セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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流石にワイルズ発売までには本作完結すると思います(フラグ)


都邑の暮を呑む霞③(☆)

 美しい夢の世界を護る司祭、エリオス。

 風に靡く草絨毯のなかで抽象的な存在の名を聞いたネプチューンは、乱れるうねり髪を抑えて朧月をふと見上げた。

 

「前世の記憶かしら、懐かしい響きね」

「彼は本来、今の貴女たちが知るべき人物ではありません。現時点では、我々の世界で来たる敵の手中に囚われているはずなのです」

「そんなヤツがなぜこの世界に?」

「分からない、としか言いようがありません。その敵から脱け出したのかも知れませんし、未来から来たと考えても納得はいきます」

 

 プルートが告げたのは未来予知と言うべき内容だった。

 しかし、仲間たちが戸惑うことはない。プルートが未来と過去を行き来できる戦士であることは既に周知の事実だからだ。

 

「竜たちの世界と接触したことで、我々の未来の形は急速に変化しています。あくまで憶測ですが、彼はこの世界に……確実に対処する方法を伝えに来たのかも」

 

 ウラヌスとネプチューンはそれを聞いて初めて、真正面からプルートに顔を向ける。

 東京に戻ってからずっと彼女に向けていた不信と懐疑の視線を、やっと和らげた。

 

「なるほど。君がプリンセスの提案に靡いたのは、そのエリオスとやらを追うために……」

「貴女の意図は分かったけれど、それは私たちの主たちにこそ伝えるべきことではなくって?」

「プリンセスはじめ、とりわけスモールレディは彼と深く関わる運命にあります。このことをいま彼女に伝えれば、それこそ未来が大きく変わってしまうのです」

 

 プルートは念を押すように仲間たちの顔を一つ一つ見つめ、一歩踏み込んだ。

 

「スモールレディには勿論、プリンセスにも、プリンスにも。そして内部戦士たちにも、ここで伝えたことは決して話さぬよう」

 

 サターンはしばらく無表情で言葉を聴いていたが、やがてため息交じりに自ら視線を逸らした。

 

「……仲間内で隠し事とは、慣れませんね」

 

 そう言葉を漏らした彼女に対し、プルートは申し訳なさそうに眉を下げた。

 一方で、ウラヌスがサターンの肩にそっと手を置く。

 

「彼らに変な期待を持たせるよりはいい。それに僕らが提案したことに比べりゃ、隠し事なんて随分可愛いものじゃないか」

「むしろ外部戦士で目的を共有できたのは喜ばしいことよ。プルート、この場を設けてくれたこと、感謝するわ」

 

 ネプチューンが謝意を述べる一方で、サターンは唇を噛み締めていた。

 草原をずっと見て、口を一文字に結んで。

 草の一部に見つけた水滴を、鏡に見立て。

 

「これも……彼女を護るため」

 

──

 

 

「お願い、一緒に戦って!!」

 

 

 寝間着姿のちびうさは、老人に向かってそう叫んだ。

 ココット村の専属ハンターであるマハイは、月下でランタンを持ったまま立ち尽くしている。

 彼が夜の見回りをしていたところに割り込んだのである。

 

「オオナズチのこと、たくさん知ってるんでしょ。ベテランハンターの貴方がいれば、きっと!」

 

 マハイは、期待の視線を投げかけてくる少女に視線を寄越した。

 だが、すぐには答えない。

 代わりに彼は首を横へと回し、見事な三日月を懐かしそうに見つめた。

 

「……この村も、たった2年で随分と変わった」

 

 骨から造られた大剣の刃には、錆びが蔓延りかけている。

 

「最近、若く優秀なハンターがよく来てくれるようになってな。『狩人発祥の地』の知名度は伊達じゃない」

 

 ちびうさは、月明かりに照らされた彼の顔を見てやっと気づいた。

 マハイの頬はココット村に居候していた時と比べ、多少だが痩せこけていた。

 狼のように鋭かった瞳も穏やかに、悪く言えば覇気を失っている。

 

「マハイさん、そんな」

「潮時ってやつが来たのさ。多分、妖魔化したライゼクスに体力を吸われた辺りからだな」

 

 ちびうさは嘘よ、と言えなかった。

 実際、座って背を丸める男の姿が本当に、いつもより小さく見えたのだ。

 彼はしばらくちびうさに目をくれたが、やがて振り払うように目を背け。

 ランタンを再び持って立ち上がった。

 

