セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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王は目覚め、礎となる④

「やはり、彼女たちの予想は当たっていたか」

 

 『地脈潜杭』、効果あり。

 観測員から報告を聴いた調査班リーダーは、ぐっと拳を握りしめた。

 

 本作戦第四段階。

 地脈潜杭に内蔵した猛毒を地脈へ放出、生命エネルギーと共に吸収させる。

 

 いわば、地脈への『注射』。

 

 毒の内容物は神経系や免疫系に致命的損傷を与える、雌火竜や飛毒竜の毒袋から抽出、調合して超濃縮した化学物質。人間の成人男性ならばたった一滴でも即死する。

 ある意味、本作戦における心臓に当たると言ってもいい。

 そもそもこのアイデアの発案者は、セーラー戦士たちだった。

 

 滅尽龍から龍水晶を得たことで、赤龍の生命力吸収能力は圧倒的に向上している可能性が高い。

 ならば、だからこそ、それを逆に利用できないか?

 

 妖魔化生物を数多く相手取ってきた彼女たちならではの発想だった。

 その発想に、ガンランスの機構『竜杭砲』をヒントに工房が答えた結果が本兵器である。

 

「この作戦の肝は短期決戦だ。引き続き、第一段階担当班及び第四段階担当班は全力で支援しろ!」

 

 調査班リーダーがそうしきりなく指示したのには理由があった。

 幽境の谷は第一層から三層まで分かれており、今回、三層が赤龍の本拠地たる東京の地下と繋がっている可能性が高い。

 セーラー戦士たちによれば、そこからあちらの世界各地に地脈が巡っている可能性が高い。

 つまり東京に逃げられたら最後、彼にほぼ無限のエネルギーを与えることになる。そうなれば、ここで積み重ねた努力も全て水の泡になりかねない。

 ムフェト・ジーヴァをこの世界で仕留め切ることこそ、本作戦の要なのだ。

 

「目標、第一層から第二層へ移動を開始!」

 

 どうやら毒が耐えかねたらしい。

 赤龍ムフェト・ジーヴァは作戦開始から約1時間後、早くも地脈エネルギーの残る第二層へ潜った。

 

「では6期団、準備を頼む!」

「はいッ!」

 

 内部太陽系戦士────亜美、レイ、まこと、美奈子が一斉に断崖向かって進み出る。

 古龍の鱗を身に纏う彼女たちは最後に持ち物を確認すると、後に残る者たちへ振り向いた。

 

「じゃあ、プルート、サターン。それとルナとアルテミスも。もしもの時は頼んだわよ!」

「ええ。あなたたちも、気をつけて」

 

 万が一『襲撃』があった場合にうさぎ、衛、ちびうさといった主たる王族を護るためだ。

 プルートの返しに少女たちはにこりと笑い、口笛を次々に吹いた。直に、音を聞きつけた調査団所有の翼竜が迎えに来てくれるだろう。

 

「みんな……」

 

 長らく苦楽を共にしてきた親友たちが、今度は古龍を超えた古龍相手に離れてしまう。

 セーラー戦士の世界における重要人物である上に『戦略上の理由』でうさぎたちは残らねばならないのだが、それでもうさぎは仲間たちから中々離れようとしなかった。

 

「……きっと全部、元を辿ればあたしのせいだけど。でもお願い。どうか、死なないで」

 

 その額に、いきなりデコピンが飛んだ。

 

「いった────ッ!?」

「そー簡単に、死んでたまるもんですか!」

 

 思わず屈んで痛みを訴えるうさぎに、レイは腕組みしてそっぽを向きつつも、次には視線を合わせて答えた。

 

「もう、腹括りなさいよ。たとえ誰かにとっては間違ってたとしても……自分で決めた道は信じて突き進むしかないって」

 

 うさぎは視線を下げる。

 

