セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

108 / 189
海の王と天の王③

 両雄、激突。

 

 ラギアクルスとリオレウス亜種は互いの存在を認識し、敵対の咆哮を上げた。

 

 翼をはためかす蒼火竜に海竜は雷球を放つが、彼は回り込んで躱し、爆炎で頭を炙りながらその首元に噛みつく。

 

「グァァァッッッッ!!」

 

 海に適応した生物にとっては致命的な攻撃である。

 毒を滴らせた爪でラギアクルスの首を引っ掴み、空中へ持ち上げ、そこから大地へと叩きつける。それも1回だけでなく、殺意を込めるように数度に渡って。

 その度に少女たちの足元が跳ねるように揺れ、攻撃の威力を物語る。

 

「あんなデカブツを軽々と……」

 

 ウラヌスでさえも、化け物同士の壮絶な戦いに度肝を抜かれている。

 ラギアクルスは怒って蒼火竜の脚に電撃を纏わせ噛み付いたが、彼はゼロ距離から焔を何度も相手の頭に浴びせかける。

 

「グオッ、グオオオオオオ!!」

 

 爆発と炎上に揉まれたラギアクルスは混乱してあちこちに角を叩きつける。

 無理やり顎を引き剥がした蒼火竜は、空中から海竜を何度も爆撃する。

 蒼い鱗が焔の中で焦げ、剥がれ、海竜自身が凄まじい速度で消耗していることが傍目からでも分かった。

 

「恐ろしい威力だわ……」

 

 さっきまで苦戦していた相手だからこそ、ネプチューンの言葉は説得力を増していた。

 だが、ラギアクルスの瞳はまだ戦意に満ちている。

 

 彼は頭目がけて爪を振り下ろそうとした蒼火竜に対し、屈んで回避。通りすがった尻尾に首を回し、咄嗟に噛み付いた。

 

 悲鳴を上げた相手に構わず、海竜は電流を纏った顎を尻尾を噛み千切らん勢いで締め、そのまま蒼火竜を引き摺り下ろして地面に叩きつけた。

 そのまま左右に振り回し、近くにある岩壁に投げ飛ばす。

 

「グルルオオオ……」

 

 ヒビが入るほどの勢いで叩きつけられた蒼火竜は何とか立ち上がる。が、流石に既にある傷に響いたのか、すぐにもう一度飛び上がるほどの気力はない。

 双方は未だ互いへの敵意を露にしつつ、浅瀬に立って睨みあう。

 

 そんな修羅場に忽然と、一つの影が乱入する。

 彼は跳躍し、いきなりラギアクルスの首めがけて食らいついた。

 

「ヴオオッ!!」

「ヴォアアアアアッ!?」

 

 体格差でいえばラギアクルスの圧勝である。

 しかしその肉食竜は勇猛果敢だった。首周りにある立派な襟巻きを振り乱し、必死に顎に力を込めていた。

 

 

「ドスジャギィ!?」

 

 

 あの群れの長が、事もあろうに海の覇者の首に噛みついたのだ。

 年季が入って所々穴が入った襟巻きに、ウラヌスは注目した。

 

「あれは……前に僕たちが撃退した個体だ!」

 

 出会いはウラヌスとネプチューンがこの孤島に初めて来た時まで遡る。彼はあの後もこの地に生き残り、強かに勢力を増やしていたのである。

 更に部下のジャギィ、そして体格の大きい雌であるジャギィノスまでも茂みから次々に姿を現す。

 その数、ざっと20頭前後。彼らも加勢してラギアクルスを包囲、一斉に噛みつく。

 

「グワアアァァァッッッ!?」

 

 海竜は放電しようとするも、発電器官が壊れているため中々上手く行かない。代わりに身体をうねらせ振り払うが、ジャギィ一族は何度でもしつこく食らいつき、数の暴力で攻め立てる。

 一方のリオレウス亜種は、突然の状況に戸惑うように、地上に立ったまま低く唸っていた。

 

「よし、今のうちに!」

 

