セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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夜に燃える刃、朝に燃える陽②

「セーラームーン!タキシード仮面!」

 

 聞き覚えのある声が、巣の中に響いてきた。

 うさぎは、声がした巣の外へと続く洞窟の方に振り向いた。

 

「みんな!」

 

 仲間たちが、みなセーラー戦士の姿でこちらに走って来る。

 ディノバルドは続々と増えてきた敵に剣を振り上げ、威嚇した。

 彼女たちは一番前に並んで、セーラームーンとタキシード仮面を護る壁となる。

 セーラーマーズが、ちらりとセーラームーンを見て笑った。

 

「ちびうさちゃんから話は聞いたわよ。あんたったらこんなになって、さっさと逃げればよかったのに」

「大丈夫。もう、あたし、モンスターを狩る決心はついてるから」

 

 それを聞き、仲間たちは驚いたように目を見開いた。

 セーラームーンは、刃こぼれした剣を皆に見えるように持ち上げた。

 

「きっと、みんなはあのモンスターを倒しにきたのよね。あたしも、タキシード仮面様と一緒に参加するわ」

 

 マハイは大剣を構えてディノバルドと睨みあったまま、ふっと笑いを浮かべた。

 

「そこまでもう分かっているとは、『読み通り』一皮剥けたな」

 

 セーラームーンとマハイの視線が、一瞬だけ交差した。

 

「あの『ディノバルド』を至急討伐せよとのお達しがギルドから来た。やれるか?」

「……追い払う、じゃダメなのね」

 

 セーラームーンは、そう確かめるように言いながら少しだけ視線を落としつつも、剣を手放すことはしない。

 

「……分かったわ。みんな、一緒に戦いましょう!」

 

 彼女は、すぐに視線を上げてセーラーチームに呼びかけた。

 それを聞いたヴィーナスが、ぐっと拳を握りしめる。

 

「よしきたっ!セーラーチームが揃えば、なんだろうがコテンパンのフライパンよ!」

「まずはマハイさんが言ってた通り、あの剣を狙いましょう!あれを斬り落とせば、数段狩りが楽になる!」

 

 セーラーマーキュリーの言葉を受け、戦士たちは巣の中で散開した。

 なるべくディノバルドを巣の中心に置き、その周りを囲むようにして、巣の隅に横たわっている飛竜たちや卵に攻撃が及ばないようにする作戦だ。

 散らばった相手にディノバルドは長大な剣をぶん回して牽制し、近寄らせようとしない。

 

「これを喰らいな!『シュープリーム・サンダー』!!」

 

 セーラージュピターのティアラから大放電が起こった。

 ディノバルドはそれを咄嗟に剣でガードするが、彼の体を電気が伝導することで痺れが回り動きが鈍る。

 

「大型モンスター相手に麻痺を伴うほどの高圧電流……『フルフル』並みの威力か……!」

 

 マハイが感心するが、当のジュピターは悔しげな表情をしていた。

 

「くそっ、これぐらいしか効かないか!妖魔相手ならこれだけでも止めを刺せたのに!」

 

 その肩を美奈子──セーラーヴィーナスがぽんと叩き、そのまま飛び出していく。

 

「あたしに任せて!『ヴィーナス・ラブミー・チェーン』!!」

 

 光の鎖が、ディノバルドが振り上げようとした尻尾の根元に巻き付いて攻撃を止めた。

 ディノバルドは驚いて抗うが、ヴィーナスは決して離そうとしない。両者の力は拮抗している。

 

「ありがとう、ヴィーナスちゃん!」

「さあ、攻撃だ!」

 

 セーラームーンとタキシード仮面はディノバルドの懐に潜り込み、腹を中心に攻撃する。

 やはりと言うべきか、奴の鎧の硬さは白い腹でも例外なく健在だった。

 だが、それでも先ほどよりは幾分か刃は通る。時節飛んでくる牙を避け、確実に傷をつけていく。

 

「さあ、おじいさんも今のうちにちゃっちゃと攻撃しちゃってー!」

 

 少しでも拘束時間を増やそうと踏ん張るヴィーナスが、顔を赤くしながら叫ぶ。

 

「まったく、うさぎの仲間らしい無茶苦茶ぶりだ」

 

 彼女の力技に笑っているマハイは、既にディノバルドの尻尾の真下に駆け込んでいた。

 彼は、大剣を振り上げて力を溜めている。

 それは戦士たちも目を見張るほどの覇気を放っていて、攻撃していたうさぎも思わず動きを止めて見入ってしまう。

 ディノバルドも恐怖を感じているのか、マハイを凝視しながら必死に拘束を解こうとしていた。

 

