セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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焦土を望む街①(☆)

 早朝、薄暗い商店街のシャッターはどれも閉まりきっていた。生ける文明の存在を示すのは、弱く点滅する電灯のみである。

 

 ちびムーンが行き、タキシード仮面はそれを隣で護る。その背後には、ウラヌスとネプチューン、プルート、サターンの外部太陽系戦士。ココット村から連れ帰ってきた一般人も一緒だ。

 

「ここもみんな、逃げちゃったのかな……」

 

 ちびムーンは人影を求めて視線を彷徨わせた。

 聖杯、そして雷の持ち主の情報を得るため赴いた『十番町商店街』は、朝日を受けても眠ったように静止していた。現代的なビルや商店の尽くが沈黙を保ち、道路両端に植えられ伸び放題になった並木だけが葉を揺らしている。

 

 冷え切った色のビルに囲まれた道路中央に、コートを着た人影が独り彷徨っていた。

 茶髪の妙齢の婦人である。

 それを見たなるは突然、前に踏み出して、

 

「ママ!!」

 

 ビルの間に少女の声が反響した。

 彼女もこちらに振り向くと、1、2歩近寄って目を凝らす。直後、がらんどうの街にヒールの音が何度も鳴って。

 互いに走り寄った彼女らは抱き合った。

 

「なるちゃん、無事だったのね!!」

 

 女性の声は上擦っていた。

 どうも、はぐれた娘を探しに来ていたらしい。

 続いて、目の前にいるセーラー戦士たちに涙ぐんで何度も頭を下げる。

 

「セーラー戦士の皆さん……娘を救って下さったのですね。本当に……本当にありがとうございます!」

 

 なるも涙に頬を濡らしていた。

 感謝された戦士たちは一先ずは肩から力を抜く。

 親子の再会を見つめながら。

 

「さて。御婦人にあらかたのことを聞いたら、また人を探さなくっちゃな」

「多少の人は残っているでしょう。少なくとも1人や2人は……」

 

 ウラヌスにネプチューンがそう答えて、街並を見回した時だった。

 

 がしゃん、と一つのシャッターが開く。

 

 振り返ると、一人の老店主が文具店を開けたところだった。

 それからもう一つ、また一つ。

 出てきた人々が旗を立てる。看板を『開店』の面へと裏返す。その眼に入る旗や看板に掲げられる名前は、彼女たちにとって見慣れたものばかりだった。

 ちびムーンは息を呑んだ。

 八百屋、肉屋。カフェ、レストラン、美容院、洋服店、菓子屋、絵画教室、書店。

 見て挙げられるものだけでもみんな、懐かしいものばかりだ。

 

「信じて……良かった」

 

 ちびムーンは潤んだ瞳で呟くと、タキシード仮面は微笑んで頷いた。

 東京は死んでいなかった。

 

「では……そろそろ、この辺りでお別れですね」

 

 プルートの視線を受けたタキシード仮面は一般人たちに振り向くと、

 

「君たちは先に行ってくれ。我々は引き続き周辺を見回り、この街を護る」

 

 そう言うと彼らはそれぞれ深々と頭を下げ、通りの向こうへと歩いていった。

 しばらく、それを見送った後。

 戦士たちは人目のない路地裏に入り込むと、変身を解いて日常の姿に戻った。

 はるかたちの服装は今回のことを見通してか、東京の人間として違和感のないブラウスやワンピース、コートの姿となっている。

 ちびうさと衛はそのままでは明らかに目を引く民族衣装のため、布をコートまたは頭巾のように纏って誤魔化した。

 

「では、僕たちは東を回って情報を集めよう」

 

 はるかは相方であるみちる、せつなと頷きあいつつ、ちびうさたちと向かい合った。

 

「じゃあ、あたしたちは西で『雷』についても聞いてみる!」

 

 ちびうさは衛、ほたると固まった。

 日が昇ると次第に人通りが並び始める。

 ついこの前まで怪物が来ていたとは思えない賑わいだ。

 そこにいる人々に、今の状況や見聞きした情報を片っ端から聞いていく。

 そして数時間後、正午を少し過ぎたほど。

 

「改めていまの状況を整理しようか」

 

 まず今回この世界で起こっている災害について、はるかたちは重要なことを幾つか聞けた。

 

 電気、ガス、水道などのライフラインは無傷。電波も問題なく通じ、ラジオやテレビも使用可能。

 しかし各所に出没した霧からあちらの怪物が侵入した。そのせいでなるのように一部、家を追われた人もいる。

 とはいっても彼らが居座り続けることは以前に比べて少なくなったらしい。

 

