セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて 作:Misma
「撃て────ッ!!」
絶叫とほぼ同時、シュレイド人たちが構えたライフルが、頭上に浮かぶ魔女めがけ一斉に火を吹いた。
指示したのは狩人至上主義者の首領だ。
しかし昇った硝煙の向こう、魔女たちの姿はない。
「いきなり撃って来るなんてさすが野蛮人。こっわーい」
「私たちにとっちゃ、亀ぐらいのノロマさだけど」
彼女たちはいつの間にか『星の船』のマストに立ち、互いの手を鏡合わせのように組み合わせて笑っていた。
「……本当にあんなの、弾が当たるのか?」
余裕の笑みを睨んで呟いた兵士の髪を、狩人至上主義者の首領は乱暴に引っ掴んで引き寄せた。
「さっさとやれ。お前らのお家芸だろ」
「……了、解……ッ」
低くどすの利いた声を受けたシュレイド人たちは狙いをつけ、引き金を引いた。
シプリンとプチロルは、抜群のコンビネーションで跳ね、戯れるように避ける。
ライフルの連発性能は凄まじく、すぐ追いついて刈り取るかと思われたが。
魔女たちは突然杖を掲げて自身を覆う黒い球状の光を放ち、四方から来る弾丸を全て吸収してしまった。
「怯むな、撃て! 撃ちまくれ!」
火薬の弾ける音が何度も鳴り響く。
「……ちっ」
弾幕の量は想像以上だった。
さしものデス・バスターズ幹部たちも、バリアを張ったまま身動きが取れないでいる。
それを見た首領は、にやりと笑って前に進み出た。
「妖術を使いたけりゃ使えばいい。もっとも、何十の弾丸がお前らの脳味噌を床へぶちまくのが先だろうがな!」
彼は自身の頭を指でこつこつと叩いてから、戸惑うハンターたちへ振り返った。
「ボウガンを持ってるやつらは早く構えろッ! 死にたくなけりゃな!」
総司令側についていたハンターたちも、危機感を抱いたのか男の指示に従い始め。
総計、100以上の刃と銃口が彼女たちに向いた。
流石に、シプリンとプチロルの眉間にもシワが寄る。
「何度でもいうが奴らは人間じゃない。魔女だ、化け物だッ!」
今や、総司令や調査班リーダーは後方にいるだけの存在。
狩人至上主義者の首領は、未だ惑う狩人たちを一喝する。
それを見た2人の魔女は顔を寄せ合って、
「どうも、本来の計画は上手く行かなそうね」
「じゃあ、次の案よ」
密かに呟くと、振り直った。
「別にあたしたちは今回、何かしにきたんじゃないわ」
「では、何しに来た?」
「勝利宣言よ。これ以上、犠牲を出させるのも可哀想と思ってね」
調査班リーダーが眉を歪める。
「勝利宣言? 幹部を2人も喪ったお前たちがか?」
「やぁねぇ。奴らは単なる先兵。本命はこっちよ」
「似たようなお話を、その死んだお仲間から聞いたがな」
魔女たちは調査班リーダーを始めとするハンターたちを無視し、セーラー戦士たちを見やる。
そして、負け戦続きの組織にいる身にしては余裕の笑みを寄越してきた。
「あんたたちが先日お膳立てしてくれたお陰で、遂に主を呼び出す用意が出来たの。あとは、たった1つのピースをはめるだけ。その成果をご覧になりたければ、導きの地の奥……『幽境の谷』にいらっしゃい」
わざと強調するように、ねっとりとした口調で告げたその言葉。
その場にいる全員に、緊張が走った。
「幽境の谷だと……?」
「じゃ、さよーならー」
それだけの挨拶を残し、魔女たちは杖を掲げて一瞬で消えた。
ハンターたちが突然の幕引きに戸惑うなか、首領は顎を指で撫でさする。
「やはり奴らめ、遂に神々の系列……古龍の王へも手を出したか」
調査団上層部を中心に、はっとして狩人至上主義者たちへ振り返る。
首領は、セーラー戦士たちへ首を傾け返した。
「調査班の長期不在から怪しかったですが……予想は当たりましたね。あなたたち、いずれはかの龍に挑むつもりでしょう」
東京から帰ってきた者たちはそこでやっと、この反逆者たちがジーヴァの復活を知っている原因を理解する。
バルファルクとの戦闘とそれによる時間のずれ。これが思わぬところで祟ったのだ。
