セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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ライゼクスのBGMほんとすき。


襲雷③

 

「お、おばけーー!!」

 

 うさぎは叫んだそのままの勢いで衛に抱きつき、ルナは前に出て低い声で唸る。

 

「おばけとはちと失礼な物言いやな」

 

 頭を掻く彼の話し方は、彼女らが学んだ言葉とは違い気さくな親しみの湧く訛り方をしていた。

 

「来てくれて『ありがと300万ゼニ―』!最近はえらく若いカップルもハンターをしておるんじゃのう」

 

 座布団に座った紫の羽織と帽子の好々爺が、傘の下で満面の笑みを浮かべていた。

 

「……あ、貴方は?」

 

 うさぎは恐る恐る尋ねると、老人は意外に思ったのか少し首を傾げた。

 

「ん、あの手紙を見てないんか」

 

 彼はすぐに笑顔を取り戻し鍵の形をした巨大な杖をコン、コンと箪笥に打ち付けた。

 

「まあ、この際何でもええ。ワシはちょいと昔から行商を営んどるものでな。みんなからは『竜人商人』と呼ばれとる」

 

 彼はそう言うと、視線を三人から外してここからでも見える高い丘陵へと移した。

 

「前からの馴染みに会おうとココット村に行こうとしていたんじゃが、奴のせいでてんてこ舞い。護衛も逃げてしまい、この有様よ」

 

 よく見ると巨大箪笥には移動用の車輪が付いていて、惨状を表すがごとく所々に傷や汚れが目立っている。

 彼が言うにはこの箪笥は彼の商売を営むための屋台であり、珍しい品物やら生活用品やらが全て入っているらしい。

 やがて竜人商人はうさぎに視線を戻した。

 

「お嬢ちゃんの装備を見ればそれほど心配はいるまい。どうか、わしを村まで護衛してくれんかな?」

「えと、それがちょっと訳あって……」

 

 視線を下にそらしたうさぎの脚の陰から、雛の頭が片方だけ顔を覗かせた。

 

「リオレイアの雛か!!」

 

 竜人商人は前のめり気味に丸眼鏡をくいっと上げ、まじまじとその姿を見つめた。

 

「村にいる仲間がその手紙を見て助けに来ると思います。すみませんが、今の俺たちはむしろ……」

 

 衛がうさぎの前に出ようとしたとき、強く乾燥した風が彼らの身体に吹き付けた。

 

「ま、まさか、もう!?」

 

 うさぎが太陽を覆い隠した影を見上げて叫んだ。

 甲高い咆哮が、場に木霊した。

 周囲の空気が泡立ち、彼らの肌を激しめの静電気のような感覚が襲う。

 

「おお、ライゼクスじゃ、こりゃいかん!」

 

 慌てふためく商人と、屋台の近くに身を寄せた雛の前にうさぎと衛が立ち塞がる。

 

「くそっ、中々鼻が利くな!」

 

 2人は片手剣を引き抜いた。

 上空で半透明の翼が太陽を虹色に透かし、葉脈のような模様をステンドグラスのように美しく輝かせていた。

 

 竜は翼を畳んで急降下する。

 身体を重力のままに任せ、そのまま全員を吹き飛ばすつもりのようだ。

 2人は盾を構え、攻撃に備えた。

 

「目を塞いで!!」

 

 突如、手榴弾状の物体が彼らの前に放り込まれた。

 うさぎが目を見開いた直後、閃光が辺りを包み込む。

 

 ライゼクスは視界を奪われ、悲鳴を上げて地面へと墜落する。

 轟音。

 目の前で、一軒家ほどの大きさはある竜が呻く。

 うさぎたちがまだ状況を把握しかねていると、後ろから誰かが駆けてくる音がした。

 

「みんな!」

 

 果たしてそれは、亜美、レイ、まこと、美奈子、そしてアルテミスの5人だった。

 先頭の美奈子が息を切らしながらうさぎの肩を掴み、一旦息をついた。

 

「どうやらみんな、無事みたいね!」

「みんな、来てくれたの!?」

「ええ、大急ぎでね。間に合ったみたいで良かったわ」

 

 亜美は、ふと先ほどの閃光のせいで屋台に寄りかかって目を回している雛の存在に気づいた。

 

「うさぎちゃん、その子は……」

「えぇーっと、これはね……」

 

