セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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煌々たる星々よ、漆黒の棺に眠れ①

「……さて、そろそろ下にいる方々も根を上げる頃合いでしょうか」

 

 狩人至上主義者の首領は、崖下を覗き込んだ。

 風が高い音で唸る中、

 

「そんな簡単に諦めないわ!」

「どうでしょうかねぇ」

 

 声を上げたうさぎに、狩人を崇める男は相変わらず神官のように厳かな笑みを浮かべて振り返った。

 

「神は常に我々を見ておられる。もし正しい歴史に抗うというのなら、たとえかつての英雄であろうと……」

 

 その時、突風が谷を吹き抜けた。

 一同が揃って反射的に目を覆わざるを得ないほど、勢いは強い。

 

「い、いったい何が!?」

 

 黒き暴風に一同は戸惑うばかりだったが、1人だけ反応が違った。

 時空と変革の戦士、セーラープルートである。

 

 

「この反応……時空の扉が、開かれて……?」

 

 

 彼女はいま、この突然の嵐と併せて二重の混乱に陥っている。

 過去と未来を行き来できる時空の扉は、プルートの管理下でしか開けられない。

 しかも、扉があるのはあくまでセーラー戦士たちの世界のみのはずなのだ。

 

「私は何もしていないのに、何故……」

 

 彼女の腕が脇から突然掴まれ、引き寄せられた。

 驚いたプルートが振り向いてみれば、正体は、ちょうどうさぎたちの背後を監視していたシュレイド兵だった。

 

「は、離しなさッ……」

 

 危機を感じ、反抗しかけたが、兵士が人差し指を唇に当て制止する。

 プルートは、その背後を見て抵抗を止めた。

 うさぎたちが一列に集められ、シュレイド兵たちに密かに案内されていたのだ。

 明らかに、狩人至上主義者たちの目を盗む動きである。

 

「貴女も、今のうちにこっちへ」

 

 戸惑いのまま、彼女は裏側の崖沿いにある細い通路へ案内された。

 シュレイド兵たちも示し合わせていたようで、速やかに

 

「なぜ、俺たちを……」

「あなた方に恩があるのと、単にあいつらが気に食わんってだけです。さぁ、プルートさんとサターンさんも」

 

 呟いた衛にシュレイドの軍人たちはそう返し、プルートとサターンにそれぞれ宝杖と沈黙の鎌を手渡した。

 プルートは、未だ驚きを隠せていなかった。

 

「まさか、このことを見越していたのですか?」

「いいや。きっと天の助けでしょう」

 

 兵士は、早く流れる曇天を見上げた。すぐ、そんなことはしていられないとばかりに戦士たちの方へ振り向く。

 

「奴らは、俺たちが上手く誤魔化します。あなた方は一刻も早く、どこか安全なところへ」

「で、でも、あなたたちは……!」

「お仲間に会ったら『あの時は助けてありがとう』と伝えて下せぇ。神の御加護があらんことを!」

 

 うさぎの心配も他所に、シュレイド兵たちは即座に持ち場へ戻っていった。

 

────

 

 一方、東京タワー跡地。

 

「デス・バスターズ!」

 

 いよいよ姿を現した敵の上級幹部たちは、赤龍の遺体の前に壁となって立ちはだかっている。

 

「あれが……!」

 

 気を失っている青い星を介抱していたソードマスターは、初めて見る異世界の敵に息を呑む。

 しかしその視線はすぐ、隣から飛び出した複数の影に移った。

 セーラー戦士たちは傷だらけにも拘らず、即座に敵へ駆けていく。

 

「はーい、立入禁止~」

 

 努力虚しく、黒い魔雷が彼女たちの行く手を阻んだ。

 視線を上げてみれば宙に浮かぶ、黒い衣を纏った蒼髪と赤髪の双子。

 シプリンとプチロルが、高笑っていた。

 

「さてはお前たち、待ち伏せていたのか!」

 

