セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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襲雷⑥

「ライゼクスという生物に、親の記憶はない」

「お母さんが……いないの?お父さんも?」

 

 村から十分に離れ、振り返ればぼんやり点々としか明かりが見えない丘の上。

 3人で焚火を囲み、雛を隣にして訝しげに聞いたうさぎに、マハイは頷いた。

 

「あの種は子育てをしない。たくさんの幼体が天敵に食われるし、共食いだって平気でする」

「赤ちゃん……同士で……?」

 

 うさぎは目を開いて息を呑み、雛を撫でる手を止める。

 眠りこけている雛は、座っているうさぎの腰に顔を擦り付ける。

 

「自分の身を自分で護る。自分の餌は自分で獲る。そうやって必死に生きようとするうち、より残忍で凶暴な個体が生き残っていく」

 

 マハイの語り口は淡々としていた。

 

「その中で力の弱いものを狙うのは、理に敵った生存戦略だと言える。むしろ、ライゼクスという種はそうでもしなければ生きていけない」

 

 うさぎは、そっと顔を上げて苦しげな表情で問いかけた。

 

「……あたしがやってることは間違いってこと?」

「いいや。ハンターは、英雄にはなれても正義の味方にはなれないということを言いたいんだ」

 

 彼はちょうど落ちていた長い枝で焚火を掻きまわし、空気を入れてから再び椅子に座った。

 うさぎの胸元に隠したハート型の変身コンパクトが、焚火の光を反射している。

 

「この世界で何のために何と戦うのか、仲間たちと少しずつ考えていって欲しい。あの桃色の娘っ子も一緒にな」

「……ちびうさも?」

「ああ、あの子は君と似て、正義感があるのは良いが周りが見えなくなるところがある」

「……そういうことだったんですね」

 

 衛は先ほどのちびうさの言葉を思い出し、マハイの言葉を真剣な表情で受け取った。

 しばらく経ったあとにマハイは立ち上がり、焚火から5mほど離れたところにあった木を指さした。

 もう太陽は沈みかけ、地平線が真っ赤に染まっている。

 

「俺は、ちょっとあっちで見張っておくよ」

 

 取り残されたうさぎと衛は、しばらく火を眺めて時を過ごす。

 

「生まれたときから独りぼっちか。リオレウスとはまるで真反対だな」

 

 衛は焚火の火がチラつくのを見続けている。

 

「……なのに、なぜあそこまで強いんだ」

「……まもちゃん?」

 

 うさぎが見る彼の顔は、取りつかれたように前しか見ていなかった。まるで、火の中に何かを見ているようだった。

 

「俺は、君と会う前から何も変わってない。うさこがいて、始めて俺はこの世に存在出来てる気がする」

 

 彼の顔が、申し訳なさそうに歪んだ。

 

「だから思わず怖くなって、昼の時もわがままばかり言って……ごめんな」

 

 うさぎは、雛を起こさないようにそっと衛の防具の隙間から覗く袖を引っ張った。

 

「謝らないで。あたしだって、まもちゃんやみんながいないと何もできないわ」

「……ありがとな。俺も、精一杯君を支えられるように頑張る」

 

 うさぎの顔に一抹の不安を読み取り、衛は微笑んだ。

 

──

 

「この子には、一生を通じて何の助けも来ないの。あんたたちだって、独りぼっちは嫌でしょう?」

 

 4人の戦士は、さっきとは打って変わって黙ったままユージアルを睨んでいる。

 レイがふと目元を緩め、皮肉っぽく虚しく笑った。

 

「ええ、本当に嫌ね。──で、あんたはそいつをどうやって救ってやるつもり?」

 

 彼女が続けて聞くと、ユージアルはその質問を待っていたとばかりに笑みを浮かべた。

 

「崇高な使命に奉仕できる喜びを教えてあげるのよ。あんたたちがセーラームーンに服従し、正義やら平和やらのために邪魔してきたようにね」

「服従?違うね」

 

 まことがきっぱりと言い、それにユージアルは眉を上げた。

 彼女は胸の前で拳をぎゅっと握りしめる。

 

「うさぎちゃんは、独りぼっちだったあたしたちを友達として受け入れてくれた。確かにあたしたちは守護戦士としてあの子を護る役目があるけど、決してそれだけのために戦ってるんじゃない」

 

 亜美はそれに頷き、まことの拳に己の手をそっと重ね合わせた。

 

「あの子は、目の前で苦しむ命を決して見捨てない。戦うときはいつだって、それを護るためだったわ」

 

 レイと美奈子も2人の近くに集い、四人の戦士たちは一斉に武器を構えた。

 

「あたしたちはそんなうさぎちゃんが大好きだから、こうやって命をかけて戦えるの。そこんとこ、勘違いしないでちょうだい!!」

 

 そう叫んだ美奈子を見て、ユージアルは不快そうに眉を顰めた。

 

