セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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霧の先に出会うもの④

 ココット村はこの目で魔女を見ようとする老若男女でひしめき合い、村長へと続く道を作っていた。うさぎたちを先頭にして、『魔女』たちが縄で縛られ連れられて行く。彼女たちの服の色が松明の光を反射し、夜の闇にくっきりとその存在を示す。

 だが、何よりも不思議なのはその静けさである。人の道を作れるほどの人数にもかかわらず、聞こえてくるのはひそひそ話だけで、それが余計に気味悪くすら感じられた。

 

「けっ!各々好き勝手に言ってるってことだけは分かるわね」

 

 衆目の好奇の目に晒された『魔女』たちは、当然いい気分ではない。そのうちの1人である美奈子はそっぽを向いて舌打ちしながら、縄に縛られ歩いていく。

 商人の男も村長に並び、またあの奇妙な魔女と出会うとあってかその顔を緊張で強張らせていた。 

 だが、彼女らが近づくにつれ、彼はあれ、と戸惑うように首を傾げ始めた。

 それを無視し、うさぎたちは村長の前に並び立った。『魔女』たちも、彼の目によく見えるように横並びになる。

 

「連れてきたわ、村長。この子たちが、恐らくその人が『魔女』と呼んでいた子たちよ」

「おお、見事じゃ4人とも。よくやってくれたな」

 

 村長は制服姿の『魔女』たちを一瞥すると、満足げにそう言って衣のポケットをまさぐった。

 

「ほれ、報酬じゃ。緊急依頼じゃから、今回ははずむぞ」

 

 ジャラ、と金属の擦れ合う音を鳴らしながら麻袋が取り出される。それの膨らみの大きさは、以前ドスランポスを狩った時の3倍以上はある。この金があれば、装備の強化だけでなく生活に余裕を持たせることもできるだろう。

 だが、それを目の前にうさぎは眉を顰め、唇をぎゅっと歪ませた。

 

「いらない」

 

 うさぎは首を横に振り、拒否の意を示す。あとの2人と1匹も同様にして報酬を突き返した。

 

「なんじゃ、えらく謙虚じゃのぉ」

「おい、嬢ちゃんたち」

 

 『魔女』たちの姿を眺めまわしていた商人が会話に横槍を入れてきた。

 

「すまんが、本当にこいつらが魔女なのか?確かに変わった装いだが、俺が見たのはもっと眩しく、けばけばしい色をしていたはずだぞ」

 

 当然、『魔女』の正体が何の変哲もない少女であるなどという発想がこの男にあるはずもない。

 何時までも不審がってまじまじと観察してくる商人に、アルテミスがシャーッと威嚇しておののかせた。

 レイは、腰に手を当てて強気に出る。

 

「当然よ。だってその子たち、魔女じゃなかったもの」

「なんじゃと?」

「村長さん。念のためこうやって縛ってはいるけれど、彼女たちはただの人間よ。イャンクックに襲われ窮地に陥っていたところを、私たちが何とか救い出したの」

「ほお……」

 

 亜美は、捕われの少女たちを見ながら説明を続ける。

 

「恐らく、この人はモンスターに襲われたパニックで、この子たちを噂と結びつけてしまったのよ。だから、ひとまず彼女たちを保護できないかしら?あたしたちを助けてくれた時のように」

 

 『魔女』たちはいかにもしおらしく頭を下げていた。

 老ハンターは表情を何一つ変えず大山の如く屹立し、この話の行く末を見守っている。

 村長の表情は揺るがなかった。そもそも彼の表情は、何を言っていても基本的に変わることがない。ちょっとは村に慣れてきたうさぎたちでも、彼の心情を察するのには苦労してばかりだった。

 

「この娘たちは受け入れられない。森に帰しなさい」

 

 いつもと変わらない、淡々とした口調で、村長はそう言い放った。

 少女たちからすうっと血の気が引く。うさぎが、戸惑いの声を上げた。

 

