セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて 作:Misma
魔女の手によって妖魔となった砂漠の暴君、ディアブロス。
彼が新たに身につけた、強烈な咆哮によって動きを止めた相手に凄まじい破壊力の突進を見舞う技──
『咆哮突進』。
ディアブロスは、これを理論で理解したのではない。
かつて自身の咆哮を受けた敵が竦みあがって動きを止めたのを見て、考えるよりも前に身体が飛び出したのである。
かくしてそれは、因縁の相手である2人のセーラー戦士に対しても成功した。
彼は丸太のように太い脚で砂上を滑り止まり、静かに振り向いて砂塵のなかにあるべき敵の姿を探す。
セルレギオスの背に跨りながらその光景を高みから見物するユージアルは、嬉しさのあまりガッツポーズを決めた。
「素晴らしいコンボね! これで流石の奴らも!」
「結局、また使ってしまったな……」
ユージアルの眼下から凛々しい声が聞こえた。
「え?」
砂塵は風に運ばれて消えてゆく。
その中に人影が2つ。
「この無骨な盾を、身を護るためだけに……」
白い騎士のような防具を着た女性、天王はるかは、セーラーネプチューン……またの名を海王みちるの前で腰を落とし、縁に刃を備えた盾を構えていた。
チャージアックス。別称『盾斧』。
剣と盾のセット、すなわち片手剣のような風貌をしている。鋼鉄によって鍛えられ、竜を象るギルドの紋章があしらわれたその武器は、盾斧のなかでも『精鋭討伐隊盾斧』と呼ばれるものだ。
「あら。私を護るためではなかったの? 残念ね」
「失言だったな。代わりに、これから危ない時は迷わず僕に隠れろ」
相方の言葉に応えつつ、はるかは立ち上がって振り向く。
妖魔ディアブロスの姿は、既にそこにはない。
代わりに、向こうの地表が砕け、煙をあげているのが晴れてゆく視界の中で分かった。
「ということは……」
はるかは足元の大地へと視線を向けて独り言ちると、再びネプチューンの前に出て盾を構える。
砕けた地点から砂塵が舞い上がり、彼女たち一直線に向かう。
はるかが盾を持つ手に力を込めた瞬間、目前の大地が爆発。
砂を巻き上げ、剣山のような異形の右角が姿を現した。
「そう来ると思ってたよ」
衝撃を受け流してから、はるかは剣を後ろ手に挑みかかる。
ディアブロスは斧のような尻尾を横にぶん回すが、その隙間をかい潜って剣を叩きつける。
当たったのは下腹部だ。剣の軌跡は確かに相手の甲殻を削り、傷をつける。
「では私もそろそろ、装いを変えさせて頂こうかしら」
海王星を守護に持つ戦士は自身を光で包み、海竜の蒼い鎧を着る少女、海王みちるの姿に戻った。
彼女が持つのは、水獣ロアルドロスの素材を用いて作られたスラッシュアックス、『スプラックス』。
みちるは爪の装飾とスポンジ状の素材が刃を覆うその斧を振り回し、首の甲殻に数度叩きつける。
見かけ以上に大量の水を含んだその武器は、振るう度に強烈な水を噴き出す。
ディアブロスは忌々しげに唸り、彼女に首を伸ばして鋭い歯で噛みつこうとした。
が、みちるは海面のように波打つ髪を靡かせると、横にステップを踏んで華麗に回避する。
「なんだと……前に砂原にいた時は、武器など使っていなかったのに!」
上空に留まるユージアルの表情には、明らかに戸惑いと焦りが浮かんでいた。
それを他所に、はるかとみちるは妖魔ディアブロスの脚を、腹を、首を乱れ斬る。
「僕たちが、ずっと前のままだとでも思ったかい?」
「私たちだって、少しでも本物の狩人らしく見せようと日々努力してるのよ。貴女の見えないところでね」
妖魔ディアブロスも、セーラー戦士たちが狩人の武器を使うことを想定していなかったのだろう。