「今の俺より彼女たちの方がずっと強い。安心して行ってこい」

 

 少女は項垂れた。

 マハイとの距離は、ぐんぐんと広がっていく。

 

「あたしの友達が危ないのよ!!」

 

 進もうとしていた足が止まる。

 

「ほたるちゃんはほとんど戦ったことがないの。もしかしたらこの先マズいことになるんじゃないかって、でも、あたしにはあの子が戦うのを止められない!」

 

 もう必死に、縋りつくように叫んだ。

 一時、妙な時間が続く。

 老人は背を向けたままだった。

 穏やかな風に草がそよぐ。

 その音に交じるように、呟きが聞こえた。

 

「……その件は村に関係ないことだ。俺もこの身体で古龍に挑むほど勇敢じゃ……」

「本当にそうでしょうか」

 

 若い男の声だ。

 老人が振り向くと、背の高い黒髪の青年が歩いてきていた。

 

「まもちゃん」

「ずっと前の話ですが、あなたはご自分を『護れなかった』側だと言いましたよね」

 

 老人の頬の端っこがぴくりと動いた。

 

「一つだけ、聞かせて頂きたいことが」

 

──

 

 翌日の明朝。

 天然の朝霧が少なくなった時を見計らい、ココット村を出発する。

 万一の時のため村人からもらった解毒薬も持参済みである。

 朝日の中小鳥たちがさえずる、爽やかな空気の中での出発だった。

 

 ココット村の素朴な木製のゲートの前に、一同が集まっていた。

 

「なるちゃん、昨日は眠れた?」

 

 なるに、ちびムーンが呼びかけた。

 彼女の髪は多少乱れていたが、昨日に比べればずっと表情は落ち着いている。

 

「……ええ。村の人たちも優しくって……お夕飯も美味しかったわ。言葉は全然分からなかったけど」

 

 なるはココット村の人々を見て、何かを考えているようだった。

 

「じゃあ、そろそろ行くわね」

 

 ウラヌスはそこから自身の腰よりも低い村長に視線を寄越すと、目を閉じ、頭を下げた。

 

「短かったが、世話になった」

「……うむ。あの子たちにも、よろしくと伝えてくれ」

 

 この後オオナズチと戦うという事情を知る村長は、複雑な表情でいた。

 戦士たちはココット村を後にする。

 その途中、ちびムーンが少しマハイを振り返ったが彼は何も言わず、腕を組んでいるだけだった。

 

──

 

 霞龍オオナズチ。

 彼は、予想通り木々の幹の間に居座っていた。

 

 大樹が絡み合うことでトンネルのようになった、狭い小道。

 木漏れ日の下、そこを一歩一歩、前脚を前後に揺らして踏みしめる。

 悠然と風にそよぐ木の葉のように。

 泰然と流れる小山の清流のように。

 

 ふと、目玉同士の中間から伸びる白い角をこちらに向けて。

 静止。

 眼は左右それぞれ異なる方にくるくると動いて、節操がない。

 

「待ち構えていますね」

 

 プルートが呟いた。

 外部太陽系戦士の4人は武器を構え、にじり寄る。

 ちびムーンとタキシード仮面はなるを引き連れ、遥か後方から見守っている。

 セーラー戦士の攻撃によりオオナズチがダウンした隙を狙い、戦闘を彼女らに任せて逃げ去るという計画だ。

 

「……来るわ」

 

 ネプチューンが呟くのと、オオナズチが口を開けたのはほぼ同時だった。

 

「こおおおおおおぉぉぉぉ!!!!」

 

 突然、オオナズチは首をぶん回して紫の毒霧を吐いた。

 前脚を上げ、仁王立ちで何度も噴射し、眼下の人間へ振り撒こうとする。

 それを彼女たちは跳躍して冷静に遠くへと避け。

 

「ワールド・シェイキング!!」

「ディープ・サブマージ!!」

「デッド・スクリーム!!」

「サイレンス・グレイヴ・サプライズ!!」

 

 4つの光球が一斉に飛ぶ。何れも攻撃力を抑えた代わりに推進速度を上げたものだ。

 どれも角を別々の角度から狙っている。

 それに気づいたオオナズチは瞬時に頸を引っ込め、姿を消そうとしたが──

 僅かに間に合わず、プルートが放った気流を纏う紫色の光球が、角の先端に掠った。

 

