セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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幾千の夜明け、その果てに②(☆)

 セーラー戦士たちは海上の漂流物を伝い、渡り歩き、何とかモガ村『だったところ』に到着した。

 人の住む証拠は消え去っていた。

 洗濯ものをぶら下げる物干し竿も、クエストカウンターも、狩人が寝泊まりできるマイハウスも、綺麗さっぱり消え去っていた。

 

「ひどい……」

 

 ただの壊れた筏と化したその地の床を踏みながら、ちびうさは周囲に広がる惨状を見つめた。

 ほんの小さな孤島に据え付けられた木板のほとんどが奪われ、剥され、間から海の輝く色がちらついた。

 

「全部、分かりきった結果だ」

 

 低い声に、みちるがはっと振り向いた。

 はるかの声が穏やかな潮風のなか載せられる。

 

「思い出してみれば危機感の薄い連中だった。得体の知れない異種族も、余所者も、何の疑いもせず住まわせたりする」

 

 感情を押し殺したような、あるいはそもそも失っているような。

 相方であるみちるさえも見ないその視線は、海だけに向けられている。

 いつもはしゃんと伸びて凛々しい背も、今は山を作っていた。

 今にも崩れそうな床の上で握られた拳だけは、はっきりとした意志を持っているように見えた。

 

「……この村は最初から、こうなっても仕方なかったんだ」

「はるかさん、なんてこと!」

「スモールレディ」

 

 咎めかけたちびうさを、せつなは諫めた。

 彼女だけは分かっていたのだ。

 はるかの肩が震えていることに。

 

「なんで海に村なんか……作ろうって思ったんだ」

 

 その実、はるかは床の間に揺蕩う海を睨みつけていた。

 憎たらしいほど綺麗で、澄んだ海水だった。

 鼻立ちのくっきりした端麗な横顔が、呪詛を吐きたげに、罵倒したげに歯を噛み締めていた。

 切れ長の眼は今にも零れそうな何かを堪え、表に出すまいと震えている。

 ちびうさもそれに気づいて口を噤んだところで、みちるがはるかの肩にそっと腕を回した。 

 

「私たちが覚悟したのは、こういうことよ」

 

 みちるもはるかが見るのと同じ海を睨みながら、ひしとその肩に頬を寄せた。

 

「私たちは使命の奴隷。(くびき)から逃げることは許されない。産まれた時から王国のために戦うことを誓わされているって、散々思い知らされてきたわ」

「じゃあ、これが罰か? 僕がいつまでも未練がましいから、彼らは流されたのか?」

 

 みちるの努力も虚しく、はるかの声に次第に震えが伴い出した。

 それにみちるは一瞬答えられなかったが、次の瞬間、額をはるかのシャツの袖へと押し付けた。

 

「貴女だけじゃないわ。私もよ」

 

 Yシャツの白袖は無意識のうちに強く、千切れそうなほど引っ張られていた。

 沈黙のなか俯いていたほたるの耳に、一つの波音が広がった。

 

「え、えーっと……あのー……」

「きっと最初から、僕たちはここに来るべきじゃなかった。あのまま、自分たちの世界を護っていた方が幸せだった」

「あのー!」

「なぜ、よりによってこの世界で会ってしまったのかしらね」

 

 衛やちびうさなど後方の戦士たちは声の主に気づくが、視線を落とすはるかとみちるの2人は未だ気づかない。

 

「後にも先にも、私が初めて護りたいって思えたのは、この──」

「き・い・て────っ!!!!」

 

 みちるの発言に、大声が被さった。

 彼女たちが顔を上げると、浅黒い肌の少女がいた。

 真赤のベレー帽に制服に近い姿。耳元に二つ黒髪のおさげがぶら下がっている。

 立ち上がった彼女はいかり肩でふしゅるるる、と威嚇する蛇のように歯の間から息を噴き出していた。

 

「アイシャ……?」

 

