セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて 作:Misma
「みんな、大丈夫かな……」
昼が終わり、夕方に差し掛かったちびうさは村の入り口でマハイに肩車をしてもらって夕陽を眺めていた。
「きっと大丈夫さ。俺は見に行けんが、あの子たちならきっと……」
その時、ここから見える丘の上に人影が複数現れた。
影のひとつがツインテールを揺らしていることに気づいた瞬間、ちびうさの表情は明るくなる。
「うさぎ……!」
ちびうさはマハイの肩から飛び降りるとすぐにその影の元へ走っていき、彼も彼女の後に続いた。
うさぎも途中からそれに気づいて一人先に走っていき、ちびうさはそのままの勢いでうさぎの胸元に飛び込んだ。
「ごめんちびうさ、遅くなっちゃって」
「遅くなったどころじゃないわよ!怪我とかはないの!?」
「大丈夫、大丈夫。あたしたちがそう簡単にヘマするわけないじゃん」
ちびうさは、その言葉を聞いてやっと安堵するようにため息をついた。
そこに、雛がゆっくりとうさぎの周りをうろつきながら歩いてくる。
気持ちが落ち着いたところで、ちびうさは初めて変わった来客の姿に気づいた。
「あっ、何この子、綺麗でかわいー!もしかしてこの前言ってたリオレイアの女の子!?」
「ああ、ちょっと……」
目をまん丸にしながら、ちびうさがうさぎが止めようとするにも関わらず雛の頭を愛おしげに撫でる。
「……おい、まさか……」
ちびうさの後ろで、マハイは苦い表情でうさぎの顔へと顔を上げると、うさぎは苦笑いして答えた。
「……うん、そのまさか」
うさぎたちは、ライゼクスが雛を狙いうさぎがそれを助けたこと、雛がうさぎに懐いてしまったこと、そしてライゼクスは戦士たちが相手をしていることを語った。
話を聞き終わると、ちびうさは同情するように雛と視線の高さをそろえ、鼻の辺りを優しく手で包み込んで撫でながら話しかける。
「貴女、そんなに怖い思いしたのね……でも、おねえちゃんがいるからもう安心ですからね」
「もし仮にリオレウスが雛を追ってきたらどうする?」
マハイの問いに、うさぎは拳を胸の前で握りしめながらうつむいた。
「ごめんなさい。この子を見捨てるなんてあたしにはできなかった。リオレウスが追ってきたら、その時はすぐ返してあげるつもり」
「すぐ返す?あの種族は家族のことに関しては非常に厳しい。怒って村を襲わない保証などあるのか」
「勿論村からずっと離れたところで、夜が明けるまで面倒を見るわ。あたしが決めたことだから、あたし自身が責任を持つ」
マハイが何か言いかけたが、衛が彼女の肩を抱いて引き寄せる。
「俺も事態が収束するまで彼女と一緒に雛を見守る予定です。自分も彼女の決断を尊重します」
マハイは、気難しい表情をしたまま2人の強い眼差しを見つめる。
ちびうさとルナは、不安げな顔で両者の顔を見比べていた。
「……それでは駄目だ」
うさぎは気落ちしたように視線を落とす。
「君たちだけでは心許ない、俺も今夜は見張る」
その言葉を聞き、うさぎは顔を上げて衛と見合わせほっと胸を撫でおろした。
マハイは表情を緩め、屋台の上の竜人商人と挨拶代わりの握手を交わす。
「何はともあれ竜人商人さん、貴方が本当に無事でよかった」
「なかなかあのお嬢ちゃん見込みがいがあるわな。うちの団長やまつ毛のハンターさんに紹介してやりたいぐらいや!」
彼はうさぎたちを見ると、ゆっくりと頭を下げた。
「ようここまで、お疲れさんやった」
屋台に村人2人が近寄り、村の中へと押していく。
うさぎは商人が横を通りすぎようとした頃、振り向いて呼びかけた。
「商人さん、さっきはありがとう!」
「わしはただちょっと思い出話をしただけや。後はお嬢ちゃん、『あんたなら、できる、できる!』」
「ではおおきにな」と言葉を最後にして、竜人商人は村の中へと村人の助けを借りて入っていった。
向こうで料理長が商人を見て飛び上がり、駆け寄って再会を喜んでいるのが見えた。