「……すごいな。あたしには、とてもそんな覚悟なんて出来ないや」

「覚悟なんてもんじゃないわ、半ば諦めってとこよ。どうせ狩人至上主義者のリーダーは、心の底ではあたしたちのこと嫌ってんでしょうし」

 

 レイが次に見つめる下、青い光線が谷を突き抜けた。

 今も、狩人たちはあの下で戦っているのだろう。

 

「きっとこの世界と出会った時から、私たちの世界に対する戦いの広がりは避けられなかったのだわ」

 

 次に亜美も頷いて、同じところを見て言葉を継いだ。

 

「狩人も、火竜も、黒蝕竜も、金火竜も、滅尽龍も……あの妖魔ウイルスやシュレイドの兵隊ですら、なりふり構う生命なんて一つもなかった。自分を、自分の一部を護り残そうと、自分の存在を脅かす者と戦った。それがこの結果を招いたのよ」

 

 まことは、口を固く結びながら己の身に纏う防具を見つめた。

 刺々しくあしらわれた、滅尽龍の戦意が宿る籠手。

 まるでそれは、彼女をこれから更なる凄惨な戦場へ引きずり込もうとするかのようだった。

 

「ずっと、平和な日常を求めて戦ってたつもりだったけれど……それを止めようとしたあたしたちですら、結局はそいつらのうちの一つでしかなかったのかもね」

 

 しばらくして、美奈子がふっと笑ってまことの背中を掌で叩いた。

 

「ま、よーするに結局のところやること変わんないんだし、どーせならテンション上げてこってこと!」

「うわわ!?」

 

 彼女は次にうさぎへ振り返って、

 

「『狩人の師匠』だか『かりんとう試食会』だか知らないけど、えらッそーに能弁ばかり垂れる奴らに見せてやるわ! 異世界の意地ってヤツを!」

 

 彼女は明るい口調で去り際、背中越しにピースを掲げてみせた。

 ちょうど、翼竜たちがやって来たところだ。

 

「そんじゃーうさぎちゃん、一狩り行ってくるわ!」

 

 後の仲間も彼女の軽さに背中を押されたのか、明るい表情に戻って翼竜にスリンガーのロープを伸ばした。

 あっという間に彼女らは空に浮き、谷底へ飛んでいく。

 

「……美奈」

「みんな、くれぐれも無理はしないでね!」

 

 アルテミスとルナが叫んだ時にはもう、彼女たちは遠くなっていた。

 うさぎはずっと胸の前で拳を握って、祈っていた。

 

────

 

 太陽光が届きにくい奥地にある、第二層。

 そこに岩石を崩しながら降りてきた赤龍ムフェト・ジーヴァは、あるものを睨んだ。

 仮に彼が人間であれば、舌打ちでも打ちたい気分であろう。

 

 10本以上の地脈潜杭が周囲の地面に刺さっている。

 

 人間たちの方が一つ上手だった。

 己の住処────冒され難き地は、既に猛毒で穢されている。

 もし無理に吸収を行えば、またしても不愉快な感覚が彼を満たすことになる。

 それに早くも勘づいてか、赤龍は全身に傷を受けながら生命力吸収に移れないでいた。

 そこに、彼を追うように幾つも影が落ちてくる。

 

「さぁ、とっとと仕留めて次に備えるわよ!」

 

 地上に降り立つなり、強気に言葉を放ったのは美奈子だ。

 無論、相手を軽んじた言葉ではなく、激励の一喝である。

 異例の、狩人も入れれば8人態勢での戦闘。

 

 赤龍は、目に苛立ちを滾らせて口腔に光を宿し、漲らせた。

 溢れ出した光線を、扇状に大きく薙ぎ払う。

 しかし、身軽な彼女たちには隙の多すぎる攻撃であった。

 

「炎華気刃斬!!」

 

 レイが太刀『斬竜ヘイズノヴァ』から舞い上がる炎を頸下から叩きつける。

 赤龍は首をぶん回すように振り払い、彼女を吹き飛ばそうとする。

 