 うさぎは大剣の柄に手を添えて前に出た。

 彼女は亜美と頷きあうと蒼火竜の前方に立って注意を引き、亜美の方は離れたところに駆けていった。

 狙い通り、リオレウス亜種はうさぎを睨んだ。

 彼は再び飛び上がると、雄大な翼を横に広げて滑空した。それはもはや最後の気力と言っても良いはずだ。彼は空と一体になって、うさぎたった1人へと真っ直ぐ迫る。

 

 だが彼女は突進の軌道を見切り、横にそれるようにして己の位置を外す。

 そこから腕と大剣を連動させて振り回し、すれ違いざまに跳び上がる。

 

「ムーン、ブレイク!!」

 

 空中に舞った大剣は、蒼火竜の尻尾をしかと捉えた。

 

「グガアアアッッッ!?」

 

 切断された尻尾の先端が空中を舞った。

 蒼火竜はバランスを失って地上に落下し、もんどり打った。

 うさぎは大剣をしまうと見せつけるように背を向けて、ラギアクルスとは離れた方向へ走っていく。

 蒼火竜はよくも、と叫ぶように咆えて起き上がり、彼女の後を追った。

 その先は、亜美が地面に円形状に張った網へと続いていた。うさぎはそれを飛び越えて、浅瀬へと突っ伏す。

 リオレウス亜種からすれば格好の獲物。

 彼は首を伸ばし、鋭い歯で噛みつこうとした──

 

 が、土煙と共に巨体は地面へと埋まった。

 

 網の正体は狩猟用の落とし穴。蒼火竜は飛び上がろうと藻掻くが、粘着質の植物から作られた網はその身体を決して離さない。

 

「今よ!!」

 

 うさぎの叫びを合図に、亜美はボウガンから赤い弾を撃ち出した。

 

「グオオオ、グオオオ、グ、グ、ウゥゥゥ……」

 

 2度竜の口元で麻酔成分を含んだ煙が上がると、その首はゆっくり倒れ安らかな寝息を立て始めた。

 

 リオレウス亜種、捕獲成功。

 

 そして同時、ドスジャギィたちに囲まれていたラギアクルスも遂に音を上げた。

 彼はたまらず、海に向かって今まで来た道を引き返す。ジャギィたちはこれ以降の攻撃は不要と見て口を離し、揃って海竜の後ろ姿を見送った。

 

 ドスジャギィはうさぎたちに振り向き見つめてきたが、ウラヌスたちがいること、捕獲された蒼火竜と彼女らを較べることで力量差を測ったのか、それ以上深追いはしてこなかった。

 彼は部下たちを連れて、自身の寝床である森林の中へと大人しく引き上がっていった。

 

「は〜っ、何とか一段落〜!」

 

 うさぎは一気に緊張を抜いて地面に腰を下ろし、思いっきり伸びをした。

 やっと静かになった平地を見渡してウラヌスはため息をつく。

 

「最初に思っていたのとは随分違う戦いになってしまったな」

「そりゃそうですよ! 相手にしてるのは『生き物』なんですから。みんな思い通りにならないだなんて怒ってたら、きりないですって!」

 

 両手の人差し指で目端を釣り上げてみせたうさぎに、ウラヌスは少しだけ頬を緩めた。

 

「……なるほど、それもそうかもね」

 

 亜美は彼女の表情を見て、何かを思ったように前に進み出た。

 

「お二人とも、さっきは責めるようなことを言ってすみませんでした。確かに、あたしたちが余所者ということは事実かもしれません」

 

 ウラヌスとネプチューンは、亜美の発言に視線を引かれた。

 

「でも貴女たちも、心のどこかでこの世界との繋がりを感じているんじゃないですか。特に、あの村に対しては」

「……それは」

 

 ウラヌスの眉がぴくりと動き何か言いたそうにしたが、すぐに口を噤んでしまった。

 

「こちらこそ、世話してくれる人たちに失礼なことを言ってしまったわね。戦いにおける視野の狭さは反省しなくては」

 

 ネプチューンが代弁するように答え、黙っているウラヌスをからかうように眺めた。

 