 まことがセーラージュピターの姿へ変わり、雷球を投げつけようとする。

 しかし魔女たちはその前に杖を真っ直ぐ、セーラー戦士たちへ向け呪文を唱えた。

 瞬時に彼女たちの周りに魔法のバリアが形成され、閉じ込めてしまった。

 

「!?」

 

 赤髪のプチロルがバリア維持を蒼髪のシプリンに任せ、余裕綽々で赤龍の胸へ歩く。

 

「待ちなさいッ!」

 

 レイの制止も聞かず、プチロルの手が破れた胸の内部をまさぐる。

 そのうち、少女の顔がお目当てのものを見つけてほくそ笑む。

 

「……遂に手に入れたわ、『聖杯』を」

 

 掲げたその手には、蒼い光の凝縮された欠片が光り輝く。

 龍水晶だ。

 それを見た亜美は、脱力のあまり武器を危うく落としかけた。

 

「まさかあなたたち、わざとあたしたちにムフェト・ジーヴァを倒させるために?」

 

 シプリンがプチロルと共に龍水晶を手に取り、彼女へ向かってせせら笑う。

 彼女たちの功績を讃えるようにぱち、ぱち、ぱちと一つの拍手の音が鳴り響く。

 それを行う白衣姿の男の裂けた口は、大きく歪んでいる。

 

「いやはや、遂にお手柄だな。シプリン君、プチロル君。セーラー戦士どもと狩人たちを騙し、お目当てのモノを横取りしてしまうとは。シンプルだが実に賢明な作戦だった」

「いいえ、滅相もございません」

 

 己が使命のため仕える男に、彼女たちは恭しく辞儀をした。

 敗者に向けてやる視線は無いとばかりにやり取りを行う彼らに、美奈子は今にもバリアを打ち破らんばかりに詰め寄った。

 当然の如く透明の壁に阻まれるのも構わず、彼女はその壁を真正面から鷲掴む。

 

「カオリナイトに土萠教授……いえ、ゲルマトイド! やっぱりあんたたちも、転生して指示してたのね!」

「諸君、久しぶりだな。とはいえ、もうすぐにお別れすることになるだろうがね」

 

 教授は一切セーラー戦士たちに向かず完全に勝ち誇った笑みを浮かべると、指で眼鏡の位置を直した。

 

「それと、龍を崇める狂信者どもにも感謝しなくてはな。奴らが暴れてくれたお陰で、お前たちにはほぼ余力が残っていない。これも、実に」

 

 

 

 発言を、赤黒い冥雷が遮った。

 

 

 

「「ぅあ」」

 

 赤龍の骸のすぐ前にいた、シプリンとプチロルの上半身が同時に消えた。

 残った下半身は倒れ、溶け、黒化し、灰と化して崩れ去った。

 悲鳴すら上げる暇もなく。

 持っていた龍水晶が、音を立てて落ちた。

 

 教授とカオリナイトは、目の前で起こったことに反応出来なかった。

 

 いま翼を広げ降り立った巨影は、一瞬にして『最後にして最強の魔女』を掠め取り、葬り去った。

 上位者にのみ許された、自身の偉大さを誇らしく語る時間が。

 何の前触れもなく、消し飛んだ。

 

 東京タワー跡地には、赤龍の集めた生命力の光がまだ僅かに残っている。

 それに仄かに腹下から蒼く照らされる巨影は、ただ四肢で赤龍の死骸を踏み、静かに佇んで。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」

 

 ひび割れた金属を鳴らしたような、不安定で、如何にも形容し難い無機質な呻きを上げる。

 真っ先に目を見開いたのは、ソードマスターである。

 一方でセーラー戦士たちの反応は、デス・バスターズと全く同じだった。

 

「何なの……あれ」

 

 体長だけで言えば約30m。鋼龍より大きいが、赤龍よりは一回り小さい。

 肩から翼を生やし鋭爪を有する四肢で大地を踏みしめる、典型的な龍の姿ではある。

 

 だが、それ以上に。

 一目だけでソレの異様さを理解できた故に、人間たちの目には実際よりも大きく、そして、見てはならないものを見てしまったという感覚を与えた。

 

