セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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襲雷④

 

『エリア4』。

 リオレウスの巣に続く広場は、再びランポスの群れで埋め尽くされていた。

 それを、うさぎたちは大きな岩の影に隠れて見守っていた。

 

「なんであんなに……」

「あいつら、飛竜の卵や雛を狙うんだったな?いま、巣ががら空きってことだろう」

 

 群れの先頭が周りを見回してから巣の中へ入っていき、仲間たちもそれに続いていった。

 

「リオレウス、一体どうしちゃったのよ!?」

 

「恐らくはあのままライゼクスと巣の外で戦ったんだろうが、今帰ってないとなると」

 

 衛はその続きを言うのを躊躇った。

 だが、うさぎはその先を促すまでもなくすぐさま立ち上がった。

 

「すぐ探しに行かなきゃ!このままこの子をあの巣に返したら……」

 

 縞模様の捕食者たちの瞳の輝きが、結果を容易に想像させる。

 うさぎの雛の首元に添えた手が震えた。

 そこにルナが正面に割って入る。

 

「お爺さんの護衛はどうするのよ!?」

「ルナとまもちゃんがついてくれればきっと……」

「また、1人だけで行くつもりか?」

 

 衛の視線に気づき、うさぎははっとして彼の顔を見た。

 ただただ悲しそうな表情だった。

 うさぎの視線は下をさまよい、やがて雛を抱きしめながらその場にうずくまってしまった。

 雛はうさぎの顔を不安げに見つめ、額を鼻先で軽くつつきながらピピピ、と鳴く。

 

「うさぎちゃん……」

 

 ルナもどう声をかければいいか分からず見つめるほかなかった。

 

「ふむ」

 

 ずっと黙って様子を見ていた竜人商人が、口を開いた。

 

「この場合、あの人ならなんと言うじゃろなぁ」

 

 自然と、3人の視線が商人に集まる。

 彼の視線は、地上のどこにも向けられてはいない。まるで、空の向こうにある何かを見ているようでもあった。

 

「まつ毛のハンターさん……のお話ですか」

 

 商人は無言で頷いた。

 

「その人は、かつて無垢な命を手にかけたことがある。幾千の命を奪った、悪意なき大災厄の化身をな」

 

 彼の語る口調は穏やかながらも、ゆっくりとした語り方が3人の意識をくぎ付けにしていた。

 

「言っておった。果たして自分はあの時あれを討つべきだったのかわからない。事実はただ、両者譲れぬものがあって戦い自分が勝った、それだけにすぎないのではないか、とな」

 

 商人は、優しくうさぎを見て言った。

 

「お嬢ちゃんがどう考えようと、結局は人の勝手なわがままに過ぎんのではないかの?」

 

 うさぎは、黙って話に聞き入りながら雛と見つめ合っていた。

 成体とは違って丸っこいアーモンド形の瞳。

 とても肉を引き裂くことも砕くこともできない、丸く未発達な牙。

 彼女は大人しく、うさぎの青い瞳をじっと覗き返していた。

 

「お嬢ちゃんが考えるなりに、気が向くままに決めればええんちゃうんか?」

 

 うさぎはしばらく雛の顔を見ていたが、ぐっと涙をこらえ顔を上げた。

 

──

 

 ライゼクスの背中を、大きな影が掴んだ。

 それを前に膝をつく彼女たちは、影の形に見覚えがあった。

 

「リオレウス!」

 

 空の王が反逆者をそのまま真下の地面に叩きつけ、めりこむほどに踏みつける。

 毒を含んだ爪が甲殻の間に食い込み、ライゼクスは悲鳴を上げた。

 

「生きていたのね……」

 

 戦士たちの表情が明るくなるが、亜美だけは何かを考えるように押し黙る。

 目の前の激しい戦いと相反する静けさに、仲間たちは怪訝そうにその顔を覗き込んだ。

 

「……どうしたんだい?」

「変だと思わない?」

 

 まことが聞いたのに対し、亜美は逆に問い返した。

 

「本来、自分の子が他人に攫われてたらどうする?」

「そりゃあ、取り返すに決まって……」

 

 アルテミスを抱きかかえている美奈子が自分がしていることを見て口を噤み、弾かれるように顔を上げた。

 