「でも、どうやらあの人は私としか繋がる温もりを感じたくないみたいなのよ。案外、恥ずかしがり屋で困ったものだわ」

 

 「え……?」とうさぎたちの顔がほんのり紅くなったところで、ウラヌスがすかさず咳払いをして割り込む。

 

「ああ、ともかく、そろそろラギアクルスを追おうか。水中の戦いは僕たちがやるから、君たちは遭難者を……」

「おーい! 誰かいるゼヨー!?」

 

 そこへ、聞き覚えのある声と人の気配がした。

 即座にウラヌスたちは変身を解き、狩人の姿へと戻る。やがて平原へ続く道から、風呂敷を背負った船長と剣ニャン丸、そしてチャチャとカヤンバが走ってきた。

 

「あっ、あそこにいたッチャ!!」

「ンバーッ、やっと見つけたノダー!!」

「あれ、船長さんたちじゃん。さっき村に逃げたんじゃなかったの?」

「奇面族の子たちも一緒だわ」

 

 うさぎと亜美は純粋な疑問符を浮かべた一方で。

 

「……君たちには、村への案内を頼んだはずだが」

 

 はるかは、どことなく圧を感じる声で対応した。

 カヤンバは慌てて「つ、連れ回されたのはワガハイたちンバ!!」と抗議した。

 

「船長、落ちた品物を集めるとか言い出して、ワガハイたちの言うことネバー聞いてくれなくて困ったンバ!!」

「おかげでオレチャマたちも集めものに参加させられて狩りができなかったブー! 責任取れっチャ!!」

 

 不服そうに振り返って叫ぶ子どもたちに「すまん、すまん……」と困り顔で詫びた羽織袴の男は、一旦誤魔化すように咳払いをした。

 

「こやつらから聞いたゼヨ。オヌシらが今のモガ村の守り人、そうに違いないゼヨ?」

「そうだけど、一体何の用だい?」

「おおっ、良い瞳をしとる! そんなオヌシらにワシから朗報ゼヨ!!」

 

 船長ははるかを指さして豪快に笑うと、剣ニャン丸と共に背負っていた風呂敷を大きく目の前に広げた。

 

「交易品特別大・大・大サービス!! ぜぇーんぶタダで持ってけドロボーだゼヨッ!!」

 

 回復薬グレート、いにしえの秘薬、酸素玉、携帯食料、閃光玉、強走薬グレート……

 彼らがかき集めていたのは、こういう狩りに役立つ交易品だったらしい。その量を見て、みちるはどこか心配げだった。

 

「せっかくの売り物をここまで頂いてよろしいのかしら?」

「こういう時、商人というのは後で高い値段を吹っ掛けるものと聞くけれど」

 

 商品としてはかなり値が張る希少品も混じっているゆえ、はるかの視線はやや疑わしげである。

 だが、船長は渋い顔をしかめて何度も首を横に振った。

 

「何を言っとる。自然の脅威を目の前にして損得なんか考えてる暇ないゼヨ!」

「ビジネスとは困ったときこそ助け合い、ワーク・コーポレーション、だゼヨ! モガ村は船長の旧友の村にして最大の取引相手。微力ながら少しでも協力したいのゼヨ!」

 

 船長の姿を真似た羽織姿のアイルー、剣ニャン丸は船長の前に出て、拳を握って力説した。その説明に船長は満足そうに頷くと、感慨に耽るように顎髭を撫でた。

 

「それもあるし、何よりワシはあの村が昔から好きでなぁ。こういうことがあるとどうしても放っておけんのゼヨ」

 

 難破して船を壊されたというのに、腕を組む男の顔は底抜けに明るい。

 が、次の瞬間、彼は太い眉を引き締めた。

 

「だからオヌシらには是非、あのラギアクルスを仕留めてもらいたい。そしてどうか、防人としてあの村の人たちを救ってくれゼヨ!」

 