「な、なんで?食べ物が少ないから?住む場所がないから?」

 

「そういう問題ではない。もうこれ以上、この村に外から危険を持ち込みたくないのじゃよ」

 

 レイは亜美より前に出て、顎を上げて胸を張り、村長を見下ろして睨んだ。

 

「危険ってどういうこと?根拠を言って!」

「1人は長身にして怪力、茶髪で後ろに一束を纏め、電撃を操る」

 

 村長の一言でまことに視線が集中し、彼女は思わず下を向いて視線の矢から逃がれた。

 

「もう1人は金髪で赤のリボンを付け、光の槍と鎖を操り白毛のアイルーを連れる」

「なによ、それ」

「今先ほどこの村に来た、赤い衣の女から聞いたのじゃよ。『森の中より来たる5人の娘たちには気をつけよ。さもなくば、娘たちの率いる闇の獣どもがこの村を呑み込まん』と」

 

 かすれかけたレイの言葉に、村長は平然と答えた。

 

「村長……?」

「1人はメラルーを伴い、金髪で腰ほどまで届く二束を垂らし、生命を灰と化す光を放つ」

 

 うさぎを見る村長の視線はどこかよそよそしく、冷たいものを感じた。

 村長は次に、亜美、レイを順に指さす。

 

「1人は青く短い髪で、専ら本と策略を好み水を操る。1人は身体を隠すほどの黒く長い髪で、戦いを好み火を操る」

 

 口を挟むのを許さず言い切った後、村長は老ハンターに振り向いた。

 

「とまあ、ここまでくると色々と疑いたくもなるもんじゃよ。なあ、『マハイ』よ」

 

 うさぎたちは、そこで老ハンターの名を初めて知った。

 彼の表情はほぼ変わらなかった。

 

「オヌシら、仲間同士で庇い合っているんじゃあるまいか?魔女と疑われず、この村に入り込むために」

 

 すぐに反論出来る者はいなかった。

 この住民たちの奇妙な静けさも、その女の話を聞いたとすれば自然なことであった。

 いつの間にか、松明で照らされた人の顔が、揃って少女たちを柵のように取り囲んでいる。

 彼女たちは赤の他人同士という体も崩れかけ、僅かに身を寄せ合った。

 

「……庇ってると思うなら、それでもいい」

 

 沈黙の後、うさぎが俯きながら呟き、村長の視線を奪った。直後、彼女は顔を上げる。

 

「でも、そうだったとしても、あたしたちもこの子たちもこの村を襲ったりなんかしない!」

「ならばそれをどう証明する?」

「あたしが身代わりになる。身体中を縄で縛って森に放り込んでくれたっていい。その代わりこの子たちを受け入れてあげて」

「うさぎちゃん!」

 

 ルナが声を荒げるが、うさぎの決意の表情に迷いはない。

 

「そこまでしてこの者たちを庇うとは。魔女だったとしても大した心がけじゃ」

 

 村長は感心したように頷く一方で、空を見上げ頬杖をついた。

 

「ふむ……だが、赤い衣の女はこう付け加えていた。その娘たちの中では、黒猫を連れたのが頭領なのだ、と」

 

 その情報に、少女たちは表情を厳しくする。

 やはり、赤い衣の女とやらはセーラー戦士たちのことをよく知っているらしい。

 

「オヌシが先頭に立って証明するのが最も手っ取り早い。オヌシらで闇に侵食されたモンスターたちを残らず狩猟し、村を脅かさないと証明するのじゃ。それまでこの者たちは離れの納屋で監視する。だが、わしが脅威が過ぎ去ったと判断すればそやつらは解放し、村の一員として認めよう」

 

──

 

 数日後、うさぎ、亜美、レイ、ルナは森丘の森林地帯の奥深くに足を踏み入れていた。

 梢の隙間から漏れた陽が、彼女たちの表情とは裏腹に薄く、柔らかく光を落とす。

 うさぎはバツ印が所々付けられた狩り場の地図と睨めっこしていたが、いよいよ不安そうにレイの横顔を横から覗いた。

 