 うさぎが説明かねているところで低い唸り声が響いたので見てみると、早くもライゼクスが起き上がろうとしていた。

 レイは、うさぎと衛の背中を自分たちが来た方へと手で押しやる。

 

「事情を聞いてる暇はないようね!とにかく、ここはあたしたちに任せて!」

 

「みんな、大丈夫なの!?」

 

「とにかく、早く逃げて!」

 

 少女4人が、武器を構えてライゼクスへ駆けていく。

 迷ううさぎに衛とルナが目を合わせ、従おうと無言で促した。

 意を決するとうさぎは雛の背中を片手で押し、衛と一緒に商人の乗った屋台をもう一方の手で押す。

 あとは鬱蒼とした景色が晴れるまで、ただひたすら全速力で走るのみだった。

 

──

 

 所は変わり、森から抜けた丘の上。

 うさぎたちは屋台を後ろから押し、なんとか頂上にたどり着こうとしていた。

 

「うんしょ、うん……しょっ!」

 

 なんとか車輪が平面に安定し、うさぎたちはへとへとに息を切らして屋台に背中をもたれた。

 

 森から物音がしないことを確認してから、やっと休憩の時間に入る。

 うさぎが雛を解放すると、彼女は草や木の匂いを物珍しそうにくんくんと嗅いで周りを歩き回っていた。

 

 生き生きとしている雛をうさぎは見惚れたようにしゃがんで見つめていたが、そこに頭上から盆に乗った湯呑が差し出された。

 

「お疲れさん。ほれ、疲れに効く、あまーいお茶じゃよ」

 

「あ、ありがとうございまーすっ!」

 

 頭を下げて礼を言ったうさぎは、即座にそれを口に付ける。

 

「あれ、これって……」

 

 匂いを嗅いで首を傾げた衛の横で、うさぎがお茶を噴水のごとく噴き出した。

 

「しっぶーーー!!!!」

「こりゃ失敬。こっちじゃこっち」

 

 竜人商人は慌ててうさぎに手ぬぐいを差し出しながら、急須でお茶を入れ直す。

 

「もしかしてお嬢ちゃんは、お人よしな方か?」

 

 突然の質問に「へ?」とうさぎが口を拭きながら首を傾げている横で、ルナが悔やむような顔で頭を下げた。

 

「はい、恥ずかしながらホンットーにその通りです……」

「やっぱりそうか」

 

 竜人商人は嬉しそうに顎を撫でながら言った。

 

「お嬢ちゃんを見てると、まつ毛のハンターさんを思い出してな。偶然とはいえ同じことがまた起こるとは思わんかった」

「まつ毛のハンターさん?」

「キャラバンで一緒に旅したハンターさんじゃよ。一緒に旅をしとった時は、あの人の狩りが成功するか失敗するか料理長と賭けとったわい」

 

 うさぎはお茶を啜るのを止め、ジト目で竜人商人を睨んだ。

 

「……ケッコー不謹慎なことするんですね」

 

 竜人商人は高笑いを上げた。

 

「その通りじゃな。じゃが、あの人はそんな時に限っていつも依頼を成功させてきた。賭けが成立したことは1回もない」

 

 嬉々として語る商人の声は、まるでそのことを誇りに思っているようだった。

 やがて周囲の探索に飽きた雛が寄って来て、座っているうさぎの腰に頭を擦り付けた。

 うさぎは話を聴きながらそれをそっと撫でてやると、雛は気持ちよさそうに喉を鳴らした。

 

「お嬢ちゃんは、何となくあの人と雰囲気が似ておる。いつもの間の抜けた感じといい、いざという時の目つきといい」

「前の部分はいらない気がするんですけど?」

 

 うさぎが不服そうに口を尖らせている間に、雛は彼女が持っている湯呑に興味津々な様子で嘴を近づけていた。

 彼女は慌てて湯呑みを天上に持ち上げ、「だーめ!」と雛の顔を覗き込んで叱った。

 

「もう、代わりにこれね」

 

 うさぎが取り出したのは、焼き上げて昼ごはんにと持参していた生肉であった。

 雛はそれを見た瞬間喜んだように飛び跳ね、それを啄もうとする。

 

「ちょっとみんな、待っててね」

 

 うさぎは衛たちから少し離れたところで、雛を押しのけながら肉を切り分けて地面に置いていく。

 肉は少し固くなっていたが、小さくすれば問題ないようで雛はもりもりと肉を平らげていく。

 