 彼は真正面から語り掛けながら、はるかとみちるの防具の肩当たりを裏拳で景気付けるように叩いた。

 彼が見せた瞳はあまりに真剣そのもので、切実な願いが込められていた。

 

「……分かった」

「全力を尽くしますわ」

 

 返事を聞くと船長は2人それぞれに向かって深く笑って頷き、さっと襟の間へ片腕を滑り込ませた。

 

「では、ワシらはこの嬢ちゃんたちに村へ送ってもらおう。後のことは頼んだゼヨ! ゼ~~ヨゼヨゼヨゼヨゼヨゼヨ!!」

 

 彼は妙な高笑いをしてうさぎたちの方へ歩いていく。剣ニャン丸もその真似で「ゼ~~ヨゼヨゼヨゼヨ!」と同じ笑い方をして背を向けた。

 

「はるかさん、みちるさん、頑張って下さい!!」

 

 うさぎと亜美も後を託して、手を振りながら船長たちを先導して後を去った。

 今度は彼女たちと入れ替わるように、奇面族たちがはるかたちへ走り寄ってくる。

 

「さーて、オレチャマたちも忘れるなッチャ!」

「さっきの分まで、しっかり活躍させてもらうンバ!」

 

 杖を振り回してついてくる奇面族たちに、はるかは思わず失笑した。

 

「まったく、抜け目のない奴らだ」

「ええ、今回は是非ともお願いするわ」

 

──

 

 岩礁に囲まれた浅瀬を、2人は潮の匂いが濃くなる方へと歩く。

 

「何かとあの村には世話好きな人が集まるな」

「きっと、あの村が持つ海のような大らかさがそうさせるのでしょうね。船長さんの気持ちも分かる気がするわ」

「まぁ、僕たちには少々暑苦しすぎるくらいだけど」

 

 鼻歌を歌う子どもたちを背に、はるかは海の方角へ苦笑を投げかけつつ呟いた。

 

「ブッ!? はるかはモガ村が嫌いだったのッチャ!?」

「ワガハイ、ハイパーショックッンバ~!!」

 

 はるかが子どもたちの純粋な反応に「え、いや……それは」と言い淀んだところに、

 

「あら、そうなの? とても残念だわ」

 

 相方からの試してどこか面白がるような視線。

 はるかは立ち止まると、深くため息をついた。

 

「まったく、みちるまで酷いな」

 

 抗議するも、彼女は豊かな髪を揺らして微笑むだけ。

 はるかは仕方なさそうに首を振る。

 

「……少なくとも、嫌いじゃないさ」

 

 向こうに見える海の上に燦々と輝く太陽は、既に傾いていた。

 

──

 

 海の奥で一時的に身体を休めていたラギアクルスは、再びとぐろを巻いて戦士たちを待っていた。

 黒焦げて無数の傷がついた身体は痛々しかったが、戦意は未だに衰えない。

 

 もう、彼らの戦いを邪魔する者はいなかった。

 凄まじい水流と電流が海中を巡り、時に巨岩をも打ち崩し、戦士服を傷つける。

 水中を飛ぶ光球は、地上に比べれば威力は低いが地道にラギアクルスの体力を奪っていく。

 

 反撃が強くなるなか、ラギアクルスの渾身の体当たりがウラヌスに直撃した。衝撃を受け、口から大量の空気が漏れ出る。

 

「っ……!」

 

 ネプチューンは遠くにいるためすぐには助けに行けない。ちょうどそこに、振り向いたラギアクルスが雷球を飛ばす。

 朦朧とした意識と共に沈んでいく身体。

 それを、突然押し上げる者がいた。

 

 チャチャとカヤンバだ。

 

 彼らはウラヌスの両脇を抱え、2人がかりで持ち上げていく。やがて彼女は、海上に顔を出すことができた。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 何度目かの海上に出ての息継ぎ。

 ウラヌスは最後の秘薬を取り出し、呷った。

 それから、隣で様子を見守る子どもたちを見やった。

 

「2人とも、すまないな」

「なーんで謝るっチャ! そこは素直に感謝するところッチャ!!」

「ほら、さっさとみちるを手伝いに行くンバ!!」

 

