セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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爆ぜ開くは紅く、熱い華①

 ギルドから狩場に指定されている『火山』。

 マグマの川を産み続ける活火山を中心としたフィールドだ。

 

 真っ赤な火口から常に黒煙を噴き上げているせいで、そこでは昼と夜の区別すらつきにくい。辛うじて、火山ガスの影響で赤く染まった月から判別がつく程度だ。

 

 火山の麓にある洞窟『エリア5』では、天然の岩で作られた天井と平地が広がり、すぐ傍には液体状の溶岩が川となって流れている。

 この環境では否応なしに熱気が溜まり、それゆえにクーラードリンクなしに人間は活動できない。

 

 しかし、溶岩にも負けぬほど『熱い』ものが、ここにはもう一つある。

 例えばそれは、いま男の腕にひっつきむしのようにくっついている1人の少女であった。

 

「まもちゃんと一緒に出かけられるなんてシ・ア・ワ・セ♡」

 

 うさぎは頬をぽっと紅く染めて衛の肩に縋りついていた。

 彼女は調査が始まってからずっとこの調子で、その足取りもいつもより明らかに弾んでいる。

 

「防具に当たるから、程々にな……」

 

 衛はそれを受け入れつつも、亜美とみちるの前では流石にはにかみ気味であった。

 

「今回の目的はデートじゃなくて調査よ。分かってる、うさぎちゃん?」

「やぁねぇ~、分かってるわよっ!」

 

 と亜美の問いに答えながらも、うさぎはにやけた顔を崩さない。

 

「まぁ、すっかり色ボケね」

「今回の割り振り、間違えたかしら……」

 

 カップルの後ろでどんよりと悩む亜美に対し、みちるはどこか面白がるような口調である。

 

 彼女は以前に討伐したラギアクルスから作られた防具、通称『ラギアS』を纏っていた。

 蒼色の鱗を基調として所々に赤色の棘や橙色のヒレがあしらわれ、スカート状に広がった腰の防具はうさぎの着るリオハート装備と同じ、姫騎士のイメージを呼び起こす。

 その背にあるのは、水獣ロアルドロス特有のスポンジ状の皮と棘で装飾された、斧のような武器スラッシュアックス──その中でも『スプラックス』の名を冠する得物。

 そんな彼女の姿は、海を完全に征したが如き貫禄をも放っていた。

 

 しかしそれを着ているのは、落ち着いた色を帯びた瞳の女性であった。

 

「いえ、私はこれでいいと思うわ。いざという時、隣に大切なものがある人は強いわよ」

「……確かに、みちるさんが言うと説得力ありますね」

 

 思わずくすくすと笑った亜美は気づいた。

 みちるの武器の軸に括りつけられた数珠を、ジトッとした眼差しで見つめるうさぎの姿に。

 

「みちるさん、何ですかぁその護石?」

 

 亜美は気配もなく至近距離まで顔を近づけていた友人の姿に悲鳴を上げかける。

 みちるは動じることなく、キラキラと宝石にも等しい琥珀色の輝きを放つそれを、掌に乗せて見せてくれた。

 

「はるかと一緒に掘りに行った時、偶然出たのよ。鑑定してもらったら武器が錆びにくくなる効果があると聞いたものだから、こうやって付けてるの」

「きれ~~っ、すっご~~い!!」

 

 紹介は特に自慢げなものでもなかったが、うさぎは勝手に黄色い声で叫んで目をキラキラさせた。

 

 鉱石を掘っていると、こうやって特殊な効果を持つ護石……すなわちお守りが出土することがある。古代文明にこの地域で大量生産されたものらしいが、詳しいことは分かっていない。

 ハンターの中には性能の良い護石を求めて掘りまくるがあまり、本業の狩りを忘れた者もいるらしいが、うさぎが目を引かれたのは中身ではなく見た目である。

 

「よーし、あたしも負けてらんない! 良いのが出たらまもちゃんへのプレゼントにしちゃうもんね!!」

 

