セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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地の星空を天翔る星たち②(☽)

「人類史を、書き換える仮説?」

 

 神妙な顔で聞き返したレイに、編纂者は頷いた。

 

「新大陸古龍調査団には年に1回、西シュレイド王国の王立学術院に研究論文を提出する義務があります。我々はこの説を、仮説であると強調したうえで提出しました。学者たちの間で論文が回されている分には問題ありませんでした。しかし──」

 

 編纂者はそこで一瞬詰まるも、すぐ少女たちへ顔を上げた。

 

「それが偶然、聖職者たちの目に留まったことで──大きな波乱を生みました」

 

 足元に当たった逆さ竜のお守りが、亜美の視界に入った。

 仮説の内容こそまだ分からないが、あの死すら恐れない熱狂が1つの敵を定めるとどうなるか、想像するのはあまりに容易い。

 

「しかもその大胆な内容ゆえに、調査団でも意見の対立が激化。このままでは調査進行に支障をきたすとして、仮説に関する話題を出すこと自体禁忌(タブー)と化したのです」

 

 向こうに見えるアステラの『星の船』辺りから、火葬による煙が生き物のように噴きあがっていた。

 青空の下の印象とは違い、今は濁った赤と黒を含んで唸るような音を上げていた。

 うさぎはそれを横目にしながら、若い男の方へ振り向いた。

 

「……それで、あたしたちにもあえて話さなかったんですね」

「ご明察。我々は話し合って真実を求めるより、沈黙と保身を選んでしまったのさ」

「で、その仮説の内容って何なんですか?」

 

 美奈子が足を踏み出して、調査班リーダーに詰め寄る。

 新大陸古龍調査団ですら引き裂きかけた『仮説』。それを説明してもらうのは自然な流れであったのだが。

 調査班リーダーは黙ったまま、躊躇うように俯いた。

 

「あたしたちに言ったら、そんなにまずいことなんですか?」

 

 やきもきしたまことが更に詰め寄る。

 それでも返ってくるのは、重苦しい沈黙だけ。

 

「……当たり前よ。ずっと正体を隠してた異界人なんか信用できるわけがないわ」

 

 レイが半ば自嘲気味に呟くと、仲間たちはハッとして彼女に振り向いた。

 

「しかも、世界を滅ぼせるほどの力を──本人にその意志がないとはいえ──持ってたんだから」

 

 皮肉にも、彼女たちのこれまでしてきたことがそっくり返ってきた形だった。

 ぎこちない雰囲気が漂う。

 

「だからこそ、共に確かめるべきだ。一つ目は、共通問題である異変の真実を。そして二つ目は、改めてお互いが今後、信頼し合えるかどうかを!」

 

 調査班リーダーはそこに出来始めていた見えない壁へ、自らぶつかった。

 

「『異変の真実を知りたい』という一点だけは、我々の間で共有しているはずだろう?」

 

 今の今まで何と言おうか迷っていたのだろう、かなり慎重に、しかしまっすぐ少女たちの 眼を捉えて言葉を紡ぐ。

 

「君たちの世界の共同調査への参加が、仮説の内容を話す条件だ。さあ、どうする?」

 

 少し寒々とした風が彼らの間をびゅうと通り過ぎた。

 戦士たちのリーダーであるうさぎは、思いつめた。

 

──

 

 決断の日から数日が経った。

 亜美とまことは蒸気吹く工房の中で、鍛冶作業に行事する男たちを眺めていた。

 

「……すみません」

 

 そこに、背後から幼さを含んだ高い声がかかる。

 

「あなた、あの時の!」

「セーラー戦士さん。本当にあの時はお救いいただき、ありがとうございました」

 

 金髪の少年兵は亜美へ深く頭を下げ、ゆっくりと上げた。 

 

「お仲間に聞いたところ、3人がここにいらっしゃると聞いたので」

 

 それに対して亜美が微笑み返す。

 

「こちらこそ、生き残ってくれてありがとう。あなただけは助かってほしいって思ってたから」

「僕が、ですか?」

 

 少年兵は小首を傾げる。

 