苛立ったように鳴いたのち、双角を左右交互に豪快に薙ぎ払う。30m強の図体にものを言わせ、2人纏めて吹き飛ばす魂胆だ。
だがはるかは、横薙ぎに飛んできた異形の右角を冷静に受け止める。
複数の切っ先が盾に引っかかったことで金属特有の嫌な高音が鳴ったが、そこからがら空きとなった脇腹へまっすぐ斬りかかった。
いま、盾ははるかにとって大きなアドバンテージとなった。
相手の攻撃に対する択として、セーラー戦士の状態では回避のみに限られていたのに対し、ここからは盾によるガードが加わる。
一旦攻撃を近くで受け止め、その直後に反撃するという荒業が可能になったのだ。
変化が生じたのは行動面だけではない。
衝撃によるものか、はるかの持つ剣の柄付近についたビンに入った薬液が火花を散らし、蒸気を上げ、沸騰を起こしていた。
「そろそろ『チャージ』か」
それを視界に認めたはるかは突如、剣を盾の上部に開いた穴に
ガシャリ、と機械的な接続音が鳴り、蒸気が盾の隙間から排出される。
それが何を意味するかなど知る由もなくディアブロスは尻尾を叩きつけにかかったが、はるかは横にステップを踏んで避ける。
彼女と入れ替わるようにみちるが前に出た。
斧状の尻尾の付け根に、これまた両刃斧を斜めに撃ち込む。
水獣ロアルドロス特有のスポンジ状のたてがみから水が噴き出し、水圧の力により斬撃を補強。
ディアブロスはこの属性が苦手らしく、驚いたように尻尾を引っ込めた。
「はるか!」
「……よし、反撃開始といこうか!」
はるかは盾を後ろにして、その中央上部にある『鞘』に剣を再び挿しにいく。
真っすぐ突き入れると、さっきの『チャージ』よりもっと強く、剣を力を込め押し込む。
すると自動的に盾が左右対称に割れ、更に盾内部に隠れていた長柄がガチャッと音を立てて伸長。
刃のついた盾はその柄の先端へとスリットを通って滑り、火花を立てて
結果、地面に刃を突き立てて現れたのは巨大な両刃斧。
これぞ、チャージアックスが『盾斧』の別称を有する所以。
盾が展開してひっくり返ったことで、巨大な斧刃の形を成したのだ。
「はあああっ!!」
そこから横に振り回し、首に渾身の力でブチ当てる。
無論、そんな攻撃だけでは妖魔ディアブロスの身体はびくともしない。
しかし同時に、衝撃を受けて盾に内蔵されたビンからエネルギーが解放され、ディアブロスの体表で爆発が起こる。
先ほどの『チャージ』行動は、このためにあったのである。
ディアブロスは異形の右角を震わせ、地盤を抉って反撃しようとする。
しかしその背後から彼の左脚に、水飛沫を纏った斬撃が飛ぶ。
「私のこともお忘れではなくって?」
そこには、スラッシュアックスを構えたみちるがいた。
取っ手の近くにあるビン内部にある液体が、激しく光っている。
彼女ははるかが攻撃している間も攻撃を行い、同じくビンから供給される薬液を反応させていたのだ。
みちるは剣斧を振りかざしながら、はるかと同じように、スイッチを押下する。
斧刃の片方を成していた細い刃が滑り、軸を中心に半回転。はるかが行ったのとは真逆に、斧から剣の状態へと変化した。
彼女は駆け寄ると同時にこの変形をスムーズに行い、属性のエネルギーを漲らせた刃を振り下ろす。
変形と攻撃を同時に行う、いわゆる『変形斬り』である。
そこで起こった水属性エネルギーの奔流は、斧の状態とは比較にならなかった。
休むことなく横斬り、右斬り、2連斬り。
先ほど刃に十分溜め込まれた薬液の揮発により、明らかに先よりも激しい水の爆発が乱れ起きる。
「たああっ!!」
攻撃の締めに、斬りつけつつ回転して跳躍、一瞬宙を舞ったのち、着地して振り返りざまにもう一度斬りを放つ。狩人の間では『飛天連撃』と呼ばれる技である。
