セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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月と六花が零す悲哀②(☽)

 赤く残光を引く目の下に炎が灯り、ぐるりと円を描くように振られ。

 爆炎の中から、灼熱の塊が放たれた。

 

「っ!?」

 

 一直線に進むそれを、うさぎは身を投げ出して避けた。

 殺意の籠った視線が、夕に沈む森を横切る。

 少女はすぐ急かされたように立ち上がり、湿った草木を蹴る。

 歩幅の差は速度の差へ繋がり、飛竜らしき巨体があっという間にすぐ背後へ迫る。

 

 一方、少女の視界に切り立った崖が広がった。

 しかし、悩む暇などない。

 

 飛竜が大きく一歩踏み込んで回転、棘の生えた尻尾を振り払った時、小さな身体は崖から飛び降りていた。

 毒の滴る尾棘が、うさぎの金髪を掠める。

 そして、彼女が落下に備え身体を捻ろうとした拍子。

 

「……っ!!」

 

 夕陽により黄金に照り映えるその姿がはっきりと映った。

 

「希少……種?」

 

 一瞬、感じた懐かしさも他所に身体は落下していく。

 

「わ……わわわわっ!!」

 

 迫ってくる地面を見て慌てかけた彼女のちょうど真横に、樹の枝へひっつき腹を光らせる蛍の如き甲虫が移った。

 楔虫だ。

 考えるよりも先にスリンガーが向けられアンカーが発射、その硬質で強靭な四肢に絡みつく。

 振り子のように揺れ、スリンガーは命綱となって少女の身体を吊り下げる。

 

「ふー……危なかったぁ」

 

 地面を直撃を免れ何とか胸を撫でおろしたところで、

 

「すみませーん!」

 

 下方から人の声がしたので地上を見渡すと、すぐ近くで手を振る人がいた。

 

「うわっ!?」

 

 うさぎが驚いたのに対し、相手もびくっと肩を震わせた。

 

「あのー、もしかしてですけど、助けに来てくれた方ですか?」

 

 うさぎよりはもう少し歳上の、双眼鏡付きゴーグルを被った女性だった。黄色の軽装にはじけクルミを装填したスリンガー以外の武器は持たず、左方に書物をぶら下げている。恐らくはハンターとバディを組む情報支援の専門家、『編纂者』と思われた。

 背にある籠には、キノコや大量の食材らしきものが小山のように積まれていた。

 

「あっ……いちおー……はいっ!!」

 

 込み入った事情はあるもののとにかく空中で頷いてみせると、編纂者はゴーグルを上にずり上げた。

 

「ああ本当に助かりました、ありがとうございます……あれ?」

 

 明るい茶髪と太めの眉に、活発な雰囲気がある顔立ちだった。

 少し考えてからすぐ、彼女はやや大げさと思えるほど口に手を当てた。

 

「あーっ、まさか最近募集されたという、新人さんじゃ!?」

「そうですそうです! 6期団の、いや違う……じゃなくって5期団補欠の……」

 

 久しぶりの人との会話に思わずうさぎが顔を綻ばせて言い直そうとした時──

 ぐぅぅぅぅ、と腹の虫が鳴った。

 

「あっ」

「まずは、食べながら事情をお聞きしましょうか!」

 

 編纂者は満面の笑みで腰のポーチからリンゴを取り出し、宙吊りのままのうさぎに渡した。

 

「……はい、お願いします」

 

 うさぎは艶のある果実の向こうに見えるそばかすのある顔を、些か緊張の面持ちで見つめた。

 その後バディのハンター『青い星』がいるというエリアまで、森林地帯を徒歩で抜ける。

 

「え、ドキドキノコって食べれるんですか!?」

「はい、じっくり火を通すと毒素が弱まって、毎回違う味わいを楽しめる食材に早変わりですよ!」

「へー、試してみよー!」

 

 食べることが好きでよくドジを踏む。似たような性格だったためか、気はよく合った。

 

「先走る癖は治したつもりなんですが、相棒は『後はそのイビルジョーみたいな食い気を治せ』とからかってくる始末でして。何とも道のりは長しです……」

「うちの百倍マシですよ! あたしなんか毎日、猫の相棒にがみがみーってネチネチ怒られてますから!」

「ふふっ、うさぎさんのオトモさん、とても主人思いなんですね!」

 

 話が弾むほど本題に入りづらい。話の入口を探すことが、結局逃げるような形になってしまう。

 それでもアステラで魔女に正体を暴露された以上、もはや隠し通すことはできなかった。

 だから道中、思い切って全てを話すことにする。

 

