セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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黒き凶風へ手を伸ばせ②(☆)

『東京都港区麻布十番を襲った局地的豪雨は12時現在も勢力を増し、暴風、浸水などの甚大な被害を……当地域では正体不明生物のおよそ1ヵ月ぶりとなる連続出現と重なることで情報が錯綜しており、目撃情報の中には……これに対し政府は……』

 

 人々が喫茶店のソファの上で言葉少なにうずくまるなか、テレビは最新ニュースを報じている。

 衛とちびうさはフルーツパーラークラウンの窓際の席から、遠方で上がる幾つもの竜巻を眺めるしか出来なかった。

 守護戦士たちからは「絶対に助けに来るな」と念を押された。強力な力を持つ彼女たちに倒せない敵が、ここの2人でも倒せると豪語出来る訳もなく。

 

「……もう、人を探してるどころじゃなくなっちゃった」

 

 ちびうさは、薄暗い店内で塞ぎ込むように机へと顔を伏せた。

 

「もう、あたし……これ以上ほたるちゃんたちが傷つくの、見たくない」

「大丈夫さ。彼女たちならきっと生き残る」

 

 そうは言ったものの、結局は気休めでしかないことは衛自身も分かっている。

 ロクな休息や補給を挟まない長時間の戦闘は、確実に体力を削る。戦士たちに疲労が溜まっているのは確実だった。

 そのうえで、衛はちびうさの小さな手を掌で包み込む。

 

「俺たちに出来るのは、考えることだ。どうにかこの先、両方の世界が生き繋げる道筋を」

「……うん、そうだよね」

 

 ちびうさは頷いたが、実際として道筋は全く見えない。此度の災害で、声の持ち主を探す道はほぼ絶たれた。

 それでも、衛とちびうさは悩み、考え続ける。うさぎの願いを現実にするための鍵を──

 

「……どうも、俺たちが何か見落としているものが……」

 

 そこまで言った時、衛は弾かれるように窓の外を見た。

 電線から蒼白い光の粒子が窓ガラスをすり抜けて、近くの観葉植物へ迸ったように見えたのだ。

 直後、電灯が何度も点滅する。

 

「ん……?」

 

 カフェに居着く人々は次々に天井を見上げた。それからひそひそと、口々に不安を囁く。

 衛は視線を戻す。

 彼の視線は、観葉植物の植木鉢から生えた小さな芽へと引き付けられた。

 

「まもちゃん、どうしたの?」

「いや……何でも」

 

 芽は衛が目を離した後、二つの葉を開いた。

 

──

 

 邂逅から3時間が経過した。

 龍の嵐は止むどころか、その激しさを増している。

 戦士たちの光弾を舞うように躱し、鋼翼を一打つだけで路面を引き剥がす。息を吹きかけ、建物の壁面さえも砕く。

 彼の息が切れる様子は、いつまで経っても見られない。

 結果、戦えば戦うほど被害が拡大する悪循環へと陥った。

 

 不幸中の幸いとしては、金獅子の時と同じく戦闘場所を放棄区域へ誘導できたことか。この龍に人そのものへの執着が見られないことは、人を護る使命にある者としては僥倖という他ない。

 

 しかし、戦士たちは決して喜べなかった。なぜなら彼のもたらす被害は戦闘場所のみに限らないからだ。

 現在、麻布十番を覆う広範囲に渡って冠水や浸水、暴風の被害が及んでいる。その規模と威力は自然に発生する台風と何ら遜色がない。

 胸の辺りに放った金色の光弾をまたしても弾かれたウラヌスは、ネプチューンと廃墟の最中へ並び立つ。

 

「この広範囲の環境作用能力……恐らくは古龍」

 

 人智を超えた圧倒的存在。自然現象の具現化。生きた天災。

 彼女たちはその脅威から逃れるべく、地下鉄のホームへと駆け込む。がらんどうの改札機の前で、4人は顔を突き合わせた。

 

