セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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いよいよ本作も4編に突入。
感想や評価など、お気軽にどしどしお寄せ下さい!


古龍編
海の向こうへ①


 

「この世界を、滅ぼす……?」

 

 

 うさぎは、はるかの口から出た言葉を信じられずにいた。

 

「君の胸に宿る、幻の銀水晶。君がその真の力を解放さえすれば、確実にこちらの世界は救われる」

 

 男性的な顔立ちをした金髪の麗人は、うさぎの胸を指差した。

 その内には、金枠に縁どられた赤いハート型のコンパクトが煌めいている。

 

 幻の銀水晶とは、うさぎの胸に宿る月の王国に伝わる秘宝。これによって、プリンセスの生まれ変わりである彼女はセーラー戦士に変身することができる。

 その力は持ち主の強い決意と願いによって発動し、使いようによっては()()()()()()()ことすら可能。

 事実、彼女は銀水晶の力を使うことでこれまでいくつもの巨悪を退けてきた。

 そして、今。

 

 『悪』の番が、次はこの魑魅魍魎溢れる世界に巡ろうとしている。

 

 はるかも、みちるも、せつなもほたるも、戦士としての顔をしていた。

 正義の味方というには冷たい瞳の色だ。

 

「……冗談、よね?」

 

 レイを始めとした、うさぎと親しい少女たちの『そうであってほしい』という祈りめいた視線。

 仲間たちから告げられた世界を救う方法は、彼女たちを戸惑わせるには十分だった。

 

「先ほど見せた未来は、貴女たちがデス・バスターズの計画を阻止した後も変わらなかったわ。そして、確信したの」

 

 彼女は、潮風になびく艷やかな緑髪を指で除けた。

 腕に巻く包帯を撫でる。

 前回の戦いでも見せることのなかった、傷の痕跡だ。

 

「この世界は、私たちとは決して共存しえないって」

 

 セーラー戦士の中でも実力面、精神面共に上位に在する強者(つわもの)は、そうきっぱりと言い切った。

 

「手をこまねいていれば、滅ぼされるのは私たちの方。だから、もう覚悟を決めなければ──」

「駄目よ!!」

 

 しかし、うさぎだけは首を振ってはっきりと拒む。

 

「この世界の人や生き物はみんな、一所懸命に生きてるだけよ! それを……滅ぼすだなんて!!」

 

 少女の顔には戸惑いと怒りが同時に籠もっていた。

 未だに信じられないのだ。

 彼女たちの口から直接、あんな言葉が出たということを。

 しかし。

 やはり、この前まであれだけ優しい表情を浮かべていた人たちは目の前にはいない。

 まるでよくできた人形のように、ぴくりとも動かさない。

 その様子はむしろ、うさぎのこのような反応を予想していたようにも見えた。

 

「うさぎちゃんに、そんなこと絶対にさせない!」

 

 美奈子はうさぎの前に出て、

 

「忘れたとは言わせないわ! 銀水晶の力を解放したら、うさぎちゃんの命は喪われるのよ!?」

「この世界を滅ぼす瞬間、僕たちが彼女にエナジーを注ぐ。それによって、お団子の死は回避できるはずだ」

 

 はるかは、ともすれば機械的と受け止められかねないほど、冷静に言葉を返す。

 

 天王はるか、海王みちる、冥王せつな、土萠ほたる──

 まとめて外部太陽系戦士と呼ばれ、月の王国から遠く離れた地で侵入者の討伐を命とする防人たち。

 防人とは常に規律を重んじるもの。それ故に、彼女たちは敵に情をかけるようなことはしない。

 それが、女王の直接的な守護者として動く内部太陽系戦士とは全く違うところだった。

 

 まことが、美奈子の横に並び立つ。男にも引けを取らない長身の彼女は、うさぎに相対する者たちを睨んだ。

 

「さっきから聞いてりゃ、同じセーラー戦士の言葉とは思えないな。そんな酷い使命を押し付けられるうさぎちゃんの気持ちなんて、これっぽっちも考えてないじゃないか!」

 

 それに対し、はるかはしばし黙っていた。

 やがて彼女はまことの更に上から、氷のように冷たい視線で見下ろす。

 

「それじゃあ、プリンセスの御望み通りに狩人ごっこを続けてみるか? 今のところ、竜1匹ですら精一杯らしいが」

「……なんだと!!」

 

