セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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行かん、新天地へ①

 

「放してくれる!?早く今日の分の報告書作成して提出しなきゃいけないのよ!」

 

 うさぎたちがかつて四戦士が囚われていた小屋に入ると、ユージアルがミノムシのように縄でぐるぐる巻きにされて地面に転がっていた。

 うさぎが前に出る。

 

「ユージアル、貴女たちデス・バスターズは一体なにを企んでるの!?」

「だから、んなこと言えるわけないでしょうが!企業秘密って何度言ったら分かるの!」

 

 ひとしきり叫んだあと、彼女は一息ついて冷静な表情になった。

 

「早くこの縄を解きなさい。そうしないなら、すぐこの村を焼き払うわ」

 

 うさぎたちは思わず身構える。

 だが、その中で唯一マハイだけがやたら落ち着いた物腰で、ユージアルの顔の前でしゃがみ込んだ。

 

「『焼き払う』……か。果たしてあんたにそんなことが出来るのか?」

 

 ユージアルは目を細めて顎を引き、マハイに向かってにやりと笑った。

 

「ふん、野蛮人のくせにこけおどしか。ちょっと私が本気を出せばこの程度の束縛など……」

 

 彼女は縄の下で手足を動かし、脱出を図る。

 だがいつまで経っても縄は解けず、額に冷や汗が浮かび始める。

 

「力が……入らない……」

「麻酔玉の強力な効果もろくに知らないとは恐れ入ったよ」

 

 半ば呆れたようにマハイはため息をついた。

 彼は立ち上がり、話しながらユージアルの前の床を往復する。

 コツ、コツ、という音が小屋の中でやたら大きく響いた

 

「焼き尽くすだけなら簡単だ。イャンクック1匹に火を吐かせるだけでいい。なのに、あんたはそれを()()()()()

 

 彼の視線が、研ぎ澄まされたナイフのように鋭くなっていく。

 

「俺があの子たちを追い出す()()でいいのかって聞いた時、それでいいってあんたは鼻息荒くして答えたよな?」

「まさかあの質問は……!」

 

 ユージアルは明らかに動揺していた。亜美が気づいて人差し指を立てる。

 

「そういえばそうよ。あの状況、いつでもあたしたちの命を狙うこともできたはずなのに、結局はそうしなかった」

 

 彼女の言葉にマハイは満足げに頷き、再びユージアルを見下ろした。

 

「あんたたちは紫の霧で何か企んでる。それは確実だ。何故かは知らんが、ここの世界の連中にはそのことに気づかれたくない」

 

 彼女は唇が震えたのを誤魔化すように、それをきつく噛み締めた。

 部屋の僅かな光源であるランプの火が、じじ、と揺れる。

 

「村や人を消すことなんか、愚の骨頂。ハンター発祥の地たるココット村でそれをやったら世紀の一大事になる。……じゃあ、どうやって隠すか?」

 

 マハイの髭に囲まれた口が、淀みなく次の言葉を告げた。

 

「もうひとつ、別に怪しいヤツを作り上げて泳がせる」

 

 セーラー戦士たちは、確信したように互いに視線を交わした。

 

「貴女に課せられた目的は、セーラー戦士に濡れ衣を着せて自分たちの隠れ蓑にすることだったのね」 

 

 亜美がまとめると、レイが蔑んだ目でユージアルを睨んだ。

 

「ほんと、やること陰湿になったわね」

 

 彼女は思わず、突き刺さる視線から自らの目線を外した。

 

「こけおどししてたのはあんただ、ユージアルさん。むしろあんたは、この村を()()()()()()()()()()んだ」

 

 マハイは、顔をユージアルの耳のすぐ横に持っていき、冷徹な声で告げた。

 

「もしこれが表沙汰になれば、あんたらの上はなんと言うかな?」 

 

 ユージアルは、その質問に答えることができない。目を見開き、わなわなと震えて沈黙を保っている。

 

「さあ、後はどう料理してやろうか」

 

 まことが、組み合わせた手の骨をボキボキと鳴らす。

 それを見て、ユージアルはそれまでの沈黙を破った。

 

「なぜそこまでセーラー戦士どもを信用できるの!?こいつらは、本当にお前たちを利用しているのかも知れないのよ!?」

「さあ、なんでかな……」

 

 取り出したのは、剥ぎ取り用ナイフ。

 それが振り上げられるのを見て、彼女は思わず目を瞑った。

 ダンッと、ナイフが音を立てて何かを穿つ。

 

「と、ここで朗報だ」

 

 ユージアルの鼻の前で、床に深く突き刺さったナイフがきらりと光った。

 

「特別に今回のことは黙っといてやる。結果的に、村に直接危害を及ぼしたわけではないからな」

「その代わり、この村や近くの地域に未来永劫手を出すんではないぞ。もし変な動きを見せれば、即座に全地域ハンターズギルドに事実を伝える」

「そ、村長!?」

 

 セーラー戦士たちは、いつの間にか自分たちの真ん中に佇んでいた村長に気づいて仰け反る。

 村長は、いつもと変わらずにこやかに微笑んで玄関に立っていた。

 

「『偉大なる』ココット村なんて言ってくれるほどじゃ。そこの英雄がどれくらい顔が聞くかぐらいは知っておろう?」

 

 村長の眼窩の奥が光ったような気がして、ユージアルの顔から一気に血の気が引いた。

 

「早く上に伝えてこい、セーラー戦士は無事私が村人どもを洗脳して追い出しました、とな」

 

 マハイは、にこりともせず彼女に言い放った。

 

──

 

 月が高く昇り、村は寝静まった。

 茅葺屋根の家の前、マハイは椅子に座りながら小瓶に入った緑色の回復薬を包帯で巻いた上半身に振りかけていた。

 シャワーを浴びるように豪快にぶっかけた後、一息ついて椅子の背に背中を預け目を瞑っていると、隣から声がかかった。

 

