セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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本編とはちょっと離れてモガ村でのお話。


真実の片鱗

 凍土での一件があった数日後、ちびうさはモガ村の貸家の中と外をせわしなく駆けまわっていた。

 バケツを左手、ほうきを右手に持ち、エプロンと頭巾を身につけ、その身なりはまるで家政婦である。

 彼女はさっさと部屋の埃を掃き、次はバケツの水に浸したモップで鼻歌交じりに磨いていく。

 

 そんな中、視界の隅に緑のどんぐりを認めると、少女はキッと鋭い視線でそちらへと振り返った。

 

「チャチャ、そのサンプル丁寧に扱ってね! 亜美ちゃんが帰ってきて調べるんだから!」

「は、はいッチャー!」

 

 奇面族の子ども、チャチャはセルレギオスの鱗の欠片が入った瓶をそっと棚から下ろし、近くのテーブルに移した。

 続いてちびうさは、青い仮面を被った子どもをビシッと指さす。

 

「カヤンバ、後でそこのバケツの水汲んできて!」

「イ、イエッサーンバ!!」

 

 チャチャとカヤンバは彼女が背を向けた時を見計らい、互いに耳を寄せ合った。

 

「なんでいつの間にオレチャマたちがあのふさふさピンクの命令に従ってるッチャ……」

「ワガハイたちは誇り高きエリート奇面族というのに、なんというスーパー理不尽……」

「何か言った?」

「い、いや何も!」「ノーコメントッンバ!」

 

 ちびうさが睨むと、奇面族たちは竦みあがって仕事に取り掛かる。

 一方、それを見るルナとアルテミスは部屋の隅の床を雑巾で拭いていた。

 

「さすがはちびうさ、しっかりしてるな」

「これがうさぎちゃんなら、掃除後の方が散らかるという謎現象が見られるわよ」

 

 アルテミスがしばし、沈黙する。

 

「……それ、うちの主人もだ」

「ええっ、美奈子ちゃんも!?」

 

 その一言にげえっとルナの顔が青く染まった。

 

「へへっ、やっぱ部屋が綺麗になるのは気持ちいいわ♪」

 

 次にちびうさが目をつけたのは室内の更に奥だった。

 丸型のテーブルの奥にある、古びた本棚。

 手を腰に当てそれを見つめる彼女の士気は十分である。

 

「よーし、更に奥もやっちゃうわよー!」

 

 そこに、バケツを持ちかけたカヤンバが慌てて呼びかける。

 

「あっ、そっちはコブン第一号の私物ンバ! よーく気をつけるンバ!」

「コブン第一号って……先代の専属ハンターさんのことね、分かってるわよ」

 

 はるかたちとの関係性を見ても、いい加減『コブン』という言い方は改めた方が良いのではと思いつつ、ちびうさははたきを持って本棚の掃除を始める。

 

 週刊『狩りに生きる』、海洋生物学、調合書……。

 視線を巡らせるうちに、列の端っこに開けられたスペースに光る一つの勾玉が目に止まる。

 

 それを手に取ると、磨き上げられた淡く透き通る海色の底に、深海のような暗くも美しい青色が滲んでいた。少し掌を傾けただけで、その勾玉は全く違う表情を見せる。

 小ささに見合わない深さを感じさせるその物体を、ちびうさはしばらく見つめていた。

 

「綺麗……」

 

 瞬間、チャチャが明らかに狼狽した様子で駆けこんできた。

 ちびうさは思わず驚いて身を引く。

 

「そいつは絶対なくしたらいかんッチャ! さもないと、コブン第一号のゲンコツが海の向こうから伸びて飛んでくるブー!!」

 

 ものすごい勢いで慌てるその奇面族に、彼女は半ば呆れていた。

 

「……どんだけあんた、その人が怖いのよ」

 

 一度、コブンという言葉の意味を考え直させた方がいいのではないか。そう思ったところに、

 

「おお、ナバルデウスの大勾玉ンバ! 久しぶりに見るけど相変わらず最高にビューティフルッンバ〜〜」

 

 ちょうど、カヤンバが新しい水をバケツに汲んで帰ってきた。

 

