セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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襲雷⑦

「な、なにっ!?」

 

 メラメラと燃え上がる夜の丘の上。

 その上空を大きな影が凄まじい速度で通り過ぎ、ユージアルの赤い髪を乱れさせた。

 ライゼクスが怯んだことで、エナジー吸収は中断された。

 

「待って見えなっ……」

 

 髪が目に入ってあたふたしているユージアルをよそに、ライゼクスは何度も逃げようとするように翼をはためかせる。

 だがその度翼の黒星が光り、錘付きの枷に縛られたように身体は地面から離れない。

 うさぎは急激に回復していく視界の中で、下から赤く照らされる炎の主の顔を見た。

 

「リオレウス……!」

 

 空の王は飛び回りながら火球を撃ち、周りを空爆していく。

 そこだけ業火に包まれ昼のような明るさになってゆく丘。

 だが攻撃はいずれもうさぎたちに掠めもせず、ユージアルとライゼクスの付近のみに集中していた。

 

「こ、攻撃しなさい、攻撃っ!!」

 

 ユージアルが慌てて上空を指さして叫ぶが、ライゼクスは狂ったように頭を振り、苦しそうに鳴き喚いている。

 彼の混乱を示すかのごとく翼の黒星が点滅しているのを見て、ユージアルは顔に憔悴の色を滲ませ始める。

 

「ちょっと、なんで言うことが聞けないの!!攻撃よ、こ・う・げ・きーーーーっ!!!!」

 

 顔の真横で怒鳴った瞬間に黒星の点滅が止み、ライゼクスの目が光った。

 さっきまでの暴れようが嘘のように、冷静な所作でユージアルの方に視線を向ける。

 

「そうよ、やればでき……」

 

 ライゼクスは、その斧のような頭でユージアルを思い切り突き飛ばした。

 地面を転がり、擦り傷だらけになった彼女は呆気にとられた表情で目の前の竜を見つめる。

 

「……え?」

 

 恨めしそうに彼女を見つめて唸りながら、彼は歩み寄って来た。

 ユージアルの背後では、リオレウスが引き起こした火災が灼熱の壁を作っている。

 慌てながら彼女は空を何度も指差してみせる。

 

「ちょ、ちょっと……なんで私を見るの!あんたが攻撃するのはあいつよ!」

 

 ユージアルは一軒家ほどの大きさのある生物に対して、始めて恐怖をはっきりと顔に滲ませた。

 彼女は跳躍して枯れ木の上に跳び移ろうとしたが、ライゼクスはその前に枯れ木に尻尾を振るい一発で薙ぎ倒す。

 

「ひいいいいいいいいっ!!」

 

 ユージアルは度々転び、倒れながら地獄の鬼ごっこを味わう。

 ちょうど、彼女はライゼクスとお椀型の炎の壁に挟まれるような形になっている。

 ライゼクスは雨のように火球が降り注ごうが全く構わず、その歩幅の大きさを生かして彼女の行く手を阻む。

 

「ちょっと通してーーーーっ!!」

 

 うさぎたちは、その光景を呆然として見ていた。

 そんな中、ユージアルは土壇場でライゼクスの隙をつき、脚の下をすり抜ける。

 

「どいてどいてどいてー!!」

 

 そのままの勢いでユージアルはうさぎたちの方目掛けて全速力で向かってくる。

 

「こっちに来るぞ!」

 

 ライゼクスもユージアルを追ってうさぎたちの方に走って来る。

 力の抜けたうさぎたちは思うように動けない。

 うさぎは、雛を抱きしめながら目を瞑った。

 

 そのとき、うさぎたちの背後から何かがユージアルに目掛けて走って来る。

 そちらの方は暗くてよく見えないが、ガラガラガラと車輪が地面を激しくのたうち回る音が聞こえてきた。

 

「な、なに!?」

 

 目を開けてうさぎが戸惑っていると、暗闇の奥で閃光が走った。

 

「『クレッセント・ビーム』!!」

 

 レーザービームが闇を真っ直ぐ走ってライゼクスの頭に直撃し、彼は仰け反って歩みを止める。

 

