セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて 作:Misma
(※投稿時間のミスにより、12:00頃に大幅に書き直しております)
「王領ヴェルド神聖隊、進め!!」
明朝、野太い号令が波間に木霊した。
アステラの港に並んだ3つの蒸気船が橋を渡し、銃を肩に担いだ軍服の兵士たちが橋の上へと乗り出、板を割れんほど軋ませて上陸した。
陸上は新大陸古龍調査団と彼らを監視する歩兵で人口過密になっており、その影響で昼夜の監視人員入れ替えにはそれなりの時間がかかっていた。
「竜をシュレイドの地より退けし聖君よ、どうか我に力を。正しき道を示して下さい」
ある少年兵は肩に銃を提げて目を閉じ、固く両手を握り締めている。
紅い紋章の施された軍服は真紅の生地で包まれ、騎士文化の名残なのか、庇となる兜が銀に輝いていた。
「存外、原住民も大人しいな」
「人に刃を向けられない決まりらしい。こちらとしてはありがたいことだ」
その少し向こうでは階段の上からハンターたちが並ばされ、巨大な武器を没収されていた。いずれも不服そうな目をしているが反抗する様子はない。
特にそこは厳重な監視が敷かれ、『対セーラー戦士同盟』盟主国である東西シュレイド、両国内の自治都市や中小国の兵士が勢揃いで国旗を立て、目を光らせていた。
向かい側の海を埋め尽くす船団の窓からは火砲が突き出し、無言でアステラの方向へ丸い筒口を開いていた。
「道中一隻も沈まず、犠牲も出ずに大陸の平和が実現……これも神の御加護の賜物だな」
「ああ。かの神の使者には感謝してもしきれんな」
紅い軍服の兵士の2人は安堵の表情で胸元の像を握り、会議場に上がる2人の女性を見据えていた。
──
赤、緑、蒼、橙。
少女たちの前で調査団の期団旗を隠すように、見たことのない紋章旗たちが棚引いている。調査団とは全く違う装いの兵士たちが、槍や銃を肩に担いでいる。
会議場には、総司令以下調査団の中枢幹部が集められていた。
将軍へ叫び疲れたうさぎは、項垂れて息を切らしていた。
「お待ちしておりました。デス・バスターズ特殊対策課『ウィッチーズ3』第3幹部テルル様、第2幹部ビリユイ様」
将軍は、慇懃に頭を下げた。
その横を通り過ぎながら、ビリユイは片手で白衣を将軍の肩へ投げ寄越す。
テルルはそれを見て対抗するように勢いよく投げ捨てたが、それは近くにいた別の兵士の頭に直撃した。
白衣の中から現れたのは、黒いドレス姿の魔女たち。まさしくセーラー戦士たちの敵そのものだった。
「昨晩はよく眠れた、セーラー戦士の皆さん?」
「貴女たち、さては国家の上層部をっ……」
「喋るなっ!」
ビリユイに亜美が叫びかけるが、隣にいた兵士の一喝と、首に向けられた大槍の穂先で言葉を失う。
「ふふっ、良いざま。龍を倒す奴らが人相手に手1つ出せないだなんて」
テルルは優越感に満ちた顔で嘲笑う。
ちょうどその近くにいた、パジャマのような研究服の植生研究所所長は、竜人族特有の長耳をぽりぽりと掻いた。
「新人のふりして潜ってたってわけだねぇ。何ともわざわざご苦労さんなこった」
「はっ、誰が好きで貴様のような気まぐれ上司に……」
「全ては軍を送り込むにあたって奴らの隙を窺うためです」
所長へ睨みを利かせようとしたテルルを覆い隠すように、ビリユイが後ろ手に腕組みして前に出る。彼女は、揃い踏みさせられた調査団上層部の前で足を揃えた。
「まずは調査団の皆さまへ、手荒な手段を取ってしまったことをお詫び申し上げます」
頭を下げる魔女の姿に、調査団上層部の面々は怪訝に目を細める。
次に彼女は鎖と手錠に繋がれたセーラー戦士たちを見下し、その前を往復する。
「既にお伝えしたように、このセーラー戦士という連中は私たちと同じ異世界の者。王国を脅かすものがあれば無慈悲に浄化という名の排除を選び、1つの意見しかない世界を平和安寧と言い募る独善的な反社会勢力です」
ビリユイは調査団の面々に向かい、憐れむようにまつ毛を下げる。
