セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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地の星空を天翔る星たち①(☽)

 新大陸古龍調査団は、導きの地との輸送経路の復旧と古代樹の森の処理に追われた。

 戦死者1000名以上。負傷者を含めた将兵の生存者は50名弱。

 輸送艦と軍艦が沈んだことで、連絡船が来るまで現大陸への帰還も不可能となった。

 

 シュレイド軍敗北の翌々日、午後。

 モンスターが跋扈する古代樹の森を横に、停戦会議が始まった。

 場所は、馴染み深きアステラ1階の会議場。

 

 調査団や将軍、セーラー戦士といった主要人物の他、捕虜となった東西シュレイドの士官も同席した。

 魔女により拘束されていた将軍は、調査団の手により縄を解かれた。

 

「部下はただ忠実に命令に従っただけだ。処罰なら、最高責任者であるこの私を」

 

 将軍は席につくなり第一声を発して立ち上がると、相対する総司令と調査班リーダーを見つめ、頭を下げた。

 

「将軍……」

 

 その迷いのなさに、机を挟んでちょうど向かい側に座る調査班リーダーは思わず声を上げた。

 調査団に近いところに座るセーラー戦士たちは、息を呑んで将軍の厳格さを保った表情を見つめた。

 しかし、椅子が床を引きずる音はそれで終わらない。

 

「いえ。直接西シュレイド軍の指揮を執り、命令したのは私です」

「私も候補します」

 

 次々と音は連なり、結果的には東西シュレイドの士官が全員立ち上がった。

 腕組みする大団長は「ほぉ」と目を丸め、彼らの口許を凛々しく引き締めた顔を面白そうに見回した。

 

「将軍がいなくなれば、シュレイドはまたしても無益な戦火に包まれましょう。我々にとっても出来うる限り避けたい事案です」

 

 理路整然と説明を行った最高齢の士官は、次に、調査班リーダーに向かって手をつき、頭を机にぶつけそうなほど勢いよく下げた。

 続けて士官全員が雪崩れるように、まるで示し合せたかのように頭を下げた。

 

「調査団よ。我々全員がいなくなってもよい。どうか、この方だけは……頼む!」

「全員座れ」

 

 将軍がそれをあくまで、冷静に咎めるが。

 

「なるほど。統合指揮官に選ばれるのもうなずける」

 

 罪悪感に耐えるように俯き眼を細める彼に、総司令が微笑んだ。

 一方、隣にいる総司令の孫にして若きリーダーは、苛つきを抑えるように机上で拳を握った。

 

「俺たちが聞きたいのは、そういう自己犠牲精神の発露じゃない!!」

 

 怒りすら混じった叫びに、士官たちの驚きの視線が集中した。

 調査班リーダーは両掌を机に半ば叩きつけるように置き、身を乗り出した。

 

「我々は詳しく知りたい! なぜこんなことになったのか! 貴方たちに従った兵士をあの無謀な突撃に、悲惨な死に誘ったのは一体何なのか! その理由を、いま、ここで、聞きたいんだ!」

 

 将軍はその言葉を黙って聞き届け、ゆっくりと手を掲げた。

 

「……では私から説明しよう。取り敢えず、この場の一同には一度、ご着席を願いたい」

 

 将軍は、かなりの人数が立ち上がっている会議場を前に、厳かに呟いた。

 その発言により、過熱しかけていた会議の場は最初と似た状態へ戻った。

 

 

「3ヶ月前。東西シュレイドの王都の空を、鉄の鳥が横切った。それも計5つが編隊を作ってな」

 

 

 セーラー戦士たちの顔が一気に青ざめ、強張った。

 最初から既に視線が焦点を結びきらないほど茫然自失だったうさぎも、「え……」と声を小さくあげた。

 

「両国の王都は大混乱し、砲撃による威嚇を試みた。しかし砲弾は鳥が飛ぶ遥か上空に届かず。それを見た鉄の鳥は4時間のうちに……城下町を大量の爆弾で以て、一夜にして消し炭にした。その気になれば、王ごと城を消し飛ばせただろうな」

 