 海べりに蹲っていたはるかたちに対するアイシャは舟に乗っていた。

 オールを持って漕いでいるのは、漁師姿の男たちだ。

 それだけでなく周囲に、同じような蒼い服を着た男女らが大勢舟を漕いできている。

 

「村のみんなも!?」

 

 眼を真ん丸にしているのはちびうさだけではない。

 はるかとみちるも、狐につままれたようになっている。

 モガ村の受付嬢アイシャは、ため息交じりにトンッと軽い音を立て、船縁から残骸の床へ跳び上がった。

 

「まったくもー、驚いたのはこっちですよ。波が収まったんで来てみたら、あのお二人がびーびー泣いてるんですもん! せっかくの御顔が台無しですよ!」

 

 続けて住民たちが次々に上がって来る。彼らの多くが、畳まれたような形状の木材を2人がかりで島へと揚げる作業に携わっていた。

 

「あーあー、ここはだいぶ持って行かれたわぁ」

「しょうがない、そこはまた接ぎ足すしかないねぇ」

 

 さっきまで波音しかしなかった島が、一気に賑やかになる。慌ただしく木材を運んでくる住民たちに、セーラー戦士たちは目を奪われるしかなかった。

 

「みんな、なんで……」

「『潮が突然引いたら丘を上がれ』。先祖代々の言伝えが役に立った」

 

 ちびうさの問いに答えるように、緑の外套を羽織る腹の出た老人が前に進んだ。

 モガ村の村長だ。

 

「伊達に子孫代々海に住んじゃあいない。わしらを馬鹿にしてもらっちゃあ困るな」

 

 懐かしさの入った皺だらけの笑みを見て、はるかは顔を上げたまま固まったように動かなかった。

 

「……幻じゃ、ないのか?」

「いつまで死にかけのフルフルみたいになってんですか!」

 

 アイシャにはるかの肩を掴んで揺らされ、幻でないと判明する。

 彼女が背を押さえながら振り向くと、小麦色の膨れっ面が出迎えた。

 

「約束通りとはいえ、勝手に挨拶もなく帰るだなんて聞いてませんでしたよ。まずはちゃんと、ここで一言謝って下さいっ!」

 

 アイシャは、ビシッとその2人の座る場を指差した。

 村長は苦笑いしている。「もう今更いいじゃねぇか」と呆れる声すら周囲からは聞こえた。

 

「……すまなかった」

「ごめんなさい」

 

 謝罪の言葉はそこから動かないまま、存外早く口に出された。

 

──

 

「ほぉら〜、こうやってぇな〜。いざっちゅう時かーんたーんに組み立てられるようになっとるんじゃあよ〜」

 

 大舟の上にあっという間に組みあがっていくベッドと装備棚、それを覆う天幕。

 背の低い竜人族の農場長は、相変わらずのにこやかな笑みとゆったりとした語りで戦士たちに説明してくれた。

 かつてのマイハウスの空間を再現するなか、はるかたちの装備も高台に揚げてくれていたことが分かった。

 モガ村の人々は、彼女たちがここに戻って来ることを見越していたのだ。

 

「そういえば、チャチャとカヤンバは?」

 

 行き交う人々を見てふとはるかが、今しがた木材を運び終わった若い男──村長のせがれに聞いた。

 

「あいつらなら、専属ハンターと共に地鳴りを止めに行ってるぞ」

「地鳴りを……どうやって?」

 

 ほたるの心底驚いた顔を見て、村長はうぅむと唸った。

 

「そうか、お前たちはアヤツを知らんか」

 

 老人は腰を落ち着けると少し神妙な顔をして、

 

「此度の地鳴りの原因は、大海龍ナバルデウス。深海に棲まう古龍だ」

 

 はるかとみちるははっと、目を見開いた。

 彼女たちとちびうさたちは以前に聞いた龍の名だ。

 

「深海をさまよう神、深海に棲む光る巨人……様々な言い方で呼ばれたが、かつてこの村近辺にも現れてな。当時は角の異常発達が原因で暴れたんだが」

 