「デス・バスターズが妖魔ウイルスを使えなくなったせいか……今のところ、目だった被害は無いようで何よりですね」

 

 せつながそう言う一方、はるかとみちるは、

 

「油断は出来ない。今にも、災いの前触れとして誰かが先陣を切ってくるとも知れないからな」

「……声の主探しは急いだ方が良さそうね」

 

 彼女たちは、ちびうさたちが向かった方向を見つめた。

 

──

 

「やっぱりなるちゃんの言う通りだったわ!」

「まさか、こんなに雷の持ち主を見た人がいるとは……」

 

 ちびうさ、ほたる、そして衛は、商店街の人々への聞き込みをもとに書いたメモを見返す。

 

 曰く、それは雷と共に現れる四本脚の獣。腕は岩のように盛り上がり、白い鱗に覆われている。地を蹴るように軽々と駆け、ビルを軽々と超えるほど高く跳ねる。鋭い牙が並ぶ口からは雷を吐き、蒼い一本の角が何より美しかったという──

 

 聞くからに危険そうな特徴が挙げられているのだが、不思議なことにその獣による被害の報告は1つもなかった。

 

「で、予想図を作ってみたはいいけれど……」

「……なんかむしろ全然予想つかないわ。自信作なんだけどなぁー」

 

 今度は、メモの裏にあった画用紙を表に広げる。

 ほたるとちびうさは、出来上がったものを前に沈黙する。

 

 彼女らの前には、ゴリラと二翼のドラゴンが合体したようなキメラが爆誕していた。子どもが描いたものゆえ絵はかなり拙い。

 

「ま、まあ、あくまで予想だからな。案外こういう姿かも知れないぞ?」

 

 衛はしょげるちびうさたちを励まし、奥の方を指差した。

 

「ほら。待ち合わせにはまだ時間があるし、もう少し向こうで聞いてみようじゃないか」

 

 彼の言う通り、ちびうさたちは奥へ奥へと進んでいく。右も左も人が行き交う中をすり抜けたあと、そこには。

 ちびうさたちは言葉を失ったまま、聞き込みも忘れ雑踏を行く。

 

 街の中でも一際、宝石のように輝く場所があった。

 

 ガラスで仕切られた店内には、磨き上げられた純白の棚やショーケース、中央には丸いテーブルがある。

 それらには柔らかな色彩のルージュ、保湿クリーム、マニキュア、香水、マスカラ、ファンデーションなどの化粧品が種類ごとに分けられたうえでずらりと並べられている。

 店の面積は狭いが贅沢にライトアップされ、利用客は意外にも多い。

 テスター用の鏡が置かれた右手前側にあるカウンターでは今ちょうど、1人の女性客が店員に購入したアイシャドウとリップスティックのセットを手渡されるところだった。

 

「お買い上げ、ありがとうございます~!」

 

 会計を済ませた店員は、出ていく客に対し愛想良く頭を上げる。

 彼女は濃い紫の髪を長く伸ばし、頭には猫耳に似た独特なヘアセットをしていた。

 

「……コーアン!」

 

 彼女の視線が呼びかけたちびうさたちへと導かれると、途端に驚きのあまり口に手を当てた。

 

「あなたたちは……衛さんに、ちびうさちゃん……!?」

「お久しぶり、お姉ちゃん!」

 

 ちびうさが手を振ろうとした時、コーアンと呼ばれた女性は既にその場からいなくなっていた。

 彼女は「すみません、どうかしばしの間お待ちをっ!」と客に一々慇懃に頭を下げて回り、背を押して店外に押し出した。「準備中」と書かれた看板を店先にかけ、シャッターを下げる。

 そのままの勢いでちびうさたちは手を引かれ、一つのカーテンの裏に続く空間へと導かれた。そこは従業員用の休憩スペース、即ちバックヤードだった。

 

「ちょっと、お姉さま方っ!!」

 

 部屋中央、コップ入りの珈琲が3つ並んだ一つの机の周りに、3人の女性が座っていた。いずれもコーアンと同じ、清潔感のある黒色の制服を着ている。

 しかし、髪の色や顔つきは全く違う。

 最も大人っぽい巻髪の女性、黄のリボンで丸く頭を纏めた気の強そうな女性、そして銀髪の三つ編みポニーテールに優しげな瞳を持つ女性。

 

「何、こんな時に騒々しい。まさかクレーマー?」

「うっそぉ、まだ休憩入ったばかりよ!? ブラックも良いトコだわ!」

「あたくしたちも立ち仕事は疲れますのよ。用があるなら先に……」

 

