張りながらも彼女たちの活躍を息を呑んで見守っている。

 

「ヴオオ、ヴオオオオオ……!!」

 

 それでもなおディアブロスの闘志は衰えていない。

 頭を低く掲げ、突っ込みながら素早く角を振り上げてくる。

 だが、それも空振り。

 すぐに少女たちの放った魔法の光に包まれ、鱗と甲殻が砕け散る。

 

「僕たちに真正面から挑んで勝てると思ったか?」

「これなら、ナルガクルガの方がずっと手強かったわね」

 

 たまらず砂漠の暴君は地面に角を叩きつけて掘り返し、翼で穴を広げて潜っていく。

 ウラヌスたちは敢えて追わず背中合わせに佇み、視線を巡らせる。

 周囲を回る砂塵。

 姿は見えずとも、おおよそどこにいるかは手に取るように分かった。

 

「ヤツの動きを最初見た時から、飛竜の中でも卸しやすい部類と思ったが……思った通りだ」

「そうね、戦い方に何の捻りもない。ただ感情に任せて突っかかってくるだけ」

 

 ディアブロスは視覚よりも聴覚が格段に優れており、地中でも地上のわずかな音を聴きつけて外敵の位置を把握できる。

 そのため、本来ウラヌスたちが現在している会話は自殺行為なのだが。

 

「──遠距離主体で戦えば、もはや敵でもないな」

 

 そこに、何の躊躇いも怖れもない。

 砂塵は一旦彼女たちから遠ざかっていく。

 そして、ある一点でどぉん、と大地を揺らす音が鳴り、砂が噴きあがる。

 

「来るわよ、ウラヌス」

「ああ」

 

 既に、2人は光球を作り終えていた。

 

 巨体が、地面を割って飛び出す。

 

 怒りの体当たりが、たった2人の人間に迫り──

 

「良い位置だ」

 

 互いに絡み合うように螺旋を描く衝撃波と激流が、角と頭部を直撃した。

 

「ガアアアアアア!!!!」

 

 空中で衝撃を受けたことで軌道が逸れ、ディアブロスの身体が彼女たちのすぐ横へと墜落する。

 意識も混沌としているのか、盛んに喉を痙攣させて目を見開いたまま呻いていた。

 

 ディアブロスは濁った眼のまま立ち上がる。

 そして再び、突進の構えを取る。

 

 種族代々の凶暴性か、これまで勝利してきた自分自身への信頼か、その行動の原因は定かではない。

 とにかく、彼は未だ勝利を諦めていなかった。

 怒りを漲らせ、角竜は角を振りかざす。

 

「……しつこい」

 

 ウラヌスの一言と共に、堅いものが砕け散る音がした。

 その手に持つは魔具(タリスマン)スペースソード。

 既に彼女はそれを振り終わり、高周波を落ち着かせて、ネプチューンを護るように構えられていた。

 

「グワァァァオオオオオオオゥゥゥゥゥ……」

 

 鋭く硬質な岩のようなものが地に落ちた。

 ディアブロスは、目を見開いて啼く。

 

 右角が、根本から砕かれていた。

 その断面は年輪のような層を成し、成長のために積み重ねられた年月を物語っていた。

 

 砂漠の暴君の身体が、左右前後にふらふらとよろめく。

 角を割られただけで致命傷ではないはずなのだが、彼が天を見上げて呆然と揺れる様はそれまでに受けたどの傷よりも悲痛さを露わにしていた。

 

「す、すごぉい……」

「あのディアブロスが……」

 

 荷車を引くうさぎと美奈子は、一時も目を離せなかった。

 接敵から数分も経たぬうちに、ウラヌスとネプチューンは飛竜相手にここまで有利に立ち回ってみせた。

 

「グオ、グオオオオッ……オオオオオオォォォォォォ」

 

 片角となったディアブロスは、ウラヌスたちを見据えながらも苦しげに呻き、後退っていた。

 そこにもはや、強者の余裕など微塵も感じられなかった。

 

「襲う相手はよく考えろよ、暴君」

 

 敗者は、去るのみ。

 ディアブロスは呆然としたように時節振り返りつつ踵を返し、砂地へ続く道へと駆けて行った。

 

「ある程度の知性はあったようで助かるわ」

「罪のない生き物を殺すとお姫様からお叱りを受けそうだしね。さぁ、そろそろ行こうか」

 

 うさぎを振り返ると、ウラヌスはネプチューンの手を取り、指を絡め合って歩を進める。

 その足取りに激闘の名残などなく、舞踏会場で共に連れ添うが如き気品と清淑を漂わせていた。

 

──

 

「……まさか、お前たちまでこの世界に来ていたとはね」

 

 デス・バスターズ幹部の1人であるユージアルは、崖の上で赤い髪を揺らし、セーラーウラヌスとセーラーネプチューンを双眼鏡で見下ろしていた。

 

「あぁ、なんてのうのうと笑っているの!? 腹立ってくる!」

 