 聞いてすぐ挑発と分かる一言。

 それにまことは顔を一気に険しくして、正拳を繰り出した。

 同時に、栗色のポニーテールが浮き上がる。

 怪力少女から放たれるその威力たるや、一瞬周りの空気がつられて渦を巻くほど。

 しかし、はるかはそれをも掌で受け止めた。

 

 拮抗し合う2人。

 先日共闘したとは思えない緊張感が、両者の間を満たしていた。

 

「お願い、やめて」

 

 両者の拳を、細い指がそっと包み込む。

 互いに敵意を持って向かい合う力を和らげようとする。

 その手は、うさぎ(プリンセス)のものだった。

 

「はるかさん、みちるさん。ホントは2人とも、この世界を滅ぼしたいだなんて思ってないよね? だって、一度はモガ村を命をかけてまで救おうとしたんだもの」

 

 彼女は、早くも怒りを鎮めて。

 代わりに優しい声音で語りかけるように問う。

 

「まず落ち着いて話し合う方がずっと大事だよ。ね?」

 

 はるかとみちるは、答えはしない。

 まことはちらりとうさぎの顔を見た後、腕を少しずつ下ろす。

 次第に俯くはるかの腕も、ゆっくりと下げられていく。

 うさぎはほっとして、表情を緩めた。

 

 それが隙になった。

 

 はるかは即座に手を取って返し、うさぎの腕を捻り上げた。

 あまりに突然のことに彼女は小さく悲鳴を上げた。

 

「なっ……!」

 

 まことがすぐさま裏拳を放つが、はるかはもう片方の手で容易く掴み取る。

 あくまで仲間とプリンセス相手、決して傷をつけるまでの強さではない。

 だがその麗人の顔は、これまで見せてこなかった険しさを露わにしていた。

 

「それなら、君は奴らと話し合えると思うか!? あの、理不尽が獣の形をした連中と! 答えろ!!」

 

 うさぎは、すぐには答えられない。

 なぜなら、彼女はその理不尽な存在がどのように理不尽であるか、はるかたちよりもずっと知っているからだ。

 

「うさぎちゃん、離れて!」

 

 逡巡を遮ったのは、亜美の言葉だ。

 直後、レイがセーラーマーズの姿となって両者の間に突っ込んだ。

 

 はるかは彼女の手元に注目すると、すぐにうさぎとまことの腕を離して跳ね、距離を取る。

 マーズは既にその手で印を結び、周りを炎がメラメラと揺らめいていた。

 いつでも必殺技は放てる、という分かりやすい威嚇である。 

 

「もしこれ以上うさぎに変なことを吹き込むのなら、同じセーラー戦士だろうと容赦しないわ」

 

 うさぎの前に親友であり守護者でもある4人は壁となって並び立った。

 皆が一様に戦士の姿へと変わり、必殺技の構えを行う。

 

「みんな、やめて! またセーラー戦士同士で争うなんて!」

 

 うさぎが呼びかけても、仲間たちが威嚇を止める気配はない。

 

「もう……見てられない」

 

 一方、この修羅場のすぐ傍で、うさぎと同じくこの状況を憂う存在がいた。

 うさぎの未来の娘にして遥か未来の王女、ちびうさである。

 もはや必殺技が飛び交うまで一刻の猶予もない。

 彼女はいま一度、一歩を踏み出すべきではと足に力を込め始めていた。

 

「ちびうさちゃん、ダメよ!」

「流れ弾でも当たったら、怪我じゃ済まないぞ!」

 

 が、御付きの猫たちが呼んで引き止める。

 彼女はあくまでセーラー戦士見習い。純粋なパワーも、技の威力も目の前の先輩たちには遠く及ばない。いま介入したところで、更に悲しみを増やすだけの可能性が高かった。

 そして残酷なことに、ちびうさ自身もその事実を良く分かっている。

 

「結局……あたしって何も出来ないの?」

 

 諦める他に選択肢はなかった。

 彼女は俯いて泣きそうな顔で両拳を握った。

 

「……ちびうさちゃん」

 

 はるかとみちるの後方に控える少女、ほたるは、ちびうさの葛藤する姿を見つめていた。

 彼女もうさぎたちと対立する外部太陽系戦士の陣営ではあるが、親友を心配する表情はあどけない少女のそれだ。

 やがて、ほたるは隣に立つせつなの視線に気づく。

 実質の育て親である褐色肌の女性は、この世界の破壊を提案したとは思えない、物憂げな瞳をしていた。

 

