セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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うさぎたちが新大陸に向かった一方、外部太陽系戦士たちとタキシード仮面、そしてセーラーちびムーンは自分たちの故郷である東京へと帰って来たのだった。

※本筋とは関係ありませんが、あとがきに非ログインユーザーの方に向けてお知らせ的なものがあります。


都邑の暮を呑む霞①(☆)

 白い霧の中をセーラー戦士たちは歩いていた。

 タキシード仮面はちびムーンをマントの中に抱えて護り、その周りをウラヌス、ネプチューン、プルート、サターンが十字を描くように取り囲む。

 

「いよいよ、あたしたちの故郷に帰って来るのね」

 

 いやに涼しい風が吹いている。

 遥か未来の王国の姫であるちびムーンは、なにも見えない先の景色を見つめて呟いた。

 タキシード仮面は、右を歩いているセーラープルートに視線を寄越す。

 

「プルート。両者の世界で時空の歪みがあると前に聞いたが、東京ではどれくらい経っているんだ」

「あなた方が向こうの世界に消えてから1ヶ月ほどです。こちらのおよそ50分があちらの1日ですから、あなた方は少なくとも2年以上あちらに居た計算になります」

「2年……」

 

 すらすらと出てきた答えに対し、タキシード仮面……本名を衛という男は、思わずその年月を口にして呟いた。

 あちらの世界の狩人は『繫殖期』『温暖期』『寒冷期』という季節の数え方をするので、1年の期間について厳密なところは判然としない。

 だがプルートの言葉を真実とすれば、やはりかなりの年月をあちらで過ごしたと思われる。

 その割に誰の身体にも目立った成長や老化が見られないのは、あちらとは違う時間を生きる人だからか。

 

「我々のことを忘れられるほど経っていないのは幸いだったな」

「よかったー。クラスであたしだけ上級生になってたらどうしようかと……」

「しかし、遅れた分の勉強は頑張らなければな」

「うげー」

 

 胸を撫で下ろしかけたちびムーンにタキシード仮面が釘を刺すと、彼女は一気に苦い顔をする。

 直後、それまで土に埋もれていたブーツがコツンと音を立てる。

 彼が足下に目線を遣ると、地面が灰色の硬質な質感に変わっていた。

 コンクリートだ。

 

「……帰ってきたか!」

 

 タキシード仮面の胸中にいるちびムーンの顔が華やぐ。

 彼女は彼の腕から跳び下りて、先を走った。

 

「東京よ!」

 

 嬉々として呼びかけながら行く少女。

 その背中を見て、タキシード仮面は目元を緩めた。

 

「2年ぶりの故郷だものね」

 

 紫色の戦闘服を着て黒髪のおかっぱに紫の瞳を持つ戦士、セーラーサターンも、口の端を僅かながら上げて呟いた。

 そこには彼女の親友『土萠ほたる』としての表情があった。

 一方、ウラヌスとネプチューンは思わしげな顔で隣り合っていた。

 

「……ここで彼らが思い直してくれたらいいんだが」

「あの2人が、そんな素直な人たちに見える?」

 

 ネプチューンの問いに、ウラヌスはため息交じりに視線を逸らす。

 

「とにかく、いまは急ぎましょう。我々はこの先で見た真実を元に決断をするのみです」

 

 天王星と海王星に護られる2人は、じろりと冥王星を守護に持つプルートの背を見つめ、それから無言で追いかけていった。

 

 ちびムーン──本当の名をちびうさという少女はひた走る。

 長い間、待ちに待った故郷。

 それがすぐそこに迫っていた。

 かなり遠くだが、天に向かって細く尖ったモノが見えてくる。

 

「東京タワーだ!」

 

 ますます足を早める。

 妖しい気配も感じない。

 守護戦士も追いつかないくらいの勢いで、彼女の身体が空気を切り裂く。

 霧は急速に晴れた。

 

