セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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3編最終話です。


すべてが終わった後に

 

 我らの団ハンターが初めて『美少女戦士』なる存在と直接話し合ったのは、シャガルマガラを退けてシナト村に帰ってきた時が初めてだった。

 

「ハンターさん、ご苦労だった」

 

 シナト村に戻ると、まず団長が肩を叩いて労ってくれた。前回と比べてしわが増えた彼の顔を見つつ、前回ここに来た時から経った年月を実感する。

 

「また、帰ってきてくれたんですね」

 

 次に、立ち上がって涙ぐみつつ手を繋いできたのは、看板娘のソフィア。いつもは自分の安否よりは狩ったモンスターに興味津々な変わり者だが、時にこういう表情をしてくるのだから憎めない娘だ。

 

「……久しぶりだ。お前の腕はあの時から……些かも衰えていないようだな」

「ニャハ。旦那、()()()()はどうするニャルか。お赤飯にするニャル。それともちらし寿司ニャル」

「カッカッカ! こういう雰囲気もいったい何年振りかのう!」

 

 いつも寡黙な加工担当、舌足らずなアイルーの料理長、飄々とした竜人商人。そして、一時避難から戻ってきて安堵しているシナト村の人々。

 どの面々も、まったく変わっていなかった。唯一の心残りは、加工屋の手伝いの娘と会えなかったことか。

 

 そして、ハンターはいよいよ今回の立役者と対面する。

 

「初めまして、我らの団ハンターさん! この前はありがとうございました」

 

 上位ハンターとしてはかなり若い、5人の少女たちが出迎えてくれた。

 お辞儀をしたのは、金髪のツインテールを結った少女。名はうさぎというらしい。

 明るい笑顔が似合う少女だ。シャガルマガラに負わされた傷もすっかり癒えたらしい。

 

「『まつ毛のハンター』にしちゃあ、そんなにまつ毛長くないわねぇ」

「やぁだ美奈子ちゃん、まさかあの似顔絵今でも信じてたの!?」

 

 うさぎと同じ金髪の少女に、強気そうな黒髪の少女が信じられないという顔をする。

 

「あ、あなたがあのパンツ一丁で古龍を撃退した……もしかして、今回もまさか……」

 

 一方、栗色の髪をした最も背の高い少女は頬を赤らめつつ呟いた。一応事実ではあるが、こうやって何年も前の話が広まってしまうあたり、当時の自分の向こう見ずさにはため息をつく他なかった。

 

「まこちゃん、さすがに失礼よ!」

 

 青い短髪の少女が肩を引いて叱る様子を見るに、恐らく彼女は日常的にこの仲間たちに振り回される側であることが窺えた。

 

 まったくもって、年頃の少女らしい騒がしさである。ハンターからすれば、とても彼女たちが特別な使命を帯びた異界の戦士であるとはにわかに信じられない。

 だが実際、この少女たちはバルバレを救ったばかりか数多の妖魔化生物を倒し、この事件の真実を突き止め、挙句の果てにはイビルジョーと妖魔ゴア・マガラをも同時に討ち破った、確固たる猛者なのだ。

 

 改めてハンターがそのことに関して感謝を伝えると、うさぎは顔に神妙な色を浮かべ、謙虚にも首を横に振った。

 

「……あたしは本当に何にもしてません。あの子を追い詰めたのはシャガルマガラだし、あなたに助けられなかったら、今頃……」

 

 仲間たちはもの思わしげにうさぎを見つめた。彼女がこんな表情をするのは珍しいのであろう。

 

「むしろ、初めて古龍を見て分かりました。この世界には、遥かにこっちの想像の上を行く生き物がいるんだって」

 

 彼女の心情は、我らの団ハンターにも痛いほど理解できた。

 古龍を初めてその目で見た者の典型的な反応だ。大自然の理を体現する彼らの威厳と強大さに徹底的なまでに打ちのめされ、自らの卑小さを、無力さを実感するのだ。

 

 しかし、彼女が決してそのことで悔やんだり、今までの自分を卑下する必要はないと感じていた。

 

 古龍に初めて接敵したハンターは、大抵3通りに分かれる。

 精神的ショックから立ち直れず突っ立ったまま死ぬか、無謀と挑戦をはき違えて死ぬか、それともボロ雑巾のように地面に転がって生き残るか。

 うさぎが古龍を前にして五体満足で帰ってこれたことは、それだけでも十分に褒め称えられるべきだった。

 

