セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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ワイルズ第二報で界隈が盛り上がっているが、こちらはコロナでダウン中…感想への返信、遅くなるかもです。


幾千の夜明け、その果てに③(☆)

 モガ村のハンターから少し遅れて波と泡を潜り、はるかとみちるは海中へ到達した。

 泳ぎの勘はすぐ戻ってきた。

 当たり前と言えば当たり前で、海竜ラギアクルスとの戦いを征してから感覚にして2ヵ月も経っていない。

 ただその間に、あまりに多くのことがあり過ぎた。

 

 度重なる古龍始め強大な生物との死闘。

 その足下で起こる、したたかな人々の戦い。

 更にその地下で静かに進行する生命力の汪溢。

 彼女たちにとっては短くも長くも感じられる3日間だった。

 

 水深を深めるうち、少しずつ明かりは少なくなる。

 増す水圧により身体がじりじりと重くなる。防具とその下の特殊機構がなければたちまち呼吸すらできず、身動き1つ取れなくなるだろう。

 揺らめく僅かな太陽光を頼りにハンターを追う。

 

「ホレ! フローラルな香りの吐息を堪能するンバのぉ~」

 

 定期的に、カヤンバから空気を含んだ泡を供給してもらう。

 泡を通して聞こえる声が、寂寥感をいくらか和らげる。

 新鮮な酸素の匂いはフローラルでも何でもなかったが、その度身体中の細胞が生き返る。

 

 魚の群れもモンスターも、海流に棚引く海藻以外に動くものとは出くわさなかった。

 彼女たちの耳にはごぉぉぉ、と流れ込む海の唸りと、時折近くで泡が上へ溢れる音が聞こえるだけ。それが、しばらく続く。

 

 やがて、先頭を行くハンターがはるかとみちるへ篭手を上げて示す。

 指示通り静止。

 そこは岩場の間、細長い通路の形状となった地形だった。

 天上からは黄昏色の光が淡く差し込んでいる。下方に広がる深い蒼とは対照的だった。

 

 ハンターが螺旋を描く鈍色の長槍をゆっくりと取り出し、構える。

 動きに迷いも恐怖もない。覇気も武者震いすらもない。

 一連の行為はただ確かな覚悟のもと、御神に捧げる儀式の如く厳かに、静かに執り行われた。

 

 異世界から来た戦士たちに何も指示はなかったが、彼女たちは視線を隈なく巡らせる。どこから目標が来ても即座に対応できるように。

 それもまた、長年闘ってきた戦士として洗練された動きだった。

 だが相変わらず、生き物の1つも見当たらない。流れる泡が無ければ、時間さえ止まって見えるだろう。

 

 そこに突如、海流の向きが変わった。

 

 視覚で判断しようとしていた戦士2人は不意を突かれ、後ろへ数歩分押し流される。

 すぐ態勢を立て直すと、ハンターが既に右に盾を構えて水流に耐えていた。

 その横では、チャチャとカヤンバが抵抗虚しく回転して弄ばれている。

 

 彼はゆらりと、煙のように立ち現れた。

 陰にぼんやりとだけ浮かんだ薄い影の動きは至って遅く、少しでも視線をそらせば見落としてしまうだろう。

 しかし掻かれた水が生み出す鈍い音が、その到来を確かに告げる。

 

 次に薄暗い光の揺らぎのもと、上向きに、弓のように緩く湾曲した、皺だらけの円錐が照らし出された。

 

 まさに海中の朧月。

 闇夜に忽然と雲間から顔を出した、白銀の三日月だった。

 器の形に傾けられた三日月は僅かな太陽光を綺羅びやかに反射し、彼女たちの属する王国の秘宝すらも彷彿とさせる。

 

「……」

 

 二対あるそれは、よく出来た彫刻かと見紛えるほど何層にも渡り深く彫り込まれていた。

 その横の長さは彼女たちの視界を端から端まで飛び越さんばかりで、人をどのくらい並べば足るか測りようもない。

 次にその三日月が、かの龍が頭に戴く王冠──即ち双角であると知る。

 上向きに反る三日月の背に、丸い頭が鎮座していた。

 兜のように硬質な額の下に太い歯牙が2列、同じ色と質感のまま顔と一体化した形で並ぶ。その奥には深海よりも深く、暗い空間が広がっていた。

 そしてその上にある双眸は──

 