「ナバルデウス?」

 

 ちびうさが首を傾げると、チャチャはここぞとばかりに胸を張った。

 

「プップップ……何を隠そう、このオレチャマがかつてコブンと共に追っ払った、それはそれはでっけー古龍のことッチャ!」

「古龍って確か……」

「影響力が大自然そのものにも等しいっていう、おっそろしい生き物のことだよな?」

 

 ルナの問いにアルテミスが答える。

 いま行方を追っているゴア・マガラのやがて成るべき姿、シャガルマガラ。それが属する、古より生きる大いなる災いたち。ハンターでも、一生のうちに見れるかどうか怪しいくらい希少な存在だという。

 

「そんなのと貴方たちは戦ったの?」

「ま、このオレチャマにかかればなんてことなかったッチャ!」

「おおっと、ワガハイも忘れてもらっちゃ困るンバ! ワガハイも並み居る強大なモンスターどもを、杖1つで成敗してやったッンバ!」

 

 チャチャの明らかなホラ吹きに、カヤンバまでもが乗じる。

 本棚の隣には、古びた木と鉄で組み立てられた斧のような武器が立て掛けられていた。

 

 スラッシュアックス。

 

 みちるが使っているのと同じ、剣型への変形機構を有する武器種である。

 恐らく、先代のハンターのものであろう。

 

「そうなんだ……」

 

 ちびうさは目線を下げ、はたきを握り締めながら一言呟く。

 

「あんたたちはいいわよね、はるかさんたちと一緒に狩りに出かけられて」

 

 それで気づいたように、ルナとアルテミスが共に振り向いた。

 

「へっへーん、もっと羨ましがれッチャ!」

「でもそう言うお前も、調査は月の猟団の奴らと一緒にやってなかったンバ?」

「そうなんだけど……」

 

 一方、奇面族たちは彼女の変化にも気づかず有頂天になっている。

 カヤンバの素朴な問いに、ちびうさはますます表情に暗さを募らせた。

 

「最近これといった成果も出てないし……正直、そろそろみんなに役立たずって思われてるかも」

 

 奇面族たちは、元気のない彼女を見て疑問符を浮かべている。

 ルナとアルテミスがそろそろ話を止めようと立ち上がった時、ある者の手がチャチャとカヤンバの頭を掴んでひったくる。

 

「ふっふっふ、ここだけの豆知識! このおチビちゃんたち今は偉ぶってはいますけど、最初は先代専属ハンターさんの足を引っ張ってばかりだったんですよ!」

「ア……アイシャ嬢!」

 

 仮面の子どもたちは、驚きのあまり身体を固まらせていた。

 受付嬢の彼女は、やれやれという風に肩をすくめる。

 

「例えばそうですねぇ、ハンターさんの大切なコップを壊しちゃったり、はたまたこの前みたいな大喧嘩でモガ村から勝手に家出したり、狩り中に間違えてハンターさんを吹き飛ばしたり……」

「……ふぅーん」

 

 ちびうさは、ルナ、アルテミスと共に奇面族たちをジト目で見つめた。

 

「ブ、ブーー!! いらんこと言わなくていいっチャ!!」

「不公平ンバ! 不公平ンバ!」

「でもあの人はどんな時だろうと必ず毎日、2人分余分に夕飯の席を用意させてたんです。どんなにヘマをした日でも、家出された日でも、ずっと静かに村に帰ってくるまで外で待ってる……そんな人でした」

 

 アイシャはそんな2人の頭に手を置き、優しく撫でてやった。チャチャとカヤンバはうつむいて、照れ臭そうにしている。

 

「それに、狩りをすることだけが人の役に立つすべてってわけじゃないんですよ? ほら、こっちに来て下さい!」

 

 彼女はちびうさの手を取り、貸家の外に連れ出した。

 そこには多くのモガ村の人々が行き交っていた。

 漁師と彼らを統率する女主人が魚を運び、農場で働くアイルーたちがキノコの入った籠を抱え、コックのアイルーが目にも止まらぬ速度で下拵えをし、村長の息子を始めとした人々が大きな骨を担いで持っていく。