「そういや、うさぎちゃんが雛と一緒にいたわ!」

「恐らくライゼクスは雛を狙おうとしてうさぎちゃんに邪魔されたから、それを追いかけてたのよ」

 

 ライゼクスはもはや戦士のことなど視界にもなく、ひたすらリオレウスの拘束から逃れようと翼を羽ばたかせる。

 一方のリオレウスは同じ轍は踏むまいと、全体重で相手を押さえつけて決して離さない。

 ライゼクスの昆虫のように細い脚は、その岩をも砕く脚力に対抗するには貧弱すぎた。

 

「確かにうさぎならやりかねないわね、そうゆうこと」

 

 レイは苦笑しながら防具についた土を払い、頬の擦り傷を手の甲で拭った。

 

「でも、だったらリオレウスはなんでうさぎちゃんに構わないでこっちに?」

「突拍子もないけど……もしかしたらリオレウスは、うさぎちゃんが雛を護ってくれると信じてるんじゃないかしら」

 

 美奈子が聞くと、亜美は真面目な顔で答えた。

 まことは、驚きのあまり目を見張った。

 

「えっ!?いくらなんでもそんなこと……」

「あたしは信じるわよ」

「……レイちゃん」

 

 レイは片脚で踏ん張り太刀を杖にしてよたよたと立ち上がる。

 

「うさぎはおバカでお調子者だけど、いろんな人と仲良くなってきたもの。竜の1頭や2頭、味方につけるわよ」

 

 傷は決して浅くないのに、1人立った彼女はそう言って笑ってみせた。 

 美奈子は、鎧を脱がせて傷に回復薬を塗り終えたアルテミスを抱え上げた。

 彼女は木のうろの近くへ走り、彼をその中にそっと隠した。

 

「……バカだったわ、あたしたち。突っ走ってばかりで、お互いを信じるってことを忘れかけてた」

 

 相棒の傷ついた姿を見ながらそう独り言ちた彼女はまことに振り返った。

 

「飛竜ですらうさぎちゃんを信じてるってのに、最も近くにいるあたしたちがこんなんじゃだめだね」

 

 戻ってきた美奈子が差し出した手にまことが答え、両者は固く手を取り合った。

 戦士たちは、ポーチから回復薬が入った瓶を取り出した。

 

 一方、ずっと組伏せられていたライゼクスは尻尾に電流を流してリオレウスの尻尾をはたく。

 リオレウスが怯んだことで、彼はやっと拘束を払いのける。

 だが先ほどの毒爪が効いたのか、その足取りは不安定である。

 リオレウスが腹の傷でふらつきながらも眼下の敵に咆えようとしたときだった。

 その横っ面に、黄土色の物体が投げつけられる。

 砕け散ったそれは凄まじい臭気を発し、彼は嫌がるように首を振った。

 一方のライゼクスも、突然の臭いに驚き思わず後退する。

 リオレウスはたまらず顔を木に擦り付けたあと飛んでいった。

 

「あんたがヘマを犯したら悲しむ子がいるからね。後はあたしたちに任せな」

 

 リオレウスを追い払ったアイテム『こやし玉』を投げたのはまことだった。

 後ろ姿を見送った彼女は、木々の隙間から覗く傾きかけた太陽に思いを馳せるように目を細めた。

 

「あの子が繋いでくれたこの4人の絆……そう簡単に手放してたまるもんか!」

 

 4人は、再びライゼクスの元に向かっていく。

 

「さあ、行くわよ!!」

 

 美奈子が『メタルバグパイプ』の柄を握りしめて叫んだ。

 それに答えるようにレイ、亜美、まことは得物を取り出し構える。

 ライゼクスは少女たちを睨み、トサカと尻尾の鋏を震わせながら叫んだ。

 直後、尻尾の鋏まで蛍光色に変わり、彼の全身が電流の塊となった。

 

────

 

 2戦目、戦士たちはまとまって慎重に動くことを意識した。

 情報がない相手に対しては、この大原則に従って動く。

 何よりも、どんな能力や特徴を持っているか分からないモンスターに無暗に武器を振り回したことに失敗の原因があった。

 

「あたしなりに考えてたんだけど」

 

 飛んできた雷球をかわした亜美が、3人に向かって叫んだ。

 