 村長のせがれが続きの作業を他の村人に任せて説明を行う。

 彼は腕組みしたまま、背後にある大きな孤島──モガの森を振り返って眺めた。

 

「今回現れた個体は何度もその巨体を海底にぶつけ、陸地を丸ごと崩そうとしている。どうも、その先にある何かを目指しているらしい。森に出てる霧と何か関係があるのかもしれんが……今は大海龍への対処が急務だ」

「え……」

 

 セーラー戦士たちには、その一言で龍の目的地が分かった。

 時空の穴。

 彼女たちの世界へと繋がる入口だ。

 

「このまま放置すれば、モガ村は多く見積もっても1ヶ月以内には沈む」

 

 はるかとみちるの目端に緊張が走る。それを見て、村長のせがれは顔を明るくしてみせた。

 

「俺たちだって何もしてないわけじゃないぜ。さっきも言った通り、今はアイツらが食い止めてくれてる」

「戦況は?」

「特に問題ない。カヤンバの奴なんか、遅れた手柄を取り返してやるっていきり立ってるくらいだ」

 

 それを聞いたはるかの頬が少し緩んだ。

 

「……じゃあ、もうここにいる理由はないな」

「え?」

「そのハンターは、前にもナバルデウスを退けた正真正銘の英雄だろ? なら、もう僕らの出番はない」

 

 立ち上がる彼女の口調に、皮肉や嫌味なところはない。

 むしろ安心しきった穏やかで清々しい表情で村人たちに告げ、隣の相方を見つめて、

 

「そうだよな。みちる」

 

 と確認してみせた。しかし彼女は村人たちのキョトンとした顔を眺めたあと、静かに首を横に振る。

 

「はるか。そんな態度じゃ、この村は私たちを手放してくれないわ」

「みちる……」

「実は故郷から与えられた使命で、私たちはあなたたちと戦になるかも知れないの。勝手にあなたたちの元を去ったのも、それが理由」

 

 はるかは思わず息を呑んだ。

 セーラー戦士たちの表情までも一気にざわつく。

 みちるは唇の端を噛み締めたあと、柔らかく波立つ髪と顔立ちには似合わないほど目をつり上げた。

 

「既に国家単位で敵を作ってしまってね。いずれ私たちは、あなたたちにとって災いを呼び込む悪魔になるわ。ハンターズギルドからも、私たちを匿ったとして敵視されるでしょう」

「悪魔って……」

「だからもう、私たちのことはすっぱり忘れた方がいい。あなたたちの命を護りたいならね」

 

 ちびうさの声も無視し、先ほどまでの迷いすらも振り切って、冷たく突き放す声が響いた。

 次こそ空気が張り詰めるかと、戦士たちの肩に力が入った。

 

「カッハハハハハ、んなシケた(つら)の悪魔がおるか!!」

 

 しかし次に聞こえてきたのは、村長の膝を打っての快活な笑い声だった。

 次にアイシャが力こぶを作って分け入ってきた。

 

「言っときますけど、私たちはギルドを敵に回しかけたことだってあったんですよ。自慢じゃないですけど!」

「そう口に出すのが自慢なんじゃないかい。一応アイシャちゃん、ギルド側だろ」

「そりゃ生まれ育ちの村とギルド、どっちを取るかなんて決まってますよ!」

 

 恰幅の良い漁師の女将が呆れると受付嬢アイシャがますます胸を張って答えるので、村人たちが次々に笑いをあげる。

 みちるはそれを見て一時躊躇うも、頑なに厳しい表情を崩さなかった。

 

「笑いごとじゃないわ! これはあなたたちの村の運命を左右することなのよ!」

「お前たちもその村の一部だろう」

 

 彼女に対し、村長が穏やかに語りかける。

 

「悪魔だろうが何だろうが、お前たちが居たいと思ったその時点で村の一員……家族ではないのか?」

 