 もはや士官たち全員が将軍の話を聴いただけで、冷や汗を垂らして歯軋りしていた。

 圧倒的な軍事技術格差は、シュレイドの軍人たちに底知れない恐怖を植え付けていた。

 

「……まさか」

 

 亜美の一言を将軍の視線が抜け目なく捉え、彼女の方へと傾いた。

 

「なにか心当たりがあるのかね?」

 

 静かな男の問いかけに、彼女の視線が下を向く。

 仲間たちも言葉に詰まった。

 せっかく鎮まっていた空気がさっきとは気色の違う濁った水のようになって、会議場に漂い始める。

 最高齢の士官が目を剝いて、先ほどまで見せていた冷静な表情を一変させた。

 

「その反応、やはり貴様らの仕業か。王都にあの卑怯で残酷な奇襲を仕掛けたのはッ!」

「彼女たちがずっと狩人として活動していたことは、身辺調査により証明済みだ。恐らく、鉄の鳥を飛ばした連中とは何の関係もない」

 

 将軍が、肩を抑えて落ち着かせる。

 老体の士官は荒くなった呼吸を首襟を掴んで抑えながら「……無礼、仕った」と少女たちへ頭を下げ、項垂れて再び席についた。

 

「調査団にとっても重要な情報だ。どうか、教えてほしい」

 

 亜美は調査班リーダーの頼みを聴いて、息を呑んで息継いだ。

 

「……あたしたちの世界には、翼による揚力や燃料を燃やした勢いで空を飛ぶ飛行機という乗り物があります。その鉄の鳥は『爆撃機』と呼ばれるものに近いです」

 

 遂に、言ってしまった。

 少女たちは、瞼を絞って俯いた。

 通訳を務める顔に傷だらけの少年兵は、惑いながらも細々とした声で翻訳した。

 それを聞いた士官たちのある者は息を長く細く吐き出し、ある者は無言で軍帽を沈ませた。

 夕陽は今にも重く紅くなって、雲の向こうへ姿をくらませようとしている。

 

「分かった。情報提供に感謝する」

 

 調査班リーダーが頷いてみせ、将軍に目で続きを言うよう合図した。

 

「デス・バスターズはこの事件に上手く乗じた。東西シュレイドの王族に対し、異界による侵略の恐怖を煽ったうえで、君たちセーラー戦士と調査団が結託して鉄の鳥を放ったと主張したのだ。効果は覿面だった……それが、全ての始まりだ」

 

 将軍はそこで説明を終えたが、しばらく沈黙が続く。

 少女たちの世界の軍隊と、セーラー戦士。

 デス・バスターズは、完全に無関係な両者を結び付けたのだ。

 

「きっとその鉄の鳥だって、デス・バスターズの仕業よ」

 

 レイが言いだすと、うさぎ以外のセーラー戦士たちの瞳は出口を見つけたように閃いた。

 続いてまことも、将軍の話を聞いてから人形のように動かないうさぎを見て、

 

「あぁそうだよ、まさか昔の時代じゃあるまいし! いくら何でも人の住んでるところにいきなり爆弾を落とすなんてこと、いきなり、簡単にやれるわけがない」

 

 士官たちを説得するというより自分たちを納得させるように主張する。

 一所懸命首を振る彼女たちを、士官たちは未だ疑いの抜けない眼で見つめている。

 

「そうよ。あいつらは目的のためなら手段を選ばない! 貴方たちを騙したように、こうやって憎しみを煽る魂胆で……」

 

 美奈子が確信に満ちた瞳で叫びかけたところ、近くにいた大団長がその視線を、机に振り下ろした太い腕で断ち切った。

 片肘を机上についておよそ軍人とは真反対の態度だが、その瞳だけは獅子の如き威圧が籠められていた。

 少女たちは一斉に口を閉ざした。

 

「6期団。俺たちが論じたいのは責任の拠り所じゃない。これから起こる問題をどう処理するかっていう、ただそれだけだ。なぁ、リーダー」

「……その通りだ。ここからは、我々からの要求をお伝えする」

 

 調査班リーダーは頷いて答えると、狼のような鋭い目つきで士官たちを貫いた。

 

「現在、ハンターズギルドと国家間の信頼関係は地に落ちかけている。いや、あるいはもう既に」

 