「さっき美奈子ちゃんがつけた頭の傷、電流が通って広がってる気がしない?」

 

 空を飛ぶ彼のトサカの甲殻の間、稲妻模様に光る部分の白い傷跡が、確かに膨張して大きくなっていた。

 

「恐らくあの重なり合う甲殻が『圧電素子』の役割を果たしてるのよ」

「……『はつでんしょ』?」

「そ、そういう理解でもいいけれど……とにかくあの精巧な部分に衝撃を与えれば、かなりのダメージを狙えるかも!」

 

 美奈子へ向けた亜美の説明を聞き、まことがにやりと笑った。

 

「ピンチこそ、最大のチャンスってわけか!」

 

 ライゼクスは高度を下げ、尻尾の鋏を開いたままで蜂の針のように突き刺してくる。

 4人は後方に転がって回避し、雷を纏った鋏が頭上で空気を鋭く刈り取った。

 すぐさま美奈子は起き上がり、狩猟笛を肩の上に担ぎ直してからまことに視線を送った。

 

「なら、あたしとまこちゃんは頭を狙いましょう!相手の目標をこちらに向けさせ、ついでに『アレ』も狙う!」

「ああ、わかった!」

 

 まことはハンマーを構えライゼクスの横に回り込む。

 ライゼクスは2人を嘲るように叫んだ。

 

「……っと、そ・の・ま・え・に!」

 

 美奈子は空中から縦に振り回されたトサカを横に避け、狩猟笛をぶん回す。

 それは見事に空振りしたが、彼女の顔に動揺はない。

 楽器から伝わる振動を感じ取り、その表情は確信に変わる。

 

「よし、『旋律』は揃えた!」

 

 美奈子は叫ぶと、ぐるんと笛を回して中腰になった。

 

「みんなお待ちかね、攻撃力強化の演奏よ!!」

 

 彼女がマウスピースに息を思いっきり吹き込むと、郷愁を誘うような、短くも重厚な演奏が森林に響き渡る。

 それが大地にこだまとして共鳴して繰り返す度、その場にいる全員の身体に力が漲っていく。

 

 これが、狩猟笛の効果。

 

 ただでさえ高かった闘志が、更に湧いてくる。

 そして闘志は、身体へも影響をもたらす。

 

「美奈子ちゃん、単語の暗記テストは散々だったくせに武器の扱い方はすぐ覚えるんだね!」

 

 まことがハンマーをライゼクスの左頬に振るいながら叫んだ。

 

「仮にも内部太陽系四戦士のリーダーよ!こんぐらいできなくっちゃあ、セーラーヴィーナスの名が泣くわ!」

 

 美奈子は狩猟笛を更に振り回し、次はまた異なる旋律を演奏する。

 『自己強化』の旋律が発する音波は、彼女自身のただでさえ高い身体能力を更に底上げする。

 彼女の息ははずみ、矢継ぎ早に繰り出される攻撃を走るだけで難なくすり抜けてゆく。

 そこから繰り出される『メタルバグパイプ』がトサカを打ち付け、逃げようと頭を背けた先にはまことの『大骨塊』による連撃の嵐。

 

 まさにライゼクスにとってはどこを見ても重量物で頭を叩かれる、悪夢のようなコンボ。

 

 身軽さと破壊力を兼ね備えた2人のセーラー戦士による攻撃は、ライゼクスの頭に確実に傷をつけていく。

 この連携を目の当たりにしたレイは、亜美とアイコンタクトを取って獲物の周囲を走って回っていく。

 

「あたしと亜美ちゃんは面積の広い翼の左方を狙うわ!」

「りょーかいっ!任せる!」

 

 亜美は、レイに当たらないように的確にライゼクスの光る翼爪を撃ち抜いていく。

 レイはライゼクスの翼に一太刀入れる。翼爪に入った傷から僅かに電流が漏れ出た。

 

「やはり、『柔らかい』……!」

 

 レイは、亜美の言葉が真実であるとの確信を覚えた。

 ライゼクスは翼に走る衝撃を感じ、レイに噛みつこうとするが──

 

「なーによそ見してんのよっっ!!」

 

 その横顔を美奈子の狩猟笛にどつかれる。

 トサカに初めて、ひびが入る。

 