「きゅええええっ!?」

 

 爆発。

 硬質な白い表皮に、僅かにひび割れが入る。

 オオナズチは昏倒したように舌を垂らして立ち尽くした。

 

「さぁ、今のうちに!」

 

 サターンが振り向いて叫んだ。

 ちびムーンたちは時を見計らい、なるを連れて走っていく。

 目を回す全長15mの龍のすぐ傍が唯一の通り道である。

 なるは好奇心に負けて、ちらりと、傍に佇む龍へと視線を寄越した。

 

 のっぺりとした質感の毒々しい紫色の皮。

 ヤモリに似た四肢に翼が生え、大きく扁平な頭と尻尾が伸びる奇妙な身体構造。

 真ん丸の渦巻き模様の中心に居座る、人間に似た瞳。

 大阪なるは、顔を真っ青にしてますます足を早めた。 

 

「きゅおおおおおおおお!!!!」

 

 ギリギリでの通過だった。

 オオナズチは息を吹き返すと、白い霧を大量に吐いて這い下がっていく。

 全方面が、あっという間により濃い霧に包まれる。

 

「……やはりそう来るか」

 

 いよいよ戦闘が始まる。

 セーラー戦士たちは小道に広く散開し、全神経を尖らせた。

 こうすることで相手の狙いを分散させ、索敵範囲を広くするのだ。

 そしてこちらの攻撃で相手が1回でも動きを止めれば、後は包囲して思う存分袋叩きにできる。それを実現できるほどのパワーを、彼女たちは守護星から授かっていた。

 

 そのうちの1人であるウラヌスは、宝剣スペース・ソードの柄をしかと両手に握り、斜めに構えていた。

 太陽の光届かぬ霧中でも、宝石に彩られ美しく湾曲した刃は、銀の輝きを失っていない。

 

 そろり、そろりと。

 

 様子見のつもりか、不規則に点滅を繰り返しながら歩む霧中の幻影。

 最初は木陰に隠れ、茂みに隠れ、いつでも逃げられるような位置を通り過ぎる。

 

 金髪の麗人は男のように鋭くも美しい顔立ちで、目線だけを影に追わせてゆく。

 今は、誰も何もしない。その時をひたすら待ち続ける。

 

 やがて、ウラヌスからそう遠くないところにその姿を現す。

 攻撃のチャンスを彼女は見逃さなかった。

 

「はああああっ!!」

 

 濃紺のミニスカートの下から長くすらりと伸びた脚をばねとして、疾風となり、スペース・ソードを突き出す。

 赤く張り巡らされた高周波がブゥンと唸る。

 

 しかし、切先が紫色の鱗を穿つことはなかった。

 剣の柄に、オオナズチの口内から伸びた細長い物体が巻き付いたのだ。

 

「舌……っ」

 

 マハイが言及していた、オオナズチ特有の伸縮自在の舌だ。

 いくら力を込めて引こうとしても、粘着力とぬめりに富む舌は傷つけることを許さない。

 

「きゅろろろっ」

 

 かつてサターンから沈黙の鎌を奪い去ったように、今度はスペース・ソードを狙っているのだ。

 ウラヌスはそうはさせまいと抵抗したが、結果は剣ごと自身を宙へ舞い上がらせることとなった。

 放り投げられた彼女は、地を転がることで受身を取る。

 

「ウラヌス!」

「いま、援護します!」

 

 サターンとプルートは、ちょうどウラヌス、ネプチューンとオオナズチを挟む位置にいた。

 彼女たちは即座に武器を構え、エナジーをその先端に集約させようとした。

 それに気づいたオオナズチ。

 彼はぎょろりとそちらに瞳を滑らすと、くるりと、巨体に見合わぬ素早さで翻った。

 

「なっ……」

 

 先ほどまでの緩慢な動きからは想像できないほどの俊敏さ。

 オオナズチは身体をくねらせながら突き進み、同時に舌で前方を薙ぎ払った。

 それは鞭のようにしなやかに伸び──

 中距離から技を放とうとしていたサターンの鎌とプルートの杖を手元から打ち払う。

 舌による殴打の威力は凄まじく、彼女たちはほぼ水平に吹っ飛ばされた。

 

「ディープ・サブマージ!!」

 