「……と、『捕獲用麻酔玉』ーーっっ!!」

 

 次に飛んできたのは、テープにくるまれた白いボール。

 それが向かった先は、走りながらぽかんとしているユージアルの顔面の真正面。

 

「いだっ!」

 

 ボールがユージアルの鼻面で弾け、彼女はそのまま後ろにすっ転ぶ。

 

「なによお、これ……」

 

 彼女は赤くなった鼻をさすりながら起き上がり、不用意にもそのボールを覗き込んだ。

 瞬間、ボールの表面が弾け飛ぶ。

 それはたちまち桃色がかった煙を放出し、ユージアルの全身を覆いつくす。

 

「あれぇ、だんだん眠……く……」

 

 数秒もしないうちに瞼が閉じていき、彼女はそのまま力が抜けたようにうつ伏せに倒れ込んだ。

 

「……間に合ったぁぁ~……」

 

 うさぎたちの前に、信じられない光景が広がっていた。

 リヤカーの上に、四戦士たちが詰め込まれたようなめちゃくちゃな姿勢で乗り込んでいる。

 その前には、恐らくこのリヤカーを引いてきたであろうアルテミスと2匹のアイルーたちが、大汗をかきながら地面にへたり込んでいた。

 

「みんな、なんでここに……!」

 

 疲労困憊状態の戦士たちは斜めになったリヤカーから一気に崩れ落ち、山のように積み重なる。

 一番前で投擲の態勢を取ったままだったまことが、山の下から上半身だけ抜け出してライゼクスを指さす。

 

「セーラームーン……ライゼクスを浄化の力で解放してーー……」

 

 エナジー吸収の影響からか、もはや彼女たちに余力は残されていない様子だった。

 うさぎは頷き、胸元から変身コンパクトを取り出す。

 

「ムーンコズミックパワー、メイク・アップ!!」

 

 ハンターとなってから、2回目の戦士の力の完全解放。

 彼女は愛と正義の戦士服を身にまとい、浄化の力を司る杖『スパイラルハートムーンロッド』を振りかざす。

 

「ムーン・スパイラル・ハート・アタック!!」

 

 マゼンタの光がライゼクスを包み込み、悪のエナジーも身体の深い傷も、余すことなく消し去っていった。

 

──

 

 浄化が終わると、ライゼクスは記憶がないのか戸惑ったように周りを見渡す。

 彼は四戦士の姿を見つけて目を見張り、まだやれるぞと威張らんばかりにトサカを打ち鳴らした。

 

 だがそこにリオレウスが掴みかかり、ライゼクスは面食らったように飛び上がる。

 先ほどのセーラームーンの浄化により多少傷は回復したものの、流石に体力を消耗しているのかもはやそこに昼の頃ほどの覇気はない。

 ライゼクスは空中でリオレウスと威嚇しあいながらそのまま向こうへと飛んでいく。

 周囲の消火を終えた後、それらが小さい影になるまでセーラー戦士たちは空を見守り続けていた。

 

「みんな、どうしてここまで来れたの?」

 

 うさぎたちの前に、アルテミスが胸を張った様子で前に歩いてくる。

 

「僕が不憫な目に遭ったお陰で、上手く行った」

 

 彼の口調はその内容とは逆に少し得意げだった。

 

「僕は……ちょっと事情があって巣の外にいたんだけど、ライゼクスの叫び声を聞いてこっそり見たらユージアルがいたんだ!そりゃもうびっくりさ!」

 

 アルテミスがユージアルを指さすが、彼女はまだ眠りの真っ最中で「きょうじゅ~おでんわです~」などと夢の中で呟いている。

 

「ユージアルが消えたあと、どうしようかとオロオロしてたらリオレウスがやってきて、ライゼクスを追っ払ってくれたんだ!」

 

 彼が見上げた先の月明かりの下、ライゼクスであろう小さくなった影を追うもう一つの影を、衛はじっと見つめた。

 

「偶然だろうが、二度も俺たちを救ってくれたのか……」

「そうそう、だから僕が急いで森の奥の集落に駆けこんで、アイルーたちに協力してもらったってわけさ!」

 