「シャボン・フリージング・ゲイザー!」

 

 亜美が『アイスイーグル』から氷結弾で迎え撃つ。

 それに対し赤龍が執拗に噛みつこうとすると、冷気の爆発を伴う地雷が起動する。

 

「シュープリーム・スピニングメテオッ!!」

 

 怯んだ隙に、まことの『真・王牙鎚【破天】』から、大地を抉るほどの電撃が左後ろ脚を貫く。

 直後、彼女はポニーテールを後に引かせ飛び跳ねた。

 後脚の爪が彼女のいた場所を踏みつけ、蹴り上げて土をかきあげた。

 

「クレッセント・ショット!」

 

 次は、美奈子の構えた『フランツ=グレイシア』の青い砲身から無数の弾丸が飛ぶ。

 それらは赤龍の鱗を反対まで貫くとまでは行かなかったが、確実に左後ろ脚の傷を、自己再生をもってしても全快まで追いつかない程度にまで拡げた。

 

「ワールド・シェイキング!」

 

 叩きつけられた斧刃から溢れ出る疾風……衝撃波が、もう一度圧縮した光線を薙ぎ払おうとした赤龍の頭を烈しく揺さぶった。

 しばし、少しだけひびの入った頭部が沈んだ。

 次に振り向いた赤い眼光が、はるかを貫く。

 

「ヴォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ」

 

 赤龍にとってはこれまでで最も痛い攻撃だった。

 初めて彼は、目の前の人間を『敵』であると認識した。

 谷を丸ごと揺らす咆哮に、盾を持つはるか以外は耳を塞いだ。

 

「狙ってくるぞ!」

「大丈夫。狙い通りだ」

 

 青い星の警告に、彼女は冷静に答えた。

 赤龍には、一旦目に付いた標的に異常なほど執着する習性がある。

 調査団としては以前の討伐作戦と同じく、この習性を利用して弱らせる算段である。

 引き付け役には、一際強力な盾を持っているはるかが選ばれた。

 

 ムフェト・ジーヴァは前へ足を踏みしめながら、ちょうど真正面にいるはるかへ口を開く。

 熱線。

 叩きつけられようとする圧倒的熱量を、彼女は今回のため特別に鍛えられた盾で受け止めた。

 それでも盾はあっという間に焦げ付き、溶けかかるが。

 

「ぐっ……みちるっ!!」

「ディープ・サブマージ!」

 

 横から、みちるが剣斧の剣刃から水属性の力を解き放った。

 赤龍の頭部は、まるで競り合うように損傷と修復を繰り返した。

 

 そもそもの話、セーラー戦士の繰り出す攻撃はほぼ属性エネルギーの塊。

 

 対する赤龍の表皮は地脈からエネルギーを吸収する能力の代価として、あらゆる属性エネルギーや化学物質を通しやすい性質を持つ。 

 しかもそこに狩人としての技量も合わさるとなれば──これほどに特効となる戦力もいない。

 

「……なんと」

「恐ろしくも美しき哉」

 

 思わず、経験豊富な狩人たちですら圧倒されていた。

 少女たちが繰り出す『虹』の、何と鮮やかなことか。

 確かにそれらは赤龍の命を奪わんとする総攻撃であるが、あらゆる属性の束がめくるめく様子はまるで、この不毛の大地に花畑が出現したようでもあった。

 

 さらに、毒の効果で赤龍自体の動きも鈍くなっている。

 最もそのうち常軌を逸した回復力で地脈潜杭の毒は解毒されるが、今や、かの兵器を知る赤龍にとっては自己再生すらリスクを伴っている。

 多方面からの飽和攻撃に対し、赤龍は苦悶にも似た甲高い鳴き声を上げた。

 

「ヴヴヴヴヴヴゥゥゥゥゥゥゥゥッ」

 

 唐突に上半身を持ち上げた直後、両腕が地盤に叩きつけられ、陥没した。

 それを見た青い星は、咄嗟に叫んだ。

 

