セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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乙女ら導く双雷は①(☆)

 十番街外れの高い石造りの階段。それを登った先に見える鳥居を、セーラー戦士たちは一般人の姿で前にしている。

 

「火川神社だ……」

 

 ちびうさは懐かしさ半分、不安半分に呟いた。

 急ぎ、何段も続く階段を登る。

 

「レイちゃんのおじいちゃんも雄一郎さんも、いるのかな……」

 

 鳥居が近くなった時、少女は不安を口にした。

 レイの祖父がここの宮司を務めており、セーラー戦士のレイ自身も巫女として住んでいる由緒ある神社だ。日常的にセーラー戦士、特にうさぎたちが集う場でもあった。

 

「……雷の方角から見て、この辺りで合ってるよな?」

「ええ。そのはずよ」

 

 はるかとみちるは、確認するように互いに視線を巡らせた。

 商店街で見た巨雷。モガ村でちびうさに雷光と共に呼びかけた声の主が、この先にいるのだろうか。

 鳥居をくぐると、お賽銭箱の前の石畳でぼさぼさに髪を伸ばした無精髭の若い男が箒を掃いていた。散髪もあまりしていないのか、前髪で目元はほぼ見えない。

 

「あ、雄一郎さん!」

 

 ちびうさが喜々として手を振り呼びかける。

 

「……彼は?」

「レイさんのお祖父さんにお世話になってる居候さんよ」

 

 せつなの問いかけに、ほたるが簡潔に答える。

 忙しなく床を掃いていた男、雄一郎は、ふと顔を上げる。

 

「あっ……あなたたちは……」

 

 最初はぱっと顔を輝かせる。

 しかしその中に衛の姿を認めた瞬間表情を失くし、箒を落とす。

 ずっと目線を合わされる衛は困惑気味だ。

 男は箒を拾い直し、剣のように持ち直す。

 

「き……」

「き?」

「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 突如男は、幽鬼のような顔で箒を振り上げ迫ってきた。セーラー戦士たちもまさか男が襲ってくるとは思わず反応が遅れた。

 頭上から振り下ろされた箒を、衛は咄嗟に横に避ける。

 

「ど、どうしたんだいったい!」

「どうしたもこうしたもあるか!! レイさんのみならず、うさぎさんたちをどこへやったああああぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 身に覚えもない恨み言と復讐から必死に走り逃げる衛を、雄一郎は箒を何度も振り回して追い回す。その勢い凄まじく、衛が転びかけたのを好機にその身体に跨り、思い切り得物を振り上げた。

 

「おい、ちょっ!」

 

 衛の額を直撃すると思われた箒が、途中で停止する。

 雄一郎の前に立つのは金髪の麗人。

 はるかが、細い腕に反した力強さで箒を掌に受け止めたのだった。

 

「感心しないな。綺麗にするための道具を血で汚そうとするなんてね」

「お、お前は以前にレイさんを誑した……!」

「失礼だな。僕の本命はいつだってみちるだけさ」

 

 臆面もなく言い放つはるかの横で、ちびうさは雄一郎の怒り様に疑問符を浮かべるせつなに囁く。

 

「雄一郎さんはレイちゃんのことが好きなのよ」

「……なるほど、それで」

 

 せつなは状況を理解するも、苦々しく眉を顰める。うさぎたちがこちらの時間で1ヶ月近く姿を消しているせいで、かなりややこしい事態が生じている。

 雄一郎の怒りは未だ収まらない。

 

「やはり前からおかしいと思っていたんだ! お前らは最初っから、これが目的だったんだぁぁぁぁぁ!!」

「待って、雄一郎さん! あたしがいるでしょ、あたしが!」

 

 慌ててちびうさが雄一郎の前に飛び入って、何度も自分を指差す。

 箒をはるかの手から抜こうと荒ぶっていた雄一郎はやっと手を止める。

 

「ちっ……ちびうさちゃん?」

「いろいろと怪物関係で事故があって、うさぎたちは別のところにいるの。まもちゃんのせいじゃない!」

「ほ、本当、なのか?」

「ええ。あたしたちが保証するわ」

 

 ちびうさと同年代のほたるも口添えしたことで、雄一郎はやっと箒から手を離す。その後、何とか落ち着いて話を聴いてくれるようになった。

 こちらの世界で、うさぎたちは行方不明者扱いだ。当初は世間のメディアでも大きく取り上げられていたが、怪物たちの侵入によりうやむやになってしまったらしい。

 

「うぐっ……ひぐっ……レイさぁん……。貴女はどこにいるのですかぁ……」

 