 「家族」という言葉にみちるは俯いて、細やかな指を拳にして握る。

 

「私たちは……ただのひと時の居候よ」

「今こうやって戻ってきてんだろうがよ。何だかんだでこの村を気にかけてくれたんだろ?」

 

 村長のせがれがニヤリとする。周りの村人たちもしきりに頷いている。はるかは、彼らから顔を背け視線を切ろうとした。

 

「お前たちは専属のハンターがいない間、ずっとこの村を護ってくれた。何を言おうと姿を消そうとな、してくれたことはずっとわしらのここに残っておる」

 

 老人は心臓の辺りを拳で二度叩いた。

 

「人との戦は出来んが、身元を隠すくらいなら何とでもしよう。お前たちが居たいというのならいくらでも居ればよい。モガ村とはそういう村だ」

 

 2人の視線が一時、惑いを見せた。それでも踏み止まろうとしてか、はるかは苦しそうな眼で床を見つめ続けている。

 

「だが僕たちは……故郷を護らなければ……」

「じゃあ、あたしたちは先に帰ってるね」

 

 突然、ちびうさが決意を込めた瞳で言い出した。

 それを見たほたるも、無言のうちに何かを感じ取り。

 

「そうね、貴女たちはモガ村の人たちを護ってあげて。あたしたちは故郷を護るために生命力の根源を追うから」

 

 はるかが、慌ててちびうさに詰め寄った。

 

「君たちにもしものことがあったらどうするつもりだ。勢力を下手に分断しては……」

「今が、そのもしもの時じゃないのか?」

 

 衛までもちびうさたちの側に立って口を挟んだ。

 

「相手は古龍、規格外の存在だ。今回も必ずハンターさんだけで食い止められると決まったわけじゃない」

 

 怪訝な表情をしたはるかとみちるだが、彼は怯まず言い立てた。

 

「龍に来てほしくないのはこっちも同じだ。だから海中へ行ける君たちにモガ村と協力して撃退にあたってもらう。筋は通ってるだろ?」

 

 まだ迷う2人に、せつなが後を押すように肩を叩く。

 

「頼みましたよ。どうかこの村を、その背後にある我々の街を、狩人と共に護って下さい。後は……貴女たちの判断に任せます」

 

 真っ直ぐ面向かって言われたことに茫然としている間に、仲間たちはその場を去っていく。

 「勝手なことを……っ」とはるかが叫んで後を追おうとしたところに、

 

「ある人がこう言ったそうですよ。『自分はこれまで、1人で狩りをした覚えなどない』って」

 

 アイシャの一言が突き刺さる。

 

「使命ってのも、そうじゃないんですか?」

 

 振り返ると、モガ村の老若男女がそれぞれのやり方で頼もしく微笑みかけていた。

 

──

 

「使命を背負うのはセーラー戦士だけで十分だ。あの人たちが背負うべきじゃない」

 

 はるかは、自身の身を覆う白い毛皮と甲殻で造られた甲冑へ伝えるように独り言ちた。

 彼女たちは、海上に浮かぶ舟にいた。

 今はモガ村から少し離れた沖合で、既に村は豆粒くらいにまで縮小している。

 はるかは向かいにいるみちるの視線に気づくと、うつむき気味に自嘲するように笑った。

 

「嗤ってくれよ、みちる。これが『君しか要らない』なんて囁いてた人間の正体だ」

「そんなことわかってたわ。ずっと、ずっと前から」

 

 はるかが顔を上げる。

 みちるは蒼い鱗に囲まれた滑らかな防具に身を包み、縁の向こうに揺れる海面をぼんやりと眺めていた。

 

「かつては、貴女さえいれば他はどうなろうが構わなかったわ。何のために戦うかだなんて二の次」

 

 彼女はそうくすりと笑ってみせるが、すぐに憂うように眉の端が落ち。

 遠くなったモガ村へ振り返る。

 