「レイちゃん、本当にこの道であってるの?なんか、どんどん暗くなってきてるみたいだけど」

 

 レイは、お経のような文言が書かれた紙を左手の人差し指と中指で挟みながら、目を閉じ集中している。

 

「ええ。妖気が僅かに残ってるわ。この方角に向かえば必ず本体に突き当たるはず」

「今回のモンスターは初見のうえ、妖気を宿してる……。気を引き締めてかかった方がいいわね」

 

 亜美は警告するとライトボウガンを構え、いつでも撃てるようにした。

 今回のクエスト目標は『マッカォ』及び『ドスマッカォ』。本来ならば南方の熱帯地方に棲息すると言われる『鳥竜種』、ちょうどこの前戦ったランポスたちと同じ種族の生物である。

 何故そんな生物が妖気を宿してここにいるのかは、今のところ彼女らにも分からないが、いい予感がしないことは全員の表情から明らかだった。

 

「あの人がいなくて怖い、うさぎちゃん?」

 

 ふと、うさぎが誰もいない空間を見つめて考え込んでいるのに気付いたルナが、声をかけた。

 うさぎはかぶりを振り、安心させるように笑顔を見せた。

 

「大丈夫よ!元はと言えばあたしが言い出したことだし」

 

 今回から、老ハンター『マハイ』の支援を受けることは出来ない。本来なら単独で狩猟が行えるのはもう少し腕が上がってからだったのだが、魔女の疑いがかけられた彼女たちはこれから自力でこの異変を解決しなければならない。

 うさぎたちは、草を踏み木をかき分け、森の奥へと進んでいく。

 やがて彼女たちは、大木が聳える広場のような場所に出た。

 

「みんな、構えて!」 

 

 何かに気づいたレイが叫び、太刀の柄に手を添え中腰になる。

 既に、足元には紫の靄がうっすらとかかり始めていた。

 草むらの奥から、タタタタ、と素早く駆ける足音が近づく。

 

「ギャアアアッ」

 

 草むらから叫んで飛び出してきたマッカォを、レイは抜刀と共に斬りつける。

 白刃が首筋から肩にかけての肉を捕え、痛みに身を捩ったマッカォはそのまま地面に倒れ伏した。

 

「やっぱ小さいやつぁ使えないわね」

 

 聞き覚えのある声に、全員の視線が大木の枝の上に立つ人影へと導かれる。

 やけに若々しくハリのある声を持つ女性は、村の者たちが言っていたのと同じく赤い外套で全身を覆っていた。その隙間からは、眼鏡が僅かな光を反射して怪しげに光っている。

 

「不便で汚い狩猟生活お疲れ様、『セーラー戦士』の皆さん」

「……!」

 

 その声に、少女たちは聞き覚えがあった。

 しばらく経ってから、うさぎが確かめるように言葉を紡いだ。

 

「本当に……貴女なの、『ユージアル』!?」

「あら、今でも覚えていてくれて感謝するわ、()()()()()()()

 

 外套と眼鏡が宙を舞うと、その中から若い女性のシルエットが飛び出した。

 彼女は3つに束ねた赤い長髪を揺らし、上半身は真紅のスポブラに、下半身は黒い細帯の下に長くルーズな赤ズボン、そして赤ヒールに身を包んでいる。

 うさぎたちの目の前に着地した彼女は耳元で星型の大きな赤いピアスを揺らし、不敵な笑みを浮かべていた。

 

 ユージアル。

 

 今は亡き悪の組織『デス・バスターズ』に属する魔女軍団『ウィッチーズ5』の一員。

 かつてセーラームーンたちと戦い、苦しめた敵である。

 大自然と巨大生物が支配する世界で、彼女はセーラー戦士の前に再び姿を現わした。




実写版セラムン、観たい……
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