「不幸にも、あなた方の世界はその対象に選ばれてしまった……私たちは貴方たちの世界に迫る死を警告し、手を差し伸べるためここに遣わされたのです」
その場にいる調査団上層部はぴくりとも眉を動かさないが、当のセーラー戦士たちは焦燥しきっていた。
「違うわ、あたしたちは調査団と一緒に未来の災いを止めるため……」
「では聞くけれど!」
ビリユイは反駁するうさぎへ鋭く声を被せ、手を翳した。
戦士たちを縛る手錠に黒い雷が迸ってエナジーを吸い取り、彼女たちに苦悶の悲鳴を上げさせる。
兵士の1人が「あれが魔女の力……」と息を呑む。
「なぜ正体を隠していたの、調査に大きく関わる重要な事実を! それはつまり、自分たちの目的を知られると不味いからではなくって!?」
「おい、よせ!!」
調査班リーダーが見かねて声を上げるが、ビリユイは未だその翳す手を止めようとはしない。
「調査団はいわば、セーラー戦士どもに騙された被害者。こいつらを引き渡して下さるなら、あなた方には何も致しません」
彼女は先ほどの怒声とは打って変わってにこやかに笑っていたが、その瞳に宿る光は氷のように冷たく感情の感じられないものだった。
「しかし万が一、庇い立てるようなことがあれば……」
彼女はテルルと共に、広場の方へ目線を導き、その先にあるものを舐め回すように見回した。
アステラの計4階層に渡って人の間を埋め尽くす、何百丁の小銃を。
「それ即ち、ここに旗を立てる国へ刃を向けることと心得て下さい」
1階の大広間に集められた調査団の団員たちは、銃口から逃れるように身を寄せ合っている。
「今の話、信じられる?」
「あの子たちが命懸けで古龍に立ち向かうのまで計算ずくだってのか?」
「だが異世界の理なら、古龍の行動さえ操れる可能性も……」
「事実がどうだろうと、このままじゃ撃ち殺されるのは変わらないわよ?」
「今はまず、上層部の判断を待とう。私たちにどうにかできる問題じゃない」
魔女たちは、団員の間に迷いと混乱が広がるのを眺めて満足そうに頷いた。
究極の2択を迫られ、調査班リーダーの顔が特に歪む。総司令も、いつも考える時にできる眉の線が多くなっていた。
「……確かに、貴女たちの言う通り」
うさぎが掠れた声ながら答える。地に伏せていた仲間たちは、はっとして目を見開いた。
「あたしたちは、最初から正体を……明かしておくべきだった。疑われたって、自業自得よね」
「うさぎちゃん!」
「でも、ね……この世界は、貴女たちが思ってるほど……簡単じゃ、ないのよ」
彼女は魔法の鎖による苦痛にも負けず、健気に上半身を持ち上げる。
「ミメットから聞いたけど……多分、あたしたちを捕らえただけじゃ……ダメ、なんでしょ?」
それを聞いたテルルの額に冷や汗が浮かんで、セーラー戦士たちへ喰いかかるように前に出た。
「な、何言ってんのよ。んなわけが」
「そう。困ったことに、私たちが故郷再建の願いを叶えるためには幾らか段階を踏まなければいけない」
テルルが振り向くと、ビリユイはその肩を無理やりどかして位置を入れ替えた。
「私たちにはお前たちの魂を入れる肝心の『器』が要る。そして器に浸す『聖水』……即ち、大量のエナジーも。以前に持っていたそれらは、お前たちに壊されてしまった」
ビリユイが手を翳すのをやめると雷が解け、セーラー戦士たちは床に倒れた。
それを見た調査班リーダーや大団長は前に足を踏みかけるが、やはり兵士に止められる。総司令は黙してビリユイの説明を聴いていた。
「『器』の候補はもう見つかったわ。しかし問題は『聖水』。目処はついているのだけれど、調達にはどうも難儀しそうなのよ。はてさて……どうしたものか」
芝居がかった動きで肩を竦めるビリユイに、うさぎは真剣に顔を寄せた。
「その話……ちゃんと、聞かせて……くれる?」
「聞いてどうするつもり? 生憎ね、私たちはお前たちの手を借りるほど暇じゃ」
「良いでしょう」
テルルが「は?」とビリユイへ首を傾ける。
「龍結晶の地より更に奥にある『導きの地』…そこを護る番人がいるの。そいつが溜め込んだ大量のエナジーを『聖水』としたいところなんだけど、これが非常に厄介なのよね」