「……そろそろ、事情を話していいですか?」

「あ、そうですね。お願いいたします」

 

 時々、緊張のあまりか口端に力が入る。

 

「実は、あたしたちはハンターじゃないんです。本当の姿は──」

 

 初対面の、出会って数分しか経たない一般人に正体を明かす。

 日常に隠れる存在であるセーラー戦士としては初めてで、非常に勇気のいる行為だった。

 冗談と笑われるか警戒されるか、どっちの可能性も受け容れなくてはならなかった。

 

「なるほど、アステラがそちらの世界の敵方に占拠された……と。では今後の調査団の運命は今や、ここにいる我々にかかっているというわけですね!」

 

 手渡されたりんごを半分も食べ終わらないうちに説明が終わった。

 事情を知った編纂者は胸に拳を突き立てて、ふんすと鼻を鳴らした。

 いざ勇気を以て踏み出したばかりだったうさぎは、りんご片手で呆気に取られた。

 

「……」

「おや、どうされましたか?」

「い、いやぁー、思ってた以上に物分かり良すぎてビビっちったー的な感じですかねぇー、たはははは……」

 

 うさぎは後頭部をさすり、思わず口調が砕けてしまうほど戸惑いの交った笑いで答えた。

 

「私は貴女のいうことを信じますし、協力しますよ。食べることが好きな人に悪い人はいませんから!」

 

 清々しい笑顔を見たうさぎは、半分に欠けたりんごに目線を落とした。

 

「何だか……仲間ぐるみでひた隠しにしてたのが馬鹿みたい」

 

 敵になるかも知れないゆえの混乱を避け自分たちの身を護るための決意は、結局は敵が付け入る隙しか生み出さなかった。

 だが、悔やもうとも結果は覆らない。すぐ、うさぎは編纂者へ顔を向けた。

 

「そういや、相棒さんってものすごいハンターさんなんですよね。飛竜もいるのに、一緒に来なくて大丈夫なんですか?」

 

 それを聞いた編纂者の顔が、初めて曇った。

 

「……こちらの事情をまだお話してませんでしたね。うさぎさんは、空を翔ぶ赤い光を見ませんでしたか?」

「そういえば……ここに来る時、彗星のようなものが」

「相棒は、それと戦ったんです」

「え?」

 

 編纂者は森林の間から覗く星空を見上げた。

 

「あれは星も見えない、雨の降り注いだ夜のことでした。この地で調査をしてると、環境生物の大群が奥に向かっていったんです。今すぐこのことを報告しようと思った矢先……」

 

 雲の天井を突き破って、赫星が堕ちた。

 導きの地は揺れ、あらゆる生物が悲鳴をあげ、逃げ惑った。

 

「天彗龍バルファルク。音速で空を翔ける古龍にして災いの予兆……本来は新大陸にいなかったモンスターです」

 

 あの彗星が生物であった事実に、うさぎは唾を呑み込む。

 

「調査団が移動に使う翼竜が飛ばなくなったのは、かの龍の気配を察知したからでしょう。龍結晶の地で起こった戦乱も、恐らくそれが遠因……」

 

 天彗龍の飛来こそ、うさぎたちがこの大陸に来る前夜に起こったすべての始まりだった──

 しかしその結論に終わらず、編纂者は言葉を紡ぎ続ける。

 

「相棒は、バルファルクに挑みました。情報がない中手探りで何日もかけ、死闘を繰り広げました」

 

 周囲の森林は時々、捻れ切られたような何とも奇妙な形状を成していた。それらを編纂者が見つめる様子から、恐らくはかつてそこにあった戦跡を雑草が覆い尽くしたものと思われた。

 そこで編纂者は視線を切り、うさぎへと振り向いた。

 

「しかし、そこへ空から乱入者が現れました。金火竜……リオレイア希少種です」

 

──

 

「さて、定例報告の時間だ。そろそろ、調査班からもあの金火竜について報告を願おうか」

 

 総司令に視線を向けられた調査班リーダーは頷くと前に出て、会議机に書類の束を持ち出した。

 その動きを、会議場の端から将軍と兵士が注意深く観察する。

 現在、新大陸古龍調査団は武力解除のうえで、蓄積した情報から「魔女の障害となりうる対象を分析し報告する」という条件下でのみ活動を許されていた。

 目的に適うかを見定める全権限は、当然、将軍と魔女の側にあった。

 