 漆黒の全身を、逆鱗ばかりが覆う。

 並の竜ならば、いや、古龍でさえ、鱗は重力に従い下側に向かうが生物として正常であるというのに。

 背には、棘が頭部へ向かって列を成して並んでいる。

 そしてその先の頭に立ち上がる双角こそ、かの生物の異常性を象徴する。

 

 前方へ、上方へ、伸びている。

 額から真っすぐに。

 二股に分かれ互いに双璧を成す異形が、重力に逆らい天を貫かんと──

 

 それだけでも戦慄を与えるに十分過ぎるというのに、かの古龍は巨翼を拡げた。

 体色とは裏腹に鮮やかな、夜更けの色だ。

 漆黒から瞑色、そして曙色へ。

 闇と光を同時に統べるその龍は瑠璃色の喉を鳴らし、全ての人間を何らの区別なく見下した。

 正義の味方のセーラー戦士も、悪の組織のデス・バスターズも、歴戦の猛者たる狩人たちも。

 

 カオリナイトは唖然としていたが、慌てて、転がった龍水晶を手に取る。

 

「教授、『聖杯』をッ!」

「わ、我らが師は、まだ試練をお与えになるかッ!」

 

 教授は当然のようにカオリナイトの手から龍水晶を乱暴に奪い取った。

 カオリナイトが教授を抱き締め、瞬間移動を行った。

 

「ま、待ちなさい!」

 

 レイが声を上げた時には既に姿はなく、残されたのは、戦士と狩人たちのみだった。

 

 

「煌黒龍アルバトリオン……」

 

 

 低い声が、闇を前に響く。

 セーラー戦士たちは、はっとして振り向いた。

 

「あれは恐らく、かつて青い星が出逢うた紫黒の星」

 

 一体どのような能力を持っているのか。この世界においてどのような存在なのか。

 アルバトリオンは人間たちの抱く問いを一切無視して、ムフェト・ジーヴァの亡骸へ首を下げ。

 鋭い牙で肉を引き千切った。

 

「赤龍を……!?」

「させるかッ!」

 

 何も言わずとも、彼の狙いは瞬時に理解された。

 少女たちは次々に美少女戦士へと変わった。

 

「ファイアー・ソウル!」

「シャイン・アクア・イリュージョン!」

「シュープリーム・サンダー!」

「クレッセント・ビーム!」

 

 接近戦ではとても間に合わない。

 遠距離から火力を頭部へ集中、これで何とか気を引くつもりだったが。

 

 彼の全身を覆う逆鱗は、赤龍にはあれほど効いた属性攻撃の嵐を寄せ付けなかった。

 負けじと続けられた攻撃も、煌黒龍は無視を決め込み。

 

 赤龍の胸奥に残っていた龍水晶の残りを肉から引き千切り、悠々と呑み込んだ。

 喉から全身へ、蒼い生命力の光が満たしていくのが見えた。

 

 美少女戦士たちは愕然とした。

 かの龍は、赤龍のような『必死になれば何とかなる』レベルを、あまりにも容易に超えていた。

 これまでの戦いは──この世界での狩猟も、元の世界での壮大な戦いでさえも──すべて児戯であると一蹴されたようにすら見えた。

 

「ソードマスターさんは、青い星さんを連れて戻って下さい。あたしたちは……ここに残ります!」

 

 しかし、レイは、セーラー戦士たちは、残ることを選択した。

 ソードマスターは驚いて顔を上げ、

 

「ならん、撤退せよ! 某にも勝手の分からん存在に当たらせるわけにはいかん!」

「それなら誰が止めるっていうんですか!? 奴はもう、龍水晶を取り込んでしまったんですよ!」

 

 ソードマスターは言葉に詰まる。

 いまの彼には武器が無い。肝心の青い星も完全に気を失っている。

 この世界の文明でさえ、今の煌黒龍にどれほど対応できるかは全くの未知数。

 そして彼女たちに関しては、何よりも。

 

「何より、あたしたちは……地上の人たちを護らなきゃ……!」

 

