セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて 作:Misma
モガ村の海に浮かぶ貸家に、セーラー戦士たちが集結していた。
衛は包帯を巻いて寝床に横たわっている。容態は安定しているが意識は未だ戻らないまま、数日が経過していた。
「……それで念のためにイビルジョーの妖気を辿ってたら、ゴア・マガラに似た叫び声が聞こえてね。するとそいつ、いきなり別方向に移動し始めたのよ。あの、しつこさの権化のような生き物がよ?」
火山から帰ってきたうさぎたちに、レイは深刻な表情で状況を伝えている。
彼女たちは、どうやら妖魔化したイビルジョーから逃げて終わったわけではなかったようだ。
「帰ってくる途中でギルドに報告ついでに確認してみたら、凍土付近の地域で同じような動きをするモンスターが続出してるらしいわ。ハンターたちも、他の生物も一切無視してね」
「ど……どういうこと?」
「あたしたちだって聞きたいところだよ。それだけじゃない、よく調べてみたらそいつら、揃いも揃って東に向かって移動を開始してるんだ!」
まことは、ギルドからもらった資料をテーブルに広げた。
大陸の形を示した地図に夥しい数の矢印が書かれている。それらは確かに東の方面に向かって平行して伸びている。目的地ははっきりと分からない。
「バルバレギルドを通して各地の凄腕ハンターさんに近くを警戒してもらうよう頼んどいたわ。今頃は、バンッバン妖魔が出現してるはずよ!」
美奈子の口調は確信にも近いものがあった。
続いて、ちびうさが何かを持って出てくる。
「あたしの方からも、うさぎに見て欲しいものがあるの」
「こ、これ……!」
開かれた掌に紫に光るのは、瓶に入れられたセルレギオスの鱗。
明らかにそれからは、妖魔と同じ妖気をはっきりと感じ取れた。ちびうさは確信を持った瞳で訴える。
「あたしたちが掃除してた時、この鱗も叫び声が聞こえた後に光り始めたの。ちょうど、レイちゃんたちが凍土に行った5日くらい後よ!」
「てことは、あのセルレギオス……」
「ええ。やっぱり、あたしたちが探してた『金の竜』じゃないってことよ」
うさぎの言葉に、亜美は頷いて答えた。
「でもおかしいわよ。前はこの鱗から何の妖気も感じなかった……そのゴア・マガラが咆えた時に感染したっていうの?」
物理的に考えてもそれはおかしい。その時、鱗は瓶に密封されていたはずなのだ。
「……亜美ちゃん」
レイは何かを思い、亜美に呼びかけた。
「ティガレックスの妖魔ウイルスのサンプル、そろそろポッケ村から届いてる頃合でしょ? 今回のセルレギオスのものと比べてみてくれない?」
──
セーラー戦士専用の装置、マーキュリーゴーグルによる解析が終わり顔を再び上げた亜美は、額に冷や汗をかいていた。
「全く同じだわ! 雪山のティガレックスに宿っていた妖魔ウイルスと、今回のセルレギオスの妖魔ウイルス……全く同じ形よ!」
一気に場の雰囲気が鋭くなる。レイはその中でも、確信をより一層高めていた。
「やっぱり。ティガレックスの時も、妖魔になる直前まで全然妖気を感じなかった! これが今回の妖魔ウイルスの性質ってこと?」
感染しても、感染者はまるで何事もなかったかのように振舞う。それが、ゴア・マガラの咆哮が鍵となって一斉に妖魔化したと見るのが良さそうだった。
「まるで時限爆弾ね。通りでそこら中にばら撒かれても気づかないわけだわ!」
美奈子は腕を組み、瓶の中の金色の鱗に向かって唸った。
亜美も悔しげにそれを見つめていた。
「今回、デス・バスターズはこのウイルスを持ったセルレギオスを各地に飛ばし、自然界に植え付けたのよ。あたしたちが孤島で見た時のようにしてね」
蒼き天空の王、リオレウス亜種にすら挑みかかっていたセルレギオス。彼の攻撃的な生態を通し、妖魔ウイルスは勝手に各地のモンスターたちにため込まれていった。
これならデス・バスターズがわざわざ手をかけずとも、妖魔が自動的に生み出されるというわけだ。
「はるかさんたちが見たイビルジョーは、とにかく目の前にあるものを食らう生物よ。もしかしたら、どこかで妖魔をたくさん捕食して、その結果妖魔化が早まったのかもしれない」
でも、とまことは言い出した。
「あまりに突拍子すぎるよ。ティガレックスに感染したらいきなりそんな性質が出てきただなんて」
「あ、あの、すみません!」
ちょうどそのタイミングでモガ村の受付嬢、アイシャが貸家に入ってきた。
一斉にそこにいる全員の視線がそちらに向く。
「わわっ、お取り込み中でしたっ!?」
それに制服姿の彼女は驚いて肩を浮つかせ、亜美は慌ててゴーグルを背後に隠した。
黒猫のルナはそれを横目で見届けると、愛想笑いを浮かべてアイシャに振り向いた。
「ど、どうしたのアイシャさん。何か用?」