 彼らは杖を振り上げるとすぐに潜水していく。

 ウラヌスはしばらく海中に消えていく2つの小さな背中を見つめたあと、気を取り直すように再び息を吸って水中の世界へと戻っていった。

 

 彼女はネプチューンと頷き合って無事を確かめ、海の王に挑む。奇面族のサポートを受け、電撃と水流の嵐を掻い潜る。こちらに吼える竜の鱗に、全力で光の槍を撃ちこむ。

 

 陽が沈んでも、海は泡立っては光り荒ぶった。

 海上に浮かぶ村の人々は夕陽を見つめ、ただひたすら待ち続ける。

 彼女たちと子どもたちが裏手にある門を通って帰ってくる、その時を。

 

「グゥオオオオオオオォォォォォ……」

 

 月が昇り、天上へ間もなく上りかけようとした頃だった。

 海中から、一際大きな咆哮と雷鳴が孤島を揺るがした。そこでやっと、荒くれだっていた海は寝静まった。

 

──

 

「やっぱり流石はハンターさんたちだ!」

「目立った怪我もなくラギアクルスをぶちのめしてくるとはな!」

 

 夜中の宴は大盛況となった。

 モガ村の人々はもちろん、戦士たちや交易船の船員も加わるのだから当たり前のことだった。

 周囲は盛んに活躍を讃えるが、杯を持つはるかは謙虚に首を横に振る。

 

「大変だったよ。もうすぐで僕たち丸ごと、仲間が連れてきた蒼火竜に美味しく焼かれるところだった」

「もー、別にそこまで危ない感じじゃなかったじゃないですかっ!」

「貴女がいつもそそっかしいからそう思われるのよ、うさぎ」

 

 話題の中心にいて焚火に当たるのは無論、ラギアクルスを下したはるかとみちる。

 はるかの冗談にどっと周囲が沸き、うさぎは頬を膨らませて抗議していた。

 

「チャパー!! ンヂャヂャヂャ……」

「ンダー!! ンバンバ!!」

 

 焚火を挟みはるかたちの反対側でチャチャとカヤンバは歓びの舞を踊り、それにちびうさは人間の子どもたちと一緒に拍手を送っている。

 

「きゃはは! お上手お上手ーー!! あたしにも踊らせて!」

「へっへーん、オレチャマたちの踊りのレベルに付いていけるッチャ!?」

「やれるもんならやってみるンバッ!!」

 

 ちびうさが見様見真似で踊ると、子どもたちも釣られて参加し始める。

 

「あんたたち、いつの間に仲良くなってたの?」

「だってこの子たちの踊り見てると楽しいんだもん!」

 

 横から首を突っ込んだうさぎに、ちびうさは手足を揺らしながら答えた。

 一方、隣に座る亜美が別の方を見てみれば──。

 

「実は、受付嬢になるとルール上出会いがイチミリもないのです! うっ、現実とはなんて残酷……」

「それはヒドいわ! 今すぐギルドは、受付嬢にも自由恋愛の権利を認めるべきよ!」

「そうだよ! アイシャさん可愛いんだから、絶対振り向いてくれる人はいるよ!!」

「気持ちわかるわ~~! あたしだってこの美貌でフリーなのよ! 近くにいる男っつったら猫だけよ、猫!!」

 

 アイシャと少女たちが、ジュースを吸い合いながら酔っ払いのように傷を舐めあい愚痴りあっていた。

 

「「亜美ちゃん(さん)もそう思うでしょ!?」」

「え……ええ……」

 

 仲間たちの同調圧力に、亜美は苦笑いで応えるしかなかった。

 

「こっちもこっちで気が合ってるようね」

「賑やかなのが集まると、疲れた身体も休まらないな」

 

 そう言うみちるとはるかへ、傘を被った老人が一歩一歩杖をついて近づいてきた。彼のもう片手には小さな盃が握られていた。

 