「……だとしたら、どうする気?」
レイを始めとしたセーラー戦士たちは静かにうさぎの前に出て、狩人至上主義者たちの意図を確かめるように睨み据えた。
痩せぎすな男の窪んだ眼窩から覗く眼光は鋭い。
空気が張り詰める。
東京の地下に巣食い地球のエナジーを吸うジーヴァの討伐は、戦士たちにとっての絶対的使命。
しかしジーヴァすら『神々の系列』と崇める者たちが、それを前にして黙っているはずがない。
「ご安心ください、セーラー戦士の皆さん!」
そんな彼女たちが持って当然の緊張を和らげようとするかのように、少年兵が微笑んだ。
「貴女たちは異界人でありながら、その在り方は狩人の手本であり救世主そのもの。その見解は一致しています」
金髪の少年は、うさぎと自ら親しげに、満面の笑みで両手を握った。
「身柄の安全はお約束いたします。誇り高き『名誉狩人』として! ですからどうぞ、胸を張って下さい!」
反対に、少女たちの顔は一気に引き攣った。
この10代前半の少年は、狩人という肩書を職業としてではなく神に選ばれた種族の証か、そうでなければ聖人の印として見ている。
彼の蒼眼は、何処までも純粋に輝いていた。
「どうなされたのです?」
首を傾げられた手前で、静かに手が落ちる。
彼女は、俯いたまま首を横に振った。
振れるわけがなかった。
「できるわけないわ。救うべき命を救えなかったあたしたちに……名誉の称号なんて」
彼女の肩に角張った手が置かれた。
「貴女たちが異世界勢力の排除に動いてくれていたことは、よく分かっていますよ。狩人の理を護り大自然の調和に尽くした者を排除する筋合いなど、どこにありましょうか」
突然の不躾な行為に驚く少女の顔の隣にやって来る、ぎらついた視線。
それを見た衛が目を見開き、無言ながら「それ以上彼女に触れるな」と告げるように割入った。
狩人至上主義者の首領はそれを予見したようにひらりと躱し、にこりと笑うと頭を深く下げた。
「我々も、身を弁え力を添えましょう。悪の根源たる魔女たちの駆逐……そして、古龍の王の憤怒を鎮めるため」
数分前まで半ばクーデター然としていた集団が、翻って恭順を示しだした。
あまりの豹変に周囲はざわめくが、当の狩人至上主義者たちは何のたじろぎもない。
セーラー戦士たちの表情から緊張は一切抜けなかった。
「あの細男、抜け目ないな。引き際を理解している」
はるかは、拳を握りながら呟く。
根拠はともかくとして主張自体は「自分たちの生活と自然を護れ」という『正論』そのもの。
しかも、デス・バスターズに対してはその場の誰よりも毅然とした態度で立ち向かった。
それが調査団内部からの本格的な反発を鈍らせている。
無論、セーラー戦士たちが手を出すことはできない。そうすれば次に非難されるのは彼女たちの方だ。
「……魔女たちが知っているか否かに関わらず、ジーヴァの活動は双方の世界の生態系を乱し、ただでさえ混沌とする状況に更なる混乱を招きかねない由々しき事案だ」
首領の態度の軽さとは逆に重さを孕んだ空気を、調査班リーダーが破った。
総司令は無言で背中越しに視線を向けて来た孫に向かって、頷いてみせた。
「現在ここにいる我々がやるべきことは、その混乱を未然に防ぐこと。そのことに異議はないか?」
ハンターたちは次々に頷く。狩人至上主義者たちも同様である。
「ではここに、ジーヴァの生態調査及び討伐を決定する。まずはみんな、武器をしまえ」
全員がそうしたのを確認した後、リーダーは狩人至上主義者たちへ振り向いた。
「諸君はこちらで武器を預かったうえ、セリエナへの出向準備をしろ。『渡りの凍て地』鉱石調達部隊への配置を命じる」
それを聞いた首領は、むっと顔をしかめた。
「言っておくが、君たちの思想ではなく行動が原因だ。この人類存亡の瀬戸際で組織の内部分裂を起こしかけたが故の措置だ」
調査班リーダーは続いて、ライフルを狩人たちへ渡したシュレイド王国の軍人たちへ振り向く。
「お前たちには、幽境の谷への同行を願いたい」