「離れろ!」

 

 真下の地面が青白くひび割れ、爆発。

 刺激された地脈から、エネルギーが次々に戦場の外側へ雪崩れるように噴出する。

 エネルギー吸収と攻撃両方を行った赤龍の四肢はかなりの自己再生を遂げていたが、弛緩しかけた口からは、またしても涎が垂れていた。

 

「生命力と毒の吸収を最低限に抑えたか……」

 

 群がる人間たちを払い除けた赤龍は、人間たちの攻撃が一旦中断したことをいいことに、彼らを眼下に捉えながら口内に光を宿し、再び立ち上がった。

 

「あれはまずい! 避けろ!」

 

 ソードマスターの指示に、全員が身体で従う。

 赤龍は、圧縮した光線を眼前の大地、その一点へ照射。

 地脈の奥深くに、エネルギーが急速に溜まった。

 直後、超高熱のエネルギーが噴火のごとく大爆発、噴きあがった。

 

────

 

「第二層観測班より報告! 怪我人はなく、作戦は引き続き進行しているようです!」

「決して無理はさせるな。彼らがすぐ帰還できるよう、翼竜を常に上空に配置。第一次補給班の確認も改めて行え」

 

 連絡員が走っていったのを見届け、本作戦の指揮官──調査班リーダーは再び谷底を覗き込んだ。

 

「……全火力による、弱点への一点突破か」

 

 実は、これはシュレイド軍の将軍及び将兵たちからの提案だ。

 相手の弱点に、持てるだけの戦力を集中させる。人同士の戦争において、数で劣る側が攻撃する際には定石の戦法である。

 如何にも戦慣れしている彼ららしい発想であった。

 

「やはり『4人』という制約も、結局はただのジンクスか」

 

 前回の赤龍討伐においては、人員喪失の可能性を恐れて一度に戦場に出るのは4人までと決めていた。しかし、それでも幾らかの死傷者は出てしまった。

 今回の赤龍の場合、少したりとも東京へ逃げる隙を与えてはならない。

 だからこそ、火力の中心である彼女たちを全力でサポートしなければならないのだが。

 

「……翼竜が、来ない?」

 

 しかし、戦場の上空へ待機しに来るはずの翼竜の姿は、いつまで待っても見えなかった。

 そこへ足早に、別の連絡員が駆けてくる。

 

「リーダー!」

「何だ!?」

「シュ、シュレイド兵たちが反乱を起こしましたッ!! 怪我人こそいませんが砦は占拠、翼竜も出せません!」

 

 青天の霹靂。

 調査班リーダーは、愕然として握った拳を震わせ、歯を食いしばった。

 

「う、嘘。あの人たち、ずっと建設とか会議とか、たくさん協力してくれてたじゃない」

 

 衝撃は、すぐ後ろにいるうさぎたちにも伝わっていた。

 ちびうさが声を震わせると、隣にいたサターンが無言で彼女の肩をさすった。

 

「……奴らの仕業かッ!」

 

 調査班リーダーが怒りを向けたのはシュレイド人たちではなく、遠き地にいるはずの反逆者たちであった。 

 そこに、軍靴の音が立て続けに鳴った。

 

「……ッ!?」

 

 気づいた時には、けむり玉が放り込まれていた。

 あっという間に遮られた視界のなか、大剣に手を伸ばそうとした調査班リーダーの側頭部に、銃口が突きつけられた。

 

────

 

「くそっ、上で何が起こったんだ!」

 

 はるかは震える盾を持つ右手を必死に抑え、天上を見上げた。

 第二層到着からしばらく経って疲労が蓄積しているにも関わらず、白兵戦班は未だ地上に帰ることができずにいた。

 

 最初はこちらにあった攻勢が、次第に逆転されてきている。

 相手の溜め込んだ体力は予想以上であった。

 しかも毒に抗体を持ち出したのか、次第に動きの鈍りも収まりつつあった。

 