 地上には何十億の人間がいる。

 ほんの一部である東京を取って見ても、そのうちには。

 友がいる。家族がいる。

 たくさん、帰りを待つ人々がいる。

 もし彼がこの窪みを抜け出すようなことがあれば、彼らは────

 

「救援を呼ぶ。それまで何とか持ちこたえよ!」

 

 遂に、剣の達人も少女たちの熱意に負けた。

 それからは早かった。ソードマスターは老体を思わせない腕力で青い星の身体を背負い、少女たちに振り向いた。

 

「くれぐれも────親友を、悲しませるな」

「……分かりました」

 

 本来ならば、十分過ぎるほど情報と用意を揃えてから挑むべき相手。

 それでも、彼女たちは満身創痍の身でこの龍に対峙せねばならなかった。

 

 異質なる龍は、剣山の如く逆立った胸甲を持ち上げ、喉奥から鳴らし響かせた。

 終末を思わせる、鐘の音を。

 

──

 

 幽境の谷から出ようとするセーラー戦士たちには、居合わせていた編纂者と青い星のオトモアイルーも同行していた。

 

「翼竜は使えませんから、この道を通りましょう。南の細道にさえ入れば龍結晶の地に……」

 

 起伏が激しく入り組んだ地形において、編纂者の能力は遺憾なく発揮された。

 危なくまた見えやすい地点を避けて、安全な龍結晶の地へ逃げ延びるのが彼女たちの計画であった。

 

 そこに銃声、そして岩の小さく砕け散る音。

 一同はすぐ岩陰に避難。

 怯えるちびうさを、うさぎは包み込むようにして護る。

 一際背丈の小さいルナとアルテミスが、双眼鏡を一緒に覗き込む。

 彼らの視界に、銃を構えて並ぶ者たちの姿が入った。

 

「そ、狙撃してきたわ!」

「おいおい、逃してくれたんじゃなかったのか!?」

 

 彼らは困惑するが、

 

「いや……これはわざと外している」

 

 衛が言うと続いて5つ銃声が鳴り、猫たちは反射的に屈むが。

 確かに彼の言う通り、まるで見当違いの方向にばかり撃たれていた。

 

「恐らく、狩人至上主義者たちから脅されてるんだろう。少しでも早く遠くへ逃げて、打開策を考えなくては」

 

 一同は頷いて、編纂者の勧めた道を通って逃げていく。

 しかし、うさぎだけは逃げながらも振り返って、兵士たちのいる方を見つめていた。

 

「……」

「うさぎちゃん! 彼らの気持ちを無駄にしちゃいけないわ!」

 

 ルナの注意によって、やっと彼女も気を引かれながら視線を切って、走り出した。

 

────

 

「標的、見失いました!」

 

 狙撃手からの報告を受けた狩人至上主義者の首領は、眉を少し下げた。

 

「おやおや。これからどうするつもりです? このままでは、彼女たちを更なる過ちへ進ませてしまいますが」

 

 シュレイド兵たちは、無言のうちに視線を合わせた。

 首領の後ろに控える少年兵は視線の行き来に不審そうに目を細めたが、真意までは汲み取れない。

 かつて下士官を務めていた者が、吹き乱れる風に髪を抑えて前に進み出る。

 

「……この遮蔽物の多い地形での狙撃は、作戦無しに困難ですね。一時撤退して本拠地で地図を見直し、奴らの逃げ先を割り出すことをお勧めします」

「ほう。要するに、次は当てられるのですか?」

「正直、何とも言えません。対人用の弾丸は風の影響を受けやすいですし、このライフル自体、こんな暴風下で撃つことは想定外で……」

 

 『想定外』という言葉の直後。

 籠手が、兵士の頬にめり込んだ。

 

「クソボケどもがッ!!」

 

 倒れたシュレイド兵の腹を、首領は鉄靴で何度も蹴り飛ばす。

 

「じゃあ、最初から、言っとけ、よぉッ!!」

 