 故郷である世界有数の大都市、東京。

 地平線まで伸びる高層ビル群。

 その中に屹立する赤と白の鉄塔。

 陽光を反射して光るそれらは、以前となんら変わらぬ姿を保っていた。

 しばらく、少女は目を細めて感傷に浸る。

 

「ほんとに……帰ってきたんだ」

 

 それから歩んでいく。

 懐かしい都会の匂いに思い馳せながら、通りを行く。

 人は見当たらない。

 十字路を通っても、通りに出ても──

 

「……あれ?」

 

 ちびムーンの顔に戸惑いが積み重なっていく。

 歓喜に満ちた走りは、迷子の足取りへと変わった。

 その違和感の正体は──

 

 無音だ。

 

 電車の音も、ヘリの音さえも聞こえない。

 真っ昼間なのに、人影も見る限り一つもない。

 タキシード仮面も見るからに憔悴した。

 

「……まさか」

「プリンス。貴方の思う通りです」

 

 プルートは暗い顔ながら頷く。

 ちびムーンはしばらく立ち止まって俯いていたが、やがて顔を上げて走り出した。

 

「そんなわけっ……!」

「ちびムーン!」

 

 タキシード仮面が後を追い、更にその後を戦士たちが追う。

 とにかく見える道を行った。

 体感時間にして2年経っても、鮮明に風景は覚えている。

 本来なら一つ一つが喜ばしい景色のはずなのに、ずっと欲していた景色のはずなのに──

 

 そこにあるべき人間は、誰1人としていない。

 

 住宅街が並ぶ大通りに出ると、そこにも惨状が広がっていた。

 時間が停まったように静まり返っていた。

 街路樹や植樹は手入れされず伸び放題になっている。

 とある不動産の巨大看板に止まる小鳥たちは、眼下を通るセーラー戦士たちに時折首を傾げつつ楽しげにさえずっていた。

 信号機は定期的に青へ赤へと変わり、本来の機能を虚しく果たすのみ。

 車は路上に放置され、ただの鉄クズと化している。

 株価の暴落を報せる新聞が、風化した姿で風に吹かれ飛んでゆく。

 斜め上より強めに差し込む日は、時刻が朝から昼に差し掛かったことを示している。

 

「……どこにもいない」

「多くの人が怪物たちを怖れ、街から逃げたのよ」

 

 やっと立ち止まり掠れた声で呟くちびムーンに、ネプチューンが答えた。

 一方、タキシード仮面が看板の間を飛び交う小鳥を目で追いかけると、あるものが目に入った。

 

「あ、あれは……」

 

 ちょうどちびムーンも同じ状況だった。

 そこには、硝子張りの宝石店が確かにビルの形で残っていた。

 しかしそこにも人の気配はなく、窓ガラスは隅々まで割られている有様だ。

 

「なるちゃん()の、宝石店だ」

 

 そう呟くちびムーンの顔は泣きそうになっていた。

 

「……悲惨ね」

 

 ネプチューンを筆頭に、ウラヌスたちも顔をしかめている。

 彼女たちは戦士であると同時に、東京で生まれ育った人間だ。

 この麻布十番は日常の象徴であったと言っていい。

 それが今は空虚な建物が並ぶばかりの風景となってしまった。

 

 ちょうど彼女たちの行く道に、胸ほどの高さまで伸びる植物があった。青い実が束のように実っている。

 ウラヌスはそれを目にとめると腰を屈め、手にとって睨むように観察した。

 すぐその端正な顔に無念が滲む。

 

「……くそっ、ウチケシの実か」

 

 彼女はそう吐き捨ててその実を握り潰したのち、その手を力無く垂らした。

 ネプチューンとプルートは、周りに生える雑草をもう一度よく見回した。

 どの草本も路端に生えるにしては異様に大きく、力強い。

 

「ここにあるのは全部、あちらの世界から来た植物よ。妖気も感じない……単純な生命力の強さでこちらの世界の生物を駆逐しているのだわ」

「まさか、ここまで成長が早いとはな」

 

 ウラヌスは、立ち上がるとちびムーンとタキシード仮面を見つめた。

 