テルルは慌てるように口をパクパクさせるが、ビリユイは構いもしない。
うさぎは更に上体を起こした。
「……じゃあ……ここでだけ協力するってのは……どう?」
「ほぅ、つまり?」
「取引よ。あたしたちが番人を狩る代わりに、あなたたちは新大陸から兵士さんたちを全て引かせて。そして、もう調査団や他の国の人たちを巻き込まないって誓う」
彼女の眼には強い意志が宿っていた。
調査団の面々のみならず、不動だった総司令の目までも見開かれた。
「これはあくまで貴女たちとあたしたちとの戦い……そうでしょう?」
うさぎはよろめきながらも魔女の前に立つ。会議場にいる調査団と仲間たちの盾となるように。
一方テルルは憤然として、彼女の前に進み出た。
「ちょっと! 流石にそんな計画……」
「良いわよ」
「ええぇぇ!?」
「黙ってなさい、テルル」
ビリユイは振り返って叫んだテルルのすねを蹴り飛ばすと、うさぎに向かって人差し指を立ててみせた。
「ただ、いくつか条件があるわ。調査団の中には既にご存知の方もいらっしゃると思うけれど」
そこで彼女は意味ありげに笑いを浮かべた。
まさか、とたじろいだ調査班リーダーの顔を、ビリユイが狙いすますように見つめる。
「導きの地には、かの高名な『青い星』がいらっしゃるわ。狩人としての実力はお前たち4人分を降らない。その人と5人合わせて相手してしまえば、試練にもならないでしょう?」
その一言に、会議場近くに集っていた団員の間にざわめきが起こった。
「5期団の、青い星……!?」
「まさかそんな奥地に……3期団の予想は当たってたのか」
囁き声を聞き流しながら、ビリユイはうさぎの仲間たちを見下ろした。
「だから覚悟を測る意味で女王たるお前には単騎で赴いてもらい、この4人は人質とする」
「……っ!」
そう愉しげに語る目を見た途端、レイがぎりっと歯を噛んで、焦げた黒髪を振り乱して身を乗り出した。
「うさぎ、やめましょう! これは罠よ!」
「レイちゃんの言う通りよ! 彼女、明らかに会話を誘導して……」
「五月蠅い」
ビリユイは亜美の言葉までも遮って、再び掌を翳す。
マイナスエナジーが再度、少女たちの気力を吸い取っていく。
「ごめん。正直、あたしだってわかってる」
うさぎが背を丸め、呻きながらも叫ぶ。
「でもこれ以外に、調査団の人たちもみんなも救う道が見えないっ!」
調査団の面々は兵士の目もあってとても手を出すことは敵わず、見つめることしかできない。
しかし彼らの眼には確かに痛切な感情が宿り、特に年若き調査班リーダーの拳が机に置かれ、ぶるぶると震えている。
それだけではない。アステラ中で監視を受けているあらゆる人々が、痛めつけられる少女たちに同情の眼差しを送っている。兵士の中ですら、彼女の不屈の意志に圧倒される者がいた。
テルルはその気配を感じ取って、ビリユイを横目に睨みながら舌打ちした。
「だからって……相手の情報もなしに挑むのは無茶だよ!」
「うさぎちゃん……っ!」
まことと美奈子までも声を上げて止めようとする姿に、ビリユイはやれやれと呆れた風に首を回して、
「事あるごとに一々御託並べるの止めてくれる? 煩わしいのよね」
そう言って、ようやく拷問を解除した。
彼女は息を切らすうさぎの前に屈むと、その顎を無理やりつねって掬い上げた。
「あともう一つ。討伐が必須条件よ。対象があんまりに凶暴で、捕獲も難しそうだからね」
「……分かった、わ」
「大事なことだからもう一度言うわよ。捕獲じゃなくて、討伐。それ以外は現地で好きにしてもらって構わないから」
氷のように冷たく、猛禽のように計算高い眼が光った。
「だけど出来なければ、お前たちの身柄は有無言わず引き渡してもらう。二言は無しよ」
うさぎは頷くと、ややあって。
「みんな。あたしがいない間、アステラのことはお願い」
枷を嵌められた少女たちが顔を上げると、彼女は立ち上がって振り向いていた。
「みんなにしか出来ないやり方で……この戦を、止めて」
──
ぎらぎらと陽を反射する鎧と軍服の行列が象る、未知の土地へ続く道。