「見る限りはオオナズチと似た骨格ね。恐らくは角で暴風雨を司っているのだわ」

「角への経路を開けば、あるいは」

「勝算はあって?」

「1つだけならある」

 

 ネプチューンの問いにウラヌスはそう答え、自分が見出した作戦について話した。しかしプルートとサターンからの反応は芳しくない。

 

「……それはやめましょう。危険過ぎます」

「では、これ以外に奴を倒す方法が?」

 

 プルートは答えられなかった。

 

「じゃあ、決まりだな」

 

 ウラヌスは背を向けると、地上への出口へとヒールの音を響かせていった。続いて、ネプチューンも一歩を踏み出す。

 

「プルート。何を恐れているの?」

「……!」

 

 彼女は背を向けたまま呟いた。

 プルートは、目を見開いて言葉に詰まったままだった。

 

「この世界は今も私たちを必要としているわ。立ち止まってる暇なんかないはずでしょう?」

 

 そのまま言い捨てて闇へ消えていく少女の姿を、プルートとサターンは見送るほかなかった。

 サターンは不安そうに眉を下げた。

 

「……ネプチューンの口からあんな言葉が出てくるとは」

 

 サターンが見上げると、プルートは物憂げに俯いていた。

 まだ、闇の中からブーツの鳴らされる音が一定の間隔で聞こえた。それは少しずつ、遠ざかって小さくなっていった。

 

「以前とはまるで、別人のようです」

 

──

 

 地上の交差点では、豪雨の中に龍が佇んでいた。

 彼は路面を踏み砕き、金属音を鳴らしながら歩んでいたが、やがて1つの影が前に立っていることに気づく。

 波打つ髪を雨に濡らしたその少女は、高く手鏡を掲げた。

 そこから照らされた一筋の光が龍の目を照らす。

 

 不愉快そうに目を細めた龍は、息を吸うと竜巻を吐き出した。

 それを見た戦士、セーラーネプチューンは冷静に攻撃を避けながら更に手鏡から光を見せつけた。

 周りに追うべきもののない龍は、当然それを追う。

 

「さぁ、こっちよ」

 

 ネプチューンは建物の屋上を跳び、誘導を続ける。龍は苛立たしく思ったか、巧みに滑空して彼女を狙った。

 彼女はその深海鏡(ディープ・アクア・ミラー)を通じ、龍から生命力を感じ取った。

 

「……何て凄まじい生命エナジー。天候を操るのも納得ね」

 

 やがてある入り組んだ狭い交差点でネプチューンが素早く別方向へ駆け込んだ。

 龍はそのまま交差点を、彼女が逃げた方へと曲がった。

 しかしそこに標的はいなかった。

 代わりに、地面から散々自身を苛つかせた光が出ている。

 龍は何かと思って、その光が覗く狭い穴がついた丸い模様を覗き込んだ。

 

「ディープ・サブマージッ!!」

 

 直後、水の激流がマンホールを下から吹っ飛ばし、龍の顎を重い金属音と共に殴りつけた。

 

「!?」

 

 不意を突かれた龍は一時、怯んで首を振り回す。

 そこでちょうど横にあった高層ビルの窓をウラヌスが突き破った。位置を調整し、ほぼ真上から龍の背中へ飛び込む。

 彼女が今回の作戦で目を付けた位置は真上だった。龍の纏う風のなかに、台風の目の如く風が弱い部分があると踏んだのだ。

 その部位に張り付き、宝剣を突き立てる。凄まじい量の火花が散った。その鱗は実際の鋼鉄以上に硬く、高周波の力でも全く刃が通らない。

 しかし、龍の身体が沈む。

 戸惑った龍は振り落とそうと藻掻きながら翼をはためかせ、地上から飛び上がる。それを下水道から見たネプチューンは、路上へ跳びあがってから人家の屋根を伝い同じ高度へ移動。そして。