 うさぎは夢中になって、何回もピッケルをそこにあった鉱石に叩きつけ始めた。

 

「きょ……今日のうさぎちゃん、特にテンションが高いわ……っじゃなくって!」

 

 亜美は急いで止めようとうさぎの傍に寄ってその肩を揺らす。

 

「うさぎちゃん、そんな今すぐ良いモノが出るとは限らないわよ!? それに、仮にもあたしたちは調査……」

「鉱石をっ、調べるのだってっ、調査のっ、一環っ、よっ!!」

「もう、それは本気で言ってるの、うさぎちゃん!?」

 

 真面目な亜美は声を張り上げるが、うさぎは聞く耳持たず鉱石を掘り続ける。

 

「ふふ、相変わらず元気がよろしいこと」

「……みちるさん」

 

 保護者のような視線で見守るみちるに、声がかかる。

 ついさっきまでうさぎにいちゃつかれていた黒髪の青年、衛である。

 彼は東方の武人風の鎧『ガルルガS』を身にまとっている。紫色の硬質の甲殻で覆われており、自身や仲間を怪我させないために加工されてはいるものの、至るところにある棘がその持ち主とは裏腹に攻撃的な印象を与える。

 

「これから先、俺はうさこのためにいったい何をするべきなんだろう」

 

 それを聞いたみちるは黙って振り返った。

 

「なぜそれを私に?」

「君たちが何かを知ってるからだよ。それも、かなり重要そうなことをね」

「貴方の使命は、隣でプリンセスを支えることですわ。そして、未来の王国のためにも元の世界へ無事に帰還すること。それ以外にいったい何がありまして?」

「あはは、さすがは太陽系外部戦士。使命には忠実だな」

 

 みちるは穏やかな表情を崩さず平然と答える。

 彼女の艶やかな海色の髪の毛は、この火山にあっても輝きを失っていなかった。

 

「ただ、思うんだ。この世界は底が見えない。ポッケ村で聞いた話じゃ、そこにいるだけで天災を齎す生物すらいるという」

「それはお伽噺の存在ではなくって?」

「俺も実際に見たわけじゃないから、確信は持てないが」

 

 ある者は嵐を呼び、ある者は炎を呼び、ある者は霞を呼ぶ。

 みちるの言った通り、御伽噺としか言えぬ力を持つ古の龍たち。

 そんな存在を、衛はある狩人の兄弟から聞いていた。あの自信家な男たちのことだから、実際のところは単なる話の誇張なのかも知れない。それでも、その御伽噺を完全に嘘だと言い切れる証拠もない。

 

「とにかくこの世界では、俺たちの思う以上に多種多様な生命が複雑に絡み合っている。そんな世界と俺たちの護るべき世界が繋がっていることが、とても不安なんだ」

 

 鋭い眼光が、僅かながらみちるの瞳の中を走る。

 

「俺だって、これからもうさこをずっと隣で支えていきたい。だがそれでもいざという時、矢面に立つのは決まって彼女だ。もしかしたら……」

 

 衛の背には防具に劣らぬほど刺々しい茨の細剣『クイーンレイピア』が担がれていた。

 後ろから伸びるその柄を見つめる衛の表情は厳しいものだった。

 彼の握る拳に力が入る。

 

「たとえその時に俺が庇ったとしても、矢を受け止めきれないかもしれない」

 

 不安を振り切るように、衛はみちるに向き直った。

 

「だから、せめて状況だけでも知りたいんだ。俺たちの世界に起こる大きな災いとは、一体何だ? 君たちは何を隠してるんだ?」

 

 みちるはしばらく細い線の顎を指で撫でていたが、

 

「さすがはプリンス。プリンセスのことをよく考えておられるのね」

 

 彼女はすっと視線を横に向ける。

 その先には、亜美の説得を横にピッケルを必死に打ち付けるうさぎがいた。

 

「──でも今はプリンセスの強さを信じてあげてほしいわ。少なくとも、デス・バスターズが育てている最強の妖魔を倒す日まで。その時には、全てのことを伝えられるでしょう」

