セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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第5章にして最終章『禁忌編』、今話より始動となります!
ここからクライマックスに向け、あらゆる生命たちのうねりが急加速してまいります。
是非ともコメント、評価などお気軽にお寄せください!


禁忌編
王は目覚め、礎となる①


「ジーヴァ。それが、あの塔の下に眠る古龍の王の名。かの龍の幼体を冥灯龍ゼノ・ジーヴァ、そして成体を赤龍ムフェト・ジーヴァと我々は呼ぶ」

 

 青い星の説明が、翼竜の影が落ちる雲の上で響いた。

 勢揃いしたセーラー戦士は、ただ1人のかつての英雄の話に耳を傾けている。

 

「調査団はかつて、彼らを人類と既存環境の存続……即ち『調和』のため退けた」

 

 次に青い星は、前フリもなく衛の方へ振り返った。

 

「『地球国』の王子。君が東京で述べた予想は恐らく、当たっている」

 

 衛だけでなく、後方で慣れない手つきで翼竜にぶら下がっている外部戦士も目を見張った。

 

「モンスターたちは総じて、気配というものに敏感だ。我々の世界では、古龍の襲来から逃げた生物たちが人里へ被害を齎す事案が有史以来、何度も確認されてきた。君たちの見た未来もその系統だろう」

 

 セーラー戦士たちは、複雑な表情を浮かべざるを得ない。

 彼女たちの見た未来の災いとは、この世界にとっての災いでもあった。

 被害者と被害者同士の、少しでも生きたいと願う者同士の悲鳴。

 それこそがあの、血のように赤く染まった空が示すもの。

 

「でも、古龍でさえ逃げるだなんて……いったい何があってそうなるっていうの?」

「ではもし、自分と気配を感じ取った相手の実力が拮抗していたらどうなると思う?」

 

 一見関係のない謎めいた質問に、先に呟いたちびうさは首を傾げる。

 内部戦士たちの背後、ずっと黙っていたはるかが口を開く。

 

「ジーヴァに匹敵するか、それ以上の存在……」

 

 青い星は静かに視線を、凛々しく鋭い目つきをした金髪の麗人へ動かした。

 

「それこそが、未来の災いの中心。ジーヴァでさえその存在による混乱から逃れたか、もしくは抗する力を蓄える1体に過ぎない……そういうことか」

「御名答、話が早くて助かる。そう、私たちはかつて彼らと出会った」

 

 はるかの答えに、青い星は頷いた。

 そしてややあってから、再び口を開いた。

 

 

「煌黒龍アルバトリオン。そして……黒龍ミラボレアス」

 

 

 戦士たちの頰が強張った。

 『黒』を冠する2頭の龍。

 

 うさぎは途端に眉を歪め、「ミラ……ボレアス?」と、怪訝に、風に掻き消されそうなほどだが微かな声ながら呟いた。

 絶対にあり得るはずがない。

 はずが、ないのだが。

 

「……どこかであたし、その名前……」

 

 そこでちょうど亜美が、

 

「初めて聞きますね。どこの文献にもそんな名前は……」

「えぇ。焚書されましたから」

「ふ、焚書!? 言論統制じゃないの! そんな危険な存在を、なぜ!」

 

 うさぎの脚に掴まっていた黒猫ルナの素っ頓狂な声に編纂者は、

 

「この世には、彼らの存在を認めたくない人々がいるんです。彼らの存在はこれまで国家やハンターズギルドの上層部を除き、何百年と秘匿されてきました」

 

 そう告げたのち、唇を噛み締めながら俯いた。

 

「私たちがかつて編纂した彼らの情報も、仮説発表による騒動のなかで……」

 

 真実を伝える立場たる彼女は、空中でありながら肩を落としたように見えた。

 人々を混乱に陥れ、あまつさえ調査団をも分断させかけた龍。

 その存在にレイが戦慄を覚えるように唾を吞み込みながらも、

 

「でも、それも最後はあなたが討伐したんでしょ? なんで今更、その名前が……」

「私は少なくとも、黒龍の復活についてはほぼ確信している。私と彼女が黒龍の声を聞いたからだ」

 

 青い星の視線がある少女へ向いた。

 戦士たちもすぐ、自分たちが護るべき未来の王女へ振り向いた。

 大蟻塚の荒地と陸珊瑚の台地を隔てる大峡谷に差し掛かり、一際大きい横風が吹いた。

 一時隊列を乱しかけたものの、何とか体勢を立て直す。

 

「う、うさぎちゃんが!?」

「隠しててごめん。今まで言わないように止められてたの」

 