リオハート装備と煌剣リオレウスに身を固めたうさぎは3階の木製門の前で、今は見えぬところで鎖に繋がれる仲間たちへ告げた。
小さく細い少女が重厚な鎧に大剣を背負い歩く姿に好奇の視線が入り混じる。
「あれが異界の女王ってやつか」
「あんな子どもに竜を狩らせるとは、魔女様もなかなか酷なことをなさる」
「騙されるなよ。ありゃ、仮の姿ってやつだ」
既に翼竜たちは上空で旋回しながら飛び、口笛が吹かれるのを待っていた。
ぴゅう、と軽音が鳴った直後、ロープを放ったうさぎの身体が地上を離れ、青空へと引っ張られた。
翼竜に身を委ねてあっという間に小さくなるその姿を、兵士たちは一体の生き物の如く一斉に手庇して仰ぎ見た。
うさぎのすぐ後ろで見張っていたビリユイはいち早く場から去ると同時、後ろにいた将軍の肩を叩いた。
「じゃ、ここを空ける間は頼んだわよ、将軍さん。私たちは本国へ報告しに行かなくっちゃいけないから」
「承知致しました」
「あと一応」
ビリユイは胸に掌を被せて頭を下げた将軍の耳元へ、薄い色の唇を近づけた。
「調査団と良い仲だったからって変な気は起こさないように。その時は……分かってるわね?」
「ははっ」
将軍は口を固く結んだまま、目の前で霧となって消える魔女たちを見送った。
「……とんでもないことになったわね」
「ああ、セーラー戦士最大のピンチだ。何とかしないと」
それを建造物の合間、兵士の目の届かない陰から垣間見る、額に三日月のついた黒猫と白猫がいた。
うさぎと美奈子の相棒、ルナとアルテミスだった。
彼らは互いに頷き合うとそっと、兵士たちの喧騒に紛れて姿を消した。
──
一方、会議場で拘束されている調査団も、翼竜に掴まり飛んでいく少女を見上げた。
「さて、どうする。このまま木偶の坊として突っ立っているか?」
総司令の言葉に、濃い髭面に眼帯をつけた2期団の親方が眉を上げる。
「総司令、6期団を信じるんですかい? 何だかえれぇこと言われましたが」
「信じるも何も、彼女があそこで言い出さなければ新大陸古龍調査団は物理的に解体されていた。恩には恩で報いる、それが私個人の答えだ」
そう返された工房担当は不敵ににまっと笑った。続いて、調査班リーダーや大団長を始めとした面々も顔に希望を滲ませる。
「じいちゃん……!」
「そう来なくっちゃあな!」
一時盛り上がりを見せた空間へ突如、がちゃり、と鈍い銀色の筒が突きつけられた。
「お前たち、何を話して盛り上がっている! まさか反乱でも起こす気じゃ……」
声の主は、ライフルを構えた衛兵だった。
調査団の面々はその鋭い敵意に気づき、すぐに手を上げる。
調査団には理解できない言葉で怒鳴る青い軍服の兵の背後に、足音が近づく。
「待て」
彼が振り向くと、そこには兵士2人を従えマントを靡かせる将軍の姿があった。兵士は「あっこれは」と銃を素早く背負い直し、足を正して敬礼した。
将軍が敬礼を返すと、壮年の兵士は恭しい表情で微笑む。
「ご様子拝見するに、ビリユイ様の代役ですね」
「お目付役同伴だがな。つくづくギルドの人間は肩身が狭い」
将軍が横目で見た先、両脇に無言でライフルを上向きに抱えた兵士がついている。
兵士はすぐに姿勢を正し、敬礼する。
「いえ、将軍様は東シュレイドの戦や
「なるほど。そこまで信用してくれるのならば監視を代わって貰おうか」
兵士は目を瞬かせて驚愕する。
「将軍。一兵卒の身で烏滸がましくも申し上げますが、万が一、貴方様の身に何かあれば……!」
「彼らはナイフ1本も振るえん研究者だ。そんな相手に、天の聖君に護られた軍隊が敵わないと……そう言いたいのか?」
将軍は厳つい形相を変えないまま、その何倍もある肩と流暢な現地の言葉ですごんでみせた。兵士の顔は思わず萎縮を見せる。
「い、いえ。そう言いたいわけでは……」
「では念のため、4階に隔離した5期団辺りとやり取りがないかだけ見ておけ。いいな」
将軍はそう一方的に断ると、戸惑う兵士たちを差し置いてそのまま会議場へ乗り込んだ。
調査団の上層部はしばらく、その男に注目し続けていた。次に彼が何を言うか、それが気になって仕方ないようだった。
