セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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夜に燃える刃、朝に燃える陽①

 うさぎがリオレウスを討伐しに行った日の夕方、ココット村の村長は自宅の中、ランプの横で『緊急報告』と赤字で書かれた紙を広げていた。その隣にハンター、マハイが厳しい表情をして腕組みをして立っている。

 

「村長。大自然は人の思うようには動かないのが当たり前と、あんたも口酸っぱく言っていたな」

 

 村長は無言のまま、紙を片手でぎゅっと握りつぶした。

 マハイは背中を向け、扉を前にしている。

 

「まさしく、その通りになった」

「……」

「おい、村長ぉー!!」

 

 2人の間の静寂を、場をわきまえぬ大音声が乱した。

 はっと振り向くと、教官が勢いよく扉を開け放っていた。

 

「何をしておる!外出禁止の令をもう忘れたのか」

「それどころじゃない!先ほど森丘の集落の獣人族たちが一斉に村に入ってきたのだ!と、とにかく緊急事態だ!」

「なに?」

 

 村が騒然とするなか、納屋に幽閉された戦士たちはそんな事情も露知らず話し合っていた。

 

「……そうか。うさぎは結局、イャンクックを浄化して逃がしたんだな」

「ごめんなさい、うさぎを止められなかった」

 

 アルテミスが頷くと、レイは真っ先に頭を下げた。

 ルナがレイの足元に寄り、宥めるように首を横に振る。

 

「レイちゃんが謝ることじゃないわ。どちらにしろ、うさぎちゃんには無理だったのよ」

「多分、うさぎちゃんは次の獲物も狩れずに帰って来るわ。もうその時は、この村を出ていくしかない」

 

 亜美は机に肘をついて腕を組み、うつむいて言った。

 だが、暗い雰囲気の彼女たちに対し、まことや美奈子の表情は明るかった。

 

「何、どよよ~んてしてんのよ!むしろあたしたちはうさぎちゃんがあの化け物を見逃して、安心したぐらいなんだから!」

「いだっっ!?」

 

 美奈子がレイの肩を景気づけに引っ叩き、まことが腕を組んだ。

 

「大変なのは、いま、うさぎちゃんがやばい化け物と一人ぽっちで戦ってることだよ」

「そうよ。どっちにしろこんな村、とっととおさらばして助けに行きましょう!」

 

 まことと美奈子が立ち上がって変身ペンを取り出そうとしたその時、勢いよく納屋の扉が開かれた。その正体を見た瞬間、2人の顔は険しくなる。

 

「マハイさん!?」

「なんだい、爺さん。今更なにしにきた?」

「まずい事態になった。このままではうさぎが危ない」

「どういうこと!?」

 

 レイが立ち上がると、マハイは皺が付いた紙を広げてみせた。そこには、短く簡潔に状況を伝える文が書かれている。

 文字が読めるレイと亜美、そしてルナは、それを読むうちに冷や汗を滲ませ始めた。

 亜美はまことや美奈子たちに振り向き、叫んだ。

 

「モンスターが2体、うさぎちゃんが戦っている地域へ向かってるわ!1体はリオレウスの番、雌火竜『リオレイア』、もう1体は……『斬竜ディノバルド』!まずいわ、どれも強大なモンスターよ!」

「に、2体も!?」

「じゃあ、なおさらよ!早く助けに向かいましょう!」

「待て」

 

 マハイを押しのけようとしたまことと美奈子を、後ろから来ていた村長が呼び止めた。

 

「その前にわしから、お前たちに話すことがある。亜美よ、その者たちに通訳を頼む」

 

 言われてから何かに気づいた亜美は、驚いた顔で村長の後ろを指さした。

 

「村長!あの、その子たちは……」

 

 村長の後ろに並ぶように、アイルーとメラルーたちがおずおずとした様子でやってきている。

 彼は、言いたいことは分かっていると言うように、ゆっくりと頷いた。

 そのうちの青い瞳のメラルーを見て、ルナは思わず目を丸くした。

 

「あなたたち、あの時の!」

「お久しぶりですニャ、ルナ様」

 

 前に出てきたメラルーは、ぺこりと頭を下げた。

 見てみると、村人たちも彼らの後ろに真剣な面持ちで続いてきている。

 マハイはメラルーの隣に腰を下ろし、優しくその頭を撫でた。

 

「もう、こういう状況になってはな」

 

 そう言ったマハイに村長は深いため息を吐き、では、と咳払いしてから話を始めた。

 

──

 

「あの音の正体はこいつだったのか!」

 

 タキシード仮面が、ステッキを構えながら叫んだ。

 

「どういうこと?」

 

「私はあの緑の竜を追っていたが、その途中であの咆哮を聞いたのだ。あの剣の化け物も、恐らくあの竜を追っていたのだと思う」

 