 ネプチューンが横から高水圧球を放つと、オオナズチは跳び上がりながら姿をくらました。

 彼女は即座にその行先を捉えようとディープ・アクア・ミラーを覗く。

 しかし、何も感じ取れない。強烈な生のエナジーの流れは、いま自分がいる地上には見当たらなかった。

 

「……まさか」

 

 感づいて、彼女は手鏡から顔を上げた。

 見上げたのは頭上の樹の枝だ。

 

 周囲よりも木の葉が多く揺れ落ちる、不自然な空間。

 

 そこに突如、ぎょろ目と白い角が浮かぶ。

 

「はっ!」

 

 枝を脚で掴むオオナズチは舌を直線状に伸ばし、眼下のネプチューンを直接狙う。

 彼女が横っ飛びに避けると、爬虫類のようにするすると樹皮を這い、再び霧中へと溶けてゆく。

 

「……まさか、これも理解しているの?」

 

 まるで彼女がディープ・アクア・ミラーを使うことを予見したかのような攻撃だった。

 次は枝の上から、毒霧を比較的遠くにいるプルートとサターン目がけて撒き散らす。

 彼女たちはそれを難なく避けたものの、はっとして背後を見た。

 滞留した毒霧が壁のようになり、退路を塞いだのだ。

 ただでさえ狭い森の細道、遠距離を保って相手を狙撃するという手段は難しくなった。

 

「……デッド・スクリーム!!」

 

 プルートは「きゅるるる」と鳴いたオオナズチに光球を放つがすぐに俊敏な動きで透明化、放たれた光球は当たらず。頭上に密集した枝を円形にくり抜く結果に終わった。

 彼女は初めて、焦燥の感情を出した。

 何よりも厄介なのは、濃霧が作り出す劣悪な視界だ。

 その程度は前回を遥かに超えている。5mでも離れればお互いの姿すら見えない。

 これが、あらかじめ立てていた作戦に大きな影響を及ぼしていた。

 

「霧や森ごと敵を吹き飛ばせば……」

 

 少し離れたところでサターンは沈黙の鎌を構えて黒い雷を滾らせたが、ややあって諦める。

 周りの地形ごと相手を完全に消し去ることは、セーラーサターンの能力としては『理論上』可能だ。

 しかしこんな狭い場所で大技を最大出力で放てば、濃霧に紛れた仲間を巻き込む確率が非常に高い。

 

「……無理だわ」

 

 まともに戦うにはあまりにも不利すぎる環境に、土星の守護戦士は臍を噛んで鎌を下げる。

 そこへどこからか毒霧が飛んでくる。

 彼女は、咄嗟に腰をずらして避けた。

 

 オオナズチは逃げに徹していた。

 一度攻撃してはすぐ消える。その動きを、ランダムに相手を決めては繰り返す。

 遠くの敵には毒霧を吐き、己の姿を見て近寄ってきた者には緩急付けた動きで舌を振り払う。

 

 特に、セーラーサターンはかなり警戒されていた。

 彼女に集中して大量の毒霧をばら撒くことで攻撃を阻害。そこから翼をはためかせ風を起こすことで毒霧を動かし、サターンとプルートの行動を制限する。

 沈黙の鎌の威力を学んでいるがゆえの対処である。こちらに考える暇すら与えてくれない毒霧の量だ。

 毒溜まりの間を必死に潜り抜ける彼女を見たプルートは、叫ぶしかなかった。

 

「作戦を変えましょう! ばらばらにいるのはむしろ危険です!」

 

 その提案に反対する声はなかった。

 毒霧を吐いたオオナズチが一旦消えたのを合図とするように、ウラヌスとネプチューンが駆けてくる。

 サターンも一際小さい体で息を切らしながらも、鎌を番えてきた。

 

 彼女たちは示し合わせたように背中合わせで集う。

 そして武器を構え、ひたすらに待ち伏せる。これなら、どこから攻撃が来ても対応することができる。

 ネプチューンは手鏡をあらゆる方向に向けていたが、

 

「……」

 

 やがてそれを降ろし、ちょうど隣にいるウラヌスにアイコンタクトを取った。

 彼女は瞬時に意味を理解し、黙って掌を握る。

 

 赤紫色が混じった霞の中。

 オオナズチの目玉が、再びウラヌスの隣に現れた。

 口が素早く開き、ぬめった舌の先っぽが覗いた。

 

「ワールド・シェイキング!!」

 