「この度、嵐の夜の一件で散逸した報告書を纏め直したところ、彼女らしき飛竜について奇妙な報告が数件見受けられた」

 

 調査班リーダーが書類の中から、1枚を表にめくる。まずは、大蟻塚の荒地に派遣されていた調査員の報告。

 

「『縄張りへの侵入者にはラージャンのように見境なく、獲物にはイビルジョーのように貪欲。凶暴性については、もはやリオレイアの皮を被ったナナ・テスカトリ』」

 

 次に、陸珊瑚の台地からの報告。

 

「『尻尾に含まれる毒素は、一瞬にして森も沼も荒野にする。実際、彼女の毒が滴った地の動植物は半日も経たず全滅した』」

 

 その次は、瘴気の谷からの報告である。

 

「だが一方で、こんな記述もある……『彼女の血は非常に栄養価が高いと思われる。古龍と争った戦地は5日も経つと、別の生態系が大繁栄を遂げている』」

 

 読み終わると、黒髪の青年は報告書から精悍な顔を上げた。

 

「そして各地報告数の推移を見るにこの金火竜は、6期団が来た頃に龍結晶の地や導きの地などの大陸奥地へ移動し……そこで古龍たちと争ったと推測される」

 

 大団長は太腕を組んで胡坐を掻き、如何にも参ったという風にため息をついた。

 

「もはや、古龍級生物という言葉すら生温いな。しかしそんな生命力、どこで貰って来たんだ?」

「うちの研究者がいうには……かの竜は、現大陸から渡ってきたらしいワ」

 

 会議場に集う一同の視線が、煙管を持った第3期団長へ集中した。

 屋根の上にあった、2つの猫耳がぴくりと動いた。

 

──

 

「彼女の乱入には相棒といえど手こずり、更に以前からあった頭痛までも酷くなったことで手詰まりに……どうされましたか?」

 

 編纂者が声をかけると、一瞬別の考えに耽っていたうさぎは気づいて首を振った。

 

「いえ、何でも。でも相棒さんがそんな調子なら、協力なんかできないですよね」

 

 今回の狩りを『青い星』に手伝ってもらうという算段が狂った。

 たった1人で戦うことは久しぶりとなるが、相手はこの導きの地を統べる主。そう簡単に伸せる相手でないことは確実だった。

 不安げになったうさぎの顔を、編纂者が励ますように覗き込んだ。

 

「必ずしもそういうわけではありません。あの人なら、事情を説明すればきっと何らかの形で貴女方に協力してくれます。それに……」

 

 彼女は意思のこもった眼で自身の胸に手を置いた。

 

「僭越ながら私にも1つ、出来ることはあります。うさぎさん、マップを貸して頂けますか?」

 

 編纂者はうさぎのハンターノートを指した。

 

「え、いいですけど」

 

 何をするのかと怪訝ながらそれを手渡すと、編纂者は導きの地の地図を開いて何ページかめくり、一通りの地形を確認する。

 

「やっぱりこうして見ると、だいぶ地形が変わってますね。もしよろしければこの地図、書き直させて頂けませんか?」

「え、良いですけど……その、変わった地形全部覚えてるんですか?」

「はいっ! これが私の仕事ですから!」

 

 うさぎが聞くと、編纂者はそばかすのある顔でにっと笑った。

 そして、右手に羽根ペンを取り出すと。

 直後、彼女は目にも止まらない早業で筆を進めた。

 

「ここは地盤が緩んでいます。狩猟時は避けることをお勧めしますよ。この森林地帯はシビレガスガエルが繁殖してますので、利用するのも手です! ここにははじけクルミが密生していますので、狩猟の間に立ち寄ってみてもよいかと……」

 

 一つ一つの動きや発言に澱みも迷いもなく、朗らかな笑顔で解説を行う。しかも、分かりやすく図解を添えるのも忘れない。

 一方のうさぎは、それまで自分と似た食いしん坊にしか見えなかった人の口から出る情報の密度に、正直面食らい気味だった。

 情報のエキスパートの名は伊達ではなかった。学者にも匹敵する知識の処理を、彼女はすべて頭の中でやってのけていた。

 

「完了です!」

 

 出来上がった地図は、最初からそう書かれるよう計画されていたと言わんばかりに整理されていた。

 

「……似た者同士って思った方が失礼だった」

「?」

「いえこっちの話です、ありがとうございまーす!」

 

 うさぎは内心トホホ顔ながら、新しい地図を受け取った。

 やがて道中に現れた横穴を腹這いに通り抜けると、三角錐に張られたテントが彼女たちを出迎えた。

 