 

 衛はしばらく粘るが、みちるの瞳は一寸も動かない。

 

「……なるほど、どうも取り付く島もないな」

 

 やがて途方に暮れたようにため息を吐いた衛だったが。

 

「ま~~も~~ちゃ~~ん????」

「……あっ」

「『あっ』じゃないわよ、『あっ』じゃ!!!!」

 

 うさぎはと両拳を振り上げ大変お冠の様子だった。

 

「なぁんで目を離した隙にみちるさんと話してんのよ、あたしというもんがありながらーー!!」

「あっ、ごめ……」

「うあーん、まもちゃんの浮気者ーーっ!」

 

 うさぎは頬を膨らませ衛の甲殻の鎧に覆われた胸をぽかぽか叩く。

 一気に子供っぽさを増した彼女の泣き顔に、亜美とみちるは顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。

 

──

 

「まもちゃん、ずっとずっとずーーっと隣にいるわよね? 誰かに乗り換えたりしないわよね!?」

「そんなことするもんか、俺は未来の夫だぞ?」

 

 エリア8。

 すぐ向こうには山頂が見え、溶岩が狭い道の周囲を覆うこの過酷な場でも、うさぎの粘着行為は続いていた。

 クーラードリンクは飲んでいるが、それでも熱いものは熱い。

 ずっと腕に抱きつかれている衛は毅然と弁解を続けていたが、流石に疲れも見えてきていた。むしろまくし立てるうさぎの体力の方が意味不明である。

 

「うさぎちゃん、いい加減にしないと『重い女』って思われるわよ?」

「あたしはちゃんと狩りでダイエットしてるもーん!!」

「……そういう意味じゃないわ」

 

 亜美の汗水垂らしての必死の説得も意味を成さず、彼女自身も疲れ果て始めていた。みちるも、ここまでくるとさすがに苦笑を浮かべている。

 

 2人の少女からの視線、溶岩の熱気、うさぎからの容赦ないアプローチ。

 それらが一気に衛の五感を限界まで圧迫していた。

 

「もう全く、何だってそんなに不安がるんだ!?」

「だって、いっつもまもちゃんあたしの前からいなくなっちゃうんだもん! 攫われたと思ったら敵になってたり、目の前で別の人にキスさせられたり!! だから、二度とそんなこと起こらないようにするのっ!!」

 

 その一言が、男の弱気だった表情を一瞬で豹変させた。

 ぎりりと噛み締められる白い歯。

 衛は急にうさぎの両腕を掴み、手繰り寄せる。

 

 あまりに突然のことに、さっきまで喧しかったうさぎも、すっかり押し黙ってしまう。

 「あらまぁ」とみちるは声を上げ、亜美は「えっ!?」と肩を震わせた。

 

「俺がどこにいようと俺の心はうさこの隣にある! たとえこの身体がどんな遠くに行ったとしてもだ!!」

 

 さっきまでのお返しとばかりに、彼は腕に力を込めた。

 亜美は思わず赤面して、顔を手で覆い隠した。

 その指の間から透かし見ているので、さほどの効果はないのだが。

 

「今までの戦いでも、この世界でだって、最後にはこうやって一緒になれたじゃないか。少しくらい俺を信用してくれよ!」

「ちょ、ま、まもちゃん……っ」

 

 衛はあくまで真剣に、必死になってうさぎに思っていることを伝えていた。

 ──だが。

 

「し、信じられないわ、こんな人の目の前でしかも調査中に……」

 

 衛がびくっとして振り向くと、亜美が恥ずかしいがあまりに向こうを向いて屈み込んでしまっていた。 

 

「ま……まもちゃん、そんな風に言うのは……」

 

 衛は冷静になって正面に振り直り、ようやく己がやっていることに気づいた。

 説得に夢中になるがあまり、まるで気づけていなかった。

 

 いつの間にか彼女に、鼻がくっつきそうになるほど顔を近づけていたことに。

 

 うさぎは茹ったように顔を紅くして、叱られた子犬のように大人しくうつむいていた。

 

