セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて 作:Misma
セーラームーンたちが十番街から姿を消したその夜、衛は自宅であるマンションで夕飯を終え、読書をしている最中だった。
「……?」
衛はページをめくる手を止め、本をパタリと閉じた。
「おかしい。この不安な感情は一体何なんだ?」
その時、ベランダの方で何者かが床に降り立つ音がした。
はっとして窓の方を見ると、窓ガラスを隔てて向こうにセーラージュピターとセーラーヴィーナスが控え、真剣な表情で衛を見つめていた。
ヴィーナスの肩にはアルテミス、ジュピターの背中には今朝うさぎを寝坊から起こしていた少女、ちびうさがパジャマ姿でおぶられていた。
衛が窓を開けると、ヴィーナスが先に口を開く。
「ごめんなさい。どうしても今すぐ伝えなくてはいけないことが」
それを聞き、衛の表情はたちまち強張った。
「どうやら、ただごとではないようだな」
「どうか、落ち着いて聞いてください。今日の夕方の調査で、セーラームーン、セーラーマーズ、セーラーマーキュリー、そしてルナが、敵を追った後行方不明になったんです」
衛はそれを聞いて、近くの壁にふらふらと近づき、頭を抱えながら寄りかかった。
「嘘だろ……!」
「すみません、私たちがもっとしっかりしていれば!」
「みんな違うわ。元はと言えばうさぎのせいよ!!」
ちびうさが、耐えきれなくなったように叫んだ。
「あいつ、あたしやまもちゃんに何も言わず、自分たちだけで解決しようとしたのよ。あのバカうさぎったら、何の考えもなしに!」
ちびうさはうつむき、瞳を潤ませながら独白していた。
だが、ちびうさはそれまでの感情を振り払うように一旦ぎゅっと目をつぶると、ジュピターに冷静に問いかけた。
「……ねえ。その恐竜やうさぎたちは、霧と一緒に消えたんだよね?」
「ああ。恐竜の足跡も途中からぷっつり切れていた」
なんとか平静さを取り戻した衛は、ジュピターの言葉を真剣に聞いていた。
「となると、やはり霧が気になる。霧はどこかの場所に続く門になっていて、うさこたちも霧と一緒にその場所に入った可能性がある」
衛とジュピターの視線がぶつかり合う。
「明日の夕方に、みんなですぐ向かおう。早くしないと、うさこがどんな目に遭うか」
「あたしも行く。このままほっとけるわけがないわ」
「すいません。これは、私たちジュピターとヴィーナス、そしてアルテミスの3人にやらせてください」
一瞬だけ、無言の時間が流れた。
「衛さんも、ちびうさちゃんも、私たちが今も、これからも絶対に護らなければならない人。そんな人たちを、未知の敵と会わせるわけにはいかない」
「だけど!」
ヴィーナスに口を開きかけたちびうさに、アルテミスが諭すように言葉をかけた。
「それだけじゃない。この街を護る人が1人もいなくなったら、怪物がまた現れた時に倒せる人がいなくなる。だから……」
「その役を、俺とちびうさに頼みたいっていうことか?」
ジュピターは真剣な表情で衛を見つめ返す。
「どうか、お願いできませんか」
「まもちゃん……」
ちびうさが、願うような視線を衛へと注ぐ。
「分かった。引き受けよう」
「まもちゃん!」
引き留めようとするちびうさに衛は屈んで目の高さを合わせ、穏やかに笑いかけた。
「いいんだ、ちびうさ。2人の言うことはよくわかる。この街の人々も、仲間たちと同じくらいとっても大事だ。ちびうさだって、友達が恐竜に食われるのを見たくはないだろう?」
ちびうさは、横に視線をずらして少しの間考えていた。
「……そこまで言うなら分かったわ。でも」
彼女は、ジュピターたちに小指を立てて差し出し指切りを求めた。
「それなら約束して。必ずみんなで帰って来るって。あなたたちも一緒じゃないと、絶対に許さないわよ」
ヴィーナスは笑顔を浮かべて屈み、指切りに応じた。
「合点承知よ。ここはお姉さんたちに、ドンと任せて!」
「帰ってきたらみんなでいつもみたいにお茶会しような」
ジュピターも同じことをすると、立ち上がって衛に一礼した。
「では、私たちはこれで失礼します。衛さんも、どうかご無事で」