 見とれていた間に白銀が視界いっぱいに広がった。

 はるかとみちるは思わず顔をそらし、口から泡をいくつか吹き零した。

 だがすんでのところで彼の顔がたまたま捻られ、衝突は免れる。

 角に比して小さい右目が、更にそれより小さい彼女たちの顔を、鏡のように映しだした。

 

 思わず意識が吸い込まれた。

 瞬き1つもしない真円の碧玉。何百年とこの深海を見てきた深淵。

 赤ん坊の眼のように無垢で混じり気ないそれは、その中にどこまでも落ちてゆきそうな気配すら感じさせる。

 

 しかし、対する大海龍は人間たちを一瞥すらしなかった。

 少女たちの感覚よりずっと早く顔が通り過ぎる。

 角張った顎の下から、藻にも似た豊穣な体毛が、次に視界を埋め尽くす。

 不思議なことに、それらは光の届かない下部にあって自ら銀に煌めいていた。

 人で言えば髭にあたるそれは顔の何十倍もの面積を持ち、一つ一つが生き物のように棚引き、揺らいでいた。

 

「……っ!」

 

 直後に横から角にも劣らない巨大な胸ビレ──鮫や鯨のそれに似たもの──が、ぐわんと水を大きく掻き乱しながら進んで来る。

 叩かれれば無事では済まない。

 咄嗟に、彼女たちは水を蹴り出し離脱した。

 

 恐らく彼にとってはこれが普段の、人で言えば『歩く』速度。

 だがその体躯ゆえに、数秒の間に稼ぐ距離すら彼女たちにとってはあまりに大きい。

 

 ナバルデウスから見て背中側に逃れた彼女たちは、彼の背が甲羅のような硬皮に覆われていることを知った。

 なだらかな線を描くそれは柔らかくも力強く水中を進み、時には止まり、山なりにうねる身体の先端は、振り返ってみても見える気配がない。

 

 その先端が、推進力を得ようと跳ね上げられた。

 二又に末広がる尾が遥か遠くに見えた瞬間、爆風にも等しい強烈な水流の余波が、彼女たちを襲う。

 抗う間もなく、龍から遠ざかった位置へ上下逆さまに押し流された。

 あの巨大な尾が生む殴打の威力は、胸ビレの比ではない。

 それを知った彼女たちは、急き立てられるようにして龍の進行方向と足並みを揃える。

 

 水中戦に慣れたセーラー戦士たちの全速力を持っても、先程目にした髭の辺りに再び辿り着くまでは1分から2分ほどかかった。

 しかしこれまでよりやや遠くに流されたことで、大海龍の全体像が幾らか分かるようになった。

 恐らく、体長は最低50m以上はある。

 先ほど叩かれそうになった胸ビレの上から頭にかけてが、下半身と比べ菱形を描くように太く、厚くなっている。その下部を髭が全て覆い尽くしているのだ。

 先の眼とは正反対に、速度に見合わないゆったりとした泳ぎは老人を思わせる。

 

 海流にそよぐ毛の草原の近く、何度も動くものがあった。

 もしや、とはるかとみちるは進路を大海龍に再び寄せ、正体を確認した。

 

 ハンターが、何度も槍で髭を突いていた。

 突く度赤黒い雷──巷で龍属性と呼ばれるものだろう──を撒き散らし、その先にある藻の如き体毛を焼いていく。

 途中、身体を素早くずらすことで位置を的確に調整している。漆黒の鎧に身長以上の槍を担いでいるのに、まるで重さを感じさせない。

 チャチャとカヤンバも、手に持った杖やブーメランを相手の角に叩きつけている。

 彼らは彼女たちが追いつく間、頭部付近に張り付いて攻撃を加え続けていたのだ。

 尋常でない膂力に、彼女たちは息を呑む。

 だが、それでもナバルデウスは全く気にも留めない。だから、彼らはひたすら攻撃を続けていた。

 

「……」

 