「プリンスと未来のプリンセスに改めて聞かせてもらう。これを見てもあなた方は、無謀な賭けを続けるつもりか?」

 

 2人は答えなかった。

 ちびムーンは──やがて、辛そうな顔ながらも頑なに首を振った。

 

「ここで諦めたら、見つかるものも見つからないわ!」

 

 タキシード仮面は彼女よりも長く考えていたが、間もなくちびムーンに頷いてみせた。

 

「……私も賛成だ。この地の守護者としても、こんな状態の街を目の前に放っておくわけにはいかない」

「タキシード仮面様、あっちはまだ道が開けてるわ! 向こうならまだ人が残ってるかも!」

「ああ、向かうぞ」

 

 自らの胸中に迫る悲しみを振り払うようにして。

 ちびムーンとタキシード仮面はウラヌスの横を抜け、門のような樹の隙間へと向かう。

 

「プリンスもスモールレディも、よほどの覚悟をお持ちですね」

 

 プルートも白い杖を持ち直し、後を付いていこうとする。そこにウラヌスは、鋭く目を細め呟いた。

 

「……プルート。いま、君は何を考えている?」

 

 行こうとしていた彼女は黙ったまま振り向く。

 

「ついこの前あちらの世界を滅ぼそうと言い出しておいて、次は素性もわからないヤツを追うなどという賭けに応じる。まさか、今更良心が痛んだわけじゃないよな?」

「……ただ私は、今のプリンセスの心に安易に頼りたくないだけです」

 

 プルートは僅かに目を伏せ、そう短く言い残しただけだった。

 再び護衛しにいった彼女を、ウラヌスは険しく見つめる。

 一連のやり取りを見ていたネプチューンは憂うようにため息をついた。

 

「同じ外部太陽系戦士までも疑わなくてはいけないなんて、世も末ね」

「そこまで不安がってはいないさ。たとえこの世界がどんな最期を迎えようと、必ず審判を下す存在がいるからな」

 

 ウラヌスはネプチューンの後ろにいる黒髪の少女に目を向けた。

 

「君は、使命を果たす覚悟は出来てるか。セーラーサターン」

「……えぇ」

 

 彼女は背丈を超える丈の二又の鎌を携え振り向いた。

 

「我らが王国の未来に仇なす敵は、すべて消去するのみ」

 

 土星を守護星に持つセーラー戦士。

 今や少女の面影もない冷たい黒い瞳の彼女が司るのは、破滅と沈黙の力。

 彼女が完全に覚醒しその鎌を振り下ろしたとき。

 

 

 

 星の命は終わるとされる。

 

 

 

──

 

 もぬけの殻となった住宅街の間を戦士たちは行く。

 声の持ち主と聖杯に対する何の手がかりも掴めず、せめて人はいないかと彷徨うしかない。

 背後からセーラー戦士たちの視線が突き刺さる。

 虚無の時間を過ごすしかないタキシード仮面の視線は、いつの間にか下がりかけていた。

 

「タキシード仮面様、諦めないで」

 

 勇気づけるように、ちびムーンが呼びかける。

 それに男は顔を上げる。

 自分より遥かに小さい少女の健気さに、彼は微笑んで頷いた。

 

「そうだな。彼女の決意を無駄にはするまい」

 

 ふと彼の視界に、細長いものが入る。

 歩道の端に設置されたバス停の看板で、『仙台坂上』と書かれている。

 

「仙台坂上……懐かしいな。全く気づかなかった」

 

 ようやく感じ取れた故郷の匂いに、タキシード仮面は感傷に浸るように目を細めた。

 そこに、陰が差す。

 

「曇りか。さっきまでは快晴だったんだが」

 

 何となしに呟いたのだが、ことはそれだけに止まらない。

 雲だけでなく、霧までもが這い出してきたのだ。気温もぐんぐん下がっていく。

 それはたちまち周囲を覆い尽くし、街を白で埋め尽くしていく。

 戦士たちの誰もが、異常事態と捉えるまで時間はかからなかった。

 