 赤龍は、一歩ずつ前進しながら戦車の如く首を曲げ、人間たちに次々と光線を撃ち放つ。

 レイが懐に潜り込んで何百回目の炎刃を腕に叩きつけたが、未だ深く入り込まない。

 

「このままでは……押し切られる!」

 

 赤龍はまるでそれを見透かすように、眼を細めた。

 直後、巨翼で宙へ己の身体を浮かし、翻す。

 

「……来るぞ!」

 

 青い星の警告に、少女たちは一気に赤龍から距離を開ける。

 次に目を向けるのは────

 

「岩陰に隠れろ!」

 

 周囲にある、膜のようなものが引っかかった硬質な岩。

 途端、熱量が少女たちを襲う。

 

「ぐっ!?」

 

 根源は、上空に羽ばたきながら真下へ口を開く巨龍。

 吐かれる揺らめく青い炎が、戦場を瞬く間に覆い尽くたのだ。

 

「あ、あれが……」

「亜美ちゃん、早く!」

 

 まことの呼びかけに亜美は応え、彼女のいる岩の陰へ突っ込んだ。

 その間にも、エネルギーは充満する一方。

 これでいいと少女たちは息を整えようとするも、中々身体は言うことを聞いてくれない。

 心臓は高鳴り、緊張が右肩上がりになる。

 

 赤龍が舞い上がった。

 天上からほんの一滴の雫が、口から放たれる。

 

「……あれが、『王の雫』」

 

 雫はそれまでの激しさに比べてゆっくりと落ちていくように見えた。

 不意に、音が止んだ。

 閃光と衝撃波が、第二層を埋め尽くした。

 

────

 

「……どうか、動かなねぇで下さい」

 

 そのすぐ後ろには宝杖と沈黙の鎌を奪われ、兵士たちに組み伏せられたプルートとサターン。

 ルナとアルテミスが前に出て、ふしゅううと唸っている。

 一番後ろには、衛、うさぎとその胸に縋りつく怯えきった顔のちびうさ。

 そして彼女たちに向けて、四方八方からライフルが向けられていた。

 

「狩人至上主義者の命令か?」

「…………」

 

 冷静に問うた衛に、兵の誰も答えなかった。

 

「これはこれは。お久しぶりですねぇ、皆さん」

 

 シュレイド兵たちはすぐに銃を捧げ、足を揃えて敬礼。ある人物を出迎えるための道を作る。

 間を通って来たのは、狩人至上主義者の首領だった。

 その後ろに────セーラー戦士たちが助けた少年兵もいる。

 

「だが、この数週間は厳重に警戒体制を取っていたはずだ。なぜ……」

「すみません、リーダー」

 

 調査班リーダーの疑問に答えるように、連絡員が進み出、頭を深く下げた。

 

「……シュレイド人の他にも、スパイが……同志がいたってことか」

 

 衛の言葉に、ちびうさが顔を上げる。

 

「本当に申し訳なく思っています……ですが、彼らの言い分も分からないではありません。我々には残された時間が少ないんです。6期団には悪いですが、このままでは調査団自体が危ないんですよ!」

 

 調査班リーダーは深く息を吸ったが、怒鳴ることはなかった。

 

「……アステラの総司令と、セリエナの大団長は?」

「あのお二人もあなたと同じ状況でしょうね。いやはや、愚かなリーダーを持つ組織が内側から勝手に崩れていくのは、見ていて悲しいものですよ」

「嘘つき! あんたが命令したんでしょう!」

 

 横取りするようにルナが噛みつくように叫んだ。

 狩人至上主義者の首領は慌てることなく腕を拡げる。

 

「ほぉ。私はずっと渡りの凍て地にいましたが、どうやって命令を出すんです?」

 

 調査班リーダーは、憔悴しきって俯いたままだ。

 その反駁を受けて、うさぎはふと、少年兵を見やった。

 

「……その子を利用したのね?」

 