 戦士たちはつかず離れずの距離を保ち、狩人たちの動きを観察する。

 指示があるまで手は出すなと言われているからだ。

 そうして遠巻きに見ているとますます、龍と狩人たちの単純な大きさ以上の、生物としての差が浮き彫りになった。

 

 かつて、砂原で天廻龍が彼女たちに見せたのと似た景色だった。

 あの妖魔ディアブロスとの死闘を断ち切ったあの光り輝く古龍は、彼女たちに振り向きもしなかった。彼女たち自身も、その場から動くことすらできなかった。

 それと同じ種族相手に堂々と槍を向ける、モガ村のハンター。

 

 意外なのは、蛮勇とも言える行為なのに一定の静謐さが感じられることだった。

 水の抵抗など無いかのような鋭い突きの一方、ハンターの動きや表情には敵意や殺意といった激しいものが一向に窺えない。自身の村の存亡がかかっているにも関わらずだ。

 ただ単純に事務的にやっているのとも、動きの緩慢な敵を相手に手を抜いているのとも全く違う。

 

 言葉で例えるならば、真摯さだ。

 

 さも目の前の龍に何度も語らいかけているような。今にも切れようとする自分と彼との繋がりを、懸命に繋ぎ止めようとするような。

 月の王国を護る使命に従い、苦悶の声を上げても未知の敵へ決死の覚悟で立ち向かってきた自分たちとも、どこか一線を画している。

 同じ、故郷を護る者のはずなのに。

 

 無意識のうち、はるかとみちるは共にモガ村のハンターに視線を集中させていた。

 

 酸素玉を噛んでの空気の補給を挟み、時間が経過した。

 いったい、そのやり取りを何回繰り返した頃だろうか。

 髭の幾つかが抜けた時、大海龍が大きく首を震わせた。

 

「ヴォォォォォォォヴゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウ」

 

 海の唸りにも等しい彼の声が、少し離れた位置のはるかとみちるにも水の震動となって伝わった。彼女たちは鼓膜を突き破らん衝撃を和らげようと手で耳を塞いだ。

 彼の頸が、巨角が、大きく振り回される。

 チクチクと自身を刺してくる、鬱陶しい小蠅を払い除けようとしたのだ。

 それだけで搔きまわされた海水は、渦を生んで暴れ狂う。

 そんな中、頭の辺りにいた小さな2つの影がいなくなったことに、早くもはるかたちは気づいた。

 

 先ほどの振り払いに、チャチャとカヤンバが巻き込まれたのだ。

 

 みちるがはるかの肩を叩き、2カ所を指差す。

 カヤンバは巨角にぶつかったことで後方へ投げ出され、チャチャは髭に深く絡まってしまったのだ。

 

「……っ!」

 

 ハンターは異変に気づき攻撃を中断するが、そこに強烈な海流が襲い、右手にある盾で防がざるを得なかった。

 更にナバルデウスがその間も構わず泳ぎ続けたことで、奇面族たちはハンターのいる左角付近から大きく離れてしまう。

 いま、最悪の可能性が浮かび上がった。

 チャチャは髭に絡まったまま窒息、カヤンバはヒレや尾に殴られるかも知れない。いくら頑丈な奇面族であっても、この巨体相手では大怪我は免れなかった。

 ハンターが助けるために後方へ向かえば、自身までもが危機に晒される。

 だがもはや、時間の猶予はない。

 

 いつの間にか、はるかが飛び出していた。

 彼女はみちるの止める手にも構わず、髭の間で藻掻くチャチャを指差してみせると真っすぐそちらへ泳いでいく。

 やがてみちるは相方を止めるのを諦めると後方へ流れてくるカヤンバを見やり、そちらへ急いで脚を動かす。

 

 泳ぎに長けるみちるは大海龍の尻尾と胸ビレの動き、そこから予想される海流を予測しながら、慎重にカヤンバへと近づく。

 

「────ッ!!」

 

 回転しながら暴れるカヤンバへ手を伸ばすと、途中でそれに気づいた彼が大喜びで手を伸ばす。

 こちらから迎えに行く形で無事に胸中に抱き止めると、さっそく大きな泡を作った。

 