 話がややこしくなるので、別の世界に行ったとは言わなかった。彼女らの正体がセーラー戦士であることは隠しているからである。

 

「大丈夫、大丈夫。きっと帰ってくるよ」

 

 ちびうさが中心となって泣きぐずる雄一郎を何とか宥めすかしているところに、髪のない小さな老人が歩いてくる。神職の装束を身に纏い、水色に近い袴を履いている。

 

「おーおー! こりゃ別嬪さんが揃っておるのー! どうじゃーこの神社で巫女さんのバイトでもー……」

「お、お師匠!」

「あっ……」

 

 少しの沈黙のあと。

 

「きっ、きっ、きっさまぁぁぁぁ!! ワシの可愛い孫娘をどこにぃぃぃぃぃ……」

「あぁん、またやり直し──っ!!」

 

 以下、先と同じやり取りをした。

 

──

 

「そうか、商店街でそんな話が……」

「ええ。だからあなた方も、近くで雷を見たなら避難をお勧めしますわ」

 

 雷を落とす怪物が近くにいるとみちるが話すと、宮司であるレイの祖父は神妙な顔で顎を掻いた。

 無論、戦士の間で口裏を合わせている。いざという場合の被害を減らすためだ。

 

「雷……そういえば今日雷鳴を聞いたぞ! 晴れの日だったのに、妙な天気だと思ったんだ!」

 

 雄一郎はそう険しい顔で呟くと、住み込んでいる境内中央奥に構える本殿へ駆け込んだ。ちびうさは妙に思って、縁側から開いた障子の間を覗き見る。

 

「……なにしてるの?」

「男の尊厳を取り戻すんだ!」

「は?」

 

 見えたのは大量のバット、竹槍、鉄パイプ。神社に見合わない物騒なものばかりだった。

 雄一郎が装束の袖を捲ると、思いの外筋骨隆々な腕が出てくる。どちらかというと誠実ではあるが頼りないイメージの男にそぐわない身体に、衛は目を見張った。

 

「驚いたでしょう。ずっと鍛えてたんです」

「……雄一郎くん、君は」

「レイさんが遠くへ行ってしまったのは俺が弱かったからです。なら、せめて彼女が愛する街を怪物から護るのが道理ってもんでしょう!」

「雄一郎さん、相手は人なんか比べ物になんない怪物よ。そんな無謀な……」

「ほっほっほ、若さはいいもんじゃな〜。今の雄一郎なら、レイも惚れて帰ってきてくれるかも知れんわい」

 

 ちびうさが柔らかくも止めようとした時、いつの間にかその場から消えていた宮司が、何かを持って廊下から出てきた。

 突然、障子の陰から刃渡り30cmほどの片刃が伸びた。

 

「ひっ!?」

「心配しなさんな。ただの剪定じゃよ。この前からやたら樹の生長が早くての〜」

 

 老人は驚いたちびうさの脇をのこぎりを持って通り抜け、境内の大樹に立てかけられた梯子に登った。

 衛が見ると確かに、大樹はあちこちの方向へ好き放題枝を伸ばしている。前に剪定されたとは思えないほどだ。

 

「それにしても、足跡1つも見当たらないとはね」

「どうも当てが外れたかもな」

 

 少し離れた縁側に座ったみちるとはるかは、中ほどまで下がった陽を見上げながら呟く。

 それに、せつなは呼びかける。

 

「とはいえ、この近くにいることには違いないでしょう。もう一度商店街に戻ってみて……」

 

 レイの祖父が引いたのこぎりにより、1つの伸び切った枝が切り落とされた。

 枝が音もなく落ち、そして跳ねる。

 空中に静電気が走る。

 境内の真ん中から上空へ、碧雷が走った。

 

「!?」

 

 本殿側に集っていた少女たちの背後が青白く照らされる。雷光は一回限りですぐ止んだ。

 当然少女たち全員が、境内の方向へ振り向く。

 

 額に1本の蒼角を生やす白馬が佇んでいた。

 

 髭と鬣、そして襟を一体に成す豊穣な白銀の体毛が、風もないのに後方へ自ずと棚引く。

 白を基礎とした鱗に黒い鱗が縞を成し、細くも力強い四肢を地へ、靭やかで逞しい首を天へ伸ばす。

 

 人間たちは直立不動でその神々しい来訪者を見つめている。

 霊獣は石畳を爪で戯れに引っ掻き、赤い瞳をちらと人間たちに向ける。無言なのにびりびりと、静電気か威迫か、得体の知れない何かが空気を伝ってくる。

 それでやっと彼女たちは正気に戻された。危機感からか、セーラー戦士たちは身を寄せ合う。

 