「でも、その何かを私たちは不幸にも見つけてしまった。よりによって、この魑魅魍魎の湧く世界で」

 

 肉食の水獣、ルドロスたちの黄色い影が海中に見えた。

 獲物を追っているのだろう、波紋を拡げながら舟を追い越していく。

 しかし途中で彼らは進路を変えた。壁にぶち当たったかのように。

 そして何かを恐れるように纏まりを喪い、散り散りになっていく。

 

「それでも、モガ村が本当に必要とするのはあの島にいるハンターだ」

 

 はるかは前方に近づいてきた、小さい島に視線を移した。

 島は絶海の中にあって、教会や神社にも似た神秘的な静謐を保っていた。

 

「勝手に何も言わず出ていく奴らが居座っていい所じゃない」

 

──

 

 モガ村のハンターは、テントの前で奇面族の子どもであるチャチャ、カヤンバと一時の休息をとっていた。

 焚火で冷えた身体を暖めながら、ハンターは5年前に冥海の主を下した証である、昏い漆黒の甲殻に蒼が仄光る篭手を見つめる。

 

 亜種を含めると、ナバルデウスと対峙するのは今回で三度。

 正直にいえば、齢を感じた。

 G級ハンターとなってから去年辺りがピークだったか。それから少しずつ疲れやすくなってきているのだ。以前は酸素玉さえあれば2時間は平気で水中に留まれたが、今は1時間半が限界か。

 今回のことでは村人たちに問題ないと言い切ってしまったが、微かに予兆を感じる。自身の身体が悲鳴を上げる時は、そう遠くない気がした。

 

「ヤヤッ? あれは……ヂャアッ!?!?」

 

 突然、チャチャが荒っぽい奇声を上げた。

 舟から陸に上がった2人のハンターが、こちらに歩いてくる。

 こちらから呼びかけようとしたその瞬間、チャチャがどんぐりの丸いお面の上で杖をぶん回しながらその場を飛び出す。

 

「裏切り者ッヂャ────ッ!!」

 

 ほぼ同時、青い蟹爪のついたお面を被るカヤンバまで参戦する。

 

「このプリチーキュートなワガハイを差し置き、どこ行ってたンバ──ッ!!」

 

 チャチャとカヤンバがカパカパお面を揃って揺らし言い立て、彼らの膝を杖でぽかぽか叩く。

 当の被害者たちは抵抗することなく、腰までの高さしかない彼らをじっと見つめていた。

 

 取り敢えず客人に無礼を働いた彼らの頭を引っ捕え、大人しく座らせる。

 何年経っても相変わらず喧しい奇面族の子どもたちだ。全く、ふさふさのお面でも被せてやろうか。

 そう思いながら必死に平謝ったハンターに対し、彼女たちは首を振った。

 

「いや、彼らの反応が正しいよ」

「どうか、放して差し上げて」

 

 ハンターは、すぐ彼女たちが噂の人たちであると分かった。

 それだけ、数多の狩人とは纏う空気が異なっていたからだ。

 指示通り奇面族たちを解放してやると、彼らはむすっとした感じでぞんざいに腰を下ろした。

 

「今回のことを許してもらおうとは露たりとも思っていない。ただ、僕たちは……」

 

 一瞬、金髪の麗人の目線がブレた。隣の、海色の髪を持つ女性も閉じる唇に力が入った。

 それを、ハンターは見逃さなかった。

 彼女たちは自分より高い位置にある頭を深く、真っ直ぐに下げた。

 

「近くにある故郷を救うため、大海龍の撃退に助力させてもらいたい」

 

 なぜ、迷った。

 故郷を護りたい一心で来たのではないのか。

 何がその発言をここまで躊躇わせたのか。

 そこがハンターにとって引っかかった。

 

 普通なら、こんな半端者を参加させるなど論外だ。

 狩猟時の気の迷いが死へ直結する事実を、モガ村のハンターは何度も目にしてきた。水中という人間に圧倒的不利な状況では猶更のこと。

 そうでなくとも下手に怪我させると後々、彼らの故郷とやらから文句をつけられかねない。

 