「あら、農場長さん。どうなされまして?」

「改めてお前さんたちに、礼を言わにゃあいかんと思ってのー」

「僕とみちるが、何かしたのですか?」

「お前さんたちがこの前納品してくれた、ボルボロスの泥のことじゃよー。あれは本当にいい肥料じゃなー。お陰で見込みの収穫量も増えそうじゃ、ありがとうな」

 

 自然と、彼女たちの口角から笑みが零れる。

 

「それは、本当に何よりですわ」

「でも僕たちはただ、自分の都合で探し人を連れてきただけで」

 

 老人は亀に似た顔に浮かべた笑みを絶やさないまま、杖で床板を軽く叩く。

 

「ほれほれぇ。自分の仕事に誇りを持つこともだいじーなことじゃぞー」

「誇りを持つ……ですか」

「そう、お前さんらのやってることは素晴らしいことじゃ。謙遜するのもええが、今日くらいもっと威張ってもいいのじゃぞー」

 

 穏やかに頷いた農場長に合わせるように、はるかはゆっくりと頭を下げた。

 

「……ありがとうございます」

「礼を言うのはこちらのつもりだったのだがのー。ほっほっほ」

 

 農場長はまた一歩一歩、杖をついて去っていく。みちるははるかが浮かべた、暖かく柔らかい眼差しを見つめていた。

 その一方、村長と酒を酌み交わしていた交易船の船長が、風呂敷を持って集まりの中心に入ってきた。

 

「ここいらでワシも一つ、面白いものを見せてやるゼヨ」

「面白いもの?」

「なになに、見せて~!」

 

 興味津々な村の子どもたちに、船長はにやりと笑ってみせる。

 彼の取り出した風呂敷は、大きな直方体の形をしていた。

 

「……これが、謎の宝ゼヨ!」

 

 船長は勢いよく包みを取り去った。

 

「あれは……!」

 

 はるかとみちるは、思わず目を丸くした。

 

 それは、黒に光るプラスチックのキャリーケースだった。

 チャックを開くと中にはシャンプーやリンスなどの風呂用品、パウダーなどの化粧品、缶詰入りの食料品、ハイブランド製の洋服などが次々に出てくる。

 

「な、なんか如何にもはるかとみちるさんに似合いそ……」

 

 言いかけたうさぎの口をレイが慌てて塞ぐ。

 対してモガ村の人々は興味深そうにしており、特に村長の息子はまじまじとその未知の物品を屈んで見つめ回す。

 

「ほお、これは全く見たことのないモノばかりだな……」

「古代文明の遺物かもしれんと思うたんだが、それにしては新しすぎるところもあってのう。ほれ、まだまだあるゼヨ!!」

 

 船長は調子づいて、更に他の荷物の包を解いてみせる。

 

 ペットボトル、アルミ缶、レジ袋、トタン板、船のエンジンの一部。

 

 無造作に詰め込まれたそれらが、次々に包みの中から転がり出た。

 

「あ……ありゃまぁ……」

「ん、どうした。驚いて声も出ないゼヨ!?」

 

 船長は自慢げに笑っているが、うさぎが呆然と呟いた以外、少女たちは一つも言葉が出なかった。

 

「す、すっごおおおおぉぉいっ!! ギルドに鑑定してもらったらきっと何百万ゼニーの値がついて、向こう一年ほっくほくですよ~っ! そしてモガ村は観光客毎年何万人のリゾート地に……!」

 

 アイシャが騒ぎ立てる後ろで、はるかは陰の混じった顔で席を立った。

 

「すまない、狩りのあとで疲れてしまった。少しばかり席を外すよ」

「……はるか」

 

 みちるはその場を辞去して彼女の背を追う。アイシャはそれに気づき少女たちと目を合わせたが、どうにも誰もが気まずそうにしている。

 

「あ、あれ? 私、何か気に障ることでも……」

「まぁ、そう気にするな。海中での狩猟はどうしても疲労が溜まるものじゃよ」

 

 村長は酒の盃を戸惑う船長に渡すと、緑の外套を羽織ったまま腕を組みつつ、村から離れた丘に行く少女たちを遠目に眺めた。

 