 目を閉じ、やがて、決意したように開いた。

 

「そこで関係の軛として、以後の将軍の身柄は、調査団への脅威が去ったと確認するまで預からせていただきます」

「なっ……」

「心配はご無用。将軍は偉人にして我々の旧友、決して冷遇はしないと王にも誓ってお約束します」

 

 ざわついて立ち上がりかけた軍人たちを、若きリーダーは重ねた言葉で諫めた。

 対して将軍その人はどこか、安堵にも似た沈黙を保っていた。

 

「貴方がた東西シュレイド上層部が、一方的に我々の自治を武力を以て脅かした事実は動きません。一般兵についても無力化のうえ、帰還日まで保護下に置かせていただきます」

 

 ハンターたちが、士官たちの背中にスリンガーを構える。

 シュレイド軍から奪取された鉛の弾丸が、限界まで張りつめた弦の奥で冷たく光っていた。

 

「なお、現時点で主導権は既に覆されていることをお忘れなく。以上をご了承いただき、この書類にサインを」

 

 調査班リーダーは1枚の紙を取り上げて、風に靡かせた。

 士官たちは話を聴き届けると、今度は静かに立ち上がって粛々と書類の前に並んだ。

 署名は順調に進み、5分程度で完了した。

 総司令は全員の署名を確認すると、会議場の一同に対し頷いてみせた。

 

「これを以て会議を解散とする。士官の皆様は4階の『星の船』に貸部屋をご用意したので、そこでお過ごしいただきたい」

 

 士官たちは監視のなか、4階へ続く螺旋階段へと歩みを進める。

 普段は騒がしい6期団の少女たちも、今回ばかりは言葉少なに席を立っていく。

 後に会議場に残ったのは総司令、調査班リーダー、そして大団長のみだった。

 

「リーダー。肝が据わって来たな」

「耐えられなかっただけだよ。人間同士であいつらがやっただのやらないだの、そんな些末事に一々足を取られるのが」

 

 総司令の褒め言葉に対し、調査班リーダーは決して喜ばなかった。

 それどころか書類をあわや握り潰すかと思えるほど握り締め、会議場から去るセーラー戦士たちの背中を目で追った。

 レイの何処か不満げな視線が、去り際に男たちを貫いた。

 

「6期団にも、あのことを教えるべきじゃないか? このままでは、彼女たちの認識との齟齬が悪い方向へ広がりかねない」

 

 若きリーダーの呟きに対し、祖父は難しそうに眉間に皺を寄せた。

 

「……あれはあくまで仮説の範疇だ。何度でも言わせてもらうが、仮にこの先何も起こらなかった場合、むしろ我々の方から争いの火種をばら撒く可能性がある。あの一件でみんなが痛感したことだ」

 

 調査班リーダーは俯くものの、「だが、彼女たちは……」と諦めきれない様子である。

 

「正体を隠していたとはいえ、彼女たちも真実を求めに来た者だ。同じ目的を共有するはずの調査団に、真実の虚飾と妥協の逃避ってのはやっぱ……どーにも肌に合わんな」

 

 振り向くと、大団長がより深い皺を刻んだ顔を寄せ、手元のコップを強く握りしめていた。

 

「よし、決めた!」

 

 やがて、彼は太く厚みのある手で堂々と立ち上がった。

 

「大団長!」

「ああ。これより、主要メンバーを集めてこの先のことを話し合おう」

「なら決まりだ。じいちゃん、後でソードマスターさんにも声をかけといてくれないか!?」

「……言っておくが、その場の勢いだけでなく時世を見極めた慎重な議論も……」

「ああ分かった総司令、それは後の会合で存分に聞かせてくれ!」

 

 大団長はコップの水を飲み干すと、調査班リーダーと共に巨躯を揺らしながら会議場を後にした。

 残された総司令は半ば呆れるまま掌で額を包み、ため息をついた。

 

「……やはり、いつかはこうなるか」

 

──

 

 その日の夜。

 モンスターたちがある程度腹を満たして去った後、アステラでは回収できた分の戦死者について火葬が行われた。

 何mと立ち昇った頭をうねり回す大火の柱へ、少女たちの視線が集まっていた。

 そのうちで一番身長の高いまことでさえ、ほぼ真上に頭を傾けないと頂点が見れない。

 