「うさぎちゃん、ちびうさちゃんの時よりずっとお母さんしてるわね」

「……だな」

 

 いつの間にか、うさぎ以外の全員がその様子を見守っていた。

 ルナが皮肉っぽく言うと衛は苦笑して頷いた。

 

「既に親がいるモンスターがこれほど人に懐いたの見たのは、初めてやわ」

 

 一方で竜人商人は心の底から驚嘆しているようで、光景の隅々を眼鏡の位置を何度も直しながら観察している。

 

「その雛も、お嬢ちゃんの不思議な空気に絆されてしまったのかもしれんな」

 

 いつの間にか、衛とルナの視線は雛へ集中していた。

 うさぎが雛の顔を覗き込むと、彼女は小さく「ぴぃ」と鳴いた。

 それに対し、うさぎは愛おしそうにふふっと笑った。

 衛が、その光景を見てつられたように微笑む。

 

「……そうかも知れませんね」

「さ、そろそろ行くとするかな?」

「あっ、はい!」

 

 現実に引き戻されたうさぎは、やや名残惜しそうにしながらもすぐ立ち上がり、雛の背中を押してながら屋台の後ろへ歩み寄っていった。

 

──

 

「おりゃあああああっ!」

 

 森の中でのライゼクスの狩猟は、かなりの困難を極めていた。

 雄叫びを上げながらまことがハンマーを構えながら走ってゆくが、ライゼクスは後ろに跳び下がって攻撃を避ける。

 

「ちょこまかとすばしっこい野郎め!」

 

 舌打ちしたまことを迎撃するように、ライゼクスの口から雷球が放たれる。

 リオレウスの火球と違い、それは地面に接触すると竜巻のように稲妻の柱を形成し、屈折しながら走っていく。

 稲妻は草を焼き木を焼き、ライゼクスの動く盾となる。

 まことと同じく獲物の近くで攻撃せねばならないレイ、美奈子もこの影響を受け、なかなかライゼクスに近づくことができないのだ。

 

「さっきの閃光玉のせいでこちらの動きを警戒してるのね。だから隙を見せまいと……」

 

 転がって稲妻から身を躱したばかりのレイが、ライゼクスの赤い目を睨んだ。

 ふと彼女の視線が、狩猟笛の柄を握る美奈子の手に注がれる。

 

「ならば……猪突猛進あるのみよっ!!」

「美奈!」

 

 アルテミスが止めるのも聞かず、美奈子はライゼクスに向かって真っすぐ駆けていく。

 まことも呼びかけようとするが、彼女はそちらに振り返ると叫んだ。

 

「あたしがただのミーハーなんかじゃないってとこ、見せたげる!」

「おい、ちょっと待っ……」

 

 ライゼクスは美奈子を警戒し、電流を迸らせたトサカをシャカシャカと音を鳴らす。

 

「それで威嚇したつもり?ビリビリ虫ドラゴン!!」

 

 美奈子はライゼクスの懐に飛び込んで狩猟笛を高く持ち上げると、頭めがけて思い切り振り下ろした。

 ゴンッと甲殻を叩き潰すような鈍い音。

 頭に白いかすり傷が付いたライゼクスは、鋭く大きい爪の付いた翼を地面に擦り付けながら薙ぎ払うことで反撃を試みる。

 

「よっと!」

 

 美奈子は咄嗟にしゃがんで攻撃を避け、狩猟笛を再び頭に叩きつける。

 

「バレー部所属、体育実技学年トップクラスのあたしを見くびるんじゃないわっ!」

 

 身の丈を超すほどの武器を持って迫りくる牙を軽やかに飛びのき躱すその姿は、ただの女子中学生のそれではない。

 ちなみに彼女がハンターになったのは1ヶ月ほど前、狩猟笛を使い始めたのは1週間ほど前からである。

 亜美は、ボウガンから弾をライゼクスの背中に命中させて注意を引き、美奈子を支援する。

 

「すごい攻勢ね……あたしたちの中で一番戦士の経験が長いだけのことはあるわ」

 

 次弾をリロードしながら彼女が小さく呟いた。

 狩場は、実質美奈子の独壇場と言ってもいい。ライゼクスの頭は既に傷だらけになっている。

 だが、1人厳しい表情をしている者がいた。

 