「やはり辛いですか、ほたる」

「……うん。でも、分かってたことだから」

「……本当に、こんな状況に巻き込んで……申し訳なく思います」

 

 少女の決意を見送ったせつなは、懐から銀色の球が光る変身リップロッドを取り出す。

 

「プルート・プラネットパワー・メイク・アップ!!」

 

 ほたるも続く。

 紫の輝きが、彼女の身体を包み込み別人へと生まれ変わらせる。

 

「サターン・プラネットパワー・メイク・アップ!!」

 

 時空と変革の戦士、セーラープルート。

 破滅と沈黙の戦士、セーラーサターン。

 他の戦士よりも暗い色を靡かせる彼女たちは、ただでさえ緊迫した空間をますます張り詰められたものにした。

 

「……いよいよ実力行使ってとこね」

 

 美奈子改めヴィーナスが、光で出来たムチ『ヴィーナス・ラブミー・チェーン』を手元に出現させた。

 はるか、みちるも彼女に応えるように、ウラヌスとネプチューンの姿に変わる。

 

「あぁ。残念だが、これ以上強情を張る気なら力ずくでも言うことを聞いてもらう他ない」

 

 睨み合う内部太陽系戦士と外部太陽系戦士。

 この世界を滅ぼすか、それとも否か。

 一つの考えの違いが、戦いを生もうとしている。

 セーラー戦士同士の火蓋が切られるのももはや、時間の問題だった。

 

 

「お前らー、そんなとこで何してるッチャー?」

 

 

 しかし、それはすんでのところで止められた。

 風がそよぐ丘を、何者かが呑気な声でひょこひょこと駆けあがって来る。

 人間にしては小さい。

 

 奇面族のチャチャとカヤンバである。

 

 反射的に少女たちは人間の状態に戻った。

 せつなとほたるも、元通りにフードを被る。

 

「なんだ、ずっとこの丘にいたっチャ!? 観光客相手ならもっといろんなところ案内してやれっチャ!」

 

 チャチャはうさぎたちの前で杖を振り、軽く叱りつける。

 セーラー戦士たちはまるで何もなかったのように振舞うが、状況が状況だったために気まずい空気が流れている。

 しかし、子どもたちは一向にそれに気づく様子もない。

 

「……いったい何の用だ」

 

 やや機嫌悪そうにではあるが、はるかが懐にロッドを完全にしまい込みつつ聞く。

 カヤンバが、丘から見える大海、そこにぽつんと浮かぶモガ村を指差して叫んだ。

 

「戻ってこいンバ! アイシャ嬢がお前らに伝えたいことがあるらしいンバ!」

 

──

 

「クックックッ……。来ましたねぇ皆さん、待ってましたぜ」

 

 モガ村のクエストカウンターに戻ったうさぎたちを出迎えたのは、受付嬢アイシャの悪人顔だった。

 両肘をついて口元で手を組み、不敵な笑みを浮かべている。

 普段からは大きくかけ離れた口調に、思わずうさぎは首を傾げる。

 

「ア、アイシャさんってそんなキャラだっけ……」

「訳アリなんで大きな声では言えないんですが、実はこんなブツがですねぇ……」

 

 彼女は人差し指と中指に何かの紙を挟んで持ち上げた。

 意味深なその『ブツ』に、うさぎたちはごくりと唾を呑む。

 

「……ブ、ブツ?」

 

 美奈子が肘でうさぎの脇腹をつつく。

 

「うさぎちゃん、受け取ってよ!」

「や、やぁよあたしは!? ここはレイちゃんお願い!」

「はぁ!? なんでこっちが!」

 

 折り畳まれたその紙は、何かを包んでいるようにも見える。

 怪しげな物体を押し付け合う少女たちの顔の脇から、すらりとした腕が伸びた。

 「あっ」と声を上げたアイシャに構わず、大きな手が紙をひったくる。

 

「前置きはいい、もらうぞ」

 

 うさぎたちが後ろに振り向くと、『ブツ』を横どったのははるかだった。

 

「もぉっ、はるかさんったら、ちょっとくらいノッて下さいよぉ〜! ぶーぶー!!」

「どうせこの前読んだ小説の真似事だろう」

「……え?」

 