 眼を合わせようとしても、少年は頑なに、石のように一切答えない。

 狩人至上主義者の首領は肩を竦めてみせた。

 

「まさか。彼らは正しい歴史を理解して自ら立ち上がった。その報せを受けた我々は、仲間の手引きでこうして合流しにきたというわけです」

「……ええ、その通りです。我々シュレイド人は、やっと真実に目覚めたのです」

「あなた……!」

 

 咎めるのも聞かず、少年は口を開いた。

 

「この谷でのあなた方のやり方を見ていますと、甚だ、自然に対する敬意を感じられませんでした。ですから、我々は諌めるため立ち上がりました。世界の正しい姿を取り戻すために」

 

 うさぎはその発言を正面から受けて、心底驚いていた。

 少年の顔が────セーラー戦士の持つのと同じような正義感に満ちていたからだ。

 次に、うさぎは冷たく光るライフルの銃口を見つめ、ちびうさをより胸奥深くまで引き込んだ。

 

「それで、どうするつもりなの? あたしはよくても、みんなに手を出すつもりなら──」

「まさか。貴女がたは下にいる方々含め、偉大なる名誉狩人。そこまで物騒なことは致しません」

 

 首領は笑うと、すぐに笑みを消した。

 

「ただ……貴女がたの世界に巣食う文明崇拝主義者どもは別です」

 

 衛がはっとして顔を上げる。

 

「下層への連絡と補給を絶ったのは、赤龍を東京に逃がすためかッ」

「御名答!!」

 

 その時青い光が、谷底から溢れた。

 震動が、標高の高い崖の上までも激しく揺らした。

 

「王の雫ですね。優秀で賢明な方々のことです、あれでも死にはしないでしょう。しかしこれが過ちを正す最後の……ッ!?」

 

 振り直りかけた首領の肩を突き飛ばし、崖へ向かって躍動する影がいた。

 調査班リーダーが、シュレイド兵が揺れにたじろいだ一瞬の隙を突いて駆け出していたのだ。

 

「リーダーさんっ!?」

「俺は俺のしたいようにする! 君たちも、君たちの意志で動けッ!」

 

 シュレイド兵たちは反射的にライフルを構えかけたが、その時には既に、男の身体は消えていた。

 

「……馬鹿なことを」

 

 あっという間に谷底へ見えなくなったリーダーを尻目に、狩人至上主義者は己の肩を神経質な手つきで払ったのだった。

 

────

 

「……全然、連絡も補給も来ない」

「翼竜も、飛んでくる気配がまるでないわ」

 

 はるかとみちるが、上空を見上げる。

 王の雫を放った赤龍は、まだ弱ってもいないのに早くも第三層へ潜っていった。

 理由は当然、地脈潜杭を嫌ってのことと思われた。

 それを追おうとしたところで、彼女たちも異変に気付いた。

 

「まさか、うさぎちゃんたちに何かあったんじゃ!」

 

 まことが心配の声を上げる。

 

「確か、君たちは瞬間移動が使えると前に言っていなかったか?」

「基本的にセーラー・テレポートは、セーラームーンが一緒にいないと使えないんです」

 

 青い星が聞くが、亜美はそれに対し首を振った。

 

「ならば、僕たちがムーンの代役になろう」

「この生命エナジーに満ちた場なら、十分に空いた分は賄えるわ。狩人の方々も、中心に入れば上方への転送も不可能ではないはずよ」

 

 はるかとみちるの提案に、うさぎの親友たちは「じゃあ」と言わんばかりに顔を見合わせる。

 

「……しかし、某としては赤龍の動向が気になる」

 

 そこへ、ソードマスターが慎重な声音で言い出した。

 

「某たちにも未だ理解しかねる、龍水晶を取り込んだヤツのこと、急がねば作戦の想定を越え、何かしでかすやも知れぬ」

 

 達人の意見にセーラー戦士たちは苦々しい表情をするが、感情的に反論するものはいない。

 