「ズ、ズルいよ……」

 

 彼女は血の昇りきった顔で、縮こまるように小さく呟いた。

 一応、衛は大学生、うさぎは中学生である。しかも、今は人の目の前。

 男は慌てて顔を引っ込めた。

 

「流石。女の子の扱いを良く分かっているご様子ね」

 

 やってしまった、という顔の衛に、みちるが追い打ちをかける。

 

「ま、待つんだ、誤解を招く言い方はよしてくれ……」

「衛さんの破廉恥……」

「違う、違うんだ、俺は!!」

 

 もはや、自分の方が節制ない人間と蔑まれても文句が言えない状況。

 衛が必死に亜美に対して弁解を図っていると──

 みちるが突然、何かに気づいてはっと顔を上げた。

 

「負のエナジーを感じるわ!」

「えっ……?」

 

 彼女の声は、先ほどまでとは打って変わって刃物のように鋭く響いた。

 

「もう、何怖がってんのよ!!」

 

 女性らしき甲高い怒声が上空から聞こえた。

 聞き覚えのある声に、うさぎたちは戸惑いつつ空を見上げる。

 

 そこには、黒煙のなか乱れ飛ぶ金色の何者かがいた。

 

 だが、うさぎたちはそれを既に知っている。

 知っているからこそ、すぐうさぎの口を衝いてその名が出てきた。

 

「セルレギオス……!?」

 

 別名、千刃竜。

 全身に刃状の鱗を生やし、優れた飛行能力でリオレウスにも迫る戦闘力を誇る飛竜種。

 それは空を真っ黒に埋め尽くす絨毯を飛び交い、時に消え、時に現れた。

 やたら慌てた様子で武器となる鱗を飛ばしているが、その詳細は分からない。

 

「ピュイイイイイイイ!!!!」

 

 だが、そのうちセルレギオスは再び煙の下に飛んできて全身を露わにした。

 後ろから何個も飛んでくる謎の黒い霧の塊を避け、大きいカーブを描いて溶岩流の上を飛ぶ。

 

 そこで見えた金色の飛竜の背に、女性が乗っていた。

 赤色の髪に、赤いサラシと黒い帯のついたズボンを身につけている。

 うさぎたちが、それを見て何も思い出さないはずがなかった。

 

「ユージアル!」

 

 デス・バスターズの幹部が、かつての『金の竜』候補に乗って現れたのだ。よく見れば、その竜の口元からは黒い霧が漏れ目からは紅い光が走っている。妖魔化の印だ。

 更にもう一つ、黒煙の下に何者の影が這い出る。

 まるで煙から産み落とされたかのような漆黒の外套が広げられ、風を捉えていた。

 その頭に、目は存在しない。その姿まさしく、盲目の異形である。

 

「ゴア・マガラ!?」

 

 セルレギオスに劣らぬほどの勢いで迫るそれを見て、亜美は思わずその竜の名を叫んだ。

 

「どういうことだ。まさか反旗を翻されたのか!?」

 

 衛がそんな予想を述べるまでに、うさぎたちは混乱していた。

 かつてデス・バスターズと敵対する者として『金の竜』と目された飛竜はユージアルに操られ、デス・バスターズの最終兵器であるはずのゴア・マガラはそれを一方的に追いかけ回している。

 彼らからすれば、全くもって理解不能な状況だ。

 

「ちゃんと狙いなさいよ、金色松ぼっくり!」

 

 ユージアルはセーラー戦士が地上にいるとは露知らず、きつい口調で指示する。

 セルレギオスは忠実に従って飛び下がりつつ正面に刃鱗を放つが、ゴア・マガラは身体を捻って見事に躱す。

 魔女を乗せた金色の竜は、そのまま突っ込んでくる黒蝕竜を空中で弧を描くようにして回避し、うさぎたちのすぐ横の大地に着陸した。

 ユージアルは、すぐ隣を通り過ぎ翻った黒い外套を振り返り、悔しそうな表情で見つめた。

 