「デス・バスターズの仕向けた妖魔の仕業か?」

「いえ、妖しい気配は一つもないわ」

「となると……いったい」

「とにかく、この先は気をつけて進みましょう」

 

 セーラー戦士たちは臨戦態勢に入る。

 セーラーサターンは、沈黙の鎌を携えちびムーンの前に駆け寄った。

 

「ちびムーン、私の後ろに」

 

 彼女のもう1つの姿である土萠ほたるは、親友であるちびうさとはほぼ歳が違わない。

 しかし艶のある黒髪に紫色の瞳、そしてもの静かながら使命感の強い性格は、年相応にお転婆で洒落っ気の強いちびうさとはおよそ真逆とも言えた。

 

「う、うん。サターンは怖くないの?」

「いいえ。むしろ貴女にまた会えて、とても嬉しいわ」

 

 サターンはそう語って優しく口角を上げた。それまで心細そうにしていたちびムーンも、救われたように頬を緩めてその手を握る。

 

「うん、あたしも! これからはずっと一緒にいれるんだよね!」

「ええ。貴女とプリンスを狙う者がいれば、誰だろうと決して容赦しない」

「へ?」

 

 あまりに意思の強い色を秘めた瞳。

 およそ子どもらしくない覚悟からは、機械のような冷酷さすら漂う。

 

「たとえこの身を灰に変えたとしても、私は守護戦士としての使命に……」

「そ、そこまでしなくていいわよ!!」

 

 ちびムーンは、慌ててわたわたと手を振る。

 その直後のことだ。

 彼女の背後に、1つ、人影が霧の向こうに現れる。

 

「何者!」

 

 戦士たちは即座に反応した。

 サターンはその手に持った身丈より長く、二又に分かれ銀色に光る刃を持つ戦鎌──サイレンス・グレイヴを構え突き出した。

 続いて、ウラヌスは宝剣スペース・ソードを。

 ネプチューンは手鏡ディープ・アクア・ミラーを。

 プルートは宝杖ガーネット・オーブを。

 注意深く、しかし鋭さを忍ばせて未知の存在に向けた。

 しかし。

 

「ひぇっ!?」

 

 その存在は、すぐに両手を上げ降参の意を示した。

 敵意は全く感じられない。

 

「……あ、あなたたちは!」

 

 聞き覚えのある少女の声だった。

 

「なるちゃん!」

 

 ちびムーンは目を丸くして、それだけで救われたように駆け寄った。

 それを見て、戦士たちも即座に構えを解く。

 

「すまない、一般人の子だったか」

「い、いえ。そんなことより、貴女たちセーラー戦士ですよね!? またここに戻ってきてくれたんですね!!」

 

 ウラヌスが詫びるのも構わず歓ぶ少女は、茶色がかったウェーブヘアーに緑のリボンと華やかなヘアスタイルをしている。

 服装は白いタートルネックに淡いピンクのルーズパンツ。シンプルではあるが、肩からかけられた革のカバンが裕福な家庭環境を伺わせる。

 この世界の住人にしてうさぎの大親友、大阪なるだ。

 

「セーラーちびムーン、タキシード仮面様、前の『鳥』の時は……」

 

 なるが頭を下げようとしたが、タキシード仮面は手を振った。

 随分前のことだが、彼女の宝石店は毒怪鳥ゲリョスの襲撃を受けたことがある。

 その時、ちびムーンとタキシード仮面が共に撃退に携わったのである。

 2人にとっては1年以上前、なるにとってはつい何週間か前の出来事だ。

 

「礼はいらない。して、君はここで何をしている?」

「はい。ママと一緒に商店街へ避難しようとしてたんですけど、ここに来てはぐれちゃって」

「……そっか。家も壊されちゃってたもんね」

 

 ちびムーンは自分事のように同情するが、なるの表情は明るい。

 

「でも、やっと希望が持てました! セーラームーンも今はいないみたいだけど、すぐ来てくれますよね!?」

 

