セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて 作:Misma
今日も変わらず、空は青く、雲は白い。
その下の緑の丘の上、うさぎはひとりで座り、空を見て黄昏ていた。
周りに、仲間たちはいない。ここに最初に来たときと同じ、独りぼっちだった。
「そろそろ行かなくっちゃ」
うさぎは呟くと立ち上がり、坂を下って川に沿って歩き始めた。
手ぶらで村に帰ってきたうさぎたちに対する村長の反応は、冷たかった。
彼女たちは最初、イャンクックから邪悪の気がなくなったことで村への脅威は去ったと主張したが、そんな言い訳が通じるわけもなかった。あくまで村長が要求していたのは『討伐』なのだ。
ココット村に村民の姿はなく、あの老ハンター、マハイの姿もなかった。
まもなく亜美、レイ、ルナまでが納屋へ拘束され、彼女の仲間たちとは一切の面会を禁じられた。
納屋に連れていかれるときの彼女たちの表情は、悲しそうだった。
本来ならば容赦なく村から追放であるところを、村長は村の者たちからの情状酌量と言って『特例中の特例』、つまりは最後のチャンスをくれた。
その狩猟対象の詳細を聞かされたとき、うさぎは背筋を強張らせた。
なんでも、そのモンスターは黒い霧に侵されてはいないものの、この数ヶ月で凶暴化したらしく、村長はこれも『魔女』のしわざと考えているらしい。
「奴を単独で完全に討伐するまで、この村への帰還は一切禁じる。失敗すれば、強制的にギルドへお前たちを引き渡すこととなろう」
感情の見えない顔で、村長はそう言った。
当然、防具は革と毛皮で出来ていて『鎧』というにはあまりに燃えやすく柔すぎるし、武器は、鉄の塊を剣の形にしただけである。
まるで、ここでくたばれと言われているかのような装いだ。あるいは、魔女だからそう簡単に死なないだろうと村長は思っているのか。彼女にはその真相は分かりかねた。
うさぎは前にイャンクックと戦った道を経由し、天高く聳える岩山へと向かった。
やがて、高度がかなりある崖の上にできた、大きな広場に出る。狩人の間ではエリア4と呼ばれる場所で、前には高台の上に岩山へと続く洞窟、周囲には岩肌を覗かせた丘陵が見えている。
彼女はあらかじめ、砥石で武器を研いでおく。だが、その手は途中で止まった。
太陽を、大きな影が覆いつくす。
うさぎは立ち上がってその影の正体を見上げた。
空の王者、リオレウス。
彼女が最初に対峙した赤き飛竜が、目の前に姿を現わした。
改めて周囲を見渡したが、やはり誰もいない。
「……こんなことになることくらい分かってたのに」
うさぎは虚しい笑みを浮かべ、零れるように涙を流しながら呟いた。
彼の吐いた火球が、隕石のように落ちてくる。
それはうさぎのすぐ目前に着弾し、少女の小さく、陶器のように白くて華奢な身体が真後ろにぶっ飛ばされる。
後方にあった岩に後頭部を強打し、反動で弾かれるようにして仰向けに地面へ倒れ込んだ。
しばらくして、頭を押さえながら立ち上がる。
リオレウスは容赦なく空中から飛びかかってうさぎを右脚で捕えると、何度も地面に叩きつける。
だが、彼女の身体は潰れない。
防具の下にある魔法の力が彼女を護っている。擦り傷と切り傷だけがただただ増えていく。
ふと彼は脚に込める力を緩めた。
その飛竜は、うさぎの精気を失った顔をじっと睨み、見つめる。
「まさか……覚えてるの?」
リオレウスは、より一層憎悪と憤怒の感情を剝き出しにして、歯を食いしばって唸った。
彼は、彼女を掴んだまま飛び立った。遥か高く、身体が寒さを感じる高さまで。
急速に、風が身体を吹き抜ける。
うさぎは後ろに振り向かなかった、いや、振り向けなかった。
突如、吹きつける風が止んだ。
息が詰まるような時間を翼がはためく音がしばらく満たすと、直後、ふわっと身体を締め付ける感覚がなくなった。
「あっ……」
リオレウスは、樹海の遥か上空でうさぎを手放した。
この飛竜の王は、この小さな生き物は炙って締め付ける程度では死なないと、理解していた。
ぐんぐんと、小さな身体が森の中へと落ちていく。
重力に従うにつれ強くなる風が、体温を奪っていく。
自分を見つめる影が、急激に小さくなっていく。
「まも……ちゃ……」
その名を口にした直後、激しい衝撃とともに何もかも分からなくなった。