 瞬時に開いた掌に、金色の光球を出現させる。

 伸ばされた舌を屈んでやり過ごし、掻い潜り、それを零距離で放つ。これなら、スペース・ソードのように舌に絡め取られる心配はない。

 

 そして見事、頭に命中。

 

 強烈な衝撃波により、角のヒビが更に広がる。

 

「きゅえええっ!?」

 

 角の完全破壊には至らなかったがオオナズチは大袈裟と思えるほど悶え、そのまま横向きに頭を沈ませた。

 

「ろろろろろろろ……」

 

 それが初めてだった。

 霞龍が弱々しく鳴いて舌を垂らしたのは。

 頭は一目見て分かるほど叱られた子犬のように項垂れて、動きは完全に止まっている。

 

「サターン、プルート!」

 

 ウラヌスが呼んだときには既に、サターンとプルートが鎌と杖を構えていた。

 

「この距離なら……確実に当たるわ」

「2人とも、射線から離れて下さい!」

「ああ、分かった。だが、攻撃には加わらせてもらうぜ」

 

 ウラヌスも傍で剣を高周波によって光らせ、トドメを刺そうとオオナズチを睨んでいる。

 しかし──ネプチューンだけは攻撃の構えをしつつも、違った反応を見せていた。

 

「数百年も生きた古龍が……こんな簡単に隙を晒す?」

 

 作戦の転換により、彼女たちとオオナズチの距離は1mほどしかない。

 そしていま命が潰えようとしている龍は、どこか異様に落ち着いているようにも見えた。

 この状況を俯瞰した彼女はある結論に達し、仲間たちへと振り向いた。

 

「待って、これは罠よ!!」

 

 オオナズチは瞳を目玉の上で滑らせ、戦士たちを初めてはっきりと捉えた。

 突然背を向けると、先端が包まった尻尾で地をはたく。

 

「っ……!?」

 

 とても尻尾一つで起こしたとは思えない、強烈な風圧が吹いた。

 攻撃することに意識を集中させていた戦士たちは、纏めて足を掬われる。

 オオナズチはくるりと身を翻す。

 

「こぉおおおおおあああああああ!!!!」

 

 それまでの紫の毒とは明らかに異なる、青緑の吐息が襲い掛かった。

 

「かっ……!!」

 

 その激烈な臭いと勢いに倒れ込んだ戦士たちに、さっそく異変が起こる。

 声が枯れて出せないうえに、急速に身体中の力が抜けたのだ。

 ネプチューンはその場に膝をつきながら、目の前で眼球をあちこちへ動かす霞龍を睨んでいた。

 

 裏をかかれた。

 

 最初から、オオナズチはこの状況を狙っていた。

 彼はセーラー戦士が強力な飛び道具を持っていることを学んでいた。

 そんな生きた兵器が自身の周囲に散らばっているのは、かの龍にとってかなり都合が悪かったはず。

 

 だからこそ、遠距離でも中距離でもなく()()()()にまで近寄らせた。

 遠くにいる者へは何度も毒霧をばら撒き、中距離の相手には──特に宝剣を持つウラヌスには──舌による攻撃を見せつける。

 そこへ更に、濃霧による不安感の相乗効果。

 これによって互いに散らばることは危険であり、至近距離からの集中攻撃が有効であると印象付けた。

 最後に4人を一ヵ所に固まらせ、更にわざと攻撃を受け、弱ったフリをして油断させた。

 

 霞龍は言葉を一切発しない。

 あからさまに挑発することも、傲慢さゆえに弱点をうっかり話すこともあり得ない。

 非常に臆病で、用心深い。

 だからこそ、行動の裏をすぐに読み取れなかったのだ。

 

 オオナズチは、口元に毒を含んだ。

 翼で飛び上がると共に、それを真下に放出。

 塊は爆発に近い半球状の破裂を起こし、4人の戦士を毒霧の波に包み込んだ。

 

──

 

「待って!」

 

 ちびムーンが呼びかけて、皆の足を止めた。

 

「みんなの声がしないわ」

「なんだって?」

 

 タキシード仮面が聞き返した直後、来た道の向こうから風が吹いてきた。

 そして、たったったっ、と。

 何も見えないのに明らかに誰かの足音が、凄まじい素早さで這い寄ってくる。

 

「はやくこっちへ!」

 