「あいつ、やたら翼を使ってる」

 

 まことが、軽やかに舞う美奈子の背中を見ながら呟く。

 レイが「え?」と横を向いたとき、彼女はハンマーの柄を握りしめ再び構えていた。

 

「何か、嫌な予感がするよ」

「おい、美奈!そろそろ離脱した方が……!」

 

 アルテミスの声は美奈子に届いていなかった。戦いに熱中しすぎて、周りのことが見えていないのだ。

 

 ライゼクスの攻撃は異常なほど単調であった。見ようによっては、わざと美奈子に攻撃を許しているようにも見える。

 まるで、何かを待っているかのように。

 

 攻撃を行うたび、翼爪が電気を帯びてくる。人間で例えれば、走り続けて息が上がってくるイメージだろうか。

 美奈子の方は類稀なる身体能力でテンポについていけているが、永久には続かない。次第に攻撃の手が緩んでくる。

 ピリつくような乾燥した空気の感覚が、ますます大きくなってゆく。

 

「美奈ーっ!」

 

 アルテミスが走り出した。

 

 翼が森を飲み込むほどの緑の蛍光色に染まり、先ほどとは比べ物にならない電流を放出する。

 

 美奈子は思わず目を見開いて驚き、硬直を見せてしまった。

 ライゼクスが翼を大きく振りかぶる。

 

「あっ……」

 

 翼が降ってきた瞬間、アルテミスが美奈子に全力でタックルした。

 

「アルテミス!!」

 

 背後の大地に殴りつけた翼爪が突き刺さり、轟音とともに巨大な稲妻が走った。

 突き飛ばされた美奈子は地面を転がる。

 代わりにアルテミスが小さな身体に稲妻の余波をもらった。

 

 急いで美奈子はアルテミスの身体を抱き上げた。

 彼女は涙ながらに何度も名前を呼ぶが、応答はない。

 運悪いことに彼の装備は金属で出来ていたため、息はあるものの一発で気絶していた。

 

「野郎っ!」

 

 まことが怒って叫び、ハンマーを携え走ってゆく。

 それを見たライゼクスはトサカを地面に振り下ろして突進し、向かってきた彼女を迎え撃った。

 僅かに残された理性で彼女が避けたすぐ横、稲妻状の3列の模様が走るトサカが一際明るく輝く。

 美奈子、レイと一緒にアルテミスを介抱していた亜美が何かに気づき、戦慄の表情を見せた。

 

「まこちゃん、トサカを使った攻撃に気を付けて!恐らく、翼と同じように……」

 

 言い切る前に、トサカが翼と同じ蛍光色に輝いた。

 赤かった瞳が、電流に満ち溢れ黄緑に光っていた。

 まことは得物を頭めがけて振り下ろしたが、身体を後方にずらされ回避される。

 

 ライゼクスが頭を振り上げる。

 瞬時にトサカから電撃の刃がサーベルのごとく形成され。

 頭上の斧は形なき光り輝く剣と化し、振り抜きざまにまことの腹を横凪ぎに切裂いた。

 

「がっ……!」

 

 彼女は大きく地面とほぼ平行に吹っ飛ばされ、戦士たちの前に転がり込む。

 

「まこちゃん!!」

 

 うつ伏せになった彼女の息は荒く、胸当ては黒く焦げ、口からは血が滲みかけていた。

 まことがなんとか腕を支えにして上体を持ち上げ、辛うじて敵を睨みつける。

 

「くそっ、もっとあいつのことよく知ってりゃ……!」

 

 ライゼクスが大地を蹴って飛び立つ。

 精確に狙いを定め、右の翼を後ろに構えながら戦士たちにめがけて滑空。

 

 地面に接した瞬間に迸る、最大出力の電流。

 前に突き進みながら何度も殴りつけられる翼が、大地をえぐって粉砕していく。

 

 巻きこまれ打ち上げられる少女たちの身体。

 

「ぁっ……」

 

 防具が弾け、壊れ、破れた。

 戦士たちは砂埃とともに地面にモノのように転がされる。

 ライゼクスは振り返ると再び上空に飛び上がり、叫ぶ。

 電流がその竜の全身を巡り、明確な殺意を持って落ちてくるのが分かった。

 




エピソードごとに書いたおかげで、オチをどんな風に付けていくとか分かってきた気がする。
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