セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて 作:Misma
「……その作戦、本当に上手く行くの?」
四姉妹の次女カラベラスは、セーラー戦士を通して聞かされた教官の作戦にいまいち乗り気そうではなかった。
他の面々も同様である。
彼らにとってその内容はあまりにも穴がありすぎたし、一つ一つが一般人にとっては未知の領域の話で、成功するか失敗するのかも判断がつかなかったのだ。
「我々にも時間がないのだ。街を護りたいのなら、彼の縄を解いてやってくれ」
それでもタキシード仮面は、教官を拘束するベルチェとカラベラスへ特に語尾を強調してみせる。
それから、視線を東の空へと移した。
黒煙が先よりも大きく見え、何かが風を切り爆発する音もよく聞こえる。
バゼルギウスがこちらに近づいている証拠だ。
彼女たちは一旦顔を見合わせると、怖々とながら縄を緩めた。
縄がぱさりと地面に落ち切ると、教官はしばらく視線を巡らせて、誰も自分を襲って来ないことを注意深く確認した。
そしてすぅ、と息を鼻いっぱいに大きく吸ったのち。
「吾輩、かいほおおおおぉぉぉぉ!!」
天に向かって大きく腕を広げ、ガッツポーズをした。
金歯の入った歯をきらりと光らせる。
「いっやぁ~。やっぱり人間に一番大事なのって、お金でもなく名誉でもなく……『自由』ですよね!」
そこに割り入るように、いくつかの人間が前に出てきた。
先頭に教官を厳しく問い詰めた中年男がいる。
その姿を見た途端、教官は子犬のように怯えてセーラー戦士たちを盾にしゃがみ込んだ。
「……やっぱり信用できん。見てみろ、解放された途端あんなに喜んで。さぞかし適当なことを喋ったら上手くいったとほくそ笑んでるんだろ!」
言いがかりにも等しい内容だ。しかしその男を先頭にした集団は、慇懃に頷いて肯定を示している。
「焦る気持ちは分かるが、落ち着いてくれ。もし上手く行かなかった時は我々が対処する」
「落ち着いてられるか。今にもあの化け物でみんな丸ごと焼き払われるぞ、早く縛り直せ!!」
タキシード仮面は落ち着いて説得を試みるが、中年男のバットを取り上げられた拳はガタガタと震えている。未だ、教官を悪役と見立てているらしい。
自警団の大半の人々はやはり、迷っていた。
誰に従えば良いのか判断しかねているのである。
それに対し、声の大きい人々はひたすらがなり立てた。自分の見る現実こそが正しいと叫ぶ。自らの正しいと思う方へ迷える仔羊を導こうとする。
ちびムーンは何も言えなくなり、タキシード仮面も押し寄せる罵声の波を抑え切れなくなりかけた時だった。
「……あの」
「あら、大阪さんとお嬢さんじゃない」
1人の呼びかけで、一時、喧騒が鎮まった。
そこにいるのは、先ほど別れたばかりのなると、その母だった。
「なるちゃん……!?」
なるの母は、なるの背を支え、共に頭を下げさせた。
「あたしたち、もう一度店を見に行ったところでここで騒ぎがあったって知ってね。事情も聞いてるわ」
「安田さん、商店街の皆さん。いつもお世話になってます。……差し出がましいようですが、ここはあの御方を信じてみては」
なるの母は恭しく頭を下げると、懐疑派の先頭とその背後の集団に声を掛ける。
「この子、セーラー戦士さんたちと一緒に霧の向こうに行ったようで。困ってたところをあちらの人たちが助けて下さったようなんです」
「ちょうどその男の人みたいな恰好の人が、セーラー戦士さんたちを手伝ってくれたのよ」
「……え、吾輩の顔に何か?」
なるに指差された教官は、日本語が分からないので急に寄せられた視線に冷や汗をかく。
自警団にも波紋が広がっていた。
特に、教官に迫った中年男は気まずそうに黙り込んでいる。
「だから一度、信じてみても良いと思う! あっちの人ならいろいろあたしたちの知らないことも知ってるし……こんな大勢に見られて悪いことも出来るわけ無いと思うし」
タキシード仮面の瞳に光が差した。