 それは一般人の少女として希望を込めた、何の邪気もない問いだったのだが。

 無言のまま動いたウラヌスたちの視線が、ちびムーンたちとぶつかる。

 主がここにいないことへの非難か、それともまた別の意味かは定かではない。

 

「あぁ。きっとだ」

 

 タキシード仮面はそれでも、なるに堅い眼差しで諭した。

 そこで、ちびムーンも自らの本来の目的に立ち返る。

 

「ねぇ、最近になって変な雷を見なかった? あたしたち、訳あってそれを追ってるの」

「雷? ……あたしは見てないけど、他の人からそんな話は聞いたことあるわ。商店街に行けば分かるかも」

「ホント!? それなら早速……」

 

 幸先が良い。

 ちびムーンは顔を輝かせて土地勘を頼りにしようと振り向いた。

 しかしその時には既に、周囲にかなりの量の霧が立ち込めていた。

 これでは商店街の方向など分かりようがない。

 

「あ、あれ? ここら辺、こんなに霧が出たっけ……」

 

 すると、なるの表情が次第に焦燥に駆られていく。

 

「……もしかしたら、これ」

「どうかしたのか?」

 

 説明を求めたタキシード仮面に、なるは一時言うのを躊躇したが──

 

 

「『魔の6時のバス』って、知ってます?」

 

 

 男は、はっと目を見開いた。

 

「中2の時、仙台坂上のバス停から6時に出るバスが消える事件があったんです。その時はセーラームーンが解決してくれたんですけど」

 

 霧中に辛うじて見える梢が、生暖かい風にざわめいている。

 なるはそれにすら怯えるように視線を逸らし話を続ける。

 

「もしかして、また『神隠し』が」

 

 一方でちびムーンは、なるが思っているのとは違う意味で肩を竦ませた。

 

「……まさか、これ」

 

 何もないところで土煙が舞う。

 それにセーラーサターンがいち早く気づく。

 

「あの世界への」

「ちびムーン!!」

 

 サターンが続きを言いかけたちびムーンの前に飛び出て、鎌を突き出し光らせる。

 

沈黙鎌奇襲(サイレンス・グレイブ・サプライズ)!!』

 

 強力なエナジーが一点に収束し、刃から弾き出される。

 紫色の光球は、戦士たちが気づく前に炸裂した。

 光の奔流が霧を吹き飛ばし、建物、大地すべてを根こそぎ剥ぐ。

 戦士たちも一般人であるなるも、凄まじい閃光と風圧から顔を腕で護る。

 

 勢いが収まった頃には、半径20mの一帯は瓦礫の山と化していた。

 

 セーラーサターンが今しがた放った技は、一定範囲内の万物を完全に消滅させるもの。これすら破滅の力のほんの一部に過ぎない。

 破滅と沈黙の戦士の名に恥じない威力である。

 

「な、なに!?」

「いま、確かに()()()()者がいたわ」

 

 セーラーサターンは、ちびムーンの困惑に答える。まだ構えを解いていない。

 霧が隙間を埋めようと、瞬く間に立ち込める。

 しばらく、風景は沈黙を保ち続けた。

 ウラヌスが剣の切先を霧に向け、同じく武器を再び構えた仲間らと共に鋭く、霧の向こうを見通さんと睨む。

 

「やったか?」

 

 突如、セーラーサターンの手から沈黙の鎌がするりと抜け。

 そして、ひとりでに()()()

 

「……っ!?」

「うそっ……」

 

 人知を超えた現象に、サターンだけでなくちびムーンも目を丸くする。

 サターンは咄嗟に手を伸ばすが、鎌は主人を弄ぶように軌道から自らをずらした。

 

 なるが何度目を擦ってみても、沈黙の鎌は明らかに宙に浮いている。

 まるで意思を持ったように彷徨い、それから。

 急に反転し、柄で持ち主の腹を突き飛ばした。

 

「かはっ……」

「サターン!?」

 

 少女の軽い身体がもんどり打って倒れる。

 