 一時ははっきりお断りさせて頂こうと思った。

 ハンターには、アイシャや村長たちが彼女たちを高く評価したことが信じられなかった。

 

 しかし──気になる点もあった。

 

 まず彼女らが身につけるのは、ラギアS一式とベリオS一式。下位とデザインは同じだが、表面の質感から上位の素材と分かる。

 狩人全体の中ではかなりの実力者と見ていいだろう。

 ベリオSの方は近年開発された武器、チャージアックスを担いでいた。恐らくはディアブロスの素材のものだろう。この地方で見るのは珍しいが、かなり使い込まれた形跡がある。

 実際、特殊なディアブロスを討ったという報告も聞いている。

 

 奇面族たちには機嫌直しにこんがり肉を食べさせておき、その間に彼女たちのギルドカードを拝見した。

 これまでの狩猟回数は。

 水中戦の経験は。

 古龍との戦闘経験は。

 

 一通り見た感想としては、昇格スピードが目覚ましいのは結構だが、9割方2人だけで狩りをしているのが気になった。

 時にハンターは赤の他人とパーティーを組まねばならない。これは村で下積みしたハンターが街に出た時に必ず出くわす壁で、自分もその洗礼を受けた1人なのだが。

 彼女たちは、混戦時にも仲間との距離感や状況を気遣える余裕があるのだろうか。

 しかもよりによって、初の古龍との戦いで。

 

 ハンターは座りながらつま先だけで足踏みし、ギルドカード越しに正面にいる2人を凝視した。

 話す彼女たちの瞳を見ると、至って冷ややかなほど色が変わらない。どちらかというと暗殺者の方が向いてそうだ。

 だが少なくとも──勢い任せで自滅するタイプには見えなかった。

 

 だからハンターは狩猟対象の情報を一通り教えたあと、まずは付いてくるだけにしろ、後は自分が指示すると伝えた。

 

 古龍相手に突然突っ込ませるのはマズいという当然の理由もあったが、もう一つは──。

 

「了解した」

「では、さっそく行きましょう」

 

 古龍と初めて相対する者は大抵の場合、良くも悪くも普段は隠している本性が出る。

 その澄まし顔の裏は一体どうなっているのか、確かめる必要があると感じたのだった。

 

「うむ、それでは……行きましょうかンバのう」

 

 カヤンバがいつの間にか、『古代のお面』を被っていた。

 傘の形状をした帽子のような被り物で、ここから酸素を供給することにより長時間の潜水を可能にする。

 ……のだが。

 

「えっ……」

「あなた、カヤンバ?」

「フォッフォッフォッ。これくらいで狼狽えるとは、お2人も若いンバのう」

 

 デメリットと言っていいか微妙だが、お面を変えると何故か性格と口調が変わる。

 突然老人じみた話し方に変わり果てたカヤンバを、問題の2人はいろいろと理解が追い付いていない表情で見つめている。

 そこにチャチャが、どんぐりの仮面を揺らし、飛び跳ねて乱入する。

 

「あーっ、カヤンバったらずるいッチャ! オレチャマの出番奪いやがったッチャ!」

「ンバパ、なんとも賑やかな御方ですンバのう~」

 

 何ともコメントし辛い喧嘩を見た、金髪のベリオ装備を着たハンターが苦笑した。隣のラギア装備のハンターも、お嬢様っぽく口に手を当てて微笑している。

 

「……ほんと、お前たちは相変わらずで安心したよ」

「では、お願いするわね」

 

 少なくとも悪人ではないらしいことは分かった。

 ハンターは最後に、磨き上げた武器を手に取った。

 

 その名も、渦を巻いて高く鈍色に聳え立つ古代の槍『スカイスクレイパー』。




来週がとても楽しみだ…。(今話のような水中戦復活は絶望的だけど…)
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