 そもそも彼女たちがいなければどうなっていたか。

 バルバレは闇の組織のテリトリーと化したうえに妖魔化生物が天空山から突然湧き出して、あっという間に全世界を席巻していただろう。

 これは単なる幸運ではない。

 すべてはこの少女たちが真実を追い求めたからこそ起こせた、必然の結果なのである。

 

 だからハンターは、美少女戦士たちにその事実を伝えた。

 彼女たちの果たした役割は、自分たち自身で思っているよりずっと大きいものなのだと。

 それを聞くと、うさぎたちの目元も嬉しそうに緩まった。

 

「……ほんとですか!」

「ず、図に乗ったら駄目よ、みんな。この人に比べたらあたしたちなんてぺーぺーもいいとこなんだからね!」

「なーによー、レイちゃんだってほんとは嬉しい癖にぃー」

 

 レイと言うらしい黒髪の少女は謙遜してみせるが、うさぎは意地の悪い顔でその頬を指でつつく。どうやら、ハンターの心配は杞憂だったようだ。

 

「……友よ。相変わらずだな」

 

 少し遅れ、筆頭ハンターのリーダー、ジュリアスがシナト村の門を通って帰ってきた。

 それを見た途端、「あっ、リーダーさーん!」と身長の長い少女のまことと、金髪を後ろでリボンで結んだ美奈子が黄色い声を上げて駆け寄った。

 

「ああ。君たちも無事で何より……」

 

 どうやら彼は彼女らのお気に入りらしい。元来から他人と関係を築くのが苦手な男だが、彼女たちとの共闘で少しは話せるようになったようだ。

 

「終わったようだな。君の戦いも」

「今回も、あなたのお人好しさが役に立ったわね」

 

 頑強な肉体に黄金の盾と槍を背負う男、筆頭ランサーと、狩人の勘と判断力に優れる筆頭ハンターの紅一点、筆頭ガンナーも帰ってきた。

 ハンターがおかえり、と呼びかけると、少女たちも彼らの方を向いて喜々とした表情を浮かべた。旧知の仲というのは本当のようである。

 

 我らの団ハンターは今回、筆頭ハンターと共闘して妖魔化生物を少しでも食い止めようとしていた。

 しかし、途中で筆頭ガンナーは空の色を見たかと思うと『禁足地に向かった方がいい』と言ったのである。それに思い切って従ったというのが、先の彼女の言葉の意味だ。

 

 そこで、我らの団ハンターはある一つの疑問を呈した。

 妖魔化生物は今までに類を見ないほど群れを成していた。彼らもベテランとはいえ、これだけの短時間ですべての群れを沈められたとは思えない。

 いったい何の魔法を使ったのかと聞くと、「使ったんじゃなくって勝手に起きたのよ」と筆頭ガンナーが腕を組みつつ答えた。

 

「こちらで相手取っていた妖魔化生物が突然、倒れ始めてね。恐らく主の喪失とシャガルマガラが一帯にばら撒いた狂竜ウイルス……両方が同時に作用したのだと思うわ」

 

 彼女は天空を見上げていた。薄い巻雲しか見えない、晴れ渡った空だ。

 筆頭ランサーも、彫りの深い堅そうな顔をにこりとさせた。

 

「時に人を脅かしたかと思うと、助けてくれたりもする。まったく自然とは気まぐれなものだな」

 

 ハンターは頷いたものの、これですべてが丸く収束したとは思っていなかったし、それは筆頭ハンターたちも同じ気持ちだろうと考えた。

 シャガルマガラが邪魔に思ったのか、妖魔ゴア・マガラの遺骸は戦いの最中にどこかへ棄てられてしまった。これからギルドは、血眼になってそれを探すことになろう。

 ハンター自身も、これからまだシナト村に残る。

 シャガルマガラのばら撒いた狂竜ウイルスによってほとんどの妖魔化生物は駆逐されたが、まだ僅かながら生き残りがいるからだ。

 

 とまぁ、いろいろな課題は山積みなものの──

 まずはこの『妖魔事変』が一段落ついた、ということは間違いなかろう。

 

「よかったです。みんながこうやって、また出会うことができて」

 

 うさぎの言葉に、ハンターは深く頷いた。

 その日の夜は、料理長が腕によりをかけて豪勢なフルコースを作ってくれた。

 事変に関わった中心人物たちばかり集まった夜の席は、話が止むことは決してない。

 この世のどれと比べても特別な一夜は、すぐに過ぎ去っていったのだった。

 

 翌日。

 早くも、別れの時が来た。

 

 少女たちが、南海の漁村『モガ村』にいる仲間に急遽帰って来るよう呼ばれたのだ。

 

「ごめんなさいっ! 内容はよくわかんないんですけど、すんごぉーく重要らしいんでこれにてお暇させてもらいます!」

 