再び彼女たちは来た時と同じ格好でベランダの上に飛び乗った。
「君たちも達者でな」
2人の戦士と1匹の猫は静かに頷くと、後方へ飛び上がって下へと消えた。
再び1人きりになった衛は、静かに薔薇を胸の前に掲げる。
すると彼をたちまち眩い光が包み込み、黒いタキシード姿の美男が現れた。
白いアイマスクとその手に持ったステッキが特徴のその男は、物憂いに沈んだ表情で空の満月を見上げた。
タキシード仮面。
セーラームーンを助け、また自らも彼女に助けられる存在である。
「セーラームーン」
彼は月と見比べるように、手中に取った懐中時計を握りしめる。
タキシード仮面は目を細め、静かに懐中時計へ口づけをした。
「分からない。取り残された俺は、どうしたらいいんだ。どうやって、君のいない日々を過ごせばいいんだ」
────
3人の美少女戦士たちは、丘の上で満月の下、焚火を囲んでいた。
火に炙られるキノコや木の実を見つめていた亜美は、視線を上げてレイに微笑みかける。
「レイちゃんの、セーラーマーズの能力があって助かったわね」
「あらー、案外あたしってサバイバル向きかも?」
レイが得意げになっている横で、うさぎは三角座りで物思いに耽り、足元から立ち昇る火の粉を見つめている。その瞳は、涙でうっすらと潤んでいた。
亜美がふとそれを見て黙り、レイもすぐに彼女を取り巻く暗い雰囲気に気づいた。彼女はため息をついてうさぎの近くに寄り、その顔を覗き込んだ。
「もう、うさぎ。あんたのバカがつくやかましさはどうしちゃったのよ?」
「だって、みんなに会えないんだもん。レイちゃんや亜美ちゃんがいるから、まだマシだけどさ?こんな怖い世界であたし生き残れるのかなって」
「大丈夫に決まってんじゃない。あたしたちがそんな簡単にやられてたまるもんですか」
「でもあたし、あのドラゴン怒らせちゃったし……」
その時、ぎゅうう、と明らかにそれと分かる音が鳴る。
亜美とレイは思わず一緒になって吹き出し、うさぎは顔を真っ赤にして自身の腹を隠すように両腕で庇った。
「こんな時でもあんたの食欲は嘘つかないみたいね」
「もうそろそろ焼ける頃だし、まずはそのことは置いといて食べるとしましょう。スパコンで毒性はないと分析できたけど、お味の方は如何かしら?」
3人は早速、大きな褐色のカサが特徴のキノコを手に取った。匂いは非常によく、森を疲れ果てるまで歩き回った彼女たちの食欲をそそってくる。
一番美味しそうなカサから頬張ると、キノコ独特のうま味とステーキのようなジューシーさが同時に舌を刺激した。これ1本だけでも十分にボリューミーな一品だ。
「ん、おいしい!」
予想斜め上の美味しさに、うさぎは目を宝石のように青くキラキラと輝かせる。あとの2人も同じ感想のようで、口一杯にキノコを頬張って揃って目をまんまるにしている。
「すごいわ!キノコを焼いただけでこんなに美味しいだなんて!」
「レイちゃん、亜美ちゃん!こっちの木の実も美味しいよ!」
いつの間にかうさぎは木の実を刺した串を持って、ハムスターのように頬を膨らませてもごもごさせていた。
「ちょっと!なに勝手に先に食べてんのよ!」
その夜、闇に支配された丘陵の上に、一点だけ生命の火が灯っていた。
────
うさぎたちが野宿していた時、ルナはただ1匹大木のうろの中にいた。
「大丈夫かしら、うさぎちゃん……」
彼女がうろの外の景色を眺めていると、黒い塊がにゅっと上から顔を出してきた。青色の瞳をした、黒猫の顔である。
「ああ、疲れてるのかしら。鏡もないのに自分の顔が見えるなんて、そんな……」
その直後ルナは絶叫して盛大にずっこけ、後頭部を打って気絶した。
相手はルナを興味津々に見つめ、地面に飛び降りるとうろの中にそっと足を踏み入れた。
黒猫は人間のように2本足で立ち、昔ながらの泥棒よろしく口元を緑のマスクで覆い、肉球の意匠が入った熊手のような武器を手にしている。
黒猫が後ろに振り向いて腕を振って合図すると、猫たちが5匹ほど姿を現わして駆け寄ってきた。その中には、黒色でない黄色っぽい毛並みでマスクをしていない個体もいる。
彼らは何かを話し合うと気絶しているルナを担ぎ上げ、木製の台車に載せて森林の奥へと静かに消えていった。