戸惑う異国人たちに、リーダーは真っすぐ見つめて語り掛けた。
「今回の作戦は、デス・バスターズによる妨害がほぼ確実視される。対人戦に対応できる人材は必須だ」
そのやり取りを見た狩人至上主義者たちの間に、不服そうな顔が並ぶ。
それを見たみちるが、腕を組みながら隣のはるかへ囁く。
「シュレイド人との繋がりを地理的に絶つ気ね」
アステラからも幽境の谷からも遠く離れた地への異動。
明らかに、リーダーは狩人至上主義者たちの孤立を狙っている。
「……了解しました。命に従います」
捕虜であるシュレイド人たちは、当然指示に従うほかない。
しかし。
「承服できません! 我々は、ただ調査団と狩人の世界を護るために……」
「これは決定事項だ。捕虜を王国に引き渡すまでこの措置は続く。それが嫌なら今すぐ調査団を脱退し、船に乗って故郷へ帰ってくれ」
シュレイド人たちを半ば駒にしていた狩人至上主義者たちの抵抗は激しかった。
リーダーは強くそれを拒んで周囲のハンターたちに対応を任せると、すぐセーラー戦士たちの方へ振り向いた。
「では、これより作戦会議を始める。6期団……そして新しく来た戦士の諸君は、改めて挨拶とあちらの世界についての説明をしてもらおうか」
何とか元通りの雰囲気を取り戻していく調査団。
狩人至上主義者たちは同じ狩人に取り囲まれ、準備のため自分たちのマイハウスへ運ばれていく。
その首領が歯を噛み締めて次に見たのは、すぐ隣で硬く口を結ぶシュレイド人の少年兵だった。
──
復活がほぼ確実視されるジーヴァへの対抗策は、綿密に練られた。
何と言っても相手は、生態系を己の都合よく創造する古龍の王。
その自然界への影響力は、あの滅尽龍さえも超える。
しかもそこに未知なる異世界の魔法の結晶、龍水晶が加われば如何ほどの脅威になるか。
更に、彼が張り巡らせた生命力でこちらの世界のモンスターたちを引き付けることで、あちらの世界の二次被害も深刻化している。
調査団の持てるだけの物資、技術、人材、全てを投入した総力戦。
そして、かの龍の完全なる討伐。
そうでなければ恐らく、異変は止められない。
急ピッチで各地の物資が調達された。
工房は日夜煙突から蒸気を吹かせ、兵器を量産した。
少女たちは各地へ出向き、武具強化のための素材を調達する。
導きの地の奥にある幽境の谷には観測隊が置かれ、一時も休むことなく動向を見張った。
狩人たちは訓練に励み、少しでも生存力を上げるため己の武具を鍛え直した。
数週間が、あちらの世界で1日と少しが過ぎた頃────準備が整った。
気球で自らを縦に浮かし飛行する木造船──研究基地にて。
「もうすぐ、着くわネ。幽境の谷」
竜人族の学者、3期団長が煙管を吹かせていた。
煙が風に散らされていくちょうどその方向で、青い星の相棒──編纂者が頷いた。
目指すは幽境の谷。
岩肌だけの、生命なき不毛の地。
かつて調査団が、ジーヴァの成体……赤龍ムフェト・ジーヴァを相手取った場所だ。
「はーぁ、あのうるさい人たちがいなくってよかったー」
ちびうさが、ほたると一緒に出て来た。
彼女は自身には少し高い手すりに顔を乗せ、脚をぶらぶらとさせた。
「会話はできるけど対話できない人たちって、あーいう人を言うのね」
「お嬢さん、結構辛口ネ」
「あたしたちの世界でも、同じような人たちを見たから」
狩人やモンスターたちを怖れ、根絶を願い、出ていけと叫ぶ東京の人々。
シュレイド人や異世界を侵略者と言い立て、根絶やしにしようと叫ぶ狩人たち。
自分たちの主張が第一で、他の意見を一切聞き入れない。
多少の理由や立場は違えど、彼女からすればどちらも同じだった。
「……人間てのは、どこの世界でも大して変わんないようネ」
しかしちびうさの隣のほたるは、疑義を顔から隠し切れない。
「なんであの人たちは竜大戦なんて幻を信じたのかしら。あなたたちと同じ、真実を求める調査団なのに」
「いいえ。幻とも言い切れません」
答えた編纂者に、ちびうさが顔を上げた。