「ああ、そう。ちょっとは分かり合えるかと思ったけど、やっぱりただの夢見がちなお嬢さんたちだったわね」

 

 ユージアルは、掌からつまめるほど小さく白い楕円球体を取り出した。それには受精卵のように十字模様が入っていて、掌の上で光りながら宙に浮いている。

 

「それは!」

 

 ユージアルはせせら笑いながらその手をライゼクスの方に差し向ける。

 

「さあお行きなさい、『ダイモーンの種』よ。何の意味もなく生きる獣に主に仕える喜びを教えてあげて」

 

 物体がライゼクスの目の横に接触すると、それは甲殻の間に分け入るようにして無理やり入り込んでいく。

 間もなく、ライゼクスの目が開く。

 だがそこには生気はなく、いつもにも増して爛々と輝く不気味な瞳があった。

 

 操り人形のような浮遊感のある足取りで起き上がると、その竜はトサカをカタカタカタ、と打ち鳴らす。

 黒い星模様が、両翼にはっきりと刺青のように浮かび上がった。

 無機質な音が更に裏返った不快感を催す叫びが、戦士たちの耳を直撃する。

 

「この霧はっ……!」

 

 レイはただならぬ妖気を感じ取って腕で口を覆うが、一気に力が抜けて膝を地面につく。

 

「我がダイモーンよ、この者たちのエナジーを吸収せよ!」

 

 ユージアルが手を振りかぶって叫ぶと、ライゼクスは天上に向かってけたたましく吼えた。

 周囲にわずかに生えていた雑草が片っ端から枯れていく。

 彼女たちの身体からも光が抜け出し、力を奪っていく。

 

「あんたたちが弱らせてくれたお陰で、今回は中々の成果を得られたわ。心の底から感謝するわよ、セーラー戦士の皆さん」

 

 背を向けて歩いていくユージアルに、まことが歯をくいしばって叫ぶ。

 

「待て、ユージアルッ!!」

「せいぜいそこで女の友情とやらの儚さを悟りながら眠りなさい、小娘たち」

 

 戦士たちは立ち上がろうとするも、その意思とは逆に身体は重くなっていく。

 

「……さて、最後の作業に取り掛かりましょうか」

 

 ユージアルは地面に這いつくばる戦士たちに振り向き不敵に笑うと、赤い衣を纏って姿を消した。

 

──

 

 マハイは、森丘へと続く道の風景が瞑色に沈んでいくのを見下ろしていた。

 ふとその中に、木の影から赤い布を纏った人間がどこからともなく姿を現わした。

 

「……あれは」

 

 その人物は、マハイに気づくと足早に慌てた様子で近づいてくる。

 

「これはこれは、マハイ殿!」

 

 声からして女性であることは確かだが、何かと大仰な口調だった。

 

「……また何か用か」

「村の中心に近い貴方なら話が早い」

 

 その人物は、周りを見渡すと厳かな声で耳元に囁いた。

 

「以前もあなた方に警告申し上げたのに、遂にあの娘たちを追い出しませんでしたね。いよいよ災いの時がやって参りました」

 

 マハイの目の色が変わり、「何?」と続きを促した。

 女性は手を振りかざし、マハイの鼻を真っ直ぐに指した。

 

「電竜ライゼクスが呪いを受け、闇を纏い村に迫っております!このままでは、偉大なるココット村は全て焼かれ灰と化してしまうでしょう!」

 

 彼女のやたら恐怖に震え上がった声は、うさぎと衛へも届いた。

 マハイが、そっと2人に目配せをする。

 彼らはそっと立ち上がって雛を連れて静かにその場を立ち去ろうとした。

 だが、そのとき雛が小枝を踏んで音を立ててしまったのが仇になった。

 

「はーい赤信号ーーっ!!」

 

 女性は懐から掃除機のような機械を取り出し、火炎放射を行く先に放った。

 やむなくうさぎたちは立ち止まり、マハイと女性の方に振り向いて歩いていく。

 うさぎと衛は雛を護るようにしながら睨んだが、布の下から見える女性の口元は勝ち誇ったようににやりと歪んだ。

 

「マハイ殿、この者たちからハンターの資格を剥奪し、私へ差し出しなさい!私の昇し……いえ、この村の運命がかかっているのですよ!?」

 

 マハイはしばし考え、目を細めて確かめるように聞いた。

 

「……本当に、この娘を追い出すだけでいいのか?それだけで、村は救われるのか?」

「ええ!今すぐ災いの元凶を村から排除しさえすれば!」

「マハイさん!?」

 

 腕を振り上げ嬉々として言う女性の前で、衛は驚いてマハイに呼びかける。

 うさぎは、こちらを向くマハイの顔を見て悲しそうな顔をしてうつむいた。

 

「……そうよ、あたしが災いを呼ぶ娘の1人」

「うさこ……?」

 