「人って、こんな簡単に死ぬのか」

 

 骨が破片となって、灰となって、砕け散る。

 それぞれの首から提げられていた逆さ竜のお守りも形を失って、液体の錫へ戻っていく。

 

「あんなたくさんいたのに、たった1日で」

 

 調査団は、かつて6期団が炎王龍を退けた時のような歓喜の祝杯を上げることはなかった。

 熱狂的に使命を叫んだ男たちが、物言わず灰へ変換されていく光景を見つめていた。

 生き残った兵士たちは俯き気味に聖典を開いて火を囲み、厳かな口調で朗読していた。

 

「あたしたちもいつか、こうなるのかな」

 

 うさぎがぼそりと呟いた。

 レイが、ゆっくりと振り向いた。

 しばし彼女がいま何といったのか、理解しきれていないようだった。

 仲間たちも、少し遅れてから「え……?」「ちょっと、何て」と未だ戸惑いの声を上げている。

 

「うさぎ。あんた、何言ってんの」

 

 こんなことは有り得ない、言い直せと言わんばかりにレイは肩を強く掴んだ。

 それでも、虚ろなうさぎの視線は定まっていなかった。

 

「故郷を護るためって言って、深いところに足を踏み入れて……もう、取返しのつかないところまで、来ちゃったのかな」

「あんた、んなこと言わないでしょ!?」

 

 肩を突き放して怒鳴る顔に張り付いているのは、恐怖だった。

 目の前にいるのは本当にあの、いつも馬鹿をやって、けたけたと笑って、思うがまま泣き喚いていた親友なのか。

 もはや魂を喪った人形のように、感情というべきものが見えない。

 レイはうさぎをこちらの世界へ引き戻そうとするように、何度も揺さぶった。

 

「あんたは東京に帰るためにハンターやってきたんでしょ!? この世界も元の世界も救って、いつも通り学校に通って、放課後は下らない噂話をしてっ! 船に乗ってきた時なんて、帰ったら衛さんと手繋いで毎日デートするっていっつも……」

「もう、これじゃ無理だよ」

 

 うさぎはレイの手を逆に掴んでゆっくりと除けた。

 かつて直線に近かった腕には筋肉が付いて、血が染み付いていた。

 

「戦士やってた時は命1つ奪えなかったのに、あの子に再び出会った時は身体が迷わず剣を振って。今日はね、1000人も人が死んだのに……涙が、一滴も出ない」

 

 うさぎは隈のできた眼を細めて、乾いた笑いを浮かべた。

 言葉を失ったレイの頬が強張った。

 

「たくさんの命が散ることが、無意味に奪われることが────『いつも通りだ』って、思えちゃうんだ」

 

 レイの視線が、血錆の付いたスリンガーに落ちた。

 魂の抜け殻を種に燃える火は勢いを増して、血錆をぞっとするほど紅く照らし出す。

 

「東京の人たちから見れば、今のあたしはハンターどころじゃない……血に濡れた、化け物なんだ」

「違う、それは違うわよ、うさぎちゃん!」

 

 美奈子が呼びかけるが言葉はまるで説得力を持たず、耳に通っていない。

 

「じゃあみんなは、元の世界に帰ったらこの世界のことなんかさっぱり忘れて、前と同じように生活できると思う?」

「…………あたしは、忘れられるように頑張るよ」

 

 まことがやや迷いながらも、栗色のポニーテールを揺らしながら前に進み出る。

 

「あくまでこっちはこっち、あっちはあっちだよ。その後はもう、後腐れなくさ──」

 

 彼女が続きを言いかけたところで、新しく担架が運ばれて来た。

 

「やっぱり、森の中からはまだ見つかるか」

「肉の方はジャグラスに喰い漁られすぎてさ。もう、これしか残ってなかったよ」

 

 ハンターたちが低い声で話し合うその目線の先には、破れた紅い軍服と頭蓋骨の上部、それと大腿骨らしきものが白布の上に横たわっていた。

 傍には胸の辺りから上が千切れてしまった家族写真と、血糊のこびりついた手紙があった。

 