 叫んだ美奈子に、うさぎが俯いて答えた。

 戦士たちは即座に青い星の方を振り向いたが、すぐに衛が「今更、咎めるのはやめよう」と優しい声音で呼びかけた。

 

「俺たちだって人のこと言えないだろ。うさこ、それで、声とやらはどんなだった?」

 

 うさぎは、胸の前で、金色の籠手に彩られた右手を握りしめた。

 

「あれを『声』って言っていいのか分からないけど」

 

 今でも彼女の胸中には、大剣を握った時の感覚が焼印の如く焼きついていた。

 誰かに見られたような。

 ここではないどこかに連れて行かれそうな。

 得体の知れぬ激情が、焦りが、恐怖が、全身を駆け巡り。

 必死に藻掻くように、大剣を振るった。

 気がつくと、金火竜は斃れていた。

 

「……なんっつーか、呪いじみてるわね」

 

 一通りの説明を聴いた美奈子は、碧空に鮮やかにたなびく金髪とは逆に、冷や汗を流して狼狽した顔つきで返した。

 

「彼らの復活は、私たちの世界との接触や龍水晶の発生と何らかの関係が?」

 

 異界より来た時空を司るセーラー戦士の1人、せつなが聞いた。

 青い星は考えるように黙ったままだった。

 

「今のところは何とも言えんな。龍の思惑なんぞ、そう簡単に推し量れん」

 

 代わりに大団長が答え、ロープを掴む腕越しに北の雲海に消えゆく新大陸を見つめた。

 

「せめて助けてくれたアイツがついてきてくれれば、何か手がかりを得られそうだったが」

 

 衛の胸に掴まるちびうさは、少し寂しげに俯いた。

 導きの地に戻った時、幻獣キリンは雷鳴と共に姿を消した。

 そこから彼は、一切姿を現していない。

 

「あの、そろそろ仮説の内容を教えてくれません? きっとロクなもんじゃないですけど、何も分からないまま待つよりはきっとマシですよ」

 

 念を押すようなまことの呼びかけに大団長はすぐには答えず、前を向き直した。

 戦士たちは顔を見合わせた。

 

「……ここまで来て、もったいぶる必要が?」

 

 ほたるが皆の想いを代弁するように言うと、

 

「あの説は、そうそう気軽に言えるものじゃないんです」

 

 編纂者は、雲間から見えて来た古代樹の森を見据え、唇を噛み締めながらも答えた。

 

「……ですが、覚悟の準備ができているならお話しましょう。私が言い出した、あの忌むべき仮説を」

 

──

 

「お待ちしておりました。あなた方の世界は我々を恨んでいましたか」

 

 アステラで出迎えた少年兵の言葉に、一同は息を呑んだ。

 調査のことは、シュレイド人はおろか調査団の大半が知らないはず。

 しかし周りには既に彼の同胞やハンターたちが取り囲んでおり、すべてを承知したかのように沈黙して出迎えていた。

 

「リーダーの下へご案内します」

 

 少年兵は、真っ直ぐ伸ばした背をくるりと向けた。

 アステラの一階の状況は、ひと目見ても異様だった。

 ハンターたちが、ほぼいない。

 いつもなら賑やかに議論を交わす竜人族の学者たちも一所に集まって、数人のハンターに囲まれて息を潜めていた。

 物騒なものこそ見えないが、針でつつけば爆発しそうなほど空気が張り詰めている。

 それを横目にリフトを登り、木板を踏み、アステラの頂上に聳える船へ向かう。

 

 船上へ向かうリフトに乗って少しすると、喧騒が一気に大きくなった。

 アステラの最高度にある集会所『星の船』は、ハンターの集団で埋め尽くされていた。大きく2つに分かれたその一方の集団から、掲げられたライフル──シュレイド軍の武器──が見えた。

 その中心にて、ハンターたちが互いに視線をぶつけ合っていた。

 

「通して下さい、リーダー、総司令。我々は使命を果たさねばならない!」

「駄目だ。その頼みだけは受け入れられない」

 

 一方は、馴染み深い調査団の上層部。船尾側にある『五匹の竜の間』の前に陣取っている。

 対して彼らに声を張り上げる者たちがいる。

 そのうち首領格らしき男が星の船に向かって進み出ようとするのを、総司令と調査班リーダーを中心としたハンターたちが突き返す。

 

「いったいこれ、どういう状況なの」

「世界の膿を排除するため交渉しているのです」

 

 前にいる少年兵が、うさぎに答えた。

 

「排除って……」

 

 星の船の中には、人質となったシュレイドの士官たちがいる。

 少年の言わんとすることを理解したちびうさが、

 