「もらったああああああっっっっ!!」

 

 まことが美奈子がつけたトサカの傷目掛け、力を溜めに溜めたハンマーを振り上げて叩きつける。

 打ち付けた部分が陥没し、『バチンッ』と何かが弾ける音がした。

 

「────────!!!!」

 

 ライゼクスは大絶叫を上げ、頭を大きく仰け反らせる。

 電流が放出するとともにトサカの輝きが消え、瞳の色も赤色に戻る。

 

「狙い通りだわ!」

 

 やっと上がった反撃の狼煙に、亜美は表情を明るくする。

 相手が怯んだ短い隙の間に、まことはハンマーを地面に叩きつけていた。

 ただ空ぶらせているのではない。『必殺技』の準備である。

 正気を保とうと首を振る相手の動きに、リズムと息を合わせ。

 

「せりゃああああああっっっっ!!」

 

 顎に打ち付け、振り抜く。

 

 見事なホームラン。

 

 超重量の骨の塊が脳を揺さぶり、巨大な飛竜の意識を顎ごとぶっ飛ばす。

 

 ライゼクスの口から涎が飛び散り、瞳がぐりんと回った。

 巨体が地面に倒れ込み、もがく。

 

 いま、ライゼクスは一時的な意識混濁状態に突入した。

 まことと美奈子が揃って狙っていた状態が、遂に訪れた。

 

「よし、じゃあこっちも畳みかけるわよ!」

 

 レイが相手が倒れたことで地面に落ちてきた翼に駆け寄った。

 

 ただひたすらに、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る。

 

 集中して攻撃を重ねるほど、彼女から立ち昇る『気』は練られ、強くなっていく。

 亜美も斬り傷に弾を撃ちこむことで支援を行うが、ふと何かを考え付いたように動きを止める。

 彼女は懐から、セーラー戦士の変身アイテムである『スター・パワー・スティック』を取り出した。

 

「もしかしたら……『マーキュリースターパワー、メイクアップ』!」

 

 亜美はセーラー戦士の力を完全に開放し、セーラーマーキュリーへと姿を変える。

 

「レイちゃん、これでもっと傷を深くできるかも!『シャイン・アクア・イリュージョン』!!」

 

 彼女が放った冷水の激流は、レイを見事に避けながらライゼクスの翼に直撃した。

 翼の内部を電流が狂ったように迸り、茶色い甲殻の部分がひび割れる。

 

「亜美ちゃん、ナイス!」

 

 レイは亜美──セーラーマーキュリーに感謝を伝えた。

 

 ライゼクスは起き上がると同時に怒りの形相でレイに噛みつこうとしたが、彼女は怯まず太刀を振り回す。

 彼女の瞳は次に繰り出す攻撃について、確信めいたようなものを秘めていた。

 

 太刀に宿った『気』は最高潮。舞台は整った。

 狙うは、最も大きい翼爪に入った深い傷。

 左右に半円を描く連撃によって宿らせた気を解放していき、そして────

 

「『気刃大解放斬り』っ!!」

 

 『鉄刀【神楽】』から、凄まじい気が放出され大きな円を描いた。

 

 翼爪に一文字状に大傷が入った瞬間、翼からトサカと同じように電流が大放出される。

 ライゼクスはその衝撃に耐えきれず、またしてもその場に倒れ伏した。

 レイは獲物を背に太刀を鞘に納める。

 柄が鞘に触れるカキンという音が、彼女の意識を正常に戻した。

 そこで初めて驚きに光る瞳は、自分でもいまやったことが信じられないようでもあった。

 

「……成功したっ……!」

 

 レイが背負う太刀から、先ほどよりも強い『気』が溢れている。

 この感覚が太刀という武器の真髄の一端であることを、彼女は本能で理解した。

 

「レイちゃん、最高!」

「さあ、まだまだ行くわよーっ!」

 

 まことと美奈子が呼びかけ、レイは唇に笑みを浮かべて振り返る。

 

「言われずとも!」

 

 少女たちは豊かな髪を揺らし、意気揚々と狩りに臨む。

 傾いた太陽が木漏れ日となって照らす、昼下がりの森。

 間もなく、時刻は夕方の時分に差し掛かろうとしていた。

 

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