 なるは、悲鳴を上げるのをこらえてひた走る。

 ちびムーンはもう一度振り返る。

 後方には確かに何もない。

 そして前方を向いた瞬間、目玉が現れた。

 

「わあああああああああっ!?」

 

 彼らは既に先回りされていたのだ。

 ちびムーンは先頭にいるなるを庇い、ピンクのハートジュエリーが付いた杖を向ける。

 

「ピンク・シュガー・ハート・ムーン・アタック!!」

 

 ハート型の光線が角に直撃する。

 しかしオオナズチは一時、目を細めただけだ。

 

「くっ、やむを得ないか!」

 

 更にちびムーンの前に出たタキシード仮面がステッキを構えた時。

 

 

 そこへ、一つのボール状の物体が飛んでくる。

 

 

 きぃぃぃぃぃ、ん──

 

 

 物体が弾け、不快なほどの高音が鳴り響く。

 

「きゅるああああああああっ!?」

 

 口を開けかけていたオオナズチは驚いて仰け反った。

 

「音爆弾!?」

 

 タキシード仮面は、それが飛んできた後方に振り向く。

 呆気に取られている一般人たちよりも更に後ろだ。

 そこには鎧を付けた白髪の老人が、かなり息を切らして投擲を決めたばかりの姿勢でいた。

 先ほど別れたはずのハンター、マハイだ。

 

「やはり……お前、だったか」

 

 彼は荒く息を吐きながら声を絞り出していた。

 そして視線を、自身の更に後方へと持っていく。

 

「ディープ・サブマージ!!」

 

 水を纏った光球が、浅い弧を描いてオオナズチの頭へと直撃した。

 

「きゅるるるるるっ!?」

 

 水の爆発と共にオオナズチが仰け反り、前脚で空を掻き、その場に倒れ伏してもだえ苦しむ。

 セーラー戦士たちが遅れてやってきた。

 時々咳き込みながらも、大怪我はしていない様子である。

 

「みんな! 無事だったのね!」

「ええ……解毒薬を持ってきて本当に助かったわ」

 

 サターンもまだ声が枯れて本調子ではないが、喜々と駆け寄ったちびムーンを見て安心したようだ。

 しかし無事を喜ぶ暇もなく、マハイが未だ地面で藻掻いているオオナズチを横見ながら叫んだ。

 

「あんたたちは迷子たちを元の場所へ連れていけ。あいつが起き上がらんうちに!」

「しかし、あなたは……!」

「死なない程度に相手するさ!」

 

 ちびムーンは、マハイの顔を見つめ上げた。

 

「後はお願い!」

 

 ウラヌスは、その決意に満ちた様子を見て、仲間に視線を巡らせる。

 

「……こいつはどうも、訳アリだな」

 

 とにかくのんびりしている時間はない。

 

「マハイさん、またいつか!」

 

 別れを惜しむ暇もなく、セーラー戦士たちはオオナズチの横を通り抜けていった。

 それからしばらくしたのち、オオナズチは立ち上がる。

 白い吐息を口端から激しく何度も噴き出している。

 表情筋がないにも関わらず、傍目からでも興奮していることは明らかだ。

 それは即座に、彼女らが向かった方へと目線を持っていこうとしたが。

 

「おい」

 

 その一言で、意識はいま眼下にいるたった1人の人間へと注がれる。

 

「お前、俺のこと覚えてるだろ」

「……くるるるるる」

 

 意志の見えない眼。

 しかしそれは確かにマハイをずっと見つめ、それ以外の方向に向かおうとはしなかった。

 老人は薄く笑った。

 

「ったく、迷惑事を押し付けられてこっちは困ったもんだ。そっちも随分と賢くなったじゃないか」

 

 竹馬の友とでも出会ったような調子で、通じるはずもない会話を持ちかける。

 

「共に思い出話でもしようじゃないか。ゆっくり、ゆっくりとな」

 

 彼が骨で造られた大剣『天竜ノ顎(テンリュウノアギト)』を引き抜いてみせると、明らかに雰囲気が変わる。

 

 

「来いよ」

 

 

 男が叫ぶと同時、オオナズチは猛然と舌を振り回して彼へと向かっていった。

 

──

 

「マハイさんは何十年も前、あの霞龍に挑んだことがあったようだ」

 

 物音がしなくなった頃、タキシード仮面は木の間を歩きながら戦士たちへと語りかけていた。

 