「あのカラースケッチ1枚だけで、竜大戦を真実だと言うことも嘘だと言うこともできません。我々には、時間と情報が足りなすぎるのです」
「だとしても、よくわかってないことを勝手に決めつけるなんて……」
「あの仮説を初めていきなり聞かせられたら、あなたたちは信じられますか?」
ほたるはいったん黙り込んで、
「人類……栽培仮説、でしたっけ」
それ以上は言えない。
他の世界のこととはいえ、人間として血の気が引くような字面だ。
「何度思い出してもおぞましいわよネ。はっきり言って、竜大戦で天罰が下ったと信じた方が幾らか救いはあるワ」
溜息交じりに呟く3期団長。
彼女たち含めたセーラー戦士も、未だ仮説に対する態度を決めかねている。
その内容は、ハンターたちが前提として持つ世界観を根本的に否定するにも等しかった。
「ですが、あの説なら長年の謎に一つの答えが出せるんです。文明を持たない人類の祖先が、なぜモンスターたちの蔓延る大地で生き残れたのか……いや、『生き残させられたのか』」
しかし、そう主張する編纂者自身が手すりに置く手は震えていた。
そんなことを呟く自分自身に抵抗を示すかのように。
「あたしは評価するわヨ。貴女が自らを、自らが信じる世界観を、敢えて突き放す思考が出来たこと」
「……」
褒められても、編纂者の顔は晴れない。
「常識だとか、理だとか、掟だとかは人が考えたモノ。世界はそんなものお構いなく、置き去りにして流れていくワ」
船は雲海を泳いでいく。掻き分けられた雲は、二度と同じ形を作らず崩れていく。
「現に、ついこの前まで生態系全体の脅威とされた妖魔ウイルスは、龍水晶という生命を強化する因子へと変化した。モンスターたちは確実に、異世界に利用される側から利用する側へ舵を切ろうとしている」
目的地が見えてきた。
無機質な岩で出来た、天然の牙城。
それを見つめながら話を聴く少女たちの、調査団員の表情は険しい。
降着準備の時間だ。
3期団長は眼下の景色から視線を切り、船の内部へゆっくりと歩を進めた。
「人間はこの先『正しい者が歴史を創った』といつまで信じられてられるのかしらネ」
──
「もっと、そっちだ。そう……そこでいい」
青い星は、反対側にいるシュレイド兵と目で合図を送り合いながら、洞穴のなか、補給用ボックスを積み下ろす。
そして周囲にいる5人ほどの捕虜たちを見回してから、それぞれの肩を叩いて労った。
「よし、完成だ。この3週間、よくやってくれた」
調査団の数週間の努力により、幽境の谷のとある広間を囲む一角は要塞化されていた。
切り立った絶壁の間から、5連装砲と移動式速射バリスタが何十門も口を覗かせる。
崖の間には梯子や階段が渡され、ハンターたちはそこを自在に行き来できる。
それだけでなく、谷を取り囲むように線路が敷設され、陣地によっては必要に応じて、素早く砲の位置を動かせるようになっていた。
幽境の谷の要所に掘られた通路には、シュレイド人の狙撃手たちが配置されており、射撃用の穴──銃眼──から狙えるようになっている。
魔女の襲来に対する備えの一つであったが、不毛の地にまだこれといった変化はない。
「本当に、あなたには世話になった」
「やはり、黒龍を退けた本物の英雄は違う。捕虜にもここまで手厚くしてくださるとは」
捕虜たちが青い星へ、次々と感謝を述べる。
当初、シュレイド人は命令に従っただけの一般兵まで纏めて『侵略者』というイメージがどうしても強く、調査班リーダーの指示をもってしても、団員から警戒される傾向にあった。
そこで青い星がセーラー戦士たちと中心となって積極的に進言し、捕虜の扱いを引き上げてくれたのだ。今では共同作業も増え、ほぼ調査団の一員と言っても差し支えない役割を果たしている。
一方、当人は「英雄か……」と呟いて、
「そちらの教えでは確か、天から遣わされた聖君が悪しき竜を退けたんだったか」
シュレイド兵たちは目を覚ましたように、ハッとして頭を下げた。
「ね、念のため申し上げておきますと今の俺たちは……」
「私が彼に対抗できたのは、ある意味その教えがあったからかもしれないな」