彼女はごくんと唾を呑み込んで、紙を持つ手に力を込めた。
「実は……ギルドの回収班でブラキディオスの解析を行ったところ、狂竜ウイルスが検出されたとの報告が来たんです!」
「「狂竜ウイルス!?」」
狂竜ウイルスといえば本来、黒蝕竜ゴア・マガラが扱う生命を狂わす鱗粉を指す。妖魔ウイルスは、元はといえばデス・バスターズが狂竜ウイルスを改造したものなのだ。
それが、火山でブラキディオスに感染していたという。
「だから、うさぎちゃんはあの時浄化できなかったのね」
亜美が前回の戦いを振り返って小さく呟く。当人であるうさぎは、疑問にますます眉をひそめる。
「じゃあ、あの時のゴア・マガラは一体何だったの?」
「一つ僭越ながら、推測を言わせて頂いてよろしいかしら」
理知的な口調で話を切り出したのはみちるだった。
「もし、ゴア・マガラが2頭いるとしたら?」
彼女の発言に、海上に浮かぶ木の板に腰掛けた少女たちは一気にざわついた。
以下に挙げるのがみちるの語った仮説である。
うさぎたちが遺跡平原で対峙したゴア・マガラは、妖魔でないもう1頭のゴア・マガラだった。
ミメットが妖魔化ゴア・マガラを率いてバルバレへ進撃しようとしていたところにこれが乱入、妖魔化生物たちを軒並み排除してしまったのだ。
ティガレックスはその戦いに巻き込まれるなどして両者のウイルスに感染。保菌したまま雪山へと渡った。
その体内で、突然変異体として生まれたのが新型妖魔ウイルスである。
新型妖魔ウイルスを宿したティガレックスはセーラー戦士たちの手によって葬られた。
デス・バスターズは遺体に残存したウイルスを、妖魔のゴア・マガラに掠め取らせたのだ。
「この前、ユージアルがゴア・マガラを『厄介なお兄ちゃん』と呼んでいたものでね。妖魔ウイルスと狂竜ウイルスは、いわば仲の悪い兄弟のような関係ではないかしら」
「……じゃあ、デス・バスターズはその
確認するようにうさぎがみちるに問うと、彼女は黙って頷いた。
衝撃だった。
だが、彼女の言っていることに大きな矛盾はない。それなら、ブラキディオスが妖魔化したウラガンキンに襲い掛かったことも説明がつく。
「だとすると、本当の『金の竜』って──」
そのイメージはすぐに、一つの像へ結びついた。
居ても立っても居られず、うさぎと美奈子が共に拳を握って立ち上がる。
「大変よ、一刻でも早く何とかしないと!」
「そうね! これ以上奴らの思い通りにはさせないわ!」
「それでどうする?」
使命感に満ちている2人に唯一、疑義の視線を投げかける存在がいた。
精悍な金髪の麗人、天王はるかだ。
彼女はインナー姿でシャツを羽織り、ベッドに腰かけながら潮風に当たっていた。
「まさか並みいる妖魔をすべて、僕たちだけで迎え撃つというつもりか?」
非難の光を帯びた青い眼差しに、美奈子はむきになって反論する。
「とにかく東へ行かなくっちゃ! 細かいこと考えるのはそれからよ!」
「東の何処へだ」
言葉を突きつける、はるかの冷静な瞳の色は変わらない。
「僕たちは、妖魔たちがどこを目指してるかすら分かってすらいないんだ。もし無駄足を踏んだらどうする? 」
「う、うぐぐ……」
結局うさぎと美奈子は何も言い返せず、言い淀むしかなかった。
「あ、あのー、実はもう一つ伝えたいことが……」
「なんだ、アイシャ」
はるかが答えると、彼女は2通の封筒を取り出した。
「手紙?」
「はい! 一方は差出人がないんですけど、もう1通は結構凄そうな人ですよ!!」
「えっ、誰、誰?」
うさぎと美奈子はすぐにそちらに興味を引かれ、アイシャへ駆け寄る。
彼女らが差出人名のある方を受け取り裏面を確認した途端、うさぎたちはわあっとどよめいた。
「筆頭リーダーさんからだ……!」
彼はかつてバルバレを共に救ったエリートハンター集団『筆頭ハンター』の1人だ。
うさぎは懐かしそうに顔をほころばせながら封を開ける。
「久々だけど、どうしてるのかな~?」
「もし彼女出来てたらあたしちょっとショック~」
「あたしも、なんだかんだ言ってやっぱりねぇ……」
美奈子とまことは、前の色恋沙汰を引きずって不安がっている。
「……さっきまでの真剣な空気が台無しだな」
白猫のアルテミスはそう皮肉り、はるかとみちるは苦笑いを浮かべる。
しかし、うさぎの仲間たち、ちびうさも含め6人の少女たちが中身を読み始めると、段々と視線に真剣味が増していく。
「え……これって!?」
「どうしたの、貴女たち?」
「とにかく、読んでみてください!」
レイが、手紙を急いではるかたちに見せる。
彼女たちも、内容を確認するうちにうさぎたちの反応の理由を知ることとなった。
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バルバレでの魔女ミメットによる洗脳騒ぎは、世界各地のハンターズギルドに衝撃をもたらした。