 纏う雰囲気は「お姉さま方」と括られるにはあまりに個性的である。

 話し込んでいた彼女たちが、同時にちびうさたちの姿を認めた直後。

 椅子が蹴っ飛ばされ、半ば吹っ飛ぶように倒れた。

 

「あ、あ、あなたたち、無事だったの!?」

「お怪我は! お怪我はありませんこと!?」

 

 気の強そうな女性と優しそうな女性が、騒ぎながらちびうさたちを取り囲み、次々に言い立てる。

 ほたるは目を白黒させて思わず後退った。

 

「カラベラス、ベルチェ、落ち着きなさい。あちらも驚いてるわ」

 

 それを、長女らしい女性が制す。

 

「貴女たちは……ブラック・ムーンの幹部『あやかしの四姉妹』……」

「やぁね、それは昔の名前。今はただの四姉妹よ!」

 

 ほたるの肩を軽く叩きつつ、コーアンは左に並んだ姉妹たちを示す。

 

「貴女とは初対面よね、紹介するわ。長女のペッツ、次女のカラベラス、三女のベルチェ、そして末っ子の私、コーアンよ」

 

 改めて、ちびうさたちは予備の椅子に座らせてもらった。衛は、改めて明るく照らされた店内を見回す。

 天井には絢爛なシャンデリアがぶら下がっており、照明の一つ一つに至るまでほこり1つない。至る所に、四姉妹の仕事へのこだわりぶりが窺える。

 衛は彼女たちの方に向き直った。

 

「驚いたよ。怪物が来てた時も、ずっと店を開いてたのかい?」

「ええ。あなたたちを待つためにね」

「あたしたちを?」

 

 ちびうさの問いに、末っ子コーアンは頷いた。

 

「1ヶ月くらい前にあなたたちがいなくなってから、この麻布はすっかり変わってしまったわ」

 

 彼女はカウンターに手を置き、ガラス越しに行き交う老若男女を眺めた。

 見る限り、ちびうさたちがあちらの世界に行く前と人の数はほぼ遜色ない。

 しかしコーアンは憂いげに目を細めて、

 

「みんな、ついこの前までキラキラした顔と姿で外に出てたのに、突然、怪物どものご機嫌を窺う暮らしになって……。この街から人も笑顔も減っていくのが、とても見てられなかった」

 

 そして、目の前の少女たちに視線を戻した。

 

「だから決めたの。セーラー戦士に頼るばかりじゃなくって、あたしたちに出来る範囲でこの街の灯を繋ぎ止めようって」

 

 ちびうさはいつの間にか涙ぐんでいた。

 商店街のシャッターが次々に開いた時、他愛もない話に夢中になって街をぶらついていた、自分たちの世界が戻ってきたという実感がした。

 それは、彼女たちのような者たちが粘り強く耐えてくれたお陰だったのだ。

 次女カラベラスは、横に立って苦笑を投げかける。

 

「言い出しっぺはこの子でね。そしたら、商店街の人たちもそうだ、そうだって団結しちゃって。まったく、感心しちゃうわ!」

「何でか、みんなヤル気が凄かったのよね。自分でも驚くくらい」

 

 コーアンが自慢気に胸を張るのに、ほたるは尊敬の眼差しを向ける。

 この街で戦っていたのは、セーラー戦士だけではなかったのだ。

 ほたるは思わず、嘆息する。

 

「……凄いです。普通ならお客さんもみんな逃げておかしくないのに、ここまで……」

「最近はあなたたちが怪物たちを退けてくれたお陰で人が戻ってきて、売上もV字回復ですの。まだまだこれからですわ♪」

 

 三女ベルチェも、にこっと微笑んだ。

 それからあちらの世界で何があったのか、簡潔に話した。

 一時的に店を閉めさせているという事情もあってかなりの部分を端折ったが、彼女たちは急かすことなく話を聴いてくれた。

 

「はぇ〜、あーんな馬鹿デッカイ化け物を、剣やら弓やらで狩る人間が、ねぇ」

「ちょっとあたくし、身震いしてきましたわぁ。思った通り、血で血を洗う世界ですのね……」

 

 カラベラスはしかめっ面で唸り、ベルチェは少しあざとく身を竦める。

 

「……良い人たちもたくさんいるよ?」

「きっとそりゃ、運が良かったのよ! 場所が場所なら身包み全部剥されてたかもよ!?」

 