 アルテミスが振り返った先でアイルーたちが手を振り、お礼のマタタビをリヤカーに載せて森の方へと消えていった。

 

「本当に、みんなが無事で良かったぁ……!」

 

 説明を一通り聞いたうさぎは、肩に入っていた力が緩みその場に崩れ落ちた。

 雛が喜ぶように翼をはためかせ、うさぎは彼女に向かって柔らかく笑いかけた。

 それを見ていた戦士たちも、それにつられるように互いを労わるように微笑み合う。

 

「でも妖魔になったにしてはいろいろとおかしかったわね、今回のライゼクス」

 

 美奈子が口火を切ると、衛は連なるようにして先ほどの炎の中で見た光景を思い出した。

 

「そういえば最後、ユージアルの指示に従っていなかったな……」

 

 レイは、それを聞いてどこか満足げに微笑んだ。

 

「きっとあいつは元から、束縛されるなんてまっぴらごめんだったのよ」

「そうだな……」

 

 地面に腰を下ろしてずっと黙っていたマハイが、遠い目で月に重なる2つの影を見ながら呟いた。

 

「束縛は空を飛ぶ竜には似つかわしくない。特に、天涯孤独なあいつにとってはな」

 

 未だにリオレウスと小競り合いをしていたライゼクスは負け惜しみのような咆哮を上げると、遂に空の向こうへ点となって消えた。

 

「みんな!」

 

 馴染みのある声が聞こえて振り向くと、丘の下桃色のツインテールをした少女と黒猫が並んで姿を現わした。

 うさぎはちびムーン──ちびうさを安堵した表情で出迎えたが、すぐに厳しい表情に変わった。

 

「あんた、村にいるように言われてたでしょ!ルナもお目付け役だったのになんで……」

 

「ごめんね、ちびムーンが嫌な予感がするって言ってたものだから……。でも、もう終わったようで安心したわ」

 

 ルナの横でちびムーンは、申し訳なさそうにしながら目を伏せた。

 

「実はそれだけじゃないの。何となくその子がどこかに行っちゃう気がして……せめて、あたしも目の前で見届けたいって思ったから」

「ちびムーン……」

 

 月明かりを、ゆっくりと翼が覆い隠す。

 帰ってきたリオレウスが、うさぎたちの前にそっと降り立った。

 それが意味するところは、ひとつ。

 マハイがすっと立ち上がって言った。

 

「お別れの時間だ」

「……うん」

 

 うさぎは雛を置いて立ち上がり、もう一度セーラームーンの姿に変わった。

 母の匂いが突然無くなったからか、雛は戸惑ったようにうさぎの顔を見て首を傾げる。

 

「さあ……お父さんのところへお帰り」

 

 セーラームーンはしゃがみ込み、そっと雛の身体の正面をリオレウスの方へ向けてやる。

 

 リオレウスは雛を見た後、セーラームーンの姿をじっと見つめていた。

 言葉こそ交わせないが、静かな眼差しは少なくとも憎悪を含んでいるようには見えなかった。

 

「勝手にこの子を持ちだしたりなんかしてごめんなさい。恨むならどうか、あたしだけを恨んで」

 

 だが、既にリオレウスの眼中にセーラームーンたちの姿はなかった。

 リオレウスは、雛に向かって呼ぶように低く、ゆっくりと優しげな声で唸る。

 雛はそれを聞くとリオレウスの方へ、うさぎに何回も見せたあのおぼつかない足取りで少しずつ歩いていく。

 時節迷うようにセーラームーンの方を振り返ると、首元の金色の鱗が月光を反射して光る。

 空の王は黙って子の身体を傷つけないように優しく咥え、飛び上がる。

 竜の姿が向こうへ緩く弧を描いて、小さな点へと変わっていく。

 

「あの子、きちんと育ってくれるかな」

 

 セーラームーンが呟くと、衛は彼女の肩を抱いて答えた。

 

「育つさ……金の翼を抱いて、綺麗な姿になってずっと向こうの空へ飛んでいくだろう」

 

 ちびムーンはその言葉を聞きながら、セーラームーンの哀愁に満ちた横顔を静かに見つめていた。

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