「あの中にいるのは、あなたたちの国の偉い人たちでしょ!?」

「いいえ。同胞を死へ追いやった悪魔の家来です」

 

 少女たちは絶句した。

 銃を持たされたシュレイド人たちは下を俯いている。

 

「むしろ、彼らは消された方がシュレイド、ひいては世界の未来のためになるのです。我々は神への献身を、祈りではなく行動で示さねばなりません」

「ちょっと待って!」

 

 困惑の表情そのまま、まことが真っ先に少年兵の肩を引っ掴む。

 

「まさか、デス・バスターズに何かされたんじゃないかい!?」

「神が世界の癌を滅ぼすその手伝いを、ささやかながら行っているだけです。異界は関係ありません」

「さっきから言ってることがおかしいんだよ。シュレイドは君の故郷じゃ……」

「自然に対する侮辱と大罪を犯した王家の血筋など、途絶えてしまえばいい。その方が未来のシュレイドのためになるでしょう」

 

 惑いなく答える少年兵に、仲間たちから視線が降りかかる。

 その尽くを無視して、彼は痛みを抑えるかのように胸に手を押し当てた。

 

「僕は愚かながら、恥ずべき国に産まれた悪魔の末裔です。そのことに、あの記述を初めて読んだ時に気づくべきでした。今こそ、過ちを正さねばなりません」

「あの記述?」

「これはこれは。6期団……ではなく、セーラー戦士の皆さん」

 

 少年兵と入れ代わって出迎えたのは、馴染み深い顔。他ならぬ調査団の一員だった。

 いがみ合っていた集団は一旦は散り、セーラー戦士たちとそのハンターを中心に取り囲む。

 それが恭しく頭を下げたのを見て、うさぎは慌てて呼びかける。

 

「み、みんな、何やってんのよ。この前まで一緒に調査してたじゃない! こんなことしなくったって……」

「異世界からの客人と分かったなら、丁重にもてなさねば。どうやら新しいお客様もいるようですし」

 

 外部戦士たちを見たハンターの口調はいかにも余所余所しく、冷たさを孕んでいた。

 それを見たみちるが、その向こうにいる2人へ視線を投げかける。

 

「どういうことか教えていただけますかしら、調査班リーダーさん、総司令さん?」

「彼らはいわば『狩人至上主義者』だ」

 

 総司令は、相対するハンターたちを険しく睨んだまま答えた。

 

「最終目標は新大陸における独立国樹立。目下の目的は、東西シュレイド勢力と異世界勢力の掃討、それに向けた『神』の復活への助力……といったところか」

 

 細い顔をした狩人至上主義者の首領は、総司令へにっこりと微笑んでからセーラー戦士たちへ振り向いた。

 

「ではこれから、私より直々に正しい歴史を教えて差し上げましょう」

 

 彼は総司令たちの相手は手下たちに任せ、悠々とセーラー戦士たちの前へ歩み寄った。

 

「かつて、調査団と国家の枠を超えた一大作戦がありました。そこで私たちは、現大陸の大国シュレイドの廃城に現れし『御伽噺の伝説』と歴史的邂逅を果たしました」

 

 『御伽噺の伝説』と聞いてすぐ、シュレイド人の幾人かが口を結び、眉をひそめた。

 

「シュレイド王国は現在、東西に分かれているが、1000年ほど前までは巨大な一つの版図を持つ大国でした。規模でも文明でも軍事でも、人類の文化の中心とさえ言われた」

 

 男は時間の流れを表すように、左手を自分の前へと水平にゆっくりと動かす。

 それを突然、向かいから迎えた右手で断ち切った。

 

「しかしその繁栄は、たった一夜にして滅んだ。未曾有の大混乱のなか、王城、城下町、周辺の村落、すべてが焼け野原となった。それは今でも、虫一匹寄り付かない廃墟として放置されています」

 

 少年兵は感じ入るように目を細めていた。

 

「学術界では東西間の戦乱によるものという解釈が未だ一般的だが、実際は違う。ある存在が、一夜にして全てを焼き尽くしたのです」

 

 狩人至上主義者の首領は、一息置いた。

 胸を張ったまま、異界からの来訪者たるセーラー戦士たちを見回して。

 さも司祭か神官のように、厳かに口を開いた。

 

「それこそが、黒龍ミラボレアス。『黒龍伝説』なる御伽噺として各地で語られる存在」

 

 瞬間、周囲で少しは騒いでいたハンターや兵士たちも静まり返った。

 風さえも男の話を聞かせようとするかのように、不気味なほど閉口した。

 