風向きが少しずつ変わりつつある。
ちびムーンはしばらくして何かを思い出し、勇気を振り絞って声を張り上げた。
「みんなだって見たでしょ!? あの竜は、おじさんの荷車を引っ張ってた生き物を襲ったの。操られてたならそんなことさせる訳ないわ!」
ちびムーンが言ったのはアプトノスのことだ。
バゼルギウスはこちらの世界に来てからまず、教官のアプトノスを獲物に定めたのである。
それを聞いた四姉妹の末っ子、コーアンの視線が跳ね上がる。
「……そういえば私、見たわ! ちょっと遠くだったけど、あの竜が真っ直ぐ牛みたいなのに向かっていくの。確か貴女も、近くにいたわよね?」
コーアンが隣の奥さんに振り向くと、彼女も首肯した。
「あっ、そうよそうよ。あの時、私も気のせいかって思ってたけど……」
「それなら俺だって」
コーアンに端緒を発し、次々に目撃者が名乗りだす。
自警団の側で証拠が出てきたのは大きい。セーラー戦士が嘘をついているとも言えなくなったからだ。急激に懐疑派の意見が苦しくなっていく。
中年男は迷うように頬を引き攣らせつつも、歯ぎしりして。
「……それだって演技かも知れん! むしろあんたらこそ怪しいんじゃないか? 仮にもこの街を護るヤツが突然、こんな余所者の味方をして」
彼の視線がタキシード仮面とちびムーンを貫いた。
虚を突かれたのは戦士だけでなく、四姉妹や自警団の多くも同じだった。
更に懐疑派のうちの1人が、戦士を指差す。
「そもそもニュースで見とった時から思っとったんだ。子どもがあんな妙ちきりんな恰好をして正義の味方と名乗るなんぞ……!」
「いい加減にして!!」
叫んだのはコーアンだった。
驚いた懐疑派とその先頭の男は、目を吊り上げた彼女に振り向く。
セーラー戦士までも疑いにかかった者たちに四姉妹が向ける目は、既に厳しいものに変わっていた。
「さっきから、何もかも頭っから疑いにかかってばかりじゃない! 結局威勢の良いように見せかけて、あっちの世界が怖いだけでしょ!?」
「……だ、だがあんただって」
「ええそうよ、私だってそうだった。でもね、こんなこと続けてたらみんな揃って共倒れよ! そんなに人に頼るのが嫌なら、自分らだけでやってみなさいよっ!!」
コーアンの猫耳に似たヘアーは、叫びすぎたせいかぼさぼさに乱れていた。
ふー、ふー、と肩を怒らせて、興奮した犬の如く息を吐いている。
やがて、長女のペッツがもうそれ以上はいい、と告げるように肩を叩き、引き下がらせる。そして、無言でさっきまで喧しく訴えていた数人の面々を見つめる。
やがて彼らは口を結んで黙ったまま、人の間を通ってその場を立ち去った。
それを見送ったペッツは、静かになった自警団の面々へ振り向いた。
「みんな、やりましょう。こうなったら使えるものはすべて使うだけよ」
そして、タキシード仮面とちびムーンに視線を寄越し。
「通訳はお願いね」
──
道路の幅を超える鳥影が、低音どよめかせ街の上を通り過ぎた。
通過後に赤黒い塊が数個風を切り、雫のように落ちて。
着弾と同時にそれらは爆煙を噴き上げ、付近にあった自動車を逆さまに吹き飛ばす。
「ヴォォォォォアアアアアァァァァ……」
爆鱗竜バゼルギウスは興味を引かれていた。
前方からする喧騒を竜の耳は何km遠くだろうとしかと捉え、情報を受け取った脳は本能の指揮のもと『敵の殲滅』を命令する。
それにとって、縄張りとは──目に見える土地すべて。
人が引いた境界など意味を為さない。
元々そこに住んでいたという人間側の都合は、撤退の理由にすらならない。
かの喧騒を撃滅せんと、威嚇し、主張し、誇示し、それは宙を邁進する。
太い首元に天然の弾頭を次々に実らせ、次弾装填を完了する。
投下準備を終えたそれは、標的を詳細に捉えるため高度を少しずつ下げた。
その頚椎近くに、刃が食込む。
「ギョググゥゥ゛ア゛ア゛ッッッ!?」
奇襲は上からだった。
犯人は、湾曲した宝剣を持つ金髪の麗人、セーラーウラヌスだ。