「はぁっ!!」

 

 得物が振り落とされる。

 ガアン、と固いものを固いもので穿った音がした。

 青い剣が深く抉られて真っ直ぐな縦の亀裂ができ、そのまま落ちきった大剣が地盤を盛大に割る。

 

「う、うっそぉ……」

 

 マーズが、口を開けたまま呆気に取られている。

 

「いいや、これじゃ足りない!あれを完全に断ち切るには、さっきのように熱が宿った柔らかい状態でなければならん!」

 

 マーズはマハイの言葉を受けてふとディノバルドの尻尾を見つめた。

 彼女は何かを思いついたように、瞳に光を宿らせた。

 

「ならば、これでどうかしら!?『ファイアー・ソウル』!!」

 

 マーズが叫びながらさっと印を結ぶと、火柱が螺旋の渦となって結んだ手の前の空間から放たれる。

 超高熱の火柱がディノバルドの剣を包み込むと、あっという間にその剣はあの眩い、危険な灼熱の輝きを取り戻した。

 

「さあ、今のうちに!」

 

 だがディノバルドはその瞬間、無理やり尻尾を振り回してヴィーナスによる拘束を解いた。

 

「しまったっ!」

 

 これ幸いと、すぐにディノバルドはあの居合抜きの態勢を取った。

 あの攻撃ひとつで、攻勢が一気にひっくり返る可能性がある。

 

「みんな、逃げて!」

 

 セーラームーンが叫んだが、数秒後にはあの万物を水平に断ち切る刃が飛んでくる。

 しかも、全員が伏せようとしていることを知ったディノバルドは、脚を折り曲げ姿勢を低くした。これでは、全員が確実に刃の餌食になる。

 更に運の悪いことに、ディノバルドの傍にはまだセーラームーンとタキシード仮面がいた。この距離では逃げきれない。

 その時、マハイが大剣を地面にガァン、と音を立てて振り下ろした。

 皆が振り向くなか彼は走りだし、力を溜めるディノバルドへと大剣を大地に擦って突っ込んでいく。

 

「マハイさん、やめて!!」

 

 マーズが叫んだが、彼の走りは揺るがなかった。

 マハイは、セーラームーンたちの前に走り出る。

 灼熱の刃が、顎という鞘から引き抜かれた。

 斬撃がマハイの頭に迫る。

 思わずそこにいる誰もが目をつむった。

 

「『地衝斬』ッ!!」

 

 突如振り上げられた大剣に弾かれたように、ディノバルドがよろめいた。

 切断された灼熱の刃の先端が空に舞い上がり、鋭い音を立ててマハイの背後に突き刺さる。

 ディノバルドは衝撃に負け、派手に転がった。

 

「す……すご……」

 

 ジュピターとヴィーナスは、初めて見るハンターの技に呆気に取られていた。

 マハイは振り向き、叫んだ。

 

「さあ、次は主に弱点の喉を狙うつもりだが、君たちはどう打って出る?」

 

 そのとき、ずっと何かを考えていたマーキュリーがマハイの横に駆け寄って囁いた。

 

「私に考えがあります。少し、任せてもらえませんか?」

 

 マハイは、無言で頷き彼女に前を譲った。

 立ち上がったディノバルドが、ますます怒りを滾らせセーラー戦士たちに咆えようとした。

 マーキュリーは足元から冷気とともに無数の水滴を生み出し、それを寄り集めて洪水の如き激流へと変化させる。

 

「貴方が炎の使い手なら、これはどうかしら!?『シャイン・アクア・イリュージョン』!」

 

 激流がディノバルドにぶち当たると、怯んだ鳴き声とともに一気に蒸気が広がる。

 ビキビキッ、と何かが割れる音がした。

 蒸気が止んだ後、ディノバルドの鎧からは金属質の艶が失われ、細かいひびが至るところに入っていた。

 

「やはりね。熱で膨張した金属は、急激に冷やせば脆くなる!これで喉以外にも攻撃が通るようになったわ!」

「マーキュリーちゃん、ありがとう!」

「よし、セーラームーン、畳みかけるぞ!」

「はい!」

 

 セーラームーンとタキシード仮面は、再び前線に出て攻勢に打って出る。

 今度は、セーラームーンの持つ剣でも、タキシード仮面の薔薇でも甲殻に深く傷がつく。明らかに、鎧の強度が低下していた。

 更に攻め立てようとしたとき、不意に、ディノバルドの背中で爆発が起こった。

 見上げると、リオレウスが空中から怒りの炎を滲ませて羽ばたいていた。

 