「ア、ア、アヤカシじゃあ────っ」

 

 梯子に登っていたレイの祖父は驚くあまり足のバランスを崩し、大樹の間から地面に背中から落っこちる。

 

「お、お師匠────っ!!」

 

 その身体は縁側から飛び出した雄一郎によって、奇跡的なタイミングで受け止められた。

 

 何秒経っても、あちらから動く気配はない。

 ぶるるという唸りと共に耳が跳ねるように動く。

 ちびうさはそれに、一歩進んで呟いた。

 

「まさか、あなたが……あたしに呼びかけてくれたの?」

 

 一方後ろにいる衛は、ちびうさの肩を静かに持って引き寄せた。そして白馬に疑義の視線を送る。

 

「商店街で聞いた姿と違うぞ。牙も持っていないし、岩みたいな腕もない」

 

 違和感を生じているのは彼だけではない。少し離れたところで顔を寄せ合うはるか、みちる、せつな、ほたるの外部太陽系戦士も同様だった。

 

「プルート。あれが君の知ってるエリオスとやらか?」

「少なくとも、人の形ではなさそうだけれど」

「……エリオスは、ペガサスというもう一つの姿を持ちます。全体的な形はそれに一致するのですが」

「確か『天馬』とも呼ばれるように、翼を持った馬なのよね……だけど」

 

 ほたるが呟いたように、あの白馬の背中に翼はない。

更にその表面は皮膚ではなく鱗に埋め尽くされている。

 もう1つ馬との相違を挙げれば、脚の先は一見蹄のような形だが、実際は2本の爪だった。

 やがてせつなは首を振った。

 

「見た目が似ているだけです。そもそもペガサスは、人の美しい夢に潜む形のない存在。あの白馬のように実体として現れることはありません」

 

 彼女がそこまで言った時、再び雷が落ちた。

 その場にいた全員の肩が浮き上がり、衛は更にちびうさを手前へ引き寄せた。

 外部戦士たちはみな懐に腕を入れかけていたが、雷は両者の間の石畳を焦がし、砕いただけだった。

 

 赤い瞳がずっとこちらを見ている以上、偶然ではない。雷は明らかに、この白馬に似た生き物の意思で落ちている。

 それは完全な拒絶の反応。これ以上近づくのなら容赦はしないという言外の意思表示にも見えた。

 

「……そもそも我々を導くつもりなら、こちらに矛を向けるなどなおさらありえないことです」

「じゃあ、あれはエリオスじゃない?」

「……少なくとも、彼の気配はしませんね」

 

 ほたるの問いに、せつなはやるせない表情で答えた。

 雷が次々に、滝となって白馬の周囲に雪崩落ちる。

 それは主を護るように、壁となって彼我を遮る。

 衛とちびうさもそれを前に、足踏み強いられる。

 

「俺たちを導いたにしては、かなり警戒されているな」

「……じゃあ、あたしたちが追いかけてたのって……」

 

 沈黙を破るように、ある1人の男が石畳を蹴った。

 

「うおおおおおお!! 熊田雄一郎、男を見せてやりまぁぁぁぁすっっ!!」

 

 セーラー戦士たちにとって、それは予想外だった。

 蛮勇とも無謀とも言える、雷を落とす相手への接近戦。雄一郎の手には、竹槍が握られている。

 

「雄一郎さん、無理よ、やめて!!」

 

 ちびうさの制止も聞かず、雄一郎は竹槍を霊獣の頸元に真っ直ぐ突いた。

 しかし、刺せない。

 傷一つない白馬は敵意を露わにし、透き通る蒼角をぶん回した。

 そのまま、横向きに殴られると誰もが考える。

 が、雄一郎は顔をそらしてそれを避けた。

 

「!?」

 

 驚く面々を横に、次は先ほど梯子から転落したばかりのレイの祖父が、のこぎりをぶん回して白馬へと迫る。

 

「あ、アヤカシめ! その見た目には騙されんぞぉぉぉっ!」

 

 直撃したのこぎりも、鱗を穿つことはなくむしろ毀れてしまった。

 しかしその直後、白馬が嘶いて的確に放った雷を、老人は素早く宙返りして回避する。

 

「た、戦えてる……!?」

 

 一番驚かされたのはセーラー戦士たちである。

 彼女たちのレベルまでとは言えないが、中々の運動神経だ。少なくとも、人並みに鍛えて出来る動きではない。

 

「どういうことなんだ……!?」

 

 言うまでもなく、あの2人は何の能力も持たない一般人である。

 衛もこの光景に疑問を持つ他ないのだが、それすら打ち消す事態が起こる。

 