 兵士は少しでも痛みを抑えようと背を丸めるが、若き狩人姿の男は構わず、何度も何度も腹を蹴り飛ばす。

 あまりの豹変ぶりだが、兵士たちも狩人たちもこの首領の性格は分かっている。黙ってその暴行を見守ることしか出来ない。

 少年兵は、銃を抱き締め、俯いて、震える息を押し込めるように吐いていた。

 

「俺はなぁッ、真実を曖昧にして結論を先延ばしにするヤツが、一番、嫌いなんだッ!」

 

 怒鳴る男は、発作のように息を荒くしていた。

 一旦胸を押さえて深く息を吐くと、やつれた顔で歯を噛み締め、濁った空を見上げる。

 

「これから新時代の英雄になるというのに……学者どもといいコイツらといい、遠回りばかりさせてきやがって……」

「何とも繊細な英雄様だな。僕たちが見た英雄は、そんな壁など一々気にも留めなかったが」

「!?」

 

 首領が振り向く前に、周囲のシュレイド兵が薙ぎ倒される。

 残った兵士が即座に銃を構えようとするも、その時には既に仲間が侵入者に口を押さえられ肉の盾となっていた。

 

「好きなことを好きなだけ叫べて、随分と気分がよさそうだな?」

 

 調査班リーダーと、セーラーウラヌスにセーラーネプチューン──はるかとみちるが、腕や額に包帯を巻いた姿でそこにいた。

 

────

 

「目ぇ離したら駄目よ。未知の相手、何して来るか分からないわ!」

 

 リーダーである美奈子の注意通り、狩人の姿の少女たちは、武器を抜いて斜めに身体を傾けていた。

 これでいつ何が来ても、最低限の対応が出来る。

 

 だが状況は煌黒龍の動きでなく、その体躯そのものから変わっていった。

 

 突然、鱗の隙間が紅に染め上げられていく。

 内側から熱され燃え盛るような、灼熱の色に。

 間もなく、周囲にも異変が起こる。

 

「あ、あつッ……!?」

 

 急激な気温上昇である。

 僅かに残っていた結晶すら、熱波に耐え切れず割れ始めた。

 煌黒龍は依然変わりなく、眼で少女たちの動きを追いっていたが。

 やがて、感情の見えない視線が亜美に行き着いた。

 瑠璃色の喉が膨らみ、吸気を伴ったのが見えた。

 

「……あたしを一番に狙ったということは」

 

 一歩、亜美の判断の方が早かった。

 牙の間から放たれた火炎放射が、地を蹴った彼女のすぐ横を焼き尽くす。

 射程は炎王龍のそれより遥かに長く、温度は冰龍の鱗を鍛えた防具が溶けかけるほど。

 姿勢を立て直した亜美は、自らの持つ『アイスイーグル』を見つめた。

 

「煌黒龍は火の使い手! 水と氷を恐れてる!」

 

 既に、氷結弾は薬室に装填されている。

 即座に構え、撃ち放った。

 確かにそれは前肢の逆鱗から多少の蒸気を吐き出させるが、大して効いている様子はない。

 

「……『恐れてる』は、言い過ぎね」

 

 次は煌黒龍の背後から、レイとまことが太刀と鎚を持って肉迫。

 前脚へ炎刃を、雷鎚を叩きつけるが、それらの直撃を物ともしない。

 だが彼女たちにとっては、それでいい。

 

「やはり炎と雷は無効! 亜美ちゃん、あたしたちは援護に回る!」

「分かったわ!」

 

 少女たちは臨機応変に作戦を組み立てつつあった。

 情報の無い未知の相手には、まず属性の通りを確認する。そして、弱点属性を持つメンバーを中心に、少しでも相手に効果的な立ち回りを見つける。

 理を超えた異質な龍であれど、基本的にやることは同じである。

 続いて美奈子が光を込めた貫通弾を連射するが、弾が完全に逆鱗を穿ち体内に食い込むことはなかった。

 悔しげな舌打ちが響く。

 

「どこまでも硬いやつね……! だけど、生き物なら頭を狙えば何とかなるはず!」

 