「黒龍は、青い星によって一度は討たれた。人類にとっての共通の脅威として」

 

 首領の男は青い星を見やったのち、目を瞑った。

 そして。

 

「……しかし、その解釈は誤っていた!」

 

 次の瞬間、目を見張って叫んだ。

 総司令の眉間が更に険しさを増した。

 首領は、手元に持っていたある紙を戦士たちへ掲げてみせた。

 

「黒龍の討伐後、詳細な調査の一環で現大陸の古代文献を調べたところ、改訂前の『ハンター大全』のある記述が目に入った。そこに書かれていたのは、驚愕の事実だった!」

 

 沈黙を破った爆発と共に見せられたのは、古びたカラースケッチ。

 各地域の生物の生態を観察・考察・研究する組織、王立書士隊によるものだという。

 格納庫と思しき空間に描かれているのは、ワイヤーでぶら下げられた龍のようなナニカ。

 全身を甲冑のようなもので覆われたそれの隙間から、肉と部品が見え隠れしていた。

 

「かつて存在した古代文明は、生きた兵器『竜機兵』を大量に造っていた。その火力たるや飛竜に匹敵し、1機の製造に龍の命を30個余りも消費する……1個や2個じゃない、30個もだ!」

 

 周りの信奉者たちが一斉に嘆きの声を上げる。

 男の口調は物語を弾き語る吟遊詩人の如く雄弁であり、芝居がかっていた。

 ちびうさが、物言わずうさぎの脚に掴まった。うさぎは黙ったまま、小さい彼女の身体を引き寄せる。

 

「そのために、造竜技術の全盛期には龍たちの乱獲が相次いだ。まさに、大自然を弄ぶ卑劣な行為。遂に龍たちは怒り狂い、『竜大戦』と呼ばれる人と龍との大戦争を引き起こした!」

 

 時に腕を広げ、時に拳を握り、時に手を振りかぶり。

 さも自身が龍であるかのように悲嘆に満ちていた。

 

「人類への鉄槌とそれに対する抵抗が両者の滅亡寸前まで進んだところで、文明は滅び、大戦は終わった。これが人類史の()()

 

 語り終えた男は息も切らさず、胸を張ったままでゆっくりと腕を後ろ手に組んだ。

 

「この過去を鑑みるに、文明を滅ぼす力を持つ黒龍は──驕れる人類に裁きを下す神である、とさえ見ることが可能でしょう」

 

 途端に同調と紛糾が、爆ぜた。それへの反論と怒号も、内容を聞き取れないほどに増した。

 その混沌の渦のなか、セーラー戦士たちは口を閉じたまま何も言わなかった。

 ただ1人、亜美を除いて。

 

「……聴いてて一つ思ったんだけれど。その文献と同じ記述は他の資料にあるの?」

 

 首領は眉をひそめた。

 

「あなたの話だけじゃ、そちらの言う、竜大戦……ひいては当時の古代文明と、シュレイドの災厄との関連性が見えないのよ。ただ、断片的な情報をそれらしく繋ぎ合わせてるだけ」

「いいえ、両者には共通点がありますよ。『高度かつ人間中心的な文明』、これが何よりの……」

「じゃあ、その竜機兵とやらをシュレイド王国が持っていたって証拠は?」

 

 男は答えない。少女は更に話を被せる。

 

「『高度かつ人間中心的』の定義も曖昧だし、そもそも龍が積極的に人を襲うというのも違和感がある……よく言って考察、悪く言えば創作によるこじつけに聞こえるわ。両者が結びついているという科学的な検証はしたのよね? 学者さんたちはなんて言ってるの?」

 

 青髪の少女は小馬鹿にするような態度でもなく、そう真っすぐに問うてみたが。

 男は苦く笑って「違う違う」と言いたげに、首を振ってちっちっと指を振ってみせた。

 

「現状維持を望みがちな竜人族学者へ、一々お伺いを立ててる時間があるとでもお思いですか。彼らの共存思想は尊敬に値しますが、現実は悠長な議論など待ってくれません。行動こそが人類を前に進めてくれるのです」

 

 鮮やかなほどの論点のすり替えに、全員が呆気に取られた。

 竜人族学者の姿が一つもない理由も、反対者がここまで大量にいる理由もやっと分かった。

 要するに科学的な裏づけも無いまま、彼らは強硬的な行動へ踏み切ったのだ。

 首領は後ろ手を組むと、感慨深げにアステラ近くに聳える古代樹へ目を向けた。

 