「ええ。貴方には将来があるわ。あの地獄から生き残ったことを誇るべきよ」

 

 しかしそれを聞いた少年は、目を丸くした己を蔑むように、視線を切って俯いた。

 

「将来、ですか……僕なんかには過ぎた言葉です」

 

 彼の罪悪感を孕む視線は、首からぶら下がる逆さ竜のお守りに縛り付けられていた。

 首輪の鍵にも見える、その錫で出来た像に。

 まことは、それを見逃さず、膝を折って視線を合わせた。

 

「……どういうことだい?」

 

 少年兵はしばらく語ることを躊躇っていたが、やがて、俯きながらも口を開いた。

 

「昔から吟遊詩人の唄う伝説とか、王立学術院が辺境の風土を記したハンター大全とか……正直に言うと、聖典の朗読よりもそっちの方が好きでした。それにいつの間にかのめり込んじゃって……

「言語まで勉強したわけか。すごいじゃん」

「15歳で軍人になる身からすれば、すべて無意味ですよ」

 

 少女たちは、はっとして目を見開いた。

 少年兵の手が、それまでより強く逆さ竜のお守りを握り締めていた。

 

「ある時父にバレて、怒られました。こんな下らない本を読む暇があるなら神に祈れ、訓練に励めって。それで、集めてた本を目の前ですべて焼かれました」

 

 溢れ出ようとする感情を無理やり抑え込むかのような話し方だった。

 

「まぁ、そうですよね。言いつけも守らず、使命も果たさず遊んでたんですから。こんな不信心な臆病者が生き残っては、シュレイドの未来が……」

「あなたのお父様は間違ってるわ」

「え?」

 

 苦笑いで話を終えようとしていた金髪の少年は、亜美の断言に声を上げる。

 これまで全くそんな考えなど思いもよらなかったという顔だった。

 

「常識を見直して、外のものごとに興味を持つというのは大事なことよ。もしかしたらそこにこそ、重要な真実が隠れてるかも知れない」

 

 亜美もまことと同じく屈んで、少年兵と視線の高さを合わせる。

 清水のように蒼い髪と瞳に反して、強い意志の籠った目つきだった。

 

「あたしたちはそう信じて真実を求めてきたし、これからも求めるつもりよ」

「真、実……?」

「そう。貴方も既に、その入口に立ってるの」

 

 亜美は胸に当てられた少年兵の手に、そっと手を添えた。少年兵は思いも依らなかったという顔で、その手を見つめていた。

 

「青い嬢ちゃんに茶色の嬢ちゃん。第二弾、出来上がったぜ!」

 

 親方が声を張り上げると、蒼いものがベルトコンベアに乗って運ばれてきた。

 少年兵は物体の正体を見るにつけ、目を見開いた。

 緻密な刻印の刻まれた、透き通る氷から成る弩『アイスイーグル』。

 それが、炎と蒸気が支配する工房に一筋の冷気を送り込んだ。

 

「これは、あの龍の……!!」

 

 続いて弩の奥に、刺々しい鎧と紺碧の素地を覆う銀白の煌めきが同時に顔を覗かせる。

 前者は野性的な腰巻と肩当に、魔王の如き角を生やした兜。

 後者は肩と腰部を取り巻くレースに、王冠を象る氷の結晶。

 狩人からそれぞれオーグα、ラヴィーナβと呼ばれるその防具の美しさに、少年兵は息を吞むばかりだった。

 

「ありがとうございます。大切に使いますね」

 

 それが手に取られたところで、少年兵の意識はやっと取り戻された。

 彼はそこで初めてある違和感に気づき、辺りを見回した。

 

「第二弾? 第一弾は何処に……」

「そうそう、第一弾も出来栄えチェックしなきゃぁな。おーい、お団子の嬢ちゃんの具合はどーだ!」

 

 しばらくして、着替え室から出てきた武具屋の女性がグッドサインを送ってきた。

 

「ああ、大丈夫みたいだよ!」

「へへっ無茶言いやがるぜ。『大剣の復元と強化を同時にやれ』なんてよぉ!」

 