「リオレウス!貴方まで!」

「あいつめ、相方までやられてよっぽど頭に来ているようだな!」

 

 首の傷のせいでややふらつきながらも、リオレウスの攻撃は凄まじかった。それを、地に倒れ込むリオレイアはじっと見つめている。

 リオレウスが空中から放つ蹴りや掴みで、ディノバルドの背ビレや鎧がひび割れた岩を割るように壊れていく。

 

「いいぞ!鎧が脆くなったおかげで、リオレウスの攻撃も通りやすくなっている!」

 

 大切な卵と妻が戦場から離れているからか、その攻撃には容赦というものが全くない。

 もちろんそれは戦士たちにとっても危険だが、この状況では非常に強力な支援であった。

 

 だが、それでもディノバルドは倒れない。

 ある時は尻尾を地面に擦り付け、その摩擦熱を熱風として飛ばした。

 ある時は、口から吐き出した焔の爆発で視界を塞ぎ、その向こうから剣を振り下ろした。

 もう逃げ場がないと分かってか、その瞳の闘志が揺らぐことはなかった。まさに、手負いの獣そのものだった。

 

「これ以上動き回られたら、たまったもんじゃないわ!」

 

 ヴィーナスが再び拘束しようと、光の鎖を放つ。

 ディノバルドは咄嗟に振り向いて光の鎖に噛みつくと、そのまま馬鹿力で彼女ごと縦方向にぶん回し、空を飛んでいたリオレウスに直撃させた。

 

「きゃあっ!!」

「ヴィーナス!!」

 

 腹に直撃を受けたリオレウスが、姿勢を崩し仰向けになって墜落する。

 気を失って落ちたヴィーナスを、セーラー戦士たちが駆け寄って受け止めた。

 ディノバルドが狙ったのは、セーラーヴィーナスではなくリオレウスだった。

 奴はリオレウスの胸を脚で踏みつける。

 

「やめてっ!!」

 

 セーラームーンが悲痛な叫びをあげる。

 ディノバルドは、今度こそ確実に相手の喉笛に食らいつこうと口を開けた。

 その右目に──もう一つ、空に舞う影が映った。

 横で飛んでいた、大地の女王リオレイアの体が宙がえった。

 振り上げられた尻尾の棘が、ディノバルドの喉に突き刺さる。

 棘に含まれていた紫色の液体が傷口から急速に染み込んでいく。

 彼女は翼を羽ばたかせて正面に回り込み、ディノバルドの頭をがしりと掴む。

 そして、もう一発。

 

 ディノバルドはもんどりうって転がり倒れた。

 リオレイアは着地すると、リオレウスを気遣うように脚を引きずっていった。

 だが口から泡を吹きながらも、ディノバルドはリオレイアに向けて再び口元に火を宿らせていた。

 それを知らせるように喉元が赤く膨らむ。

 

「今がチャンスだっ!」

 

 マハイが叫ぶと、セーラームーンは駆け出した。

 それに気づいたディノバルドは、迎え撃とうとオレンジ色に輝く口内を開く。

 咄嗟にタキシード仮面がステッキを伸ばし、無防備な相手の眼を突いて攻撃を遅らせた。

 

「セーラームーン、今だッ!」

「はああっっ!!」

 

 顎の下で、剣を振り上げる。

 彼女のなまくらが先ほどの喉の傷に直撃し、遂にディノバルドの喉を突き通った。

 深く、深く、突き刺す。

 マグマがどくどくと噴き出してくる。

 ちらりと見ると、リオレイアはリオレウスの無事を確かめた後、力なくその場に倒れ伏すところだった。

 

「どうか……早く終わって!」

 

 半ば祈りに近い言葉を叫びながら、セーラームーンは精一杯剣を押し込んだ。

 ディノバルドは息を荒くするとセーラームーンを弾き飛ばし、剣が刺さったまま再び口を開けた。

 今度こそ焔を吐き出そうと喉を持ち上げて、より一層高温に輝く口内を見せ──

 

 爆発した。

 ディノバルドは何が起こったのかわからぬまま、目を見開いたままよろよろと後ずさる。

 喉にできた空洞から、マグマと火の粉が垂れ落ちた。

 声にならない声を吐き出しながら、彼は剣を地面に擦り付け身体を捩り上げた。

 

 それはまるで、最期にせめて闘志を表そうとするかのように。

 ディノバルドはそのまま横に倒れ込み、ぴくりとも動かなくなった。

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