 アイシャはそれまでの神妙な表情を解き、文句を垂れる。それでうさぎたちも、彼女の発言がただの演技だったことが分かった。

 はるかは紙を翻し、そこに書いてある文言を確認する。

 すっと目を細めると、ちらりとうさぎたちの方を見て紙を差し出した。

 

「……お団子たち宛てだ」

 

 紙の正体は手紙のようだ。

 うさぎが自ら取ろうとしたが、無言でレイが自ら前に進み出て受け取る。

 はるかと向かい合った時、彼女の瞳が鋭く光った。

 

「……大それたことしようとしてるわりには冷静なんですね」

「その言葉、そっくりそのままお返しするよ」

 

 うさぎの頬に緊張が走った。

 決して対立はうやむやになったわけではない。セーラー戦士の間に出来た亀裂はかなり根深いようだ。

 彼女は悲しげに俯き、この場で何も言えない自分を悔やむしかない。

 

「へ?」

 

 何も事情を知らないアイシャは妙な空気に視線を浮つかせたが、みちるは何でもないわと微笑んでみせた。

 内部戦士たちが手紙を手に取ると、見覚えのある字に目を見開いた。 

 

 差出人は、筆頭ハンターのエイデン。

 

 ついこの前にシナト村で再会した筆頭リーダー、ジュリアスの弟子にあたる人物である。

 

「そういえばあの人、遠くに行ってるって……」

 

 亜美が思い出した通り、彼とはバルバレ以来出会えず終いである。

 彼が、彼女たちにいったい何の用があるというのか。

 意を決して開けると、そこには未知の世界への扉が開かれていた。

 

──

 

 

 

 新大陸。

 

 

 

 ここから海を渡って遥か先に広がる、近年になって開拓が進められている土地らしい。

 うさぎたちが現在いる大陸とはまったく異なる独自の生態系が広がり、未だにその多くは未踏の地である。

 その地に関して、古龍に関するとある謎を解明するためにハンターズギルドはある組織を結成した。

 その名も、『新大陸古龍調査団』。

 実はエイデン自身も3年前にこちらの大陸にある故郷に帰るまでは、その調査団で活動を行っていたらしい。

 しかしこの新大陸に先日、異変が起こった。

 

 

 その大陸中に棲む()()()()()()生物たちが、本来の生息域を外れた地域へ謎の大移動を始めたというのだ。

 それもこれまでにない巨大な規模で、規則性を読み取るにはあまりにも入り乱れている。

 

 

 ギルドは事態を重く受け止め、こちらの大陸で調査員を追加募集している。

 書類検査を経て資格を認められた者は、タンジアの港から数週間後に出発するという。

 

 入団資格は上位ハンター以上。

 自然との調和を望み、思考柔軟かつ骨のある者を求む。

 差出人のエイデン曰く、行くかどうかはこちらの判断に任せる、とのことだ。

 

──

 

 少女たちが一通り黙読し終わった後、沈黙が広がっていた。

 内容を知らないアイシャは、気になってどうにか状況を読み取ろうと、左右見渡して彼女たちの顔を覗き込んでいる。

 

「きっとルーキーさんは、あたしたちの力に望みをかけたんだわ」

 

 はっとして、セーラー戦士たちはうさぎの顔を見た。

 彼女は文面を強く握って見つめている。

 筆の勢いに任せるような字体だが、その一つ一つが太く、力強く、意志が籠った文字だった。

 

「あたしたちにとっても、もっと良い道が……ここにあるかも知れない」

 

 彼女は、外部太陽系戦士に向かい合った。

 決意を瞳に漲らせている。

 まさか、とはるかたちは険しい目つきをする。

 それにも怯まず、彼女はきっぱりと告げた。

 

 

「みんな。あたし、新大陸に行くわ」

 

 




何気にとんでもないこと言ってると思いますが、うさぎの胸にある銀水晶は、条件さえ満たせば本当にそれだけのパワーを出せます。
多分原作漫画設定だともっとやばいことになる。
このように単純な「強さ比較」だとそもそもこの作品が破綻しかねないのですが……。
本作はあくまでも登場人物の心情や状況、そして彼ら彼女らを取り巻く『複雑に生命が絡み合う世界』という視点から、物語を書いていくつもりです。
これから一気にお話が広がっていきますが、執筆頑張って参ります。
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