いかにハンターたちが発展した狩猟技術を持ってても、それを纏める組織たるギルドが機能不全に陥れば何の意味もなさない。それがこの事件で証明された。
そういうわけで、専ら妖魔化生物を追っていたハンターたちの関心も妖しき力を使う『魔女』に寄っていった。
筆頭ハンターたちが第二の目標たる『妖魔ウイルスを操るゴア・マガラ』の調査を依頼されたのは、うさぎたちがユクモ村に滞在していた頃である。
ゴア・マガラの生息できる地域はくまなく調査した。
あらゆる可能性を潰した末、真相に迫るにおいて有力な候補に挙がったのは──
東の山々を超えた先にある場所『天空山』。
彼らは迷わず、そこに向かった。
しかし、調査は早々に袋小路に迷い込んだ。
数か月に渡ってあらゆる知見から検証しても、本当に草一本に至るまで怪しい兆候や異変は全くと言っていいほどなかった。
それでも彼らが諦めなかったのは、筆頭ハンターの1人、筆頭ガンナーの発言があったからだ。
「たくさんの目が、この山を見ている」
理由を聞かれても、彼女は「勘よ」としか答えない。それを説明できる具体的な手段もない。
筆頭リーダーは彼女の言葉を信じているが、彼らの属するバルバレギルドではそろそろこの地域の調査を打ち切るべきではと言う者も現れ始めている。
現に愛想をつかしてバルバレへ帰る人員が1人、また1人と増え、今では彼の弟子とベテランのランス使いを合わせ4人しか天空山に残っていないというのだ。
彼らは一心の思いで、関係の深い──かつてうさぎたちとも親交を深めた──『我らの団』団長を通じてこちらにこの文を送ってもらうことを決めた。
この文を送る自体がこちらの調査を邪魔しかねない行為であり、説得するには根拠も薄すぎることは理解しているという。
『だとしても』と文は続いた。
『もし君たちが少しでも興味があるのならば、いつでも我々は君たちを迎える用意がある』
そして手紙の最後は、こう締めくくられてあった。
『判断は君たちに任せよう。もし来るのならば、天空山近くのシナト村で待つ』
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「天空山……」
ちびうさが、ぼそりと呟く。
「そうよ! ゴア・マガラは大人になるとそこにある『禁足地』に行くんだって、前にソフィアさんから聞いたわ!」
彼女の提言は、一気にセーラー戦士たちの目を覚まさせた。
「もし、デス・バスターズが妖魔化したゴア・マガラを最大級の妖魔に育てあげようとしているのなら……!」
レイが言葉を継ぐ。
いま、エナジーを大量に貯め込んだ妖魔化生物たちが、その地に一斉に向かっているのなら。
「奴ら、妖魔たちを集めてゴア・マガラにエナジーを吸わせる気なんだ!」
まことの言葉に、少女たちは頷いて同意を示す。
「天空山……行くしかなさそうね!」
うさぎが結論が決まりかけたその時だった。
「ちょ、ちょっと盛り上がってるとこ申し訳ないんですがー!!」
大勢の人間に紛れて、アイシャがぴょんぴょん飛び跳ねる。
その指には、一つの封筒が未だに挟まれていた。
「忘れないで下さい、あともう1通の手紙が来てますよ! はるかさんとみちるさん宛てです!」
完全に存在が忘れられていた。
一同はやっとそのことに気づく。うさぎは慌ててアイシャの手から手紙を受け取る。
「あ、あははそうだったそうだった!」
「はるかさん、みちるさん、知り合いなんていましたっけ?」
レイがはるかに渡しつつ聞いてみるも、彼女らはいまいちピンと来ていないようだ。
「いや……この村以外にはいないけど」
アイシャの言った通り、手紙に差出人名はない。
しかし、宛先は確かに『天王はるか 海王みちる 様』と丁寧に書かれていた。
「あっ、もしかしたらご家族かご親戚からかも知れませんよ!? もしかしたら、あと少しで感動の再会が……!」
事情を知らないアイシャは勝手に瞳を煌めかせ、彼女だけで盛り上がり始めていた。
しかしその反応とは真逆に、封筒を見つめるはるかの目つきは剣呑になっていく。
「いや、ありえない……絶対にありえないぞ、そんなことは……!」
少女たちの間で、戸惑う視線が交差する。
ならば、これは一体誰からの手紙なのか。
そんな疑問が当然起こる。
沈黙のなか、恐る恐る、封を開ける。
中身を見た途端、一同の表情は緊張感あるものに変わった。
というわけで、3編終盤に向けての間話でした。
『金の竜』の正体、人によっては意外だったか予測の範囲内か。
妖魔ゴア・マガラ及び妖魔ウイルスの性質は、カマキリの腸に寄生して水場に誘き寄せ、溺れさせることで繁殖に繋げる寄生虫「ハリガネムシ」にヒントを得ました。
遂に次回より、決戦が始まります。