 親方はハンマーを肩にかけ、垂幕を除けて出てくる人影へ笑った。

 少年兵の目線が、控室から出てくるその人に移った。

 

──

 

「あれが、うさぎちゃんが戦った『導きの地』ね」

「うん」

 

 ゴールドルナ一式に輝剣リオレウスを背負ったうさぎは、脚に掴まる黒猫の相棒の言葉に、そう頷いた。

 眼下に海と緑が並ぶ風景に、金と銀の組み合わせは一際目立つ。

 セーラー戦士たちは、今度は5人と2匹揃って導きの地へ足を踏み入れようとしていた。

 森林地帯に差し掛かると翼竜たちがゆっくりと高度を下げ、少女たちを地上へ降ろす。

 

「6期団の遅刻は無し、だな」

 

 野太い男の声が久しぶりに響いた。

 大団長である。

 未だ先日の戦いの痕跡が残る焼け跡で、青い星とそのオトモアイルーに編纂者が出迎えた。

 

「調査ってわりには、少人数ですね」

「なんつったってシュレイドの連中だけでなく、調査団の面々にすら隠してるからな。こんなコソコソした調査なんざ、本来ならまっっっぴらごめんなんだが!」

 

 大団長はそう言うなり身体を翻し、苦虫を噛み潰したような顔で「さっさと行くぞ!」と先導した。

 彼の後列にセーラー戦士たちが続く一方、最後尾となったオトモアイルーが、通り過ぎようとするうさぎの肩を叩いた。

 

「え……」

 

 白い毛並みのアイルーは、「ニャ」と小さく呟いて青い星を指差した。

 うさぎが耳を傾けると、青い星は、気づかれない程度にうさぎの耳へ口を聳てた。

 

「君に渡したあの大剣についても調査が終わり次第、詳細に説明する。そこまでは、くれぐれも他言無用で頼む」

 

 突然の発言にうさぎは弾かれたように振り返り、前方と距離が開いているのを確かめる。

 

「ここで皆に言うんじゃ駄目なんですか?」

「実のところ、あの現象について我々も確実なことが言えない。憶測で不安を煽るより、我々の目で確かめるべき事案だ」

「あたしたちの世界に行ったら……それが分かるってこと?」

「恐らくは」

 

 青い星の言葉は英雄にしてベテランのハンターらしく、簡潔かつ慎重だった。

 しかしそれで終わると思いきや、ハンターの視線は次にうさぎを直接捉えた。

 

「だから、我ながら都合のいい言い方だが。分かるまでは、死ぬなよ」

「……はい」

 

 程なくして、森に閉ざされていた視界が開ける。

 小鳥囀る大自然の広間に、大きな窪みが出来上がっていた。窪みの外と比べて草が生えたばかりで短く、地肌が見え隠れする。

 とても自然にできるとは思えない地形を前に、大団長は呟いた。

 

「この窪みはな。天彗龍が飛び際に落とした()()()()が作ったものだ」

「……え? これ、隕石かなんかじゃ」

「覚悟しておけ。バルファルクとは、こういう奴だ」

 

 実際にかの龍と相まみえた青い星の言葉に、セーラー戦士たちの誰もが言葉を失った。

 古龍とはいつだって、彼女たちにとっての生物の常識を覆す規格外の存在であったが。

 音速で空を駆け炎に似た龍属性の物質『龍気』を撃ち出す、災厄の予兆。

 彼女たちの目の前の光景は、無機質な説明文とは一線を画すものだった。

 

「いま一度あなた方の世界に向かうにあたり、この数日で分かった情報を整理しましょう」

 

 窪みの前に編纂者が出て、振り返った。青い星も頷いて続きを促す。

 

「新大陸各地に天彗龍の落とした鱗近辺には、ほぼ必ず滅尽龍の痕跡が見られました。このことから、ある予測が立てられます」

 

 彼女は手早く新大陸全体の地図を取り出した。

 おおよそ南北に広がる大陸の上に、赤色のペンが真っすぐ下から上へ引かれた。

 

「これが、バルファルクが取ったと思われる進路です。痕跡の位置から、恐らくほぼ直進したものと思われます」

 