 しかし赤龍との死闘を経ても、彼女の判断は鈍ってはいなかった。

 それもそのはず、自然現象の化身たる古龍との連戦を経験した少女たちには、彼らに対する知識が直感という形で蓄積されていた。

 かの特徴的な、天を貫くような角を見て畏怖するよりも先に、あれが重要な器官なのではという意識がまず働いたのである。

 

 続いてまことが鎚を振りかざし、亜美へもう一度火炎放射で薙ぎ払い弧を描く煌黒龍の頭の横に陣取る。

 そこから角へ鎚を叩きつけ、スリンガーを構える。

 煌黒龍の苛立たしげな視線を真正面から捉え、フックを角に引っ掛けた。

 頭に張り付き、押し付け、殴打。

 彼女の怪力と相まって、角に早くも薄い亀裂を入れる。

 

「属性が通らなくても、4人で集中して叩けば!」

 

 せめて、意識をここに留められるかもしれない。

 後はデス・バスターズを倒し、狩人至上主義者を鎮圧した仲間たちと調査団が助けに来てくれれば────

 そういった淡い希望を、両世界の時間のずれという一点に縋ってまで懐いている。

 

 まことの叫び通り、3人の攻撃が角に一点集中する。

 煌黒龍は赤い瞳を細め、それでも亜美へ視線を傾けた。

 それを見たまことは、ある疑問に駆られた。

 

「何で、あそこまで亜美ちゃんを?」

 

 亜美は、内部戦士一の頭脳役だ。

 一方では体力が低い傾向にあり、技のパンチ力にも欠ける。

 彼女はセーラーチームにおける最大の武器であり、弱点でもあった。

 仮に彼女が真っ先にやられれば、チーム全体が相手を攻める手立てを見失う可能性がある。

 ただ、直接的脅威の排除を優先する野生動物相手では、作戦を立てる時間さえあれば特に警戒する必要はない。現に、これまでがそうだったのだ。

 

 だが────煌黒龍は、ずっと亜美だけを狙っている。

 

 弱点属性を使っているという理由では説明しきれない。だって、彼女の射撃は他の攻撃と同じく、ほぼ逆鱗を穿てていないのだから。

 だが相手は他の攻撃には何らの興味も示さず、亜美を追いかけている。

 考える暇すら与えず執拗に攻撃し、疲れて隙を見せるのを待っているようにも見えた。

 

「……いいや、まさかな。そんなのあり得ない」

 

 早々に考えを打ち消そうとした、その時だった。

 煌黒龍は急に身体を屈め、その肢体に、赤黒い稲妻を宿らせた。

 

「!?」

 

 反射的に、戦士たちは回避。

 煌黒龍は、赤龍と比べても明らかに巨体に見合わぬ速度で駆け出した。

 亜美が急いで飛び退いた瞬間、埋めてあった冷気の地雷が爆発。

 その中にあっても平然として、煌黒龍は振り向いた。

 

「今のは、龍属性!」

 

 レイは、即座に叫んだ。

 一度イビルジョーを相手取ったからこそ分かる、赤黒い稲妻の正体。

 そしてそれは、シプリンとプチロルを瞬時に屠ったあの雷だった。

 

「同時に……2属性?」

 

 美奈子は、一時、装填する手も止めて目を見開いていた。

 目を疑いたくなる光景である。

 

 これまで相手取ったモンスターは、たとえ古龍でさえ1体につき1属性が常識だった。

 その常識が、このモンスターには通用しない。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■……」

 

 煌黒龍は、唸りながら上体を持ち上げ、力を溜め始めた。

 赤黒いエネルギーが、角へと凝縮されていく。

 

「避けて!」

 

 美奈子が叫び、近くにいたレイとまことが離脱した直後。

 全身から龍属性の雷が、ほぼ爆発のように轟き、解き放たれた。

 

 先ほどまで紅に染まっていた身体からはいま、紫洸が溢れ出していた。

 

 東京だったところはいま、宵闇に覆われる。

 今よりここは、世界でたった1つ、煌黒龍のためだけにある空間──

 

 『神域』である。

 

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