「調査団の諸君、そのまま続けたまえ。私も監視の意味でじっくりと傍聴させて頂く」
将軍の言葉は対話を拒否していたが、総司令は彼の剣吞な瞳から何かを読み取るように真っすぐ見つめていた。
「……彼の言葉に甘えさせて頂こう」
総司令はゆっくりと振り向くと、会議机に両掌を置き、その周りに集う人々を見回して。
「ここから先、武力に訴える蜂起や反乱の一切を議論の対象外とする。そんな無茶な行為こそ、彼女の決意を水泡に帰すも同じだからな」
誰も彼もが頷いた。
ハンターと兵士とでは同じ戦う者としても、そもそもの専門分野が違う。たとえ立ち上がったとしても、圧倒的な武力を前に成功する可能性は限りなく低かった。
「僕らがすべきことは、いつも通りに『真実を求めること』。あの子も、きっとその最終目的のために自ら茨の道をこじ開け進んだはずなんや」
生態研究所の所長の言葉が象徴するように、上層部の誰一人として、怒ったり慌てふためく様子は見せなかった。
遠近にいる調査団の団員たちも、固唾を飲んで静かに会議場を見守っていた。
「そうだな、まず状況整理として俺が気になることは……『番人』だ」
大団長が太く逞しい腕を組んで口火を切った。
「奴らは『番人』が有する大量の生命力とやらを欲しがっているようだが、心当たりのあるヤツはいないか? それで、魔女たちの考えも──やがては交渉の糸口も、はっきりしてくるかも知れん」
すると3期団の期団長が、ゆっくりと蒼の長袖を垂らして手を挙げた。
「既に目処は付いてるワ」
「おお、早いな。流石は3期団ってとこか!」
「えぇ。ついでに、発見者の貴方へ返しとくわネ」
大団長は「……なに?」と怪訝な顔をして、若き竜人族の天才が懐から取り出すそれを見つめた。
「恐らく導きの地の『番人』は、この持ち主ヨ」
その正体を見た途端、上層部たちは息を呑んだ。
大団長の掌に帰ってきたのは、金色の鱗の欠片だった。
「この鱗を3期団で分析したところ、既存の観測事例では類を見ないほど強大に発達していた。単なる遺伝とか個体差では説明がつかないくらいに」
──
アステラを翼竜に掴まって出発したうさぎは、翼竜中継所を乗り継ぎながら北上していく。
恐々と飛んでいた初期から比べれば何かを恐れることもなく、忠実に行くべき道を目指してくれる。
森を超え、荒地を超え、山脈を超え、珊瑚を超え、火山を超え。
これまで辿ってきた道のりを、1日半ほどかけて巡る。
そしてビリユイから示された『導きの地』へ行くため、海峡を潮風に髪を舞わせながらその上空を渡っていた。
やがて、霧が視界にかかる。
振り向いてみても、これまでずっといた仲間たちはそこにはいない。
新米の自分たちを導いてくれた調査班リーダーも同様だ。
「……」
心細さに桃色の籠手を握り締めながらも、前を向こうとした時。
赫い閃光が、視界を染めた。
「わっ!?」
猛烈な風圧に、彼女は顔を手で庇う。
煽られた翼竜は軌道を大いに乱し、暴れ始めた。
「ちょっ、ちょっと落ち着いて!」
言葉は届きようもなく、翼竜はどんどん高度を落としていく。
風圧によって霧が晴れた視界には、島のようなものが見えた。その奥の空に、光が尾を引いている。
「あ……あれは……わぶっ」
しかし、気にする間もなく急降下したうさぎの身体が森林に突っ込んだ。
枝に引っかかったロープは強制的に翼竜の脚から離れ、スリンガーに巻き戻る。
そしてその身体は半ば落ちるように、草原のクッションへと不時着した。
「お、お尻いったぁ……」
しまらない着地を決めたうさぎは、しばし腰をさすった後立ち上がった。
「ここが、導きの地……」
少し歩いてみると、そこは古代樹の森に似た環境であると理解できた。
鬱蒼としたシダ類、湿度の高さからも明らかである。
「……ルルルル……」
そんな中、獣の唸りが聞こえた。
同時に、どす、どす、と軽い地鳴りが脚を竦ませる。
うさぎは慎重に、音を立てないように、その方向を振り向いた。
森林を潜った夕陽が照らし出す下、血のように赤い双眸が照らし出されていた。
その鱗は、黄金にも等しい金色だった。