 作戦第五段階。

 最深部である第三層を鋼鉄の床で覆い、なるべく生命力吸収を妨げる。

 東京への入り口は作戦開始時点で岩を落として塞ぎ、ここで赤龍を追い詰める。

 

 これが本来の作戦なのだが、そもそも赤龍は古龍を超えた古龍。

 しかもそこに変異した魔法の力が加わるとなれば────。

 

「それもそうですけど、彼が感づいて東京に入られるまでまだ時間はあるはずです。まずは地上に戻ってからでも……!」

「うぅむ」

 

 ここに来て、狩人と戦士の間で意見が食い違い始めていた。

 主の守護と、敵の打倒。

 いったいどちらを選ぶべきか。

 一同は重い決断を迫られていた。

 

「作戦、続行ッ!」

 

 鋭く飛んだ声に、一同が振り返ると。

 全身に打撲と擦り傷を作って、血だらけになりながら大剣を杖代わりに足を引き摺る男がいた。

 

「調査班リーダー! まさか、ここまで翼竜無しで!?」

「岩にスリンガーを撃ち込んで、無理やり降りて来た。半ば落ちるようなものだったが……な!」

 

 沈みかけた身体を青い星が支えて回復薬を差し出すと、それも断って調査班リーダーは息を継いだ。

 

「とにかく、俺を気遣ってる暇は無い! もはや幽境の谷は、狩人至上主義者の支配下だ! 上にいる彼女たちは無事だが、シュレイド兵たちに無力化され監視されている!」

 

 一同は息を呑んだ。

 

「奴らの目的は、そちらの世界の破壊だ! 君たちは先に行って赤龍を討て!」

 

 少女たちは愕然とする。

 しかし、それですぐに「はい」と言える彼女たちではない。

 いつもはうさぎと犬猿の仲であるレイが、真っ先に進み出る。

 

「でも、過激なあいつらのことですよ。うさぎたちもいったい何されるか……!」

 

 親友が、主が、囚われている。

 なのにこのまま離れていってしまってもいいのか。

 あって当然の心配と惑いが、セーラー戦士たちの間に流れていた。

 

「現在、彼女たちの身が今すぐ脅かされる可能性は低い。その理由は君たち自身が一番分かるはずだ」

 

 何かを思い出すことを信じ切っている、リーダーの瞳。

 セーラー戦士……その中でもうさぎの親友たちは、そう長い時間をかけることもなくあることに思い至る。

 それでも、未だレイの表情は硬い。

 

「……確かに、言いたいことは分かります。でも!」

「ああ、気持ちは大いに分かるし、危険な賭けであることも事実だ。無理にとは言わない!」

 

 リーダーは上空を見上げた。

 ここにはいない誰かへ視線を送るように。

 

「だが俺は、()()を信じることにした! だから指示もおっぽり出して来たッ!」

 

 しばらく、迷うような間が続く。

 

「……狩人至上主義者たちが実質的に現地の支配権を握っているとすれば、作戦の第五段階も既に破綻している可能性が高い。もしかしたら、僕たちの想像以上にマズい状況かも知れない」

 

 はるかの発言に、少女たちははっとして振り向いた。

 彼女の言葉を受けて、ある一つの手が拳を握り。

 

「……行きましょう。地の底へ」

 

 言い出したのは、うさぎに続いて内部戦士のリーダーである美奈子だった。

 

「今度こそ、お互いを信じあう時よ」

「やるしか……ないのね」

 

 亜美が、苦しそうな顔ながらも顔を上げた。

 まこととレイも頷き、はるかとみちるも決意を察して見つめ合う。

 少女たちは手を繋いで輪を作った。中心に、青い星とソードマスターが入った。

 

「「セーラー・テレポート!!」」

 

 虹色の光が、第二層を照らした。

 行先は、幽境の谷第三層。




現状、今年の最後の土曜日に最終話投稿予定です!
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