 

「サターンッ! 今よ!!」

 

 龍を見下ろせる位置にまで来たネプチューンは、先ほど通り過ぎた交差点に向かって大きく叫んだ。

 そこから出て来たのは、プルートとサターン。サターンは雨に濡れながら沈黙の鎌を真っ直ぐ龍へと向ける。

 

沈黙鎌奇襲(サイレンス・グレイブ・サプライズ)

 

 周辺の重力が歪み、黒い光が鎌の切っ先に収束する。龍は高度を上げるがウラヌスを背に乗せているためか動きは鈍く、確実に攻撃は当たると思われた。

 一方、ネプチューンはふと、ウラヌスがある点を見つめて固まっていることに気づいた。

 彼女も反射的に視線を釣られる形でそちらを確認する。

 

 見知らぬ人たちが複数のビルの屋上に集い、ずぶ濡れになりながら大文字の書かれたプラカードをこちらに見えるように掲げていた。

 

『正義の味方なら早く倒せ!』

『お前たちが弱いから、私たちの家が壊された』

『敵は滅ぼせ! 手加減してるのか!』

『セーラー戦士の弱さは敵の陰謀』

『うちの会社が倒産した。弁償しろ!!』

『弱小セーラー戦士はもう必要ナシ!』

『この星から出ていけ、エイリアン!!』

 

 ネプチューンの顔から感情が消えた。

 

 サターンは、切っ先から最大の破滅のエナジーを弾き出す。黒い輝きを放つ光弾は真っ直ぐ龍へと間違いなく飛んでゆく。

 本来なら、直撃する直前で手を離し離脱するという話だった。

 しかし──

 

「ウラヌス……?」

 

 サターンは、いつまでもその動きが見られないことに気づいた。

 

「……ウラヌス、手を離して下さい!!」

 

 プルートも思わず叫ぶ。動かないのはネプチューンも同じだった。

 そこに変化が生まれる。ここからでは大まかな形でしか見えない彼女が大きく跳び、その先にあったビルの屋上へ足をかける。

 そして、龍へ向かってウラヌスがやったのと同じく真上から飛び込んだ。

 

「ネプチューンッ……」

 

 真っ逆さまに落ちる彼女は、明らかに、共に果てようとしていた。

 表情は見えない。

 だが、エメラルドグリーンのウェーブヘアーが逆さまに真っすぐ棚引くその様に、足掻きは全く見えなかった。

 

 技を放ったサターン自身でさえどうにもできず、思わず目を背ける。

 紫の光弾の軌道からして間違いなくそれは龍に直撃し、あちらから来た生物を三度に渡って影も残さず消し炭にすると、誰もがそう予感した。

 光弾は、弾かれた。

 

「……え?」

 

 龍がいつの間にか纏った()()()()()は、生命すべてを消滅させるエナジーの塊を、事も無げに吹き消した。

 

「サターンの攻撃が……!?」

 

 直後、龍は激しくその場で身体をねじる。黒い風は、2人を容易くその身から引き剥がした。

 

「ウラヌスッ! ネプチューンッ!」

 

 すぐさまサターンは駆け出した。すぐ後にプルートも続く。しかし、距離からして間に合わない。

 揃って高くかちあげられた2人は、瓦礫に混じりながら地上へと、鈍い音を立てて落ちた。

 サターンとプルートが駆け寄ったところ、彼女たちは傷だらけではあるが息はしっかりとあった。

 しかし、瞳に覇気がない。生気を失ってくすみ、沈むばかりで、そこに光が差すことはない。

 

「……っ!」

 

 プルートは思わず、両者を掴む手を震わせる。

 直後、少し向こうで龍の息吹が路面を破砕する。

 地面に潜り込んだ息吹は上方へ剣のように振り抜かれた。道路を縦に切り裂くようにして、下からアスファルトと共に戦士たちをまとめて吹っ飛ばした。

 50mほど先までの道路が下水道や地下鉄が露出するまでくり抜かれ、その先に瓦礫の山が積もったのを見届けると、龍は興味を失い別方向へ路面を歩んでいった。

 