近くのビルから飛び出し、そのまま飛びついたのだ。
鱗の密集した背中に、高周波を巡らせたスペース・ソードを突き立てる。
狙い目は網目状の鱗の間。
手応えは良く、剣は深々と突き刺さった。
「グギュルゥゥウッッ」
バゼルギウスは振り落とそうと暴れまくる。
上下左右に揺れ、時には天地逆さまに。
それに合わせ、爆鱗がぼろぼろと落ちていく。
だが、ウラヌスは決して剣から手を放さない。
抵抗を続ける爆鱗竜の尻尾で水の爆発が起き、再び大きく身体が沈んだ。
次に紫色の爆風も襲う。
並行してビルの屋上を伝い走る、ネプチューンとプルートからの支援攻撃だ。
「サターンは、エナジーの充填中か……」
彼女らの後方を走る少女の姿を認めたウラヌスは前方に視線を移し、そこにある景色を確認した。
一の橋公園。
それは河川近くの首都高速下にあった。
湧き出る噴水がトレードマークで、子どもがアスレチックとして遊べる『木の船』、トンネル型の通路も特徴的である。
「くそっ、遅すぎたか!」
この向こうには十番商店街がある。
すなわち、人がいる訳で──つまり、この公園がセーラー戦士にとっての最終防衛ラインなのだ。
だが、バゼルギウスは意地でも前進しようとする。
その首下には、まだ爆鱗がまだいくつか装填されている。
更に不運なことに、振り回される彼女の視界端にとんでもないものが見えた。
人々の姿だ。
なんと、公園に集ってきているではないか。
少なくも10人以上はいるだろう。彼らはこちらを指差し何か叫んでいる。
「止められ……なかったか……」
悔しさの滲んだ言葉を吐く口は堅く食いしばられていた。
もはや、市民の犠牲は免れまい。
膨れ上がった彼らの感情を抑えることなど無駄だったと、ウラヌスはそう解釈する。
彼女の剣柄を掴む手が緩みかけた。
その揺らぐ視界に、もう一度公園の風景が入ってきた。
木の船のマストに当たる部分に、黒い服を着た男が立っている。
ステッキのようなものを番え、その先には何か丸いモノが当てられている。
彼の背後には、内側の赤いマントが棚引いていた。
「プリンス……?」
謎の物体がステッキによりビリヤードのように弾かれ、推進力を得て撃ち出される。
球形のモノが、バゼルギウスの目の前へと飛び込んできた。
その正体を知ったウラヌスは反射的に目を瞑った。
閃光が、閉じた瞼を越して瞳を灼きかける。
「ヴォアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」
まともに視界を焼かれたバゼルギウスは完全に平衡感覚を喪い、高度を急激に落とした。
途中、ビルの壁面に突っ込んで砕き、街灯を折り曲げ、悲鳴を上げて堕ちた。
公園の石畳が迫ると、気を取り戻したウラヌスは爆鱗竜の身体を蹴って離脱する。
激突。
残った爆鱗は衝撃ですべて吹き飛び、巨体が路面を突き破りながら滑り、やがて止まった。
「ウラヌス、怪我は!?」
何とか立とうと藻掻く爆鱗竜を見やるウラヌスのもとに、真っ先にネプチューンが駆けつけた。
屈みこんで心配のあまりあちこちを見て回る彼女を、ウラヌスは掌で優しく制す。
「大丈夫だ。それより──」
多くの人影が少しずつにじり寄ってきた。
その先頭には、あの髭男がいる。
「言っておくがこの街のためじゃないぞ。バルバレでの借りを返すだけだ!!」
彼が叫ぶとほぼ同時、バゼルギウスが立ち上がる。
少し遅れて来たサターンとプルートは、ほっと一息を吐く。
「……交渉に成立したのね」
今のバゼルギウスは爆鱗を喪っている。『爆撃』は使えない。
そのことを呪ってでもいるのか、彼はタキシード仮面のいる遊具の木の船に向かって突進を仕掛けた。
あくまで木製アスレチックでしかない船は脆く、簡単に砕け散る。
しかし、それがある効果を生んだ。
空洞のなか、バゼルギウスは視界を塞がれ動きも封じられたのだ。
突然訪れた暗闇に惑うその背を、2筋の光が照らす。
無人の軽トラックだ。エンジンをかけたまま突っ込ませている。