 リオレウスはリオレイアと並んで、ともにディノバルドと睨み合っている。

 不意にディノバルドが尻尾を持ち上げ、噛みついた。

 火花を散らして刃に力を加えていくうちに、青かった尻尾が次第に赤みを帯びていく。それはまるで、自ら剣を研いでいるようにも見えた。

 次に尻尾を持ち上げた時、その研がれた天然の剣からは煤が除かれ、蒸気と熱を放って輝いていた。

 その灼熱の刃を、ディノバルドは目の前に持ち上げまざまざと見せつけた。

 お前たちはこれからこの刃の錆になるのだ、とでも言いたげに。

 

「色が……変わった?」

 

 ディノバルドが、今度は刃の向きを地面と水平にして、再び噛みついた。

 何をしだすのかとセーラームーンたちが戸惑っている一方、飛竜たちはそれを見て急いで飛び上がる。まるで、これから来る何かを恐れるかのような動きだった。

 戻ろうとする尻尾を無理矢理押さえこむので、噛まれている刃からはギャリギャリと音が鳴り、先ほどより激しく火花が散る。

 それはまるで、刃にわざと力を溜めているかのような──

 

「しゃがめっ!」

 

 タキシード仮面が、2人を抱き寄せて膝をついた。

 

 大回転する炎の一閃が、空間を斬る。

 タキシード仮面のハットの端が、セーラームーンのほつれた髪の先が、寸断された。

 

 それはまるで、居合抜き。

 顎の圧力から解放された剣が、すべてを水平に薙ぎ払ったのだ。

 彼女たちの頭上を掠めた剣先が後ろの壁に元々あった傷跡の上と交差して、「X」の印を刻み込んだ。 

 セーラームーンはそれを見ると、タキシード仮面に叫んだ。

 

「タキシード仮面!あのモンスターを優先して攻撃して!」

 

 ディノバルドは、次は飛び上がってから身を捩じらせ、剣を縦一文字に叩きつけてくる。

 彼女たちが何とかそれを避けるとその生物は剣の向きを反転させて2回目を振り下ろそうとしたが、横から飛竜たちに掴みかかられて攻撃は中断された。

 飛竜たちはセーラームーンたちを気にも留めず、夫婦そろってディノバルドに噛みつき、引きずり回す。その憎悪と執拗さは、先ほどセーラームーンと対峙した時とは比較にならない。

 

 一旦状況を確認したタキシード仮面が、再びセーラームーンの近くに寄る。

 

「何故だ!?」

「あの竜たちを引き離したのは、彼よ!あの壁の傷を見て!」

 

 彼女は叫んで、先ほどのX印を指さした。

 

「彼を追い払えば、余計な犠牲は出さなくて済むはず!」

 

 その声のあまりに強い調子に、タキシード仮面は面食らった顔を見せていた。

 

「あたしは今でもセーラー戦士だけど、ああいう生き物を狩るハンターとしてもここにいるの」

 

 タキシード仮面は争い合う3頭のモンスターを迷ったように見ていたが、やがて決心したように頷いた。

 

「分かった。どうやら君も、ここでいろんなことを学んだようだな」

 

 セーラームーンはちびムーンの方に振り向くと両肩を掴み、外へと繋がる洞窟の方へと押しやった。

 

「さあ、ちびムーン、あなたはここの外に出てなさい」

「な、なんで!あたしもセーラー戦士じゃない!ちっさいあたしは足手まといになるって言うの!?」

 

 セーラームーンは、ちびムーンの肩を強く持って視線を同じ高さにした。

 

「違うの……違うのよ、ちびムーン。これは『狩り』なの。あたしたちが世界を護るためにしてきた戦いと、ここでやる戦いとは、やり方も意味もまったく違うの。あたしは貴女に、これからやることを見せたくない」

 

 ふとちびうさが少し離れた地面に目をやると、落ちている片手剣から血がぽとり、ぽとりと滴っていた。

 

「……わかった」

 

 セーラームーンは、うつむいてしゅんとしているちびムーンに微笑んだ。それは、母が子に向けるそれとなんら遜色なかった。

 

「分かったら、行きなさい。終わったら呼びにきてあげるから」

 

 ちびムーンが駆け足で巣の外に向かっていくのを、セーラームーンは最後まで見守る。

 そして、再び剣を手に取る。

 

「……セーラームーン」

「タキシード仮面様、こんな姿見せてごめんなさい」

「いや、私はどんな君でも力の限り護る。君は、君の思うようにやるんだ」

 

 飛竜たちにもみくちゃにされているディノバルドが、喉元に赤々と光を宿らせる。

 それを見た飛竜たちが離れると、その口から焔が戦車砲のごとく2人に向かって偶然放たれ、目の前に着弾した。

 焔の正体はマグマのような半固体であり、それは燃え滾って火柱を上げながら急速に膨れ上がっていく。

 すぐさまタキシード仮面がセーラームーンの前に割って入り、翻したマントで爆風から彼女を護った。

 煙の中から2人は飛び出し、今も争うモンスターたちへ駆けていく。

 

「奴も生物である以上、つけ入る隙は必ずあるはずだ!まずは弱点を探そう!」

「はい!」

 