 セーラー戦士たちは瓦礫に半ば埋もれる形で倒れ、残らず気を失っていた。

 しばらくした後、土煙に紛れて何者かの足が彼女たちの前で止まった。

 

──

 

「……遅い。いくらなんでも遅すぎるっ……!」

「ねぇ。やっぱし助けに行った方が……」

 

 衛は、ちびうさの提案にぎりっと歯を噛んだ。

 間もなく2日目が終わろうとしている。

 ここに留まるよう言われてから10時間ほど。悪天候は収まるどころかますます被害を拡大させていた。

 TVでは、揺れる中継画面から雨天を映し出している。

 

『えー。見えました! あちらです!』

 

 思わず、ちびうさが立ち上がった。

 人家5軒ほどの半径を誇る巨大竜巻が、画面中央に捉えられた高層ビルへ差し掛かる。

 まずガラスが剥ぎ取られる。壁を成していたパーツの一つ一つが薄皮を剥かれるように、四角い破片として渦を作って天へと運ばれていく。窓枠も、屋上も、床も、柱も、濁った黒い凶風の腹の中へ、1つ残らず呑み込まれていく。

 

『まさに前代未聞の光景です! 竜巻が、ドラゴンの操る巨大な竜巻が、去年の台風でも決して倒れなかった東京のビルを片っ端から吸い込んでいきます! いったい時速何㎞の風があの中で吹いているのでしょうか!? 我々の乗っているこのヘリも果たしてどうなることか……』

 

 リポーターはヘルメットを押さえながら、乱れた映像の中で必死に現状を伝える。

 

『近年、悪を倒す正義の味方として名を馳せていたセーラー戦士は一体何をしているのでしょう!? まさか、あのドラゴンを前に屈してしまったのでしょうか!?』

 

 衛はニュースを聞いたあとしばらくしてから、静かに席から立ち上がってカウンターに赴いた。

 

「……衛。まさか、また今朝いなくなった人らを探しにいくなんて言わないよな?」

「危ないのは分かってる。だが……!」

 

 扉の方から突風が吹き、からんからんと鐘が鳴った。振り返ると、あの4人が、一般人の姿で今にも倒れそうな様子でそこにいた。

 

「みんなっ」

 

 ちびうさが、その次に衛がすぐ駆け寄った。はるかがせつなを、みちるがほたるを背負っている。背にいる2人は気を失っている。

 何よりも目についたのは、彼女たちの衣服のあちこちが破れ、肌に傷がいくつも見られたことだ。

 

「……あんたたち、食糧を探しに行ったと聞いたがまた怪我してるじゃないか!」

「お兄ちゃん、包帯包帯っ!」

 

 古幡兄妹はもう一度医療品を取ってくるため、キッチンの奥へと走っていく。

 はるかとみちるは共にカウンターに背を預け、亡霊と見間違えるほど虚ろな表情で床へと崩れるように座り込んだ。ちびうさはその前に座り込む。

 

「でも……生きてただけでも良かったわ!」

 

 はるかが何か呟くが、小さすぎて聞こえない。もう一度聞こうと耳を唇の近くまで持っていく。

 

 

「何も良くない」

 

 

 ちびうさと衛は愕然とした。はるかのものとは思えない、今にも消え入りそうな声音。

 そこへ再び横風が吹いた。1つの人影がドアを開ける。

 

「すまない。私の言葉が分かる者はいないか?」

 

 男は()()()()()()で静かに語った。

 くすんだ緑のフードを被り、浅黒い肌に黒く細い髪を耳前に垂らしている。背にはドアの縦幅を超える薙刀を背負っているため室内には入っていない。

 衛がよく目を凝らすと、フードの下から尖った耳が覗いた。

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