 端から端まで歩いて1分もない木の板で作られた人工島を、人々の営みが埋め尽くしていた。

 

「狩りにも使う魚を獲る漁師さん! 薬の調合のための植物を育てる農場主さん! 狩人には欠かせないお食事を用意するコックさん! キャンプを設営する大工さん! そして何よりも……クエストを斡旋するギルドの代表たるこの私!」

 

 アイシャは、自身の白い制服を手で叩く。

 黒い二つ結びの日に焼けた少女の姿は、実に威風堂々としていた。

 

「ハンターさんは、たくさんの人に支えられることで初めて戦えるんです。ですから、私たちも実質一緒に狩りをしてるようなものなのですよ!」

 

 ちびうさはハッと目を見開いた。

 彼女はちびうさの前にしゃがむと、元気づけるようにガッツポーズを作って見せた。

 

「ハンターじゃなくたって、役の立ち方にはいろいろあるはずですよ。今は分からなくったっていつかは見つかりますよ、きっと!」

「……」

 

 ピンクのお団子頭を持つ少女の視線が、いくらか和らいだ。

 ルナとアルテミスは、やっとそこで一件落着と一息をつきかけた。

 

 その時、彼女たちの耳を何かの音が揺らす。

 

「ヴア゛ア゛ア゛アアアアアアアアアアアアッッッ……」

 

 まるで人の呻き声、もしくは絶叫のような。

 遥か遠くから降りかかってきたそれに、そこに居る一同は顔を見上げざるを得なかった。

 

「……えっ」

 

 ちびうさは、その声に聞き覚えがあった。

 

「この声、確か遺跡平原で……!」

 

 彼女の顔が、霧が太陽にかかったように薄暗くなった。

 それは気のせいではなく、モガ村の人々も戸惑うように空を見渡し始める。

 やがて誰かが異変に気付き、ある方向を指さした。

 

「おい、あれはなんだ……」

「まさか古龍か!?」

 

 騒ぎを聞きつけてそちらを見ると、モガの森方面の空が黒い渦を描き始めていた。

 

「なんだ、これはいったい!?」

 

 アルテミスが戸惑い、叫んだ時だった。

 

「ヂャーーッッッ!?」

 

 貸家の中から、悲鳴と共に紫の光が放出された。

 とても自然のものとは思えない、激しい閃光。

 ちびうさたちは、急いで貸家の中へ戻っていく。

 

「大丈夫、チャチャ!?」

 

 予想に反し、彼は無事だった。

 彼は腰を抜かし、ある一点を差す指を震わせている。

 

「な、なんか紫がモヤモヤしてるっチャ!」

「紫の、モヤモヤ?」

 

 彼が示しているのは、先ほどテーブルに置いたばかりのセルレギオスの鱗の欠片だった。

 かつて眩いばかりの金色を放っていたそれは、今は妖しく紫色に渦巻く煙を発している。

 

「何よ……これ」

 

 他ならぬ、妖しき気配。

 異世界の旅人たちは、身に覚えのありすぎる感覚に背筋を凍らせた。

 




(しばらく小説本編とは関係ない劇場版の語り)
先週セーラーコスモス後編を観たけれど、非常に素晴らしい出来だった…。銀河の中心にて銀河最強のセーラー戦士、そしてすべての敵の根本たる『カオス』と対峙するというまさに神話とも言える内容。
原作では難解に感じたシーンも分かりやすく描かれてて、セーラースターソングや終盤のうさぎの姿など旧アニの成分も多く含まれてて凄まじい愛を感じた。これは変えられるかなと思った場面も、重要なところはしっかり原作通りにされてるなと思ったので大満足。
発表時は何かと話題にされたセーラーコスモスの声も、北川景子さんの優しさと儚さを感じさせる演技がすごく噛み合っててとてもハマっていた。
個人的には、サーガの最後を締めくくるに値する出来だったと思う。

Crystal系列もこれで終わるけれど、これからはグッズやセラミュなどを中心に展開するのかな。自分はひとまずこれで積極的に追いかけるのは一区切りかなとは思っているけれど、この二次創作は終わりまで駆け抜けるつもり。
これからもセラムンというコンテンツが続きますように。
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