 されるがままにされていたディノバルドは、無理やり剣を振り払って飛竜夫婦を追い払った。

 既に剣からは熱が逃げて青色に冷え固まっていたが、その端が両者の胸や脚に掠っただけでそこに鋭く白い亀裂を作った。セーラームーンが使っていた剣とは、比べ物にならない切れ味だった。

 セーラームーンが足もとに近寄り刃物を振り下ろしたが、脚を覆う重厚な鎧が攻撃を防ぎ、蹄のような足の爪が俊敏に動いて彼女を寄せ付けない。

 タキシード仮面が伸ばしたステッキもカァン、と金属音を鳴らしただけでまるで効果がなく、投げた薔薇も咄嗟に薙ぎ払われた尻尾によって難なく弾かれる。

 

「こいつ……無敵か!?」

 

 タキシード仮面が、思わず毒づいた。

 更に言うなら、飛竜たちの攻撃もこの生物に大したダメージを与えられずにいた。

 まだ彼らには火炎という必殺の武器があるというのに、中々それを使おうとしない。

 すぐ背後に、彼らが決して侵してはならない『ハンデ』の領域を背負っているからだ。

 そのため彼らは強靭な脚や尻尾を使って卵からディノバルドを引き離そうとするが、その度に刃をぶん回すので迂闊に近づけない。

 

 そんな中、リオレウスが剣の届かない真上に舞い上がり、そこから急降下、ディノバルドの背中に掴みかかる。

 驚くことに彼はそこから翼を羽ばたかせ、相手の巨体を空中へと持ち上げた!

 ディノバルドは抵抗して脚をじたばたさせるが、この空中では全くの無力であった。

 

「す、すごい……!」

 

 戦いであれほどまで傷ついたリオレウスにまだこれほどの力が残っていたことに、セーラームーンは感嘆の声を漏らした。

 流石にそのまま飛び去るという芸当は出来なかったが、勢いをつけるとそのまま、卵から離れた巣の中央へと放り投げた。

 ドォン、と鈍い地響きが鳴り、横倒しになったディノバルドはその鎧の重量ゆえに立ち上がれない。

 攻撃のチャンスに飛び出そうとするセーラームーンを、タキシード仮面が制した。

 

「我々の出番は、ないのかもしれない」

 

 リオレウスはゆっくりと、もがいているディノバルドに歩み寄っていく。

 彼が睨んでいるのは、奴の喉だった。

 リオレイアがディノバルドにマウントを取り、動かないように自身の全体重で抑えつける。

 

「喉に噛みつくつもりだろう」

 

 いかなる生物でも、喉は共通の弱点だ。

 さっきまでもがいていたディノバルドは、自らの運命を悟ったのかやけに大人しくなった。

 タキシード仮面は結果を確信した顔で、戦いを最後まで見守ろうとしている。

 だが、セーラームーンはぞくりとして顔を青ざめさせた。

 その蒼い瞳の奥に、冷静に時機を待つ計算高さを孕んだ光があったのだ。

 リオレウスが、口を大きく開け、ディノバルドの喉に一気に牙を迫らせた。

 

 噛みついたのは、ディノバルドだった。

 

 諦めず、奴は待っていたのだ。相手の弱点がすぐ近くまでやって来るのを。

 首を鋭い牙でがっちりと捉えられたリオレウスが、短い悲鳴を上げた。

 リオレイアがすぐさま止めようとするが、ディノバルドは首に噛みついたまま逆にリオレウスをバットのように振り回し、自身の上にいたリオレイアに殴るように叩きつけて後ずらせた。

 拘束を振り払ったディノバルドは勢いをつけて立ち上がり、リオレウスを散々地面に叩きつけてから、おろおろしているリオレイアに投げつけた。

 巣の隅に両者が叩きつけられ、煙が立ち上る。

 幸い2頭は卵とは違う方向に吹っ飛んだが、2頭はぐったりしている。

 ディノバルドは、ゆっくりと勝ち誇ったように飛竜夫婦へと歩みを進めていく。

 

「だめっ!」

「お前の相手は、この我々だ!」

 

 セーラームーンとタキシード仮面が飛竜たちの前に飛び出し、それぞれ盾とステッキを構えた。

 ディノバルドは忌々しく唸ると、そのまま剣を背後の地面に振り下ろし、脚を震わせ力を溜めた。

 渾身の力を込めた縦斬りが放たれる。

 そこには何の迷いも躊躇もない。

 そのまま、4つの命がまとめて縦に断ち切られようかという時──

 

 もう一つの剣が、剣と十字を作って受け止めた。

 

 セーラームーンの片手剣ではない。

 正体は、骨と牙でできた大剣と、それを横にして盾として構える大男だった。

 男の脚が地面に埋もれ、両者の剣に込められた力がぎりぎり拮抗しているのが分かった。

 火花散る鍔迫り合いの末、男は大剣に加わる力をそらして受け流し、後ろにずり下がる。

 皺だらけの顔が白髪をちらつかせ、セーラームーンに振り向いた。

 

「よく持ちこたえたっ!」

「……マハイさん……?」

 

 老ハンター、マハイは、真っ直ぐにディノバルドを見つめ直し、剣を縦に構えた。

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