 その声は、憎悪と怒りに燃えている。

 前世では何度も彼女たちに計画を何度も破られ、手下の妖魔『ダイモーン』も数多く倒された。そして何とかウラヌスたちの正体を暴き追い詰めたかと思いきや、後輩であるミメットの策略によってユージアルの上位管理職の夢は藻屑と化したのだ。

 だから、2人を見るだけでユージアルの胸には激しい感情が渦巻くのだった。

 

「現世でもミメットには花形を奪われ、挙句の果てにこんな地味な仕事を任されて……」

 

 双眼鏡を持つ手が震える。

 

「元はと言えばすべてはお前らから始まり……そして、またこの私の前に姿を現した!」

 

 自身の立つ地面に双眼鏡を叩きつける。

 モンスターの背骨と眼球の水晶体から作られたそれは、軽い音を立てて転がった。

 

「いったいっ、何度っ、私をっ、邪魔すればっ、気がっ、済むんだっ、お前たちはーーーーっ!!」

 

 ユージアルは双眼鏡を何度も踏みつけ、最後にはヒールの鋭い踵でヒビを入れた。

 双眼鏡は完全に割れ、ただの骨の破片と化す。

 それを、ユージアルは息を荒くして見下していた。

 

「でも、やっと私の生まれ変わった意味が分かったわ! この胸にいま、確信した!」

 

 彼女は顔を上げ、ヒールで骨の破片を蹴り飛ばす。それらは風に運ばれ、岩の下へと崩れ落ちていった。

 

「あの2人、絶対に潰す! 何をしてでも必ずっっ!!」

 

 彼女は拳を握り怒りを込めて呟いたあと、隣にいる飛竜を見上げた。

 それは全身が刃物のように鋭い鱗に覆われ、夕陽を受け──

 金色に煌めいていた。

 

──

 

 右角を喪ったディアブロスが洞窟に佇む姿は、敗北感に満ちていた。

 産まれてから、ずっと勝ってきた。

 幾つもの同族やあらゆる異種族をその双角を以て投げ飛ばし、吹き飛ばし、あるいは突き刺した。

 生まれつき体格に恵まれたその角竜は、この野生の世界で文字通り頭角を顕した。

 

 だが、彼は今日、初めて敗北を味わった。

 それも、たった2人の人間に。

 鎧すら纏っていない、糸のように細い人間に。

 

 とにかく、衝撃だった。

 彼女たちは、彼のこれまでの総てを破壊した。

 それも、敵を破る矛であり、自らを誇示する飾りである角をへし折る、最高に屈辱的な形で。

 飽くなき怒りが募っていく。

 人間とは比較にならない嵐のような激情が。

 

「よし、見つけたわ」

 

 頭上から音が聴こえた。

 見上げると、頭に後ろへ湾曲した角を持つ金色の飛竜が、ゆっくりと翼をはためかせていた。

 

「お前も、あいつらに怒っているでしょう? あいつらを捻り潰したいでしょう?」

 

 音の原因は、飛竜の背に乗る赤い服を着た人間だった。

 ディアブロスは忌々しく唸ったが、相手の飛竜は逃げるどころか翼を閃かせ、傘状の鱗に囲まれた尖爪を構える。

 

「その願い、叶えてあげる!」

 

 目にも止まらぬ速さで、爪が迫った。

 

 

「今日からお前も、こいつの『兄弟』よ!!」

 

 

──

 

「えーっ、はるかさんたち、モガ村に居候してるんですか!?」

「人聞きは悪いが、まぁそういうことさ」

 

 日の落ちたキャンプテント前に座り、ギルドからの迎えを待っている間。

 はるかたちからこの世界での経緯を聞いたうさぎは、自分たちの行く先に彼女たちが住んでいたと知って驚きを隠せなかった。

 

「で、そのはるかさんたちに懐いた子たちはなんで今回ついて来なかったんです?」

「気まぐれな子たちなのよ。しばらく泳ぎたい気分だからお肌が乾くようなところは嫌だ、って」

「きゃははは、ちびうさに似て生意気盛りってとこね!」

 

 美奈子の問いにみちるが苦笑を交じえて答えると、うさぎは馬鹿笑い。

 

「はるかさんたち、楽しそうでよかった! あたしももうすぐ行けるの楽しみー!」

 

 はるかは焚火に照らされたうさぎの無邪気な笑いを見て、少しだけ視線が下がった。

 

「楽しみ……か」

「?」

「いいや、何でもないさ」

 

 彼女は顔を斜めに背け、膝に頬杖をつく。

 みちるはそれに気づいており、何かを想うように見つめていた。

 

──

 

「お嬢ちゃんたちダメダメ、これじゃあ泥パックになんかなりゃあせんよ!」

 

 数日後、タンジアの市場の一角で、褐色肌の老商人は話にもならないといった風に掌をひらひらとさせた。

 

「へ……?」

 

 うさぎと美奈子は呆然と立ち尽くす。

 