 ちびうさのフォローも虚しく、カラベラスは大仰な手振りを交えてさえずる。

 かつての大阪なると同じ反応だ。

 モンスターの脅威を身近に感じたからだろうが、まるであちらの世界が地獄か、世紀末のような扱いである。

 

「えっとね、あたしたちが言ったのはほんの一部の人で、ほとんどの人は……」

 

 慌ててちびうさが言い直そうとしたところで、コーアンは彼女の手の甲に、掌を上からそっと添えた。

 

「とにかく貴女たちは、またこの街を護ってくれるのよね? そこが一番重要なところよ」

「……そうよ」

 

 ちびうさは頷くしかなかった。

 こちらを見つめる瞳は、他ならぬセーラー戦士たちへの期待に溢れているのだから。それに、災いから世界を護ることが目的であることには違わない。

 

「その答えが聞けて良かった。実はちょうど、貴女たちに相談したいことがあるの」

 

 長女ペッツは険しく低い声でカップを握る。

 他の姉妹が上機嫌な中彼女の表情は深刻で、ちびうさたちの目を引いた。

 

「奴らが、戻ってくるかも知れない」

 

 その一言で、場はしんと静まり返った。

 

「どういうことですか?」

「……昨日の夜遅く、商店街の近くで爆竹みたいな音がしたのよ」

 

 カラベラスがほたるに答えるように少し眉を顰めてみせ、ペッツの言葉を継ぐ。

 

「爆竹……誰かのイタズラじゃないか?」

「それなら良いんだけどね」

 

 衛は疑問を投げかけるが、ペッツの不安の表情は消えなかった。

 

「商店街のみんなも不安がってるわ。帰ってきたばかりで申し訳ないけれど……出来れば、様子を見に行って欲しいのよ」

 

──

 

 商店街を抜けた先、正面のずっと向こうに巨大な影が見えた。

 どうやらこの奥から例の音が聞こえるらしい。

 

「かつて東京を侵略しようとしたあの姉妹が、今度は護る側になるとは。……時の流れも、決して悪いことばかりではないですね」

 

 一連の話を聞いたプルートは、そう言って微笑んだ。

 セーラー戦士たちは商店街で合流したのち事情を説明しあい、戦闘形態となって問題の地点へと向かっていた。

 既に人通りはまばらになり、最初に彼女たちが戻ってきて見た風景と様相が似てくる。

 やがてあらかた予想していた通り、先ほどまでは晴れていた空が曇り、霧が濃くなってくる。

 あちらの世界に近付いている証拠だ。

 

「……どうやら、杞憂では終わってくれないようだな」

 

 かなり薄暗くなった太陽を見上げ、タキシード仮面は呟いた。

 さらに進むと完全に人はいなくなり、『立入禁止』のテープが張られた区域にやってくる。そこを抜けるとひび割れの入ったマンションやビルが目立つようになる。

 そして。

 

「あっ。もしかして、あれ?」

 

 ちびムーンが真っ先に気づいた。

 防獣策を応用したのかある所に大量のライトアップがなされ、独特の薬剤らしい臭いもした。

 霧の濃い方へ近づくにつれ、道路を塞ぐモノの全貌が分かってくる。

 

 まず最も手前に、電気柵が張られている。高さは5mほど。

 その奥には、二重に侵入を阻む防護柵。

 そしてその更に向こうに三重の壁──

 一軒家ほどの高さはある瓦礫の山が、右のビルと左のマンションの間を埋め立てるようにして積み上げられていた。おまけに有刺鉄線までびっしりと敷き詰めている。

 近くの道路には、どこかの工事会社のものであろうショベルカーやトラックが置かれていた。恐らくは崩された建物の破片を再利用したのだ。

 

「やたらに念入りだな」

「それだけ、怪物たちが恐ろしいということね」

 

 ウラヌスとネプチューンが、壁を見上げて呟く。

 

「……」

 

 ちびムーンもその拒絶の象徴を見て押し黙る。

 

「嫌か、あっちの世界のことを分かってもらえないのが」

 

 呼びかけたウラヌスに、ちびムーンは思わず振り向いた。

 

「だが、これが普通なんだ。僕らがこの街に望まれることは1つ、あちらの世界の排除のみ」

「……でも、なるちゃんたちは」

「みんながみんな、そうなれるわけではないのよ。どんな事情があろうと、この街にとってあちらの世界は休みなく怪物を供給してくる魔の領域なのだから」

 

 ネプチューンが口添えすると、ちびムーンはぐっと唇を噛み締める。

 タキシード仮面はちびムーンの肩をそっと引き寄せて宥めた。

 

「……スモールレディ」

 