「相棒、帰りましたよー!」

「あっ、編纂者さんお帰りニャ!」

 

 テントの入り口から、白い毛並みのアイルーが顔を出す。『青い星』のオトモアイルーと思われた。アイルーは新参者であるうさぎの姿を認めると、くりっとした眼を瞬かせた。

 

「あれ、その人は……」

「はい、私たちを助けに来てくれた方ですよ!」

 

 それを聞いたオトモアイルーは、ぱっと顔を輝かせる。

 

「よ、良かったニャ! これでやっと旦那さんもまともに手当して貰えるニャ!」

「相棒の体調はどうですか?」

 

 一方で編纂者が屈んで目線を合わせて聞くと、アイルーはしょんぼりと項垂れた。

 

「……良いとは言えないニャ。どんどん頭痛や吐き気が酷くなってるみたいで、さっきもうなされて……まぁとにかく、顔合わせだけでもするニャ」

 

 うさぎがランプに内側から照らされるテントを再び見やると、下側には狩人らしき横たわる人影が見えた。

 オトモアイルーが案内してくれたのに従って少しだけ垂れ幕を上げ、テントの中へお邪魔する。

 アイルーは傍の丸コンロで暖めた回復薬を抱き、心配そうに相棒であるその狩人の顔を覗き込んでいた。今は、防具を外しているようである。

 筋骨隆々ながら優しげな顔つきの人だったが、今は苦悶に歪んでいる。

 ふと顔を上げたうさぎの視界に、あるものが映った。

 

 狩人の脇に、物々しい黒色の鎧が鎮座している。

 いったい何のモンスターから造られたかは定かでない。

 

 視線を戻すと『青い星』が目をかっぴらき、うさぎを見つめていた。

 

「あ……相棒っ!!」

「旦那さんっ!!」

 

 うさぎがびくりと肩を震わせたと同時、編纂者とオトモアイルーが呼びかける。

 充血しきった眼で彼女だけを視界に捉えていた狩人は直後、頭を抱えて悶え始めた。

 

「ああ、ぁぁ……っ」

 

 かの英雄の眼は、なおも編纂者でなく、オトモでもなく、うさぎだけを捉えている。

 苦悶の声とは裏腹に、悪霊が入り込んだかと思うほどに目線の動きは一切変わらない。

 うさぎは思わず、足を引いた。

 しかし『青い星』はずいと編纂者の腕を押しのけて、彼女に向かって震える口を開く。

 

「せ………………せ、かい…………は……ぁっ」

「え……?」

「……い……いく……さ、を……のぞ……ん、で……っ」

 

 ろくに呂律の回らない、掠れた声で訴えた。

 そこで苦痛に耐えかねたように倒れ込み、気絶した。

 

「ハ、ハンターさんっ!」

 

 慌ててうさぎが駆け寄ろうとするのを編纂者が制し、冷静に狩人の手首に指を当てた。

 

「脈拍は……至って正常」

 

 『青い星』は既に、英雄に相応しい威厳のある顔つきに戻っていた。

 

「……」

 

 うさぎは何を言えばいいか分からなかった。

 やがて、編纂者は彼女に微笑みながら振り向いた。

 

「気に病まないでください。時間がないのでしたね、準備するならここの物資をお使い下さい」

「え、でもここはハンターさんの……」

「大丈夫です。消耗品の補充分はアステラにあるでしょうし……万一の場合は、私が貴女に代わって相棒に怒られますから」

 

 うさぎは、編纂者の言葉に甘えることにした。

 秘薬などの薬品を持てる分だけ持ち、罠や大樽爆弾も持ち出す。

 テントを出ると、満月が東の森から顔を出していた。

 

「気を付けて下さいね、相棒でさえ苦戦した相手です。基本的には雌火竜と似た動きをしますが、地上での敏捷性はこれまでの個体の比ではありませんでした」

 

 編纂者は、最後にターゲットについて説明を行った。

 

「それより恐ろしいのが、発火器官を蒼く活性化させる『劫炎』状態。普段は腰の辺りに潜り込み脚や翼を狙うのが安牌ですが、この場合、動きに慣れれば喉を攻撃して怯ませるのが有効ですからお忘れなく。それでも厳しい状況が発生した場合は、信号弾を撃ちあげて下さい!」

 

 一通りの知識を教えたあと編纂者はうさぎへ赤色の信号弾を渡し、見送って足を揃えた。

 