 軌道は『痕跡の場所』を表す赤丸周辺を通りながら緩い弧を描き、右上──導きの地──に繋がった。

 

「一方、現大陸でゴア・マガラの死骸を喰らった滅尽龍はそれだけで満足出来ず、新大陸に向かった天彗龍を追跡」

 

 一同が地図とにらめっこするなか、次に、青いペンで滅尽龍の移動ルートが描かれる。

 それは大陸の各所にある赤丸の上を辿るように、至って不規則にジグザグと動く。

 やがて青い矢印の最終点は導きの地のすぐ手前、龍結晶の地の意匠が描かれたところへ行きついた。

 

「しかし滅尽龍の飛行速度は天彗龍の音速飛行には流石に後れを取るため、剥がれた甲殻の痕跡から臭いを辿るしかなかった……とみるのが最も有力です」

 

 人間たちは次々に倒木を乗り越え、まだ見ぬ世界へと進む。

 一行は、うさぎと金火竜がついぞ来なかった中層へ到達した。

 灼熱に備えてクーラードリンクを飲みながら、瘴気の谷と似た腐肉だらけの洞穴を横目に降りる。

 

「北上した天彗龍はあの嵐の夜にこの地へ降り立ち、相棒と鉢合わせました。霧の向こうにある、何かを求めて」

 

 一行は遂に、最下層にある不毛の溶岩地帯へと至る。

 クーラードリンクが無ければとても活動できない、煮え滾る大気が一行を出迎えた。

 灼熱の滝が黒い大地を囲い込み、その僅かな安全地帯においてさえ、割れ目から熱が噴き出している。

 吹き飛ばされ砕け散った破片の跡が、実に数週間前にあった激闘を生々しく物語った。

 

 少し進んで突如差し込んだ柔らかな陽光に、美奈子は上を向いて目を剥いた。

 

「……まさか、天井をぶち抜いて?」

「ああ。『本体』がちょっと突っ込んだだけでこの有様だ」

 

 青い星が言葉を添える。

 天井にはぽっかりと大きな穴が空き、溶岩とは真反対の青空が覗いていた。

 

「一方の滅尽龍は龍結晶の地で翼を休めようとし、そこを縄張りとする古龍や希少種たちと激突。そうした奥地の大混乱が果てには、翼竜やガジャブーを始めとした生物たちの大移動を、そして────」

 

 編纂者が言葉を継いだ時、ちょうど穴の向こうで、口の鋭い翼竜の群れが求愛の声で戯れて通り過ぎた。

 

「調査団の機能停止を呼び、魔女の付け入る隙を生む事態までも引き起こした、というわけです」

「即ち、一連の騒動はいわば、古龍という大自然の気まぐれから生まれた副産物とも言える。結局のところ、デス・バスターズとはそれに便乗した存在に過ぎなかったわけだ」

 

 うさぎは、大団長の言葉に目を細めた。

 セーラー戦士とデス・バスターズの戦いの背後にあったのは、複雑怪奇な生命同士の壮大なせめぎ合い。

 ちっぽけな人間たちはその端っこで、あれやこれやとみみっちく騒いでいた。

 大団長の言い方からは、そんな心情が滲み出ているようだった。

 

「さて。ここから先は、新大陸の異変という木の幹。全ての根源だ」

 

 遂に、一行は辿り着いた。

 彼らが立ち止まった先、深く続く洞窟の道は霧に閉ざされていた。

 霧は物言わぬまま、何年も待っていたように来訪者を誘い続けている。

 大団長は一息ついてから、少女たちへ振り向いた。

 

「もしかしたらお前たちの故郷で、これまでより更に過酷な現実が待ち受けているかも知れない」

 

 少女たちの頬に力が入る。

 いま、目の前には元の世界への入り口がある。

 これがココット村にいた頃ならば手放しで喜べた状況だが、今は違う。

 

「それでも真実に向き合う覚悟は……できているな?」

 

 少女たちは、無言で頷いた。

 もはや続きは言わず、大団長は霧のより深くへと脚を突っ込んだ。

 彼女たちも、それに続いた。

 

──

 