ゆっくりと顔を上げる兵士たちの間には、困惑と驚きの表情が広がっていた。
狩人の言葉としては奇妙である。命令とはいえ、自分たちを侵略した敵国の思想に肩入れする必要があるのか。
その疑問に答えるように、狩人の英雄は微笑んだ。
「1000年前の君たちの祖先は、守りを捨ててまで迎撃兵器……撃龍槍を、我々の世代に託してくれたのだよ。それを使ったことが決め手となって、私はかの龍に勝てた」
狩人と兵士。その両方を繋ぐように、英雄は『侵略者』たちを見つめた。
「何かにつけ、人の語る思想や歴史には真実と嘘が入り混じる。私もシュレイドの教えを信じているわけじゃない……だが、彼らの『大切なものを護りたい』という必死な想いだけは、紛れもない真実だと思えた」
いつの間にか、シュレイド兵たちの目端には涙が溜まっていた。
「私にとっては、彼らの一人一人が英雄であり恩人だ。私は思想の違いに関係なく、彼らに敬意と感謝を表したい」
シュレイド兵たちは再び頭を下げた。
そこには先ほど見せた恐怖ではなく、感謝の意が込められていた。
「あなたは不思議な人だな。多くの者に慕われながら、常にどこか物事を遠くから見ている感じがする」
いつの間にかすぐそこに立っていた人物を見て、シュレイド兵たちは慌てて敬礼した。
「セ、セーラー戦士さんッ! お疲れ様です!」
「今は、はるかでいいよ」
苦笑する彼女の脇には、彼女の相方であるみちるもいた。
「あなたたちもお疲れ様。調査班リーダーから、そろそろ作戦が始まるから配置につけとのお達しよ」
「……了解」
シュレイド兵たちの顔に緊張が走った。彼らは整然とした足取りで、各地点に散っていった。
「……」
兵士の1人がやがて周囲を見渡して、何かを決意したように青い星の肩を叩いた。
「青い星さん。余計な世話とは思いますが、今回の相手は強い。備えは余分に持って、お仲間にも多めに持たせて下せぇ。最低、まる3日くらいは持たせられるくらい」
「……? ああ、分かった」
やや戸惑いつつも、狩人は頷いて持ち場へ去った。
兵士がそれを見送り、自身の持ち場へ戻ろうと通路を曲がろうとした時、
「同志、時は満ちました。我々の聖戦が始まろうとしています」
銃を提げた少年兵が微笑みを向けて立っていた。
男は少年兵を真正面に捉えてから、眼を伏せたまま頭を深く下げた。
「……はい。待機地点Dに戻ります」
「急いで下さいね。リーダーの仰った通りに」
敬礼して少年兵のもとを急いで去る間、20歳にもならない少年に頭を下げた男は、空になった己の胸元をなぞった。
洞窟を抜けた彼は、複雑に入り組む天然の城を見上げた。
それらの上を、緑色の狼煙が駆け抜けた。
谷を抜ける強風が吹きすさぶ灰色の曇天に、その色はすぐ吹き消されたが。
「……始まったか」
ほぼ同時、ハンターが操る一門のバリスタから、矢の代わりに鉄製の杭に似た形状の物体が射出された。
────
安定翼の付いた、エルトライト鋼製の長く細い金属杭。
円弧状の軌道を描いたそれが鋭い降下音を立て、要塞の外にある巨大な岩柱の一つに突き刺さった。
着弾の衝撃によりピンが抜ける。
後部排気口が蒸気を吹かし自動旋回、螺旋状の溝が岩を突き砕いて内部へ進む。
遅延信管が作動、爆薬が炸裂する。
岩に括り付けられたタル爆弾への誘爆により、岩柱が砕け散って崩れ落ちる。
大質量の岩片が、幽境の谷を轟音と共に激しく揺らした。
幽境の谷に対する攻撃は容赦ない。
周囲の岩柱も同様に爆散してゆき。
地震にも匹敵しかねない地響きが、立て続けに鳴る。
「……」
待機する少年兵は、爆炎に冒されていく不毛の大地を見つめていた。
しばし、胸に手を当て深呼吸をしたあと。
決意を込めて、薬室へ銃弾を込めた。
「今こそ、誤れる全てを正さなければ」
地の底から、それまでの爆砕音とは違う音が聞こえた。
「ギュアァァァアアアアァァアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ…………」