 うさぎが前に出ると衛は彼女を止めようとしたが、彼女は首を振って雛の背を押して衛に預けようとした。

 雛は嫌がり、けたたましく鳴いてうさぎの方に懸命に首を伸ばそうとしている。

 

「……お願いだから、村には手を出さないで」

「小娘は黙って付いてきなさい!!勿論隣の男もね!!」

 

 無情にも女性は言い放ち、鼻息を荒くしてマハイに至近距離で顔を近づけた。

 

「さあ、全ては貴方にかかっています!!どうぞご決断を……!!」

「なるほどな……」

 

 マハイは、顎に手をやり納得したように頷いた。

 

「はっきりと断わらせていただく」

「……は?」

 

 言い放たれた一言に、拍子抜けしたように女性の声が裏返る。

 マハイは表情ひとつ変えず、腕を組んで言葉を続ける。

 

「彼女たちは歴とした我々の仲間だ」

 

 うさぎは、立場を一転させたマハイを驚いたまま見つめている。

 

「村の者たちはみな彼女たちの正体を知っているぞ。村長だって、彼女たちの正体を分かった上で引き留めている」

「なん……ですってぇ……!?」

「村へのお世辞はありがたいが、どうも人の動向についてはよく分かっていないようだな?」

 

 マハイの視線が狼のように鋭くなり、大剣に手をかけた。

 

「ライゼクスなら、今まで10体ほど狩ったことがある。いつでも相手にならせていただこう」

「……それならば仕方がない」

 

 女性は呟いたあと、赤い衣を脱ぎ捨てた。

 

「ならば、この世界を超える力によって誓わせるのみ!!」

 

 その女性は遂にデス・バスターズの女幹部ユージアルの姿を現わし、天空に手を突き出した。

 

「来なさい、ライゼクスちゃん!!」

 

 ユージアルの背後に、大きな影が地響きを立てて降り立った。

 

「このオーラっ……!!」

 

 ライゼクスの翼に光る刺青と撒き散らされる紫の霧に、マハイは咳き込みながら目を見開いた。

 

「さあ、ライゼクスちゃん!この娘どもからエナジーを吸いつくしておしまい!」

 

 ライゼクスは翼を地面に付け、狂ったように裏返った声で叫んだ。

 妖気が全身から一気に放出され、近くの草木をあっという間に枯らしていく。

 そしてうさぎたちからもオーラが立ち昇り、それがライゼクスへと吸収されていく。

 

「があっ……!」

 

 マハイは大剣を抜こうとしたが、その前に地面に倒れ伏してしまう。

 彼は地面を見ながら、鍛え抜かれた身体からいとも簡単に力が抜けていくことに驚きを隠せなかった。

 

「ハンターとやらも、こうなってはただの人ね」

 

 高笑いしながら、ユージアルはマハイの歪んだ顔を見下ろした。

 一方のうさぎは、雛を庇うようにしてうずくまっていた。

 胸のコンパクトが光り、雛のエナジーが吸収されることはなんとか抑えている。

 ユージアルは次の獲物を見定めるように、つかつかとうさぎの周りを歩く。

 

「さあセーラームーン、死にたくなくば、私たちデス・バスターズに忠誠を誓いなさい!!」

 

 うさぎは一切耳を貸さず、胸に抱く雛のつぶらな瞳だけを見つめている。

 

「せめてこの子だけは……!!」

 

 雛は苦痛に悶えるうさぎの顔をじっと不安そうに見つめ、こちらを呼ぶように何度も鳴いた。

 うさぎは苦痛の表情を解き、ゆっくりと胸の中にいる雛に微笑んでみせた。

 

「大丈夫よ……絶対に貴女は、護ってみせるから……」

 

 そのとき、衛が地面を這いながらうさぎを庇うように覆い被さった。

 彼のうめき声が更に大きくなる。

 うさぎは驚き、衛を押しやろうとした。

 

「まもちゃん!そんなことしたら貴方が!」

「絶対にこの子を護るんだろう!?今は耐えろ!きっとみんながすぐ、助けに来てくれる!」

「残念だけど、もうそれはありえないわ」

「え……?」

 

 ユージアルは、勝利を確信した様子で叫んだ。

 

「セーラー戦士どものエナジーはこいつが吸収してやった!今頃、お前たちの仲間は我々の配下に下ってるでしょうね」

「うそ、みんなが……!?」

「さあ、もっとフルパワーで行きなさい!!助けが来る前に干からびせちゃうわよ!!」

 

 うさぎたちが絶望する間もなくライゼクスが叫び、更にエナジーの吸収が早くなる。

 

「ああっ……!」

 

 力を失っていくうさぎたちを前に、ユージアルは愉悦に浸るように舌なめずりをした。

 

「ふふ、ミメット……昇進はお先に戴くわね」

 

 そう言った直後、ライゼクスとユージアルの背後で大爆発が起こった。

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