「あ、あの、あたしもお花を摘みにっ!」

 

 うさぎが思い切って立ち上がった。そのまま、彼女もはるかたちの後を追っていく。仲間たちは事情を察した様子で彼女たちの背中を視線で追っていた。

 

──

 

 はるかは農場のある陸地に上がり、金髪を夜風に揺らしながらモガ村の灯りを俯瞰していた。

 

「分かったよ、みちる。なぜ僕たちがここまでこの世界に絆され、本来の『第二の使命』を果たす勇気が薄れてしまったのか」

 

 彼女はみちると隣り合って大木に背を預けている。

 はるかは項垂れて前髪を抑えた。まるで己の身体を痛めつけることで自らを罰するかのように。 

 

「ずっと前、君と一緒に妖魔と戦ってた時はいくら戦っても、褒められることも感謝されることも、決してあり得なかった。でもだからこそ、過酷な日々は使命のためにあると覚悟することができた……それが、ここに来て変わってしまったんだ」

 

 みちるは切なげにはるかを見上げる。まるで彼女の苦しみをそのまま、自分の苦しみと感じているかのように。

 

「はるか。やっぱり貴女、本当は」

「いいんだ、次からちゃんと気をつける。お団子たちに使命を果たせと言った僕がこんなんじゃ、セーラー戦士として示しが付かないからな」

「またそうやって意地を張るのね」

「仕方ないだろう? そうでもなけりゃ、ここに来た意味がなくなってしまう」

 

「……そんなに、仲良くしちゃいけない理由があるんですか」

 

 2人は、入口に立つ少女の存在に気づいた。

 彼女が進み出ると、脇にある松明の灯に照らされて腰まで伸びて揺れる金髪のツインテールが露わになった。

 

「聞いてたのね、うさぎ」

「盗み聞きしてごめんなさい。でもやっぱり2人とも、何か隠してるんですね」

 

 彼女が顔に浮かべる感情は、悲しみだった。

 はるかとみちるがここまでその秘密を2人だけで抱えようとしたこと、そしてそれを相談してくれなかったことに対する悲しみだ。

 

「お願いです、何か伝えたいことがあるなら言ってください! あたしたち、同じセーラー戦士じゃないですか!」

 

 しばらく、はるかたちは頑なに話さなかった。

 しかし。

 

 

「そう遠くない未来、この世界を震源地にして大きな災いが私たちの世界に訪れる。冥王せつな……セーラープルートが告げた未来よ」

 

 

 みちるが突如口火を切った。

 

「みちる……」

「今のうちに言っておいた方が、うさぎたちも気合を入れて戦ってくれるわ」

 

 彼女をはるかは咎めかけたが、その瞳に宿る意志の強さに口を噤む。

 

「セーラー……プルートが?」

「そうよ。その時が来るまでにデス・バスターズを止めれば、災いも止まるかもしれない。その可能性に私たちは賭けているの」

 

 セーラープルートは、うさぎたちの世界における過去、未来の時空を見ることができる特殊なセーラー戦士だ。

 そんな彼女がはるかたちに告げたという、世界を跨ぐほどの大きな災い。

 その存在を初めて聞いたうさぎは不安げな顔になったが、すぐあることに気づく。

 

「なーんだ。じゃあ、この村と仲良くしたって何の問題もないじゃない! むしろこの世界の人たちと協力すればデス・バスターズなんてちょちょいのちょ……」

「お団子」 

 

 はるかの一言が、喜々としたうさぎの発言を断ち切った。

 

「『かもしれない』って言ったろう。そこが重要なんだ」

「えっ? それってどういう……」

「とにかく、今の時点では僕たちはそちらの味方でいられる。僕から言えることは、これだけさ」

 

 はるかは問いに答えることすらなく、うさぎたちを置いて広場へと続く足場を降りていく。

 

「ごめんなさい。本当に……素直になれない人よね」

 

 みちるはうさぎの耳元でそう詫びると、静かに続いて姿を消すのだった。




3編はここら辺が中間ポイントです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。