「た、助かったンバ──ッ、サンキューッンバ──ッ! ワガハイ、今回こそはホントのホントにゴートゥーヘブンするかと……」

「まだ終わってないわよ!」

 

 仮面で変わるはずの口調すら忘れているカヤンバに、みちるは泡の空気を通して語り掛け、前方の髭の下辺りを見やった。

 

 はるかは何とかチャチャの下に辿り着き、彼を自身の手で髭から引きずり出そうとしていた。

 しかし、鎧毛とも言われるそれは見た目に反して異様に頑丈だった。

 彼女のパワーでも、千切れるどころか不動でチャチャを拘束している。

 

 しばらく目を細めたあと、はるかは背にある柄を手に取った。

 

「ンヂャアアアアアッッッ!!!!」

 

 自分ごと斬られるのかと泡を噴き出して泣き喚くチャチャに大丈夫だ、と仕草をしてみせ、チャチャから少し離れたところにある髭──目元に近い辺り──を指差してみせる。

 ここに必殺技を載せた強烈な一撃を加えれば、髭を抜くと同時に怯んで泳ぎを止めてくれるかもしれない。

 今は見えない、みちるがカヤンバを救出する時間を稼ごうとしたのである。

 ハンターから攻撃を禁止されてはいたが、もはやそんな命令を気にしてなどいられなかった。

 

 迷いなく、手元から天王星より授かったパワーを漲らせる。

 ディアブロスの素材から造られたチャージアックス『ブロスアームズ』。

 2本の角を抱いた背中に背負う盾、その内部にある薬液の入った榴弾ビンにその力を注入。

 強制的に化学的な反応を起こし、角竜の襟巻を模した斧の刃が烈しく稲光る。

 

『ワールド・シェイキング!!』

 

 はるかは振り上げた盾斧を真上から大きく振りかぶり、真正面にある水を縦に引き裂いた。

 ビンに蓄えられたパワーが解放され、金色の衝撃波が一直線に飛んだ。

 屈強な妖魔の軍勢でも軽々と吹き飛ばす一撃が、大海龍の皮膚に直撃する。

 

 髭が幾つか弾け飛び、千切れた。

 しかし、チャチャはまだ絡まっている。

 

「ヴォォォォォオオオオオ……」

 

 直後に響いた低い声に、彼女ははっと視線を上げた。

 水中で声は出せなかったが、まさか、と言いたげに目を見開いた。

 

 大海龍は、全く怯んでいなかった。

 

 水に阻まれたせいか。それとも単純に相手の皮が硬すぎるのか。

 必殺技の直撃でさえ、この古龍にとってはほぼ無傷に等しかった。

 今も頭上に見える。

 あの瞳の底に見えるのは敵意ではない。

 無関心だ。

 自分たちがこんなに動き回っていた間も、彼はただ彼の世界を見ていた。

 人の意志や言葉とは何の関係もなく、彼は悠然と泳いでいた。

 気紛れに生命を与え奪う、あの広大な海のように。

 

 いったい、こんな生物を前に何ができるのか。

 途方に暮れたその時、巨大な金属の塊がチャチャの付近にあった髭の根本を鋭く貫く。

 

 モガ村のハンターが突き出す、螺旋状の溝が彫られたランスだった。

 持ち主の3倍もの全長を誇るそれは、先端から迸る龍雷により、進路上にある髭を瞬く間に焼き切った。

 

 初めてナバルデウスが大きく後ろへ仰け反る。

 同時に首元以外を覆う髭が抜け、大部分が海底へと落ちていく。

 

 解放されたチャチャは上下逆さまになったまましばらく仮面の目に当たる部分を塞いでいたが、やがて自身が自由になったと気づき肩の力を抜いた。が、すぐに息が苦しくなって藻掻き始める。

 そこへみちるに抱えられたカヤンバがやってきて、空気を補給した。

 

 武器をしまったハンターは上を指差した。

 はるかはチャチャを、みちるはカヤンバを抱いて浮上する。

 大海龍の数m上方へ到達したところで、体勢を立て直した彼はそれまでとは比べ物にならない速さで泳ぎ出す。

 ハンターは、このことを予見していたのだ。

 