「いいかい、ボルボロスの泥の質には地域差ってもんがあるんだ。お嬢ちゃんが持ってきたのは砂原のもの。高級泥パックになるのは自然豊かで潤いたっぷりなモガの森でしか取れん! だからこその『希少特産品』なんだ」

 

 商人が説明すると、まだ望みを捨ててない顔でうさぎと美奈子は彼の顔を覗き込む。

 

「じゃ、じゃあこれのお値段は!?」

「ま、作物の肥やしくらいにはなるかねぇ。多く見積もっても1000ゼニーだな」

「「そ、そんな〜〜!」」

 

 突きつけられた事実に、うさぎと美奈子は愕然とする。

 

「でも、はるかさんたちに会えたのはすごいじゃないか!」

「それに1000ゼニーならみんなで分け合えば、ギリギリモガ村に行けるわね」

「たまにはやるじゃない、う・さ・ぎ!」

 

 後ろにいる仲間たちはそう彼女たちを褒めたが、

 

「うわーん、全然納得いかなーい!」

 

 泣きながら、うさぎと美奈子は「まいどあり!」と笑顔の老人からゼニー札を受け取ったのだった。

 

 同時期、モガ村でアイシャも同じ理由で落胆していた。

 

「うう……私の完璧な作戦がなんて結果に……すぐそこの森に行けば取れたじゃないですかーー! 私の馬鹿馬鹿馬鹿ーー!!」

 

 泣きながら自身の被るベレー帽をポカポカ殴る彼女に、海の傍にあるカウンターに肘をつくはるかは微笑んでいた。

 

「いいや、大手柄だよアイシャ。君のおかげで、僕たちの探していた人が見つかった」

「えっ……!?」

「もうすぐこっちに来てくれるらしいわ。だから、もう少しここにいれるわね」

 

 みちるの言葉が、アイシャの瞳をうるうると潤わせる。一方、はるかの視線は疑念を持って隣の彼女を捉える。

 

「いやったーーい!! わぁーーい!!」

 

 飛び跳ねて1人、祭り騒ぎで喜ぶアイシャを余所に2人はカウンターから離れて歩いていく。

 

「みちる。その口ぶりだとまるで、この村にもっといたいみたいじゃないか。本来なら僕たちは──」

「貴女は実際、どう思っているの? はるか」

「……どうって」

 

 試すような視線に、はるかは戸惑う。

 やがて彼女は周囲を見渡すと、みちるを連れてマイハウスのベッドへと導く。その上に隣り合って腰掛けると、はるかはみちるに顔を近づけ、静かに首を横に振った。

 

「僕たちはあくまで戦士だ、狩人じゃない。本来果たすべき『第二の使命』を忘れるつもりは絶対にない」

「……では、質問を変えるわ。今の貴女にその使命を果たす自信はある?」

 

 みちるの口調も表情も、頑なに変わろうとしない。

 木の板で組まれた屋根の間から差し込む光が、彼女の髪を、肌を、所々遮っていた。

 

「チャパーッ! お前らも帰ったんなら早く来るっチャー!!」

「コブンたちよ! ワガハイのスマートでビューティフルな泳ぎを見せてやるンバーー!!」

 

 聞こえた声にはるかが振り向く。

 マイハウスの側面を覆うすだれが上げられているので、向こうの海面ではしゃぐチャチャとカヤンバの姿が見えた。

 

「……あるさ。『その時』が来たなら、迷うつもりはない」

 

 しばらく彼女はそれをみちると共に眺めていた。

 瞳には氷のように冷たい色が宿っていたが、彼女はその色を和らげた。

 

「だが、『その時』より先にデス・バスターズを討てば第二の使命は果たさずに済む──だから、ああいう風に答えたんだろう?」

「なによ、分かってるじゃない」

 

 みちるは肩の力を抜くと、己の頭をはるかの肩に預けた。

 

「えぇ、そうよ。私だって何も思い煩うことなくこの綺麗な海を見て、潮騒に耳を傾けられるのなら……その方がずっといいに決まってますもの」

 

 やがて奇面族たちは、またあいつらは自分たちだけで遊んでると文句を垂れ始めた。

 それでも彼女たちは2人だけの世界に浸り、遠くまで続く海を眺めるのだった。




ディアブロスさんにはいろいろと不憫な展開でした。
私自身、ディアブロスは昔ながらの脳筋直球タイプのモンスターで好みな方なので、自分で描いてて心苦しいところはありましたが、基本的に遠距離から一方的に魔法をぶつけられるセーラー戦士とはかなり相性は悪いと見ております。その中でも強めな設定のウラヌスとネプチューンならなおさら。
見ての通り出番はこれで終わりではありませんので、続きを見ればいいこと(?)があるかもしれません。

あと、はるかさんたちは第二の使命という言葉を出してますが第一の使命は前回で言っていた「うさぎたちを無事に元の世界に帰す」ことです。彼女たちは元々外部から侵入者を倒す役目を背負ってますが、今回はプリンセスを直接護る内部と似た役割というわけですね。

では、また来週。
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