「だがそれは彼曰く、若さゆえの慢心、そして情報と準備の不足によって失敗し、結果的にはヤツの毒に汚染された川の水や魚から……ココット村は壊滅的な被害を受けたらしい」

 

 横で話を聞くなるは、口を噤んで俯いた。

 

「あれがその時と同じ個体だと、なぜ分かる?」

「直感、だとさ」

 

 当然湧きあがった疑問に、タキシード仮面は前を向いたまま答えた。

 ウラヌスは振り直って、「……なるほど」と少しの間を経て呟いた。

 それ以上同じことを聞いても、恐らく無駄だ。

 プルートは次に、ちびムーンの方に首を傾けた。

 

「ココット村の人たちは納得したのですか?」

「狩りはいつだってそんなものだし、俺の代わりはもういるから安心してるって。本当かどうかは知らないけどね」

 

 ちびムーンはそう答えたあとサターンの方を向いて、少し茶目っ気のある笑いを投げかける。

 

「……マハイさんは、私の罪を代わりに被ってくれたのね」

 

 サターンは鎌を握り、俯く。

 この一生の友達が、出会って間もなかった狩人が、己の身を案じてくれたことを噛み締めるように。

 タキシード仮面は、かつて2人の少女の間にあった気まずい空気が今はないのを確認したうえで、 

 

「サターン。マハイさんから預かった言葉がある」

「何でしょうか」

「『何かを護ると決めたところから争いの火蓋は既に半分切られている。後の半分を切るかどうか。それはよく考えてから決めろ』……とのことだ」

「……ええ。肝に銘じます」

 

 サターンは言伝を聞いたのち、静かに頷いた。

 一方、少し離れてネプチューンと並ぶウラヌスは、無表情に前だけを見つめて歩いていた。

 

「さっきのはむしろ、僕たち向けの言葉だな」

「あら、貴女が後悔を口にするなんて、らしくないわね」

 

 ウラヌスは口の端だけを曲げて、相方へと笑いかけた。

 

「ちょっとくらいはいいだろ。僕らはいずれ地獄に行くって、そう決まってるんだからさ」

 

 しかしネプチューンは視線を背けて、憂うように眉を歪めた。

 

「不吉ね。もう少しマシな言い方を選べないのかしら」

「僕は幸せさ。転生するまでずっと君と2人、同じところにいられるから」

 

 金髪の麗人は、海色の髪の乙女の波打つ髪に細い鼻を寄せる。

 その行為をされた彼女は、断ることもなくそのまま相方を受け入れる。

 

「本当に……一緒に暮らす家族がいなくてよかったと思ってるくらいなんだ」

「……!」

 

 プルートは一瞬、はっとして2人の横顔に振り返る。

 しかし、気づかれないうちに悲しげに顔を背けた。

 

「なんだか、セーラー戦士さんたちも大変そうね」

 

 少女なるは何となしに空を見上げると「あっ」と声を上げた。

 白い霧の向こうに青い色と、銀色の光が見えた。

 

 銀色の光の正体は、ビルに反射した太陽光だった。

 

 一行は、霧の支配する森を抜けていたのだ。

 東京の街は本来の姿を彼女たちに見せつつあった。

 なるたちが向かう方向には、『十番商店街』と書かれていたタワーが聳えていた。




外部戦士の目的が、プルートの独白によりエリオス探しに変化。
しかし希望を見出したというにはまだ足りない状態です。

そして今回で改めて、古龍の強さのハードルが上がり過ぎたかもしれないです。
ゲームに出てくる動きは単なるプログラムとゲームバランスを考えての調整結果なので、世界観的に知能が高いナズチならこれくらいはするだろうと思ったのですけど。

モンハンワイルズ、控えめに言って最高に楽しみです。突然の発表で驚きましたね。
小型がうじゃうじゃ集まって、そこにアシラ骨格っぽいモンスターたちも群れで襲い掛かってる時点で「これ、生態系表現でワールドを超えるかもしれない」と感じました。
あと、導蟲とスリンガーの存在を確認、そしてタイトルの『MONSTER HUNTER』の文字がワールド型であることから、実質ワールドの続編の可能性あり?(でもリオレウスの鳴き声が旧シリーズなので現状はあくまで不明)
モンハンもいよいよオープンワールドの時代かな? 次世代機のパワーを存分に見せつけて欲しいです。
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