「おい、避けろっ!!」

 

 はるかが上空を見て何かに気づき、男たちに叫んだ。

 直後、霊獣の全身が陰に覆われる。彼はそれ以上男たちに構うことはせず、腱を曲げると大きく飛び跳ね包囲網から容易に脱出。

 

「うわぁっ!?」

 

 男たちも少し遅れて気づき、悲鳴を上げながら陰の外へ飛び出した。

 直後、黒い巨弾が石畳を丸ごと撃ち抜いた。

 飛散する瓦礫のなか、跳ねた砲弾から四肢が伸び、地を掴んだ。

 

 白馬とは正反対の漆黒の皮膚を持つ猛獣。それが砲弾の正体だった。

 

 類人猿に酷似した細長い顔、彫りの深い眼窩に血走った眼光。螺旋を描く双角は闘牛のそれに近く、左右の空間を鋭く貫き。下顎からは捕食者特有の鋭い牙が覗く。

 前肢は完全に腕としての発達を遂げ、異常に筋肉が密集したそれはもはや岩石に等しい。それを支える胸筋も凄まじく、後肢は獅子のように深く折り曲がり、引き締まった下半身を支えている。

 

「な、なんじゃあ、次から次へと!」

「なんの、こんなところで諦めたら男がすた……」

「ヴヴヴォ゙ォ゙ォ゙ォ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙ォ゙ォ゙ォ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙ゥ゙ッ゛ッッッッッ!!!!」

 

 地につけた拳を握り、天を見上げた猛獣の咆哮。

 その音圧は境内の茂みに隠れていたはずの雄一郎の髪を一瞬で捲り上げるに留まらず、レイの祖父の身体までも後ろに押し倒す。

 

「い、いきなり何なの……!?」

 

 一方のちびうさも困惑する。セーラー戦士たちにとっても当然、この獣の出現は完全に想定外だった。

 

「とにかく……今のうちに変身よ!」

 

 ほたるの進言を機に、彼女たちは本殿内部や近くの木、茂みの裏へと身を隠し。

 男たちが黒き乱入者に圧倒されている間に、変身。この街と星の守護者、セーラー戦士の姿へと変わった。

 彼女たちは高く跳び、境内へとその姿を現す。

 

「あっお師匠、セーラー戦士の皆さんですよ!」

「おお、久しぶりに来てくれおったか!」

 

 雄一郎は、助け起こしたレイの祖父と共に正義の味方の到着に快哉を叫ぶ。

 

 しかし、獣たちはそのことにすら関心を持たなかった。

 黒き獅子は頭を下げて角を振りかざし、四肢で真っ直ぐ突進を仕掛ける。

 白馬は直前まで引きつけ、跳躍。黒い肉弾は男たちの隠れる茂みの真横、そして石壁をも難なく突き破る。

 直後、白馬が前脚と共に振り上げた角を眩く光らせ、振り下ろすとほぼ同時に落雷。向き直ろうとした猿の背中に直撃する。

 続けて、2、3連撃。

 閃光と共に砕かれた石畳から煙が上がり、相手の姿が見えなくなった。

 

「っ……」

 

 思わず、セーラー戦士たちも構えていた腕を下ろしかける。

 普通、雷がまともに当たれば生物は無事で済まない。

 もはやこれで決着は着いたものと思われた。

 

 しかし、漆黒の猛獣は生きていた。

 

 右拳を握って、煙中から飛び出したのである。

 白馬は既に予測していたのか後方に跳び下がり、拳を避ける。

 鬼にも似たその筋肉達磨は、着地すると即座に後ろ脚だけで体重を支え、それと比べても圧倒的に太く厚い拳を構えた。

 

「ウホウホウホウホウホッッッ」

 

 獣は、その顔面に見合った声で咆え。

 人など一瞬で握り潰せそうな巨腕を振るい、左右交互に手当たり次第に殴打を繰り返す。その下にあった石畳は粉砕され、瓦礫の雨と化す。

 その拳撃は中央奥の賽銭箱付近にいるセーラー戦士たちにも迫り、彼女たちは離散を強いられた。

 さっきまでは白馬に立ち向かう勇気に溢れていた男たちも、この暴力の嵐には腰を抜かしていた。辛うじて雄一郎は、折れた竹槍を震える手で構えていた。

 

「お、お、俺は、レ、レレ、レイさんのため……」

「ゆ、雄一郎、あれは流石に死ぬぞ!!」

 

 レイの祖父は雄一郎の装束の襟をひっつかんで茂みの外へ引きずり出し、鳥居の外へと無理やり連れてゆく。

 猛獣は賽銭箱を掴む。

 神罰すら全く恐れないその獣は、それを白馬へと投擲。避けられた賽銭箱は粉砕され中にあった小銭を大量に撒き散らす。

 