「シュレイド軍の侵攻、デス・バスターズを始めとした異界勢力との接触……『神』がもうじき復活するとはいえ、彼らはじきに我々の文化を、生活を、同胞を、そしてこの美しい大自然と生態系を破壊せんと迫って来る。もはや、一刻の猶予も残されていない」

 

 冰龍の襲来後も蒼いままの空と海、緑一色の森。

 男はそれを神像でも前にするようなうっとりとした目つきで見つめたあと、向き直った。

 そして顔の細さに見合わないほどがっちりとした拳を握り、力強く掲げてみせた。

 

「我々の正義は、いずれ事実を以て証明されるでしょう。だからこそ、たとえ相手が人だろうと我々は何処までも()()()()()()()()()! これは、れっきとした生存競争なのです!」

 

 もはや熱狂は留まるところを知らない。

 調査班リーダーは、眉を見たことがないほど強烈に吊り上げた。

 

「軽々しくその言葉を使うな! お前たちのやろうとしていることは、紛れもなく狩人どころか人の理を外れようとしている!」

「では人でなくて結構! 同胞を護れぬ理など、全くの無意味ですゆえ!」

 

 首領は自信に満ちた表情で右掌を握る。

 他者を、仲間を護るために戦わねばならない。

 正論。表面だけ見れば、紛れもない正論。

 それゆえに、同調の声は右肩上がりになる。

 

「我々は、かの龍を始めとした神々をこの目で見たからこそ分かる。単なる生物ではない威厳が、神々しさが、そして常軌を逸した力が、神々からは溢れ出していた!」

 

 首領は、右腕を大きく振りかぶった。

 信奉者たちは歓声をあげた。

 今や、個人的主観さえ正当な根拠であるかのように扱われている。

 

「ここから言えることとは即ち、黒龍は大自然を護る神であること! そして我々、自然に敬意を示す『狩人』は1000年前の文明滅亡を免れ、更に黒龍は英雄の刃をも受け容れた。即ち──」

 

 セーラー戦士、次にシュレイド人兵士の順番で、突き刺すように指差した。

 

「黒龍が次に滅ぼすのは、傲慢なる異世界とシュレイド! 我々狩人こそ、黒龍に選ばれた民だ!」

 

 歓声が上がるとほぼ同時、首領は余裕の笑みを浮かべ、亜美を見据えた。

 

「そして貴方がたのやけに反抗的な態度を見るに、青い星から黒龍伝説、我々の思想……ひいては、仮説の内容も聞かされましたね」

 

 表情を変えないながらも、僅かに少女たちは身じろいだ。

 それを見た『狩人至上主義者』首領は、首を竦め、横に振りながら失笑する。

 次に、青い星の近くに控える、黄色い軽装の女性──編纂者へ、ため息交じりに軽蔑の視線を送った。

 

「その女が言い出した某説は、神々の知性を甚だ冒涜しています。それだけでなく、人の意志をも否定する欺瞞に満ちた言説です。仮にも世界の守護者を名乗る者ならきっと、私の言っている意味が分かるはずですが?」

 

 その後は無言で、仮説への姿勢を問われる。

 完全に否定するも同じだった。しかし編纂者は反論できず、俯いて拳を握るだけ。

 セーラー戦士たちも、すぐには答えられなかった。

 

「……あたしたちは」

 

 うさぎが、首領を見つめ返した時だった。

 

 黒い雷が稲光った。

 

 双陣営は大いに驚き、蟻の巣を掘り返したような騒ぎになった。

 

「な、なんだ!?」

 

 気づいた時には既に、狩人たちの頭上に一つの影が出来上がっていた。

 そこにいたのは、花弁のように開いたスカートが特徴の漆黒のタイトワンピースに、青のブーツを履き、右からこれも青い三つ編みを垂らす少女。

 それが杖を持って浮き、調査団の頭上から不敵な笑みを落としていた。

 更にその背後から、瓜二つの姿と顔を持つ双子──しかし先とは真反対に赤色を基調とし、鏡合わせのように左から赤い髪を垂らしている──が姿を表す。

 

「ふふ、やたら楽しそうね、あなたたち。ちょっと混ぜてくれない?」

 

 狩人至上主義者たち含めたハンターたちは戸惑うばかりだったが──

 セーラー戦士たちは、すぐさま反応した。

 

「お前たちは!」

 

 彼女たちは寸分違わぬタイミングで、それぞれの持つ杖をそれぞれの色に光らせて、交差させた。

 

「シプリン」

「そして、プチロル」

 

 青い方から口を開き、赤い方へと続く。

 

「「デス・バスターズ最後にして最強の魔女、見参」」

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