更にその荷台には5個ほどの大タル爆弾、運転席にも大タル爆弾と小タル爆弾が括り付けられていた。
軽トラはそのまま突っ込み、バゼルギウスを押しのけて──
木の船を内部から吹っ飛ばした。
並みの爆薬など比にもならない巨大な爆風で、破片をも残さない勢いで粉々にする。
遅れてやってきた衝撃波が、セーラー戦士たちの髪を後ろへ引いた。
紅く閃いた光が、黒い煙へと変わった頃。
バゼルギウスが、首を振りながら這い出てくる。
頭部の鱗が一部剥げ、翼も膜が少し破れていたが、歩みに目立った鈍りはない。
小型とはいえ数tの重さがあるトラックの直撃、その上にあれだけの爆熱と爆風を直接受けても、未だに生きている。
つくづく、飛竜という生物の生命力というものが窺える。
「……まぁ、古龍級生物がこんな『花火』では倒れんよな」
「みんな!」
教官がぼやく横で、ちびムーンが号令をかけた。
続いて、四姉妹を中心に一般人たちが顔を強張らせながらも出てくる。
大勢の人間を相手にバゼルギウスは唸り、翼を畳んだまま突進を仕掛けた。
「あ……危ないっ」
サターンが思わず声をかけるが、彼らが逃げることはない。
「よしっ、そのまま行けっ!」
あと10mほどの距離に差し掛かった時、教官が叫んだ。
人々が取り出したのは、瓶やスリングショット。
その手から放たれた瓶が地面で弾け金色の液体が飛び散った時、その正体が判明する。
「……ビール!?」
ウラヌスは遠くからでも漂ってくるその匂いを確かに感じ取った。
バゼルギウスもよほど感知能力が高いのか、知らない匂いを警戒して立ち止まる。
その鼻先を、四姉妹の番えていたスリングショットから放たれた玉が貫く。
「……ヴヴッ!?」
半固体状の塊が飛び出し付着すると、見るからに爆鱗竜は狼狽え仰け反った。
「なるほど、こやし玉ね!」
かつて狩人をしていたネプチューンは、すぐにその物体を見破る。
四姉妹は後ろの木箱からそれらを何個も取り出し、今度は素手で投げつけた。
「まだ足りない!?」
「ほら、まだまだあるわよっ!!」
それまでの鬱憤をぶつけるように、こやし玉はバゼルギウス目掛け何度でも投げつけられる。
腹に据えかねる臭いは離れた位置にいるセーラー戦士たちの鼻をも強烈に刺すほどだったが、姉妹と後から加わる自警団の人々はお構いなしである。
爆発には強くても激臭には堪えかねたようで、爆鱗竜は嫌がるように顔を振る。
そして遂に、背を向け翼をはためかせた。
気力減退のためか、身体へのダメージのせいか、飛び上がった速度は決して早くない。
「後は頼んだ!」
タキシード仮面が前に進み出て叫ぶ。
決して、あらかじめ作戦を共有していたわけではない。
それでも外部太陽系戦士はしかとサインを受け取り、後を追った。
勿論、バゼルギウスは瀕死になどなっていなかった。
彼が選んだのはあくまで一時撤退。
爆鱗が切れた頃に興を削がれたから、別のところに移るだけだ。
また体勢を立て直せば、いくらでも反撃の機会はある。
上空へ行けば、滅多に追撃をもらうこともあるまい。
市街地を抜けようと翼をより大きく振るった。
直後、その頭部から尻尾までを凄まじい衝撃が駆け巡った。
爆鱗竜自身は理解できなかったが──
彼は、頭から電線に突っ込んだのだ。
元の世界でいう『シビレ罠』に匹敵する電力が、一時的に神経を麻痺させたのだった。
翼が硬直したことで、当然巨体は再び地面に縫い付けられる。
「ヴ、ヴォ゛、ォ゛ッッッ……」
感電したせいで涎を垂らし、呂律も回らない。
脚も翼もがくがくと震え、地面を撫でるだけで支えとなることは決してなかった。
それでも翼を使って這おうとする爆鱗竜に、セーラー戦士たちは容易く追いついた。
一瞬、妙な間が生まれるが。
彼女たちの前に広がる、廃墟にも等しい景色を確認してから。
「サターン、今よ」
ネプチューンが静かに述べる。
土星を守護に持つ破滅と沈黙の戦士、セーラーサターンは、二又の槍をゆっくりと前方に。地面とほぼ水平に突き出した。