 寝ぼけまなこのハンターたちに、手紙を持った美奈子が申し訳なさそうに掌を合わせて詫びた。

 かなりの急用らしく、すぐに飛行船に乗らねばならないらしい。ハンターは驚きつつも、了承した。

 最初から最後まで、慌ただしい少女たちだ。やはり、戦士に課せられた使命というものは一時の暇も許してくれないらしい。

 ハンターとしては彼女らの実際の剣さばきも見てみたいところだったが、わがままを通すわけにもいかない。

 

「それなら、我々の飛行船を使ってはどうだろう」

 

 筆頭リーダーがそう提案した。イサナ船に筆頭ハンターたちも乗せてもらえば、一隻余るのである。

 その案に全員が同意したことで、少女たちは晴れて超特急でモガ村へ向かえることとなった。

 早朝から昼にかけての荷物の入れ替えが終わり、いよいよ出発の時間となった。

 

「短い間でしたけど、とても楽しい時間でした」

 

 各々別れの言葉を言い終わったあと、最後にうさぎがハンターにそう話してくれた。

 

「ここで起こったことは、一生忘れませんから。……次はあなたに追いついて、一緒に戦えたら、なんて」

 

 笑顔で手を固く握り合ったあと、彼女は船に乗り込んで縁から上半身を乗り出した。

 係留ロープが切られ、飛行船は上昇を始めた。

 手を振り合う両者の距離は、ぐんぐんと離れてゆく。

 『我らの団』団長は帽子の鍔を上げて、下方の雲海に潜ってゆく船を見つめた。

 

「なぁ、ハンターさん。あの子たちもいつか、故郷に帰れる日が来るかなぁ。シャガルマガラやお前さんと同じように」

 

 来るだろう、とハンターは答えた。

 無論、これだけで終わらないかもしれない。

 しかし少女たちの瞳に宿っていたあの意志の強さは、どんなことがあろうと乗り越えてゆくと告げていた。

 我らの団ハンターは飛行船の気嚢が雲の中にすっぽりと消え去るのを見ながら、美少女戦士たちに待ち受けるこれからの前途が明るいことを願った。

 

──

 

「ハッピー・エーーーーンドゥッ!!」

 

 桟橋からモガ村に帰ってきたうさぎたちを、元気いっぱいな声が出迎えた。

 ベレー帽に制服を着た、モガ村の受付嬢アイシャ。彼女が、両手に持ったマラカスを掲げて振っている。直後、モガ村の人々があちこちから、太鼓やら琴やら笛やらを華やかなリズムで奏でながら躍り出てきた。

 

「え……なに……?」

「なーにぽけっとしてんですかぁ、みなさーん。妖魔ウイルスの根源も絶って、これで一件落着じゃないですか!」

 

 最初は戸惑っていたうさぎたちだが、人々の純粋な笑顔を見てようやく、自分たちのしたことに実感が伴っていった。

 

「そっか……あたしたちの話、こんな遠くにまで届いてたんだ!」

「うさぎ、おかえり!」

 

 うさぎが顔を輝かせていたところに、ふわりとしたピンクのツインテールの幼い少女が駆けてきた。

 

「ちびうさ!」

 

 彼女は少女の名を呼ぶと胸の中に受け止め、深く抱きしめた。

 

「あぁ、よかった! うさぎちゃん、本当によくやったわね!」

「ここ数日はもう大盛り上がりだったぜ!」

 

 後から額に三日月を持つ黒猫と白猫も海に浮かぶ木板の上を駆けてきた。

 

「あっ、ルナとアルテミスも! よかったわ、無事で……まもちゃんの具合は?」

「大丈夫よ! こっちに来て」

 

 ちびうさはうさぎを貸家の入り口へ連れていくと、外から覗かせた。

 ベッドには確かに、うさぎの愛する人が安らかに胸を上下させ、息をしているのが見えた。

 

「まだ起きないけど、傷はかなり治ってるわ。安心して」

「……看病してくれてありがとう。ほんとに、何事もなくってよかった」

 

 ずっと姿を見ていなくて不安だったのか、うさぎの目端からは勝手に涙が滲みかけていた。

 後を追いかけてきた仲間たちもそんな彼女を見て安心したようだったが、

 

「そーいえば、肝心のはるかさんとみちるさんはどこなのよ?」

 

 美奈子はきょろきょろとモガ村の広場を見渡す。

 そう、最も様子が気になる彼女たちがいない。そもそも今回、うさぎたちを急用だといって手紙で呼び返してきたのも他ならぬあの2人なのだ。

 