 うさぎたちが旅立ってからも、アステラの夜空に昇る火葬の炎は途絶えなかった。

 少年兵はひたすら御霊の浄化を祈る仲間たちを、少し離れたところから見ていた。

 その間にも、新たな骸が容赦なく追加されてゆく。とても彼らが英霊へ捧げる祈りでは足りないくらいに。

 

「ああ、神よ。なぜ、我らを見放したのですか。我らは……」

「やめろ、これも天より与えられた試練だ」

 

 彼らはひたすら同じところを往復していた。

 現実に絶望したかと思うと、いやこれこそ理想へ続く道だと自分を励ます。

 そしてすべての感情は祈りへ帰結し、捧げられる。

 

 冷めた夜風が、少年兵の金髪を揺らした。

 

「外にこそ、重要な真実……」

 

 彼は蒼い髪の少女から貰った言葉を呟き、手に握る逆さ竜のお守りを見つめた。

 

「そうか。全部、これのせいだ」

 

 神に護られた軍隊が、なぜ負けたのか。

 シュレイド人の多くは悲劇を嘆き次こそは救われると叫ぶだけで、それを探求しようとするものはいない。

 しかしもうすぐ14歳になろうとする少年は、少女たちが去ってからもずっと、幼さと理性の同居した頭で納得できる理由を探していた。

 

「偽りの神を信じたせいで、それを信じさせる愚かなシュレイドに騙されたせいで、僕たちは天罰を受けたんだ」

 

 そして、遂に見つけた。

 すべてを説明できる、単純で説得力を持った答えを。 

 

「ハンター大全の八十一(ページ)にある通り……1000年前のシュレイドは龍たちの怒りを買って滅んだ。龍こそが世界を統べる、真の神だったから」

 

 現にかの龍は目の前で千の軍勢を身一つで相手取り、虐殺した。

 一度も姿を現さず龍に虐殺される兵たちも救わなかった救世主などとは、雲泥の差。

 となれば、導き出されるのは1つの結論。

 

 龍こそが、世界を統べる正義であるからに違いない。

 

 火の前で、少年兵は聖典とお守りを両手に掲げて叫んだ。

 

「気高き魂と肉体をもって語り合う狩人たちこそ、神に認められ選ばれし者! 人類のあるべき、姿だッ!」

 

 少年兵は即座に右手を振りかぶり、叫びながら、束ねた聖典とお守りを火の中へ投げた。

 神へ必死に祈っていた兵士たちは、それが弧を描いて炎へ落ちてゆくのを、呆然と目で追いかけるほかなかった。

 

「おいお前……何をしている……!?」

「命を助けられた恩を、仇で返すつもりかッ!!」

 

 当然、信仰深い兵士たちは怒りの形相で胸倉を掴んでくる。

 だが少年兵の顔は一向に曇りを見せなかった。

 

「僕はただ真実を、この目で見た真実を話しただけです! 人々を救うには、死者に報いるには、まず真実を知らなければ!」

「何を言ってる!? 神より与えられた聖典以外に、真実などあるものか!!」

 

 あの少女が纏った眩い金銀の煌めきが、少年兵のなけなしの信仰心にトドメを刺した。

 化け物たちと対等に渡り合う、狂戦士と戦乙女。野生に生き、最期は竜に喰われ死ぬ誉れ高き人々。

 彼が書物で見た通りの狩人が、確かにそこにいた。

 御伽噺はこの大陸で、現実へと変わった。

 

「むしろ愚かな主君と宗教こそが、シュレイドをここまで堕落させたとは思いませんか!? 我々も狩人たちのように気高い生き方を──」

「こいつ、あまりに死を見過ぎてイカれやがった!」

 

 信仰を燃料にくべられた炎は、ますます盛んに燃え盛った。

 かつての仲間から向けられた暴力はもはや、何の意味も成さなかった。

 救いを見つけたその透き通る眼からは、感動の涙さえ流れていた。

 

「そこの君。竜大戦を知ってるのか?」

 

 後ろから声がかかった。

 兵士たちが横を見ると、ハンターの集団が松明を持って集まってきていた。

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