うさぎと衛がそれを見てから振り向くと、いつの間にかちびうさが雛の背中に乗って首の辺りに手を回し、目をキラキラさせていた。
「ねえねえ、あたしもこの子と一緒に……いだだだだだだ!!」
そう言いかけたちびうさの耳をうさぎが摘まみ上げ、無理やり雛の背中から引きずり下ろした。
「お子ちゃまは大人しく村にいときなさいよ!どさくさに紛れてまもちゃんを横取りしようったってダメなんですからねー!」
「またそうやって仲間外れにするー!」
「しょうがないだろ、マハイさんが言ってた通りとても危ないことなんだから」
膨れっ面のちびうさを衛がなだめたが、彼女の機嫌は燻ってばかりだ。
「こんなちっちゃい子を虐める悪い奴なんて、あたしがこの手でお仕置きしてやるのにー」
ぶすっとした顔でそう漏らして仕方なく帰っていくちびうさを、マハイは複雑な表情で見送った。
「……マハイさん?」
彼女の姿が見えなくなったところで、彼は一瞬視線を巡らせてから再び口を開いた。
「……一応君たちには話しておこうか、あのモンスターについて」
──
「はあっ、はあっ……」
日が沈みかけた頃、戦士たちの身体はほぼ限界だった。
いくらセーラー戦士といっても、体力は無限ではない。
狩場は平野へ移り、周囲の生き物はみな逃げ出していた。
ライゼクスも、身体のどこを見ても傷のない場所がない。
「まだまだ……やれるわよっ!」
美奈子が、狩猟笛を杖代わりにして立ち上がる。
仲間たちも傷と痣だらけの身体を起こすのを、片目に傷がついたライゼクスはじっと見ていた。
翼がはためく。
風圧で戦士たちが動けないでいるうちに、ライゼクスは既に山に向けて飛び上がっていた。
この傷だらけの巨体が未だに空へと舞い上がる力を残していたことに、戦士たちは驚きを隠せない。
「ま、待ちなさい!」
夜になれば、視界が悪くなるうえ夜行性の生物も動き出す。
出来るならば早めに仕留めておきたいところだ。
美奈子が駆けだそうとしたのを、亜美が腕で制止して「あれを見て」と指を差した。
彼女たちは確かに見た。ライゼクスが飛ぶとき、ぶらりと脚を下げ身体をふらつかせていたのを。
「あれって……」
「ええ、弱ってるわ!」
レイの言葉に亜美が答え、思わず全員の表情が緩む。
「遂に、ここまで来たんだね……!」
「ねーねーまこちゃん、帰ったら何する!?」
「そりゃみんなで祝賀会でしょ!またディノバルドの時みたいにさ!」
「そうそう、ジュースとかお菓子とかたくさん用意して!」
「レイちゃん、それこっちの世界にないわよ!」
「だったら作るしかないじゃなーい!ほら、まこちゃんも、料理長の下で積み重ねた腕の見せ所!」
「ちょっと、流石に狩りが終わった直後に料理はきちぃってー!」
場は完全に女子会のノリと化す。
取り残された亜美は場を収めようとするも、どう言ったものかわからずあわあわと視線と口を動かしてばかりだ。
「おい、油断したらダメだぞ!まだ狩りは終わったわけじゃないんだから!」
木の側の茂みから出てきたのは、包帯を巻いたアルテミス。武器と防具は解き、身軽な状態にしている。
ライゼクスの攻撃により気絶していた彼だが、冷静な手当の甲斐あって今は通常通りに動けていた。
亜美は助け舟にほっとする一方で、残り3人の視線は少し冷たい。
「アルテミスったら、治った途端にこれよね。そんなんだからルナにつーんってされんのよ」
「しょうがないよ。乙女4人の中オス1匹、いろいろ必死なのさ」
レイとまことの発言が深く刺さったのか、アルテミスは背を向けうつむく。
「へいへい、どうせボクなんかお邪魔ですよーだ……」
それを見ていた美奈子はどんよりとしたオーラを纏うアルテミスを脇から抱え上げ、真正面から視線を合わせた。
「こんなの冗談に決まってんでしょ?貴方のお陰でみんなが再び団結できたようなもんなんだし、むしろあたしは感謝してるわよ」
「美奈……」
「まったく、アルテミスったら昔っからこういうところが『フケツ』よねえー」