「実は、この前から観光客の人が来ててね。モガの森を見てみたいって言うんで、ちょうどいま、はるかさんたちが案内してるわ」

「観光客ぅ?」

 

 ルナの言葉に首を傾げるレイに、アルテミスが神妙な顔で話しかける。

 

「あぁ。一見親子連れみたいなんだが、顔をずっと隠してる妙な人でさ……かなりうさぎたちに会いたがってたぜ。あと、子どもの方は歳が近いちびうさと話してみたいってさ」

「へー。あたしと話したいだなんて、見る目あるわねその子!」

「えぇ……?」

 

 不可解そうにうさぎは眉をひそめた後、モガ村の裏手に広がる森を見つめ上げた。

 

「そうなんですよーっ!」

 

 そこに、アイシャがマラカスを掲げて突然割り込んだ。うさぎたちは驚いて反射的に飛びのく。

 

「ぜひ観光客さんへのアピールついでに、モガの森の丘へ行ってみて下さい! あっ、ついでにモガ村のアピールもして下さると助かります~!!」

 

 アイシャは未だご機嫌にリズムを刻み続けていた。

 

「あ、あはは、じゃあ、さっそく行ってきますー」

 

 久しぶりに浴びるこのモガ村の雰囲気に、うさぎたちは懐かしさと困惑を同時に感じていた。

 

──

 

 2人はすぐ見つかった。彼女たちはモガの森に入ってすぐ手前にある、大海とそこに浮かぶ岩礁を一望できる丘に佇んでいたからだ。

 

「はるかさん、みちるさん!」

 

 男のように短い金髪の麗人と、優美に波打つ海色のウェーブヘアーの麗人が振り向く。

 

「よかったです、2人とも元気そうで!」

「ええ……貴女たちもね」

 

 うさぎの呼び掛けにみちるは静かに微笑んで答えた。

 しかしその視線はどこか憂いを帯びているようだ。腕に巻かれた包帯が、かつての戦いの烈しさを物語っていた。

 はるかは何も言わず、流し目で見てくるだけだった。

 

「はるかさん……?」

「そこの人たちが、観光客の人だね」

 

 まことの一言が、うさぎの視線をはるかたちの傍にいる2人へと引き付けた。

 

 彼らは黙ったまま深くローブを被っている。

 身長差から見ると、彼らはアルテミスの言う通り親子連れに見えた。

 しかし、それにしては2人の間で会話が全くない。それどころか、はるかたちからも彼らに声をかける素振りもなし。

 非常に気まずい。

 まるでうさぎたちが話しかけるのを待っているかのような雰囲気である。 

 思い切って、うさぎは観光客の肩をつついて振り向かせた。

 

「あ、あのー、言葉、分かりますー? ああっ、もしかして緊張のあまり話せないとか!?」

「……やっと会えましたね、プリンセス」

 

 年上らしく落ち着いて、品のある日本語だった。

 ローブの下から、ピンクを暗くしたような色の瞳と口紅が覗いた。

 うさぎは驚きのあまり、一歩後ろに足を退いた。

 

「え、その声って……」

 

 『観光客』は、己の身から布を取り去った。

 その中から、褐色肌の女性が姿を現す。彼女の後方に、緑色の長髪が広がった。

 はるかとみちる以外の全ての少女たちの間に、驚愕と衝撃に満ちた。

 

「貴女は、せつなさん!? それに……」

 

 隣にいた少女も、布を脱ぎ去っていた。

 彼女を見たちびうさが、声を震わせつつうさぎの言葉を継いだ。

 

「ほたる……ちゃん!?」

「……ちびうさちゃん。また会えたわね」

 

 そのおかっぱ頭の儚げな美少女は、ちびうさを見て目を細めた。背はほたるの方が僅かに高いくらいか。

 2人はかつて、親友であった。しかしほたるはセーラー戦士としての務めを果たすために能力を使った代償で赤ん坊へと転生を遂げたはずだったのだ。

 

「い、いったい何でここにせつなさんとほたるちゃんが!?」

「砂原で会った時に言ったでしょう? この世界から出る目処は立っているって」

「あっ……」

 

 みちるの滑らかな言葉の返しで、うさぎは思い出す。そもそもはるかたちの使命は、うさぎたちを元の世界へ連れ帰すことにあった。

 

「そっか! じゃあ、はるかさんたちと同じようにあたしたちを迎えに来てくれたのねっ!」

 

 美奈子は喜々として叫んだ。やっと真のエンディングを迎えるのだと言わんばかりに、感激の涙を流したのだが。

 

「いいえ、多分それだけじゃないわ」

 