そして遂にそこで、左脚に蓄積したダメージによりディアブロスの巨体を僅かに怯ませた。
はるかは、みちるが作ってくれたその隙を見逃さない。
手元に盾の刃を回転させつつ引き寄せ、剣と繋げる。
取っ手近くのスイッチを押し、盾の内部でビンに溜め込まれたエネルギーを圧縮、斧刃が一時的に稲妻のような光を漲らせた『高出力』の状態に持ってゆく。
「はあああああああっ!!」
頭に向かって斜めに叩きつける。
斬りつけられた異形の右角の傷口から、薬品の揮発が連鎖。
立て続けの凄まじい爆発が、一挙に複数本に伸びていた角の先端を弾き飛ばす。
『高出力属性解放斬り』。
チャージアックス固有の大技の一つである。
「グオオッッッ……」
またしても、右角をやられた。
しかもそれに伴う激しい衝撃に、妖魔ディアブロスの首が揺らぐ。
さっきまでは余裕そうに見物していたユージアルも、ここまでくると動揺を隠しきれていなかった。
「くっ……ダイモーン! ここは退きなさい、態勢を立て直すのよ!」
ユージアルはセルレギオスの背中で身を乗り出し、大声でがなり立てた。
急いで先ほど興奮させるために炎を噴かせた掃除機型の装置を取り出すと、今度は青みがかった煙をディアブロスに向かってばら撒いた。
恐らくは、彼の鎮静を促す効果があるのだろう。
が、しかし。
「ヴオ゛オオオッッッ、ヴオ゛オオオオオオオオ!!!!」
ディアブロスは一切ユージアルに見向きもせず、角を振りかぶった。
「な……なにっ!?」
次の狙いは、みちるだ。
「あいつの言うことを聞かない……!?」
「どうも、予想外の事態のようね!」
みちるは剣斧を持ちながら転がって、大地を穿く左角から逃れる。
だが、攻撃はそれで終わりではなかった。
ディアブロスは左角を引き抜くと、流れるように先程と同じ構えを取った。
2連続で突き刺してくるつもりだ。
「みちる!」
彼女は盾という防御手段を持たないにも関わらず、未だにディアブロスの左脚のすぐ傍に立っている。
このままでは、2回目の突き刺しに巻き込まれる。
はるかは、慌てて斧を盾に戻して間に分け入ろうとした。
だが──
「いえ、大丈夫よ。はるか」
なんとみちるはその場に留まり、屈みながら、スラッシュアックスを真っ直ぐ上空へ突いて震わせていた。
「見つけたわ! この恐るべき攻撃の隙を!」
双角が
彼女の目の前に腹がやってくる。
ちょうどその時、剣身から噴き出す蒸気が臨界に達した。
マリンブルーの稲光が放射状に閃く。
刃に溜まった薬液が大爆発を起こし、飛び出した水流が刃となってディアブロスの腹に突き刺さる。
「ガアアアァァァッッッ!?」
『属性解放突き』のフィニッシュだ。
確かにそれは、暴君の身体に少なからぬダメージを与える。
みちるは反動を身体を転がすことで殺し、確信を持った目つきではるかに振り向いた。
妖魔ディアブロスの突き刺しには、殺傷力を増すためか大きく踏み込もうとする癖があった。
みちるは、2回目に振りかぶった時のディアブロスの脚の位置から、次の突き刺しが
だからこそ、この大技を大胆に放つことができたのである。
「なんで……なんで、こんなに、思い通りにならないのっ!?」
ユージアルがセルレギオスの背に嘆きの拳をぶつける間、はるかは盾斧を再び構える。
「どうやら、みちるに一歩先を行かれてしまったみたいだ」
痛みに大きく仰け反りはしたが、ディアブロスの瞳から戦意は全く消えない。
それに答えるように、はるかは再び盾から引き抜いた剣を構えて走り出した。
みちると視線を交わしつつ、ディアブロスの動きをよく観察する。
相手の手持ちの技は粗方把握した。