「かの金火竜は生命力に溢れていますが、不死身ではありません。幾度かキャンプに戻って体勢を立て直せば、いつか必ずや討伐できるはずです!」

 

 彼女がぐっと拳を握ってみせると、うさぎはしばし間を空けたあと、振り向いて頷いた。

 

「分かりました。じゃ、相棒さんのことは頼みますね!」

「はい!」

 

 そのまま、彼女は横穴を通り外へ抜けていった。

 

「……」

 

 オトモアイルーが、姿が見えなくなっても突っ立つ編纂者の横からやって来る。

 

「編纂者さん、どうかしたニャ?」

「いえ……うさぎさん、何か別の想いを抱えてらっしゃる気がして。気のせいだといいんですが」

 

 治療のためにテントに入ると、やはり彼女の相棒は床に伏していた。

 編纂者はオトモと共に、すり鉢で薬草を潰す。そして回復薬としたそれを、その人の胸にすり込んでいく。

 

「相棒。どうか目を覚まして下さい。いま、あなたの力を必要とする人がそこにいるんです」

 

 しかし、相変わらず目は固く閉じられたままだった。沈黙がテントの中を支配する。

 

「……あなたにはいったい、何が見えてるんですか?」

 

 オトモアイルーが、はっと編纂者の俯いた顔を見上げた。

 呼びかけに答える声はない。それでも、編纂者は問う言葉を紡ぎ続けた。

 

「かつてこの世界の運命を斬り拓いた……あなたという人に」

 

 鈍い漆黒の鎧が、静かにテントの中を見下ろしていた。

 ランプに照らされたテントに、一条の闇を灯すように。

 

──

 

 アステラの1階マイハウスは現在、セーラー戦士たちの牢獄として機能していた。

 そこに幾度も、金属同士をかち合わせる音が響く。

 

「くそっ、くそっ!!」

 

 まことが、排水口に自身の腕に嵌められた枷を凄まじい勢いで打ち付けていた。

 しかし枷はその怪力を以てしても頑として動かず、黙して腕を縛り続ける。

 ビリユイによる細工が施された枷は、マイナスエナジーによりセーラー戦士の魔法を吸収する。ここにいる4人はもはや、ただの少女に過ぎなかった。

 

「こんな時に、変身も出来ないなんてっ……!」

 

 まことは両手の枷を床に叩きつけて高音を立てたきり、そう嘆くしかなかった。

 

「結局あたしたちは、あの人たちに嫌われるのが怖かっただけだったのよ」

 

 レイの言葉に、まことは顔を上げた。彼女は冷たい床に黒髪を放り出して座り、自身の手枷を睨むように見つめていた。

 

「あの人たちを信じもしないで、デス・バスターズとの戦いは自分たちだけの領域だって強がって……その結果が、これよ」

 

 仲間たちの顔が俯く。

 

「おい、みんな……!」

 

 少女たちははっとして部屋の天井の隅を見上げた。

 額に三日月を戴く黒猫と白猫が、通気孔から共に顔を出していた。

 

「ルナ、アルテミス!」

「どこに行ったのかって思ったら……!」

 

 そこで天井の上──甲板を通る兵士の足音を聞いて、戦士たちは慌てて息を潜めた。

 

「どさくさに紛れて、調査団幹部の会話を隠れて聴かせてもらっていたんだ。そしたら……」

「今回のデス・バスターズの狙いが分かったのよ。特に、ビリユイがうさぎちゃんを導きの地に向かわせた意図がね」

 

 少女たちは、足音を消しながらも急いで顔を寄せ合った。

 そこから御付きの猫たちは、調査団で行われた定例会議の内容を聞かせた。

 先ほど、調査班リーダーが発表した報告である。

 特にモンスターの生態についてある程度知る亜美は、怪訝に眉をひそめた。

 

「1体のリオレイアがそんな影響を……」

「でも、そのことがビリユイの狙いとどう繋がるんだい?」

 

 まことは、ひそひそ声ながら聞き逃さまいと顔を更に近づける。

 

「それがね、どうもその金火竜……現大陸から渡ってきたらしいのよ」

「現、大陸……?」

 

 ルナの一言に、戦士たちの顔が嫌な予感に歪む。

 

 

「しかもその経歴を辿ると──出生地がアルコリス地方……ココット村近辺らしいの」

 

 




ワールドの編纂者が出てきましたが、人によっては性格が違うと感じるかもしれません。
また、ココット村の金火竜はかなり前の話からの引用となりますので、もはや誰も覚えてないかも……
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