 突然の横槍に美奈子は勢いを削がれ、不満そうな顔で亜美に振り向いた。

 

「もーなんなのよー亜美ちゃん、せっかく今度こそ感動しかけてたのにぃ」

「だって、ほたるちゃんはセーラーサターン……破滅と誕生の戦士よ。非常に強力な彼女がいま、再び覚醒した理由は?」

 

 それをきっかけに、他のメンバーたちは感づいたようにほたるに視線を向ける。

 ほたるは、亜美の問いに答えるようにゆっくりと頷いた。

 

「その通りです。私たちはとある重要な使命を帯び、それを貴女方に伝えるためこの世界に降り立ちました。そして、ここにセーラー10戦士を集めたのです」

 

 ちびうさに対して見せた年相応の表情とは、まるで別人。いまのほたるは他ならぬ土星を守護に持つ戦士セーラーサターンとして、深遠な紫色を瞳に宿らせていた。

 

「重要な使命? いったい、どういうこと?」

 

 並々ならぬ雰囲気に、うさぎは前に進み出て聞いた。

 眼下に広がる海、その潮風に乗って遊ぶカモメを見ていたはるかが、腕を組みつつ振り向いた。

 

「お団子頭。前に言ったよな。遠くない未来、この世界を震源地に大きな災いが起こると」

「は……はい。でも、これでひとまず安心ですよね! あたしたちを生贄に捧げるなんていう、敵のでたらめな計画は失敗したんですから!」

「……計画は止まったが、災いが止むことは決してあり得ない。それが分かった」

 

 うさぎは時間が止まったように。

 

「実際に見た方が早いでしょう」

 

 せつなは光に身を包むと、冥王星を守護に持つ時空の戦士、セーラープルートへと変身する。

 彼女は召喚した白い杖を両手に握り、うさぎたちの目の前に差し出した。杖の先、ハート型の輪の中心にある赤い宝石から光が伸び、ドームのようなものを形成する。

 それは最初ノイズが酷く、なんの意味も持たないように思われた。

 

「これからお見せするのは、私が時空の門を通して見た未来の内容です」

 

 次第に、ノイズが消えていく。やがてそれは、街らしき風景を映し出す立体映像となった。

 街からは、灯りが消えていた。

 代わりに上空を征く一筋の光が、窓ガラスを紅く照らす。

 

 老若男女が瓦礫の上を乗り越え我先にと逃げ惑っている。

 彼らの頭上を飛竜の集団が列を成し、空を埋め尽くして飛ぶ。

 地上でも、人を追うように崩れ去ったビルの間を巨大な獣たちが埋め尽くし、駆けていく。

 その周りでは一つの動く影を中心に豪雨と嵐が舞い、道路も建物も巻き上げる。

 他の区では陽炎が噴きあがり、また一方の区では万物が時が止まったように凍てつく。

 また他方では地震と共に大津波が襲い、瓦礫を飲み込む。

 

 その光景を一言でまとめれば、『地獄』だった。

 

 画面は烈しい点滅を迎える。

 一際高い四角錐型の鉄塔に、巨雷が落ちたのだ。

 それは他でもなく──

 

 東京タワー。

 

 雷にしてもあまりに強烈な威力だった。

 しかも、何度も落ちた。

 現代文明を象徴する塔は飴のように溶け、折れ曲がっていく。

 

 映像は途切れた。

 後には、モガの森に降り注ぐ、うららかな陽射しがあるだけだった。

 

「なによ……これ……」

 

 うさぎたちは言葉を喪っていた。

 見せられたのはあまりに陰惨な、これから帰るべき故郷の風景だった。

 みちるは視線をノイズに戻った映像に鋭く向けたまま、静かに口を開いた。

 

「私たちは最初、この光景はデス・バスターズの主『ファラオ90』が貴女たちを生贄として取り込み、この世界の生物を操ることで起こす災いだろうと見ていたわ。彼ら自身、それを目指していたわけだしね」

「だが、今回の件で確信した。破滅の未来はデス・バスターズではなく、この世界の(ドラゴン)たちが自ら引き起こすものだ」

 

 そう告げたはるかはじっと目を閉じた。

 そして、覚悟を決めたように瞼を開いた。

 

「……プリンセス・セレニティ、貴女に直接答えていただきたい」

 

 彼女の瞳はどこまでも、うさぎを真っ直ぐに捉えていた。

 

 

 

 

 

「この世界を、滅ぼす覚悟はあるか?」

 

 

 

 

 




次回より、第4編──『古龍編』開始となります。
本作もいよいよ本格的に後半戦となります。両者の世界はどこへ向かっていくのか、見届けて頂ければ幸いです。
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