後は、僅かな隙を見つけて攻撃を積み重ねるしかない。
ときおり肉薄し、ときおり離脱する。
天から降り注ぐ強烈な日差しが2人の白い肌を焼くが、そんなことに気を取られている暇はない。
双角が、尻尾が、巨体そのものが、今にも彼女たちを葬り去ろうと砂上を全力で躍動してくるからだ。
「狩人というのは、こういうものなのか」
一発でもまともに食らえば、立っていられるか怪しい。
迫りくる圧倒的暴力の塊を避け、時には受け止める。一瞬の油断も許されない。
「お団子……僕にも、君たちの見てる景色が少しだけ分かった気がするよ」
牽制斬り。溜め二連斬り。サイドステップ。チャージ。変形斬り。属性解放斬り。高出力属性解放斬り──
斧振り回し。強化叩きつけ。変形斬り。回転回避。二連斬り。左斬り。二連斬り。属性解放突き。属性解放突きフィニッシュ──
暴君の角に、首に、脚に、腹に、傷が増えていく。
それでもディアブロスの眼光の鋭さは衰えることなく、ひたすらにはるかとみちるを捉え続ける。
ユージアルがいくら叫んでも、鎮静のための煙を撒いても勝負は止まらない。両者の対決はますます白熱してゆく。
不思議なことに、デス・バスターズの奴隷として育てられたディアブロスの眼にはいま、かつてあった生気というものが蘇り始めていた。
あらゆるところに傷を負って痛いはずなのに、怒っているはずなのに。
さも、どこかで彼自身がまるでこの時を待ち侘びていたように。
この戦いを愉しむかのように。
異形の角を、槌か斧のような形をした尻尾を、思う存分振り回す。
本能に任せるがままに地盤を抉り、搔きまわし、破壊する。
「強くなったな、お前も──」
角の一撃を受け止めつつ、はるかはそう呟いた。
互いの視界の中にはもう、戦う相手以外入ることはない。
砂も、空も、太陽も、
風音も、女の声も、竜の宙を羽ばたく音も、
彼らにとっては存在しないも同じ。
彼ら以外のあらゆるものは、彼らの死闘を演出する舞台装置に過ぎなかった。
今、地上で行われる命のやり取りだけが、別世界として周囲と切り離されて存在していた。
その世界を見て、ユージアルは血が出そうになるほど唇を嚙み締めていた。
自分の野心を叶えるために、あらゆる労力と時間をかけて作り上げたこの舞台。
それそのものに、彼女は「お前は要らない」と、無言でそう告げられていた。
彼女はいま、完全な孤独だった。
敵しかいない組織内に飽き足らず、自分が生んだ作品からさえも、自分という存在が完全に弾かれてしまったのだから。
「…………くそっ!!」
ユージアルは高級耳栓が耳を塞いでいるのを確認した。
それから彼女はセルレギオスの背を叩き、眼下のディアブロスの頭上へ飛んでいくと、わざとその頭が自身の陰に入るようにした。
震える肩を抑え、努めて冷静な顔を作りながらも、声は威圧するように低くする。
「聴きなさい、私のダイモーン。誰のおかげでその力を得られたと思ってんの? そろそろいい加減にしないと怒るわよ?」
2人と1頭だけだった世界に、彼女は無理やり割り入ってきた。
はるかとみちるは攻撃を中断し、ユージアルを見上げる。
ディアブロスはちらりと『主』を見たのち──
すぐに、そっぽを向いた。
まるで「お前に構っている暇はない」とでも言いたげに。
ユージアルの瞳に、憎悪と怒りと屈辱が一斉に湧き渦巻いた。
「退けって言ってる私の声が聴けないの!? あんたは私に使われるダイモーンなの! 言うこと聴きなさいよサボテンしか食えない癖にッッ!!!!」
遂に、彼女は我慢の限界を迎えた。
再び背から取り出した掃除機型の装置から、妖魔ディアブロスの背に火炎放射を直接浴びせかける。