 あの龍が向かう先は海底遺跡。

 モガ村の村長の祖先が築いたという、古代文明の遺産だ。

 以前に大海龍と戦った際、そこに追い込んで決着をつけたらしい。

 恐らくは今回も同じ流れだろう。ハンターは潜水前、そのように説明していた。

 

 実際に目の前で、大海龍は深部へと巨体を傾けていく。

 はるかとみちるは、ハンターへ視線を向けた。

 子どもたちを離すと、黙って、目を見つめ次の指示を待つ。

 

 チャチャたちを助けるためとはいえ、命令を無視した。しかも、ハンターの助力を得てやっと助けることができた。

 力任せの荒業は、達人の技に勝てなかったのだ。ある意味当たり前でもある。ハンターはこれまで、2度もナバルデウスを相手取っているのだから。

 初心者がこうして無茶をした以上、今すぐ帰れと言われても何ら文句は言えない。

 はるかたちは、厳しい処断を覚悟した。

 

 だがそれに対し、モガ村のハンターは「来い」という風に手を振った。

 そのままハンターは背を向け、ナバルデウスの行く方向へ足を動かしていった。

 

 2人は眉を怪訝に歪めた。

 今の状況からなぜその判断をしたのか。そこに、いったい何の意図が。

 一向に分からないまま視線を彷徨わせていると、カヤンバが仮面から頭を覆うほどの大きな泡を出して酸素の補給をしてくれた。

 もう一度息を吸い込んで行こうとした時、チャチャが2人の肩を叩いた。そしてカヤンバと頷き合うと、一緒にどこかで拾った平たい石に杖でガリガリと削って文字を描く。

 そして、それを2人に近寄って見せてきた。

 

『ちょっとだけ見直した。また子分にしてやっていい』

 

 どこか照れ臭げに渡されたそれをはるかは見つめたあと、腰から取り出した剥ぎ取りナイフで石の裏に文字を書き、それを返した。

 

『あの人がお前たちの本当の子分だ』

 

 チャチャたちが顔を上げた時には既に、彼女たちは先へと泳ぎ出していた。

 

──

 

 大海龍は細い洞窟を抜けていった。ハンターたちも一時、その通路を使う。

 通路は長く、数m先は全く見えないほど暗かった。

 しかしだからこそ変化は突然で、ぼんやりとだが差し込んだ光が開けた空間に出たことを知らせる。

 

 大広間は縦に長かった。

 側面には、朽ち果てた柱や窓のようなものが規則正しく並んでいる。恐らく、あれが古代遺跡だろう。

 それらは上部まで城壁のように延々と続き、海中に渡された橋の痕跡が、遠く上方の海面から差し込む黄昏の光を遮っていた。

 

 大海龍ナバルデウスは、その海底の玉座に黙して君臨していた。

 自らの身体でゆったりと渦を巻いて、確かにこちらを待っていた。

 戦士とハンターたちがその姿を目にしたとき、同時に彼も認識したのだろう。

 ある程度まで近づいた時、大海龍は自身のとぐろを振りほどく。

 その行為には先ほどまでの無関心とは明らかに違う、静かな決意が表れていた。

 

 この意外に厄介な小さき者たちを、真正面から迎え撃ってやろうという決意だ。

 

 故郷を護る決意と較べれば、単なる気まぐれにも近い。

 だがその相対する当人らからすればまさに、ここからが正念場。

 

 ハンターが手を挙げると、カヤンバがはるかとみちるの方を向き、古代のお面から一際大きな泡を噴き出した。

 攻撃許可だ。

 いよいよ、自分たちがかの古龍に刃を向ける時が来たのだ。

 はるかとみちるは、武器を持つ手に力を込める。

 

 大海龍が縦に伸ばした身体に、点々と燐光が左右対称に列を成した。

 髭から自ら放たれていた光の正体だ。

 蒼だか、緑だか、銀だか分からない複雑な色が、それ自体が生き物かのように揺らめく。

 周囲にある暗闇が泡立つ。

 開けた上口蓋から放たれる2対の光は、海底に立つ巨人の眼のようにも見えた。

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