「全く……とんだ厄介者の『お兄ちゃん』ねっ!」

「『お兄ちゃん』……?」

 

 ちょうど聞こえてきた発言に、衛が訝しげに眉を顰める。

 ゴア・マガラは、今度は攻撃することなく地上に降り立ってくる。ちょうど、セルレギオスと相対する位置だ。

 本来火山のように熱い地域は苦手なはずの黒蝕竜も、明らかにそんなことを気にする暇もないと思わせるほど怒りを滾らせて千刃竜を睨んでいる。

 

「くっ……」

 

 忌々しげに唸っていたユージアルが、横にちらりと視線を移す。

 ちょうどその先には、うさぎたちがいた。

 彼女は、たちまち仰天の表情に変わった。

 

「あ……ああっ、セ、セーラー戦士ども!? 何でこんなところに……」

「ユージアル! 貴女、ここで何をしてるの!?」

 

 続きを言わせることもなく、うさぎが前に出る。

 彼女の問いは、ここにいる全員が聞きたい問いであった。

 

「うさぎ、下がって!」

 

 みちるが、変身スティックを持ちながらうさぎの肩を手で引き寄せる。

 亜美と衛も、武器の持ち手に手を添え前に出ようとした。

 

「……もう、今日は最悪の日だわっ!!」

 

 果たして、問いに答えられることはなかった。ユージアルは脚でセルレギオスの背を叩く。

 すると彼は翼を拡げ、うさぎたちの視界から3秒も経たないうちにいなくなる。

 見上げると既に、セルレギオスは上昇気流を捉えて空の彼方に消えようとしていた。

 一方のゴア・マガラは、一時首を回し、すぐそこにいるうさぎたちを見回す。

 

「……」

 

 だが、それ以上ゴア・マガラが興味を示すことはなかった。

 ゴア・マガラは鱗粉を纏った翼を広げ、セルレギオスを追った。

 

 うさぎたちは唖然としたまま、溶岩に囲まれた平地に立ち尽くしていた。

 会敵から僅か1、2分での出来事だった。

 

 間もなく、セーラー戦士専用の道具である『マーキュリーゴーグル』を出して状況を分析していた亜美が呟く。

 

「聞いて、みんな。あのゴア・マガラ、全く妖気を感じなかったわ」

「えっ……?」

「いったいどういうことだ。あれが妖魔ではないと?」

「あたしにも分からない。だけれどこの状況、遺跡平原でレイちゃんが言ったことと同じだわ……!」

 

 亜美の言葉を受け、みちるも何かについて深く考えを巡らせる。

 だが、それも長く続くことはなかった。

 

「グオオォ……グオオォ……」

 

 西の『エリア7』方面に続く洞窟から聞こえる、弱々しくも低く重い呻き声。

 金属を叩きつけ鳴らすような変わった足音。

 

「こ、今度は何よ!?」

「負のエナジーの反応があちらからもするわ!」

 

 みちるは思考を中断してうさぎを下がらせ、変身スティックを振り上げる。

 いつものおっとりとしてお淑やかなお嬢様は既にそこにはおらず、海王星を守護星に持つ深海と抱擁の戦士としての彼女が立っていた。

 

「ネプチューン・プラネット・パワー、メイク・アップ!!」

 

 水と光に包まれたなかから、マリンブルーの襟とスカート、紺色のリボンをつけた可憐な姿のセーラー戦士が出現する。すぐそこで煮えたぎる溶岩とは真逆の、優しく落ち着いた色彩であった。

 

 間もなく、ゆっくりと、黒い霧を吐いて足を引きずる生き物が現る。

 亜美はその巨大な二本脚で立つモンスターを見て呟く。

 

「ウラガンキン……?」

 

 巨大な図体を持ち、背中に無数の突起が生えている。

 そして人のように平べったい頭部には、丸く分厚い特徴的な顎。

 爆鎚竜、ウラガンキンだ。

 如何にも岩のように堅そうな甲殻全身を覆ってはいるが口に生える牙はいずれも平たく、小さい目の上に太眉のごとく出っ張った突起はどこかとぼけたような愛嬌がある。

 しかし、その口からは先ほどのセルレギオスと同じく黒い霧を荒く吐き、目も明らかに自然のものではない真っ赤に染まっていた。

 