「これまで食べたい分だけサボテンを分けてやってたぁっくさん優しくしてきてあげたつもりだけど、どうやら直接の痛みでないと分かってくれないようだわ! 所詮は畜生の類ってことねッッ!!」
身体を炎に包み込まれ、驚いたようにディアブロスは低く呻く。
はるかとみちるは『主』であるはずのユージアルのこの行いに呆然としていた。
容赦なく火炎放射を浴びせる彼女は、狂気じみた高笑いを上げていた。
ブチン……
と、何かがはち切れる音がした。
それはユージアルだけでない、はるかとみちるの耳にも届いた。
妖魔ディアブロスは、『主』に再び視線を向けた。
思わず彼女は肩を浮つかせ、火炎放射を停止する。
背中の甲殻は一切燃えることがなく、ただ焦げるのみで終わっていた。
「な、何だ、分かってるじゃないの。ほら、ここはさっさと……」
直後、ユージアルは言葉を失った。
どくん、と唸る鼓動音と共に、青みがかった身体に赤い紋様がはっきりと浮かび上がったのだ。
血流量が増加したのか、それは翼、顔、角、あらゆる部位にまで浸食する。
更にはそこから蒸気が噴き出し、立ち昇ってくる。
妖魔ディアブロスは息を吸い、ゆっくりと首を持ち上げる。
それを見たはるかは、反射的にみちるの前で盾を構える。
ユージアルも本能の部分で危機を察知したか、急いでセルレギオスの背を叩いて上空へ飛ばせる。
眼下では既に妖魔ディアブロスは天を見上げ、首を曲げかけていた。
「…お、落ち着け、私には高級耳栓が…」
彼女は指で耳栓の存在を触って確かめ、安心を得ようとしていた。
デス・バスターズ幹部として、このくらいの準備は欠かしていない。
だが、その表情には『怖れ』が隠しきれていなかった。
どれだけ妖魔ウイルスがこの世界の生物の絶対服従を約束していると納得しても。
どれだけあの生物がサボテンを食ってばかりの脳筋草食野郎だと考えようと。
どれだけすべては私の駒に過ぎないと、自尊心と優越感を感じようとしても。
一瞬こちらを見た生物の赤い瞳が──
「お前を殺す」
そう宣言している事実は、誤魔化せなかった。
「「「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」
絶叫は聞こえなかった。
耳栓が破裂し、ユージアルの鼓膜を破ったからだ。
はるかとみちるは、もはや咆哮ではない空気の爆発に、盾の後ろで必死に耐える。
セルレギオスも混乱し、身体を揺さぶる。
脳を直接揺さぶられたユージアルは、踏ん張ることもできず落下する。
間もなく、視界を暗闇が覆った。
いったい、どれくらいの時が経っただろう。
ユージアルが起き上がって目を開けると、正面奥に妖魔ディアブロスがいた。
言葉を失う。
耳を塞いでいたはるかとみちるは目の当たりにした。
咆哮が鳴り止まぬうちに身を翻し、尻尾を鞭のように地へ叩きつけた妖魔ディアブロスの姿を。
ついさっきまで奴隷だった、砂原を破壊し尽くす飛竜の姿を。
彼の視線は既に、ある方向を向いている。
デス・バスターズ幹部、ユージアル。
むざむざと身を差し出してくれた、愚かな『主』の青ざめた顔一直線に。
「あ……」
「ア゛ア゛ア゛アアアッッッッッ」
太い脚が、地面を蹴り出す。
「……そんな……まさか……」
その光景を前にしたユージアルは、乾いた笑いと共に声を絞り出した。
笑ったというよりは、笑う他なかったというべきか。
彼女は、迫りくる沈黙に向かって掌を伸ばす。
「こ、この私が、デス・バスターズ幹部のユージアルが、こんなところで死ぬわけがっ」
セーラー戦士とこの世界の人々を幾度も危機に陥れてきた、赤き『魔女』は──
急加速した巨影に、呆気なく掠め取られた。
野生の狂気は遂に、『魔女』を超える。
(ユージアル先輩、2年間お疲れ様でした)