「なんて凄まじい破壊力だ……!」

 

 衛扮するタキシード仮面は、境内の中央から少し離れたところで冷や汗をかく。

 他のセーラー戦士も、臨戦態勢は取りながら獣たちの苛烈さに手を中々出せずにいる。狭い境内に安全地帯など無いに等しく、矢継ぎ早に飛んでくる雷やら拳やらからとにかく離れるしかない。

 

 猛獣は霊獣から放たれる雷を避け、時には受け止め、ジグザグに跳ねながら突っ込む。

 ちょうどその方向にいたちびムーンは、その迫ってくる巨体が当たるのではないかという不安に襲われた。

 

「ひゃ、ひぃゃああああ!」

 

 彼女はちょうど目の前にあった、レイの祖父が刈り入れていた大樹の幹へと跳んで掴まる。

 ちびムーンが少しでも高いところへ逃げようと四肢を動かすと、火事場の馬鹿力か、木登りはトカゲのように上手く行った。

 

 だが、それが運の尽き。

 猛獣はちょうどその大樹に目をつけた。

 右の巨拳が、ちびムーンがよじ登った木を掴む。

 そのまま腕力だけで木の根を地面ごと音を立てて引き抜いて、頭上へと持ち上げる。

 

 土塊が、根からぼろぼろと零れ落ちる。ちびムーンは、目を剥いて遠くなった地上を見つめる。

 なお、大樹の全長は約4m、幹の幅は約1mである。

 セーラー戦士の誰もが口を開けた、圧巻の光景だった。

 

「……スモールレディをっ!!」

 

 驚いてばかりではいられない。プルートは真っ先に彼女を助けに行こうと駆け出す。他の戦士も同じだった。

 だが、相手が早すぎた。

 猛獣は軽々と跳び下がると、白馬めがけ大きく振りかぶり。

 ちびムーンごと、大樹をぶん投げた。

 

 それに向かって白馬は嘶き。

 自身に迫ってくる大樹に直接、落雷をかました。

 大樹は加速度を失い、爆散。

 砕け散る幹。燃える枝。

 飛び散った破片の中には、辛うじて直撃を免れたちびムーンの姿もあった。

 

「きゃああああああああっ!!」

 

 放り出された小さな身体は放物線を描き──

 奇跡的な角度で、白馬の肩に跨った。

 

「ヒヒィィンッッッ!?」

 

 突然飛びつかれた白馬はじたばたと四肢を暴れさせ、ちびムーンを振り落とそうと藻掻く。しかし彼女は目を瞑り、反射的にますます強くしがみついてしまう。

 白馬は早くも迫りつつある猛獣を後ろ目に見ると、ちびムーンのことは諦めて駆け出した。

 そのまま鳥居を潜り抜け、階段を丸ごと飛び降り、街へと出ていってしまった。猛獣も唸ると、獅子の足を躍らせ素早く後を追った。

 

「ちびムーンっ!」

 

 サターンとプルートは、真っ先に飛び出す。

 ウラヌスとネプチューンは、後に続こうとしたタキシード仮面を見て引き止めた。

 

「プリンス、あなたはここに」

「彼女は私の未来の娘だ! こんなところで……」

「あの獣たちは危険だ。あなたまで危険に曝すわけにはいかない!」

 

 タキシード仮面は、ウラヌスの言葉に臍を噛む。

 それは戦力外通告に近かった。

 しかし従うしかない。いまの彼は、彼女たちに護られる側。未来の王国の王子として、無事でいる()()()()()のだ。

 あの圧倒的暴力を目の前にしては、彼女たちの判断もやむなしである。

 

「なんて……有り様だ……」

 

 鳥居の方から、雄一郎の声がした。

 彼が、レイの祖父をおぶって帰ってきたのである。

 

「わしの、神社が……」

 

 境内に、男組の無力感溢れる嗚咽が響いた。




雄一郎がはるかを「前にレイさんを誑かした」と言った理由
→原作アニメでレイとはるかが一緒にいるところを見かけ、はるかがレイを奪おうとしてると思い込んだことがあるから(なお片想い……)といういわゆるBSS的シーンがあったから。実際にはそれですらないですが。しかもはるかを男と勘違いしていたというオマケつき。現在では誤解は解けてますが、それでもシコリはちょっと残っているというイメージ。

あと、ラージャンのXX以前の咆哮好き。多分ギターを使ってると思うんだけどあの狂気さ加減がいいですねぇ。
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