「間違いないわ。彼が妖魔化生物よ」

 

 セーラーネプチューンはそう言って、うさぎの前で戦闘態勢を取った。

 しかし──

 

「あの子……何か様子がおかしいわ」

 

 うさぎが、ネプチューンを引き止めた。

 ウラガンキンの各部に、何か緑のベトベトしたものが付着しているのだ。

 

「グオオォ……グオオ」

 

 ウラガンキンはうさぎたちなど見ておらず、ただ一心不乱に移動しているだけだった。

 視線も、うさぎたちの方を全く向いていない。

 

「何かから……逃げてる?」

 

 亜美が、ふと呟いた瞬間、

 

 爆発。

 

 うさぎたちに辿り着く前に、ウラガンキンはその身から炎の華を派手に散らした。

 衝撃にもんどりうつ、山のような巨体。

 硝煙がウラガンキンの身体を覆いつくし、その中に巨体がずしん、と巨音を立てて倒れ伏す。

 

 煙に囲まれて、尖ったものが後ろから現れた。

 先ほどの糊状の物体と似たような、緑の蛍光色が3つ。

 そのうちの下側にある1つが、大きく振り上げられる。

 

「グゥゥゥゥ」

 

 くぐもったような唸り声と共に、それはウラガンキンの身体を強烈に打ちのめす。

 もう一つの緑も連動して──

 

 何度も、何度も、何度も、何度も殴りつける。

 

 いつの間にか、爆鎚竜は既に事切れていた。

 その死体の上にあったのは、すぐそこに流れる溶岩とは真逆の群青色だった。

 甲殻は黒曜石に似た艶を帯び、下から湧き上がる溶岩の色を強く反射していた。

 それは既に斃れた骸を踏みつけ、足蹴にし、硝煙から這い出してくる。

 

 鼻先が尖った顔は、鉱石からそのまま切り出してきたかのように鋭く硬質な印象を与えた。

 だがそれよりずっと目立つのは、後頭部に張り出す飛行機の羽に似た突起の前方、額から砲塔のごとく太く、真っすぐに突き出た頭角。

 先ほど見えた3つの蛍光色のうち、1つの正体はそれであった。

 

 もう2つの蛍光色の正体は、胸の前に構えられた柱のように太い腕。

 強靭な後脚に対しアンバランスなほど発達したそれは、拳闘士が手甲をはめて構えているようにも見える。

 その先端には先述の緑の物体が血管のような模様を作って集っており、真っ赤な溶岩、土色の地面、そして黒い空しかない仄暗い火山では、やたらと目立つ明るい黄緑色だった。

 

 無機質な甲殻に覆われた身体のなか、唯一マグマのように赤い眼光がぎょろりと動き、1本の頭角の下から上目にうさぎたちを見つめた。

 

「フウウウゥゥゥゥ……」

 

 まさしく彫刻のように荒々しく切り込まれた顔は彫りが深く、その窪みから覗く視線は明らかに敵意を含んでいる。

 

 彼の背後で、突如、大爆発が起こった。

 

 爆砕の輝きが、その剛く逞しい身体を飾る紺藍をより美しく際立たせる。

 

「ギエエエエエエエエエエエエエエェェェェェェ!!!!」

 

 ゴング代わりに宣戦布告の咆哮を浴びせる、野生の拳闘士の名は──

 

 砕竜、ブラキディオス。

 




久しぶりにうさぎちゃんの彼氏、衛さんの参戦です。これまで何度か狩りに参加しているので、彼もきっちり『ガルルガ装備』着ております。
ブラキディオス、実はメインモンスターの中でも一番好きです。姿形はかなり生物離れしているけれど、アイスボーンを経てどんどんボクサーらしくなっていく彼のファイトスタイルに惚れてます。
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