 プルートが、そんな彼女を憐れむように見つめた時だった。

 

 

 どすっ、どすっ、どすっ、どすっ、どすっ。

 

 

 重いものに地が踏まれる音が、全員の鼓膜を震わせた。

 

「はっ……」

 

 気づいたサターンは真っ先に振り返る。

 音がするのは、壁の向こうからだ。

 

「みんな、離れて!」

 

 霧の向こうから、何かが瓦礫の山を超えて飛び出した。

 

 草食竜アプトノスだ。

 

 人の背丈を裕に超える灰色の体躯が、有刺鉄線に激突する。

 

「ブモオオオゥゥッッッッッッ!!!!」

 

 猪や熊なら防げたであろうそれは、それらを超える馬力と巨体に敢えなく突き破られる。

 鉄製の防護柵でさえもそのまま体当たりで突破。

 最低3500ボルト以上の電流が流れる電気柵でさえも容易く曲がってねじ切られ、吹っ飛び、危うく戦士たちに当たりかける。

 三重の壁を一瞬で突破したその草食竜の口にはハミがしており、背後には何か四角いモノが繋がれていた。

 

「ヌオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

 次に誰かの絶叫が、破れた柵の間を突っ切った。

 アプトノスの後ろに見えたのは、軽トラックほどの大きさがある荷車だった。

 そのまま、セーラー戦士らの眼前を通り過ぎる。

 運の悪いことに、その行き先は彼女らの辿ってきた道……即ち、商店街だ。

 

 このままでは商店街に突っ込みかねない。

 セーラー戦士たちは急いで踵を返し、荷車を追う。

 

「ウラヌス!」

「ああ!」

 

 ネプチューンからアイコンタクトを貰ったウラヌスは、『ワールド・シェイキング』を発動。

 掌に浮かんだ光球を振りかぶり、アプトノスの前方に射出。 

 それは加速度を増すと共に大きくカーブし、相手を先回りするように着弾。

 爆発は衝撃波を生み、アプトノスは驚いてブレーキを踏む。

 

 竜車は軌道を大いに乱し、そのまま電柱に激突。

 草食竜はしばらくその場をふらつくようにして暴れるが、やがて観念したのか、幾ばくか落ち着きを取り戻した。

 やっと竜車の動きが止まったところで、戦士たちは荷車の中を改める。

 荷車全体がまず大きな布に覆われており、四方が紐に括りつけられる形で固定されている。本来ならば中身は見えないはずだが、先の衝撃のせいかあちこちが破れており、少しだけ様子を窺うことができた。

 光蟲の入った虫かご、瓶には緑色の回復薬、その他あちらの世界の物品が散らばっている。

 

「持ち主はいないのか?」

 

 タキシード仮面が呟いた直後、布が生き物のようにもぞもぞと動いた。

 

「おーい! 吾輩をここから出してくれぇー!! 頼むゥゥゥゥゥ!!!!」

 

 声がくぐもっているが、あちらの世界の言語に違いない。情けない感じの叫び方である。

 

「……危険はなさそうだな」

 

 戦士たちは顔を見合わせ、一旦は変身前の姿に戻る。

 布と車を結んでいた紐が解かれた。

 直後、布をひっくり返し、1人の鎧姿の人が飛び出してきた。

 

「だっはぁ――っ、マジで死ぬかと思った――!!」

 

 ちびうさは、ぜぇぜぇ息を切らす男の顔をよく見てみた。

 白髪が交じった胡散臭そうな髭面である。

 

「……あ、あなたは」

 

 衛もすぐ気づいた。

 彼は信じられない、という風に目を瞬かせた。

 外部戦士たちには、その意味が分からない。

 

「お……おお!!」

 

 一方、その男も目を丸くした。

 

「ヌゥ〜ッハッハッハ!! 久しぶりではないか、ピンクの小娘とギザ男!!!!」

 

 彼は金歯の並んだ口をにかっとさせて、勢いよく腕を上げた。

 

「そうだ、吾輩だ!! 教官だ!!!!」

 




ざっくりと解説をば。
四姉妹……元セーラー戦士の敵「ブラック・ムーン」の女幹部。昔は絶望的に仲が悪かったが、改心し浄化され人間たなった現在では仲良く宝石店を経営。此度の怪物騒動では粘り強く十番商店街に残り続けている。
教官……バルバレ編で出て来たモンハンお馴染みの成金おじさん。毎回新事業で成功しては失敗を繰り返している。2編のミメット騒動では一時魔女カルトの教祖になっていたが、うさぎたちに寝返りバルバレの防衛に一役買った。
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