満面の笑みで言い放った美奈子に、一同が押し黙る。
亜美がこほんと咳払いをして前に出る。
「……美奈子ちゃん、それを言うなら『ヒクツ』よ」
────
飛竜の巣にて、ライゼクスは段差の上でうずくまって寝息を立てている。
それを、洞窟の中から覗く者たちがいた。
「あいつ、空の王の寝床で寝るなんて中々いい度胸してるわねぇ」
「きっとそれほど余裕がないってことなのよ」
アルテミスは背を向け巣の外へと歩を進めた。
戦士たちが不思議そうに見つめていると、彼は振り返って彼女たちを目を細めながら見つめ上げた。
「じゃあ、僕は巣の入り口でじっとしてるよ。華は美少女戦士の君たちに持たせなくちゃあねぇ」
歩いていく白猫の姿を、戦士たちは気まずそうな顔で見送った。
「……アルテミスのやつ、まださっきのこと根に持ってるわね」
「後で謝っておいた方がいいわね」
大戦犯である美奈子が呟くと、亜美がさりげなくフォローを入れた。
まことは獲物に視線を戻すと、掌でテープを巻いたボールをバウンドさせた。
「あとは罠にかけて、これを頭にぶつけてやるだけでおやすみなさいってわけか」
『捕獲用麻酔玉』。
衝撃を与えると強力な麻酔物質を含んだ煙幕を発する。
モンスターを捕獲する際に用いられる道具で、これを弱ったモンスターに数発当てるだけで昏睡状態に陥らせることができる。
「ねえねえ、眠れないときにこれ使ったらぐっすりできそうって思ってんだけど、どうかしら?」
美奈子が聞くと、まことはうへぇ、と舌を出して手を横に振った。
「ぐっすりどころか永遠に寝ちまいそうだからあたしは辞めとくよ」
やり取りを聞いていた亜美はくすっと笑ってから、荷車の中を漁っているレイに話しかける。
「ねえ、荷車に積んでた『落とし穴』もあるかしら?」
「ええ、確かここに……あれ?」
最初歯切れが良かったレイの言葉は、次第に焦りに満ちていく。
「あれ……ちょっと待って、ないわ……!おかしい、忘れたはずはないんだけど」
手あたり次第にモノをどけ始めるレイを見て、まことは信じられないように目を丸くした。
「えっ、嘘だろ!?レイちゃんに限ってそんなこと……」
「探し物はこれかしら?」
前から声が聞こえたと同時に、何かが前方、巣の中央から地面の上を転がってきた。
正体は、中にネットが折り畳まれた筒状の物体。
まさにレイが探していた『落とし穴』そのものである。
だが、目の前にあるそれはズタズタに歪み、引き裂かれ、使い物にならなくなっていた。
「……え?」
顔を上げた瞬間、亜美の表情が引きつった。
「……ユージアル!!」
ライゼクスの前に佇む1人の女性。
あの赤と黒の奇妙な衣装を身にまとった彼女たちの敵が不敵に微笑み、腕を組んで立っていた。
「セーラー戦士の皆さん、ご苦労様。数も増えて賑やかになったものねぇ」
「次はどんな悪巧みをするつもりだ!」
まことが前に出て、ハンマーに手を添える。
それを見て、ユージアルは驚いて思わず腕で身を庇う。
「ちょっ、ちょっと、それで私を殴る気!?そこまで野蛮になったのあんたたち!?」
「うるさい!今は関係ないだろ!」
「そーよそーよ!」
まことを先頭に武器を掲げて騒ぐ戦士たちを前に、ユージアルはその迫力に押されてしまう。
「……たった数ヶ月でよくもま~女らしさの欠片もなくなっちゃって……」
彼女は口に手をやり心底から引いた様子で毒づく。
こほんと軽く咳払いした後、ユージアルは「と・に・か・く!」と大声で仕切り直した。
「悪巧みなんて人聞き悪いわね、私はこの子を助けてあげんの!動物愛護ってやつ!」
「はぁ?悪の組織が?でまかせ言うのもいい加減にしたらどう?」
レイが睨むと、ユージアルはライゼクスの頭の近くまで歩み寄っていく。
彼女は、眠るライゼクスの顎を優しく撫でながら戦士たちを流し目で見た。
「このライゼクスってのはね、可哀想なモンスターなのよ。生まれた時から独りぼっちで、ずっとずっと生きてゆくしかないの」
「独りぼっち……?」
4人の表情が、僅かに揺れ動いた。