「まさか、幻術!」

「どこかにデス・バスターズの手下が!?」

 

 ウラヌスとプルートは、空を舞う沈黙の鎌に己の武器を向けたが。

 

「いえ、やはり妖しい気配は感じないわ」

 

 ネプチューンは、ディープ・アクア・ミラーを構えて冷静に呟いた。しかし、その額には冷や汗が浮かんでいる。

 

「むしろこれは……強烈な生のエナジーよ」

 

 鎌は独りでにくるくると回ったかと思うと、次は勢いをつけて向こうへと飛んだ。

 遥か遠くの地面に、鋭い刃を立てて突き刺さる。

 

「お……おばけっ……」

 

 なるは、恐慌してその場に屈み込む。

 ちびムーンとタキシード仮面は彼女を背にして護り、さらに彼らを外部太陽系戦士たちが囲む。

 

 確かに、すぐ近くに誰かがいる。

 しかしそれは人にとって幻影に等しい。

 姿もなければ音もない。ただ、深い森の匂いだけが場を満たす。

 

 なるは、半ば錯乱して周囲を見渡した。

 不可視の恐怖に駆られたがゆえの行動だった。

 セーラー戦士たちの間から見える、何もない空間に目を向ける。

 そこから少しだけ、地面に浅い足跡が付くのが見えた。

 彼女が「え」と声を上げた瞬間。

 

 突如、鼻の先に目玉が現れた。

 渦を巻いたような模様の巨大な眼球がぐるりと回る。

 ちょうど近くにいたなるを、中心にある瞳がじっと注視した。

 

「い、い、いやあああああっ!!!!」

 

 なるが絶叫を上げる。

 急ぎ、セーラー戦士たちは戦いの構えをそちらに向ける。

 ほぼ同時、目玉は再び消え去った。

 

 少し離れたところに、それはいよいよ全身を現す。

 笠を被ったような奇妙な頭。

 前面に突き出た硬質な角の後ろに、大きな目玉が左右それぞれ、あちこちを向いてはぎょろついている。

 表面がざらざらした長い舌がぬめりを持って、牙を有する口内から蛇のようにちらつく。

 

「くきゅるるるるるるるる」

 

 甲高く嗤うような鳴き声。

 なるはいよいよ青ざめて腰を抜かした。

 

「わ、わ、ああ……っ」

 

 抜き足、差し足、忍び足。

 ぶよぶよして短い四肢らしきものが前後に揺れながら、一見臆病な風に、しかしどこか悠然と足を運ぶ。

 

 体表は毒々しい紫色の鱗に覆われ。申し訳程度に付いた翼に対し、尻尾は扁平に広く葉っぱの形に広がって、どことなく頭と似た形状になっている。

 その先端や両端にある突起はゼンマイのようにくるりと丸まって、生物というよりは物の怪か妖怪に属する印象を残した。

 

 ヤモリか龍か、何と言うべきか迷わざるを得ないその奇妙な生き物。

 彼はセーラー戦士たちの前で眼球を回しながらぺろりと舌を出して、何の意志も読み取れない顔を傾けた。




というわけで今回のゲストは霞龍オオナズチ。
やはり、美少女たちと比べても遜色ないくらい可愛い(洗脳済)
予告していた通り、内部と外部で交互にエピソードが来る形で投稿させて頂きます。

※最近、非ログインユーザーの方からコメントなど頂けて、とても嬉しく感謝しかないです。誠にありがとうございます。
一方で「非ログインユーザーから感想を受け付ける」設定なのに、非ログインユーザーの方が一定数感想をつけるとある時点から書けなくなる…という謎現象が起きていまして。
原因は不明ですが、その場合に感想を書かれる際は
①アカウントを作る②ログインする③Pixivにて連載している当作品にコメントする
などの対策がありますので、もしもの場合はご活用頂ければ。

雑談ですが、モンスター総選挙はブラキディオスに投票しました。フロンティアならベルキュロス(ドラギュロス)、いかれ具合部門ならUNKNOWNが好き。

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