穂先で黒い稲妻が光る。
道路の破片が、重力に抗い浮き上がる。
「……」
バゼルギウスは何度も脚を起こそうとするが、持ちあがらない。
もはや外しようがなかった。
侵略者に相対する者として、絶対に揺るぐことのない漆黒の眼差し。
大きな眼とその中にある小さな光が、辛うじて彼女が齢としては少女であることを示す。
「私はあと何回、これを使うのでしょうね」
そう告げた言葉はエナジーの集約音に掻き消され、周りの仲間には聞こえなかった。
3秒後、黒い爆発が道路を包んだ。
──
「なるほど。そういうご経歴だとは」
「そんな綱渡りで生きてる人、生まれて初めて見たわ!」
「割と胡散臭いイメージそのまんまですわねぇ」
「よっぽどのことがなきゃ近づかない方が良いタイプね」
「……言葉は分からんが、吾輩の悪口を言われてる気がする」
四姉妹が、年齢の高い順に辛辣な評価を下していく。
教官とセーラー戦士、そして四姉妹は揃って東の方面へ歩を進める。
むすっとした顔の教官の腰を、ちびうさはポンと叩いた。
「無茶な金儲けは止めた方が良いって話よ」
「ビ・ジ・ネ・ス・だ!!!!」
教官はそう念を押したあと、ふと、霧の広がる方角を眺めた。
「とにかく、あの『穴』はどうにかして近くにハンターを駐在させるか、通り道を埋め立てるかしかなさそうだな。今回のようなことがまた起こらないとも限らん」
「教官……」
「吾輩の行動が今回のことのきっかけの一つになったのは……認めたくはないが確かだ。こうでもせんと、安心して枕にもつけん」
前を見続ける彼の声は、強がってはいるものの複雑な調子を帯びていた。
「どんな方法であれ、貴方はこの街を救おうとしてくれた。そこは胸を張っていいと思う」
そう言ってくれたのは衛だった。
教官は横に並ぶ彼を見つめたあと、前方を見つめ直して髭を指で撫でながら鼻を鳴らした。
「……すり寄っても飯は奢ってやらんぞ」
「そんなこと考えてないわよ、教官じゃないんだから」
「こっ、この小娘っ!!」
教官は途端に取り乱し、怒鳴って追いかけるが、ちびうさはその手をひらりと躱す。
終いには衛の周りをかくれんぼのようにしだしたので、衛は呆れてはぁとため息をついた。
それを見たはるかとみちるは、僅かながら目を細めて。
「……あの人、懐かれてるわね」
「ああ。齢に見合わず子どもっぽいからかな」
「ちょっと、言いすぎよ」
ずっと戦っていた2人が、久しぶりに雰囲気を和らげている。
そして彼女たちの瞳には、単なるからかい以外の何かが映っていた。
ほたるとせつなは、そんな2人に思わず目を奪われていた。
「……じゃあ、そろそろ行くぞ」
一息ついた教官は終わりの見えない鬼ごっこを諦め、軽くなった荷車を引く。
セーラー戦士たちは並んで、髭男の出立を見送ることにした。
「分かった。達者でな」
衛がそう告げると、教官は頷いて1人、荷車を引いていく。
その背中は霧に紛れて見えなくなり、やがて消えた。
「さーて、これで一件落着ね」
しばらくして、コーアンが伸びをした。
セーラー戦士たちの間でも、どこか肩が下がった雰囲気があった。
「そういえば、あっちがどこに繋がってるかって聞いてなかったなぁ」
ちびうさはふと、名残惜しむように呟いた。
順当に考えれば砂漠にある太陽の市場バルバレだが、教官はずっとあそこにいたのだろうか。
「そうだな。バルバレの近くにある街として候補を挙げるとすれば、前に確か──」
衛が答えかけた時、雷が鳴った。
「!?」
そこにいる誰もが、それが真っ直ぐ地面に直撃するのを目撃した。
蒼白い、光の柱だ。
場所はそう遠くない。北の方向である。
「……行きましょ!!」
ちびうさの発言を契機として、彼女たちは路地を駆けていった。
バゼルギウスの肉質が柔らかくって(ゲーム上でも小説執筆の上でも)助かった…。これで実際の爆撃機のようにカッチカチだったら本当に目も当てられない強さだったなぁ…。