 少女たちが振り返るなか、それらはすべて投げ入れられた。

 一際大きく音を立てて、火花が散った。

 脂が溶け、骨が砕けた。

 そして写真と手紙も。

 顔も分からない持ち主と海の向こうにいる誰かを繋げていたものが、焦げ、焼け、燃え、消えていく。

 

「もう、駄目」

 

 無言になったまことの後ろで、亜美はうずくまって両耳を塞いでいた。

 

「全部忘れるだなんて、そんなの、無理」

 

 彼女の言葉を受けたまことの眉が震え、深く歪んだ。

 少女たちの誰もが続きを言い出せず、ただ人を礎に燃える炎の弾ける音を聞くことしかできなかった。

 それが何秒も、何分も続いた。

 

「失礼する、セーラー戦士……いや、6期団の諸君」

 

 その一言は、将軍によるものだった。

 うさぎは、光の無い瞳で横から炎で紅く染められる男を見上げた。

 

「……何ですか?」

「調査団上層部より取り急ぎ、話したいことがあるとのことだ。急遽、古代樹の森へ来てくれないだろうか」

 

──

 

「実は今しがた、導きの地に向かった調査班より報告があった。君らに、そのことを共有したい」

 

 門から少し歩いたところで、少女たちは調査班リーダーと肩を並べた。

 少し離れたところでは5期団の英雄『青い星』が、名前とは正反対に赤い鱗の鎧を身につけていた。隣には何故か、その編纂者とオトモアイルーも控えている。

 雲の隙間からは、欠け始めた月が覗いていた。

 

「導きの地の奥に、正体不明の霧を発見した」

 

 うさぎが顔を上げる。

 調査班リーダーは、最初にこの森に足を踏み入れた時のルートをなぞるように歩いていた。

 南の砂浜にはまだ骨の欠片や軍服の切れ端が散らばって、海の沖には、艦船の残骸が迷子となって取り残されていた。

 

「その向こうへ行った者から、更に驚くべき報告が上がった。本来そこにあるべき空間尺度を明らかに無視した、輝く箱のような建築物が並ぶ街を発見したらしい」

 

 『鉄の鳥』に続く第二の衝撃だった。

 

「恐らくは、君たちがやってきた世界に繋がる扉だろう。そして編纂者の報告にあった『奥地への生物たちの移動』、更に『天彗龍がこの地に降り立とうとした』事実もただの偶然じゃない。君らの世界にある何かが、こちらの生物を引き寄せている」

 

 足を止めた少女たちに、調査班リーダーは萎れた木々を背景にゆっくりと振り向いた。 

 

 

「そこで一つ提案なんだが、君たちの世界を共に調べさせてもらえないか。場合によっては、そのまま故郷へ送り帰すこともできるかもしれない」

 

 

 しかしその頼みを聞くうさぎの顔は、そして仲間たちの顔は、頑なに強張っていた。

 若き男は事情を知っているのか、怪訝に眉を顰めることもなく真正面から向かい合った。

 

「君たちが長らく帰りたかった故郷と聞いて言ってみたが……恐らく、いまは望んではいないんだな」

「はい。元の世界が、怖いんです」

 

 先頭にいるうさぎは、己の身を両手で半ば引っ掻くように抱いた。

 

「もう、あたしは……あたしたちは、あの街に戻れる気がしない」

 

 もはや仲間たちも一切反論せず俯いているのを見て、編纂者は「……うさぎさん」と悲痛な顔で呼びかける。

 

「彼女たちにも事情がある。どうしても難しいなら、この話はなかったことにすべきだ」

 

 『青い星』がそう言い出して、それから、人差し指を一本だけ立てた。

 

「ただ、もしもう一つの真実を掴みたいのなら、もし我々を信用してくれるのなら。同行を強くお勧めしたい」

「真実?」

 

 うさぎの目線がちょうど『青い星』とぶつかり合った。

 そのハンターは次に、編纂者へ発言を促した。

 彼女は前に進み出て、口を開いた。

 

「かつて新大陸古龍調査団はとある一大作戦を経て、とある仮説を立てました。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()大胆な説です。その真偽を、あなた方の世界へ確かめにいきたいのです」

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