「マハイさん、ユージアルの奴は……」

「ああ、衛か。あいつならあのまま荷車に積んで山の中に放してやった。あのナリでも魔女なら生き残るだろ」

 

 ずっと向こうからランポスの群れの鳴き声と「ぎゃーっ!」と人の甲高い悲鳴が聞こえた気がしたが、2人は気にしないことにした。

 

「そういえば、明日にはここを出るというのは本当か?」

「はい。いつまでもここに留まっていては今回のようにご迷惑をおかけしますから」

「そうか。寂しくなるが、故郷に戻るためには仕方ないことか」

「マハイさん……俺たちがここを出る前に、貴方がどんな風にハンターとして歩んできたか、伺ってもよろしいですか」

「どうしたんだ急に。まあ、ここに座れ」

 

 マハイはもう一つ少し離れて隣にあった椅子を勧めた。

 衛は礼を言ってそこに座り、マハイの顔を真っ直ぐに見つめた。

 

「俺はうさこを護るために何ができるのか……それを考えたいのです」

「既に十分護れてるじゃないか」

「いいえ、今回のライゼクスの件で思い知らされました。俺は、ハンターとしても戦士としても未熟者です」

 

 衛の表情は至極真面目だ。

 

「貴方が今まで何をしてきたかを聞けば、その手がかりが見つかるような気がするのです」

「聞いてもつまらんと思うが……」

「ええ、構いません」

 

 しばらくマハイは沈黙を保っていた。

 すう、と一呼吸置くと、マハイはとつとつとだが語り始めた。

 

「俺は……孤児だった」

 

 衛は、思わず顔を上げた。

 

「生まれの村はモンスターの襲撃で灰になってな。お袋が赤ん坊の俺を抱いてここに駆け込み、その直後に」

「……お悔み申し上げます」

 

 衛が沈痛な面持ちで頭を下げて言うと、マハイは苦笑いしてやめてくれ、と言う風に手を振った。

 

「気にするな。村のみんなが既に親代わりのようなところもあったから、悲観はしてない」

「そうですか……それは本当に良かった。隣に支えてくれる人がいて」

 

 心の底から安堵したように顔を緩ませた衛を見て、マハイは何かに気づいたようだった。

 

「……まさか、君も?」

「実は俺も、親の顔を覚えていません」

 

 衛が空を見上げると、ちょうど雲が月を隠していた。

 

「6歳の頃に両親をなくし、それ以前の記憶を失って……自分がどんな人間だったのかも思い出せない」

「そうだったのか」

「ずっと空っぽのままでした。どれだけ勉強ができても、運動ができても、誰も俺の隣にいてくれなかった」

「……」

「そんな中、あの子が現れた」

 

 雲に隠れていた満月が、再び顔を出して2人の顔を照らした。

 

「最初はそりが合わなくて口喧嘩ばかりだった。でも戦いのなかで互いの正体を知っていくうち、いつの間にか惹かれていって」

「今は首ったけってわけか」

「それもあって余計に恐ろしいんです。この世界ではずっと隣にいられないかもしれないと思うと」

 

 それを聞き、マハイの顔に陰が出来た。

 

「今から、君にとっては残念に思われることを言うかも知れない」

「え?」

「俺は……君と違って護れなかった側の人間だ」

 

 マハイは、自身の腰の鎧に手を添えた。

 鎧の金属の部分が既に錆に覆われ、何回も傷つき拭った形跡がある。

 

「俺がハンターになりたての頃は、武具も設備も遥かに貧弱だった。ここも何回も更地にされかけたものだ」

 

 彼は虚空を見て、嘆きとも哀しみともいえない表情で呟いた。

 

「駆け出しの頃、40人いた村人が一晩で村長と俺の2人に減ったこともあった」

 

 マハイは、自身の目元に刻まれた深めの傷跡をそっと撫でる。

 

「ひたすら己の腕を磨き、狩るしか俺には能がなかった。それでも護れなかったものの方がずっと多い」

 

 マハイは語りながらボトルから木のジョッキに温めた回復薬を注ぎ、衛に渡した。

 

「俺の人生は、風に吹かれて漂っているようなものだ。最初からそういう運命だったのかもしれない」

「……運命……」

 

 マハイの顔を見ると、細められた目の間から穏やかな光が差していた。

 

「だから、愛する者を護り通す君たちには俺にないものを感じるんだ」

 

 衛は静かにジョッキを口につける。

 回復薬の成分が、エナジーを吸い取られ弱った身体を癒していくのが分かる。

 衛は、ジョッキの液面に映った月を見てじっと何かを考えた。

 彼の唇が、悔しげに歪んだ。

 

「まもちゃーん!なに話してたの?」

 

 そこに、防具を開放し私服に戻ったうさぎたちセーラー戦士たちが集まってきた。

 しばらく衛はその顔を見たあと、ふいに立ち上がった。

 

「マハイさん。貴方にあることを打ち明けた上で、その上で誓いたいことがあります」

 

 彼はきょとんとしているうさぎの耳元に手を当てた。

 

「うさこ……しようと思うんだが」

「えー?そんなことして大丈夫!?」

 

 うさぎは余程驚いたようで、顎に手をやり衛からの提案の内容に悩んでいる様子だった。

 ちびうさは話の内容が気になって彼女の近くに駆け寄った。

 

「何なのようさぎ!あたしたちにも聞かせてよ!」

「あのねあのね……」

 

 うさぎが彼女たちにまた耳打ちすると、「えー、どうしよう?」などと言いながら輪っかを作って囁き合う。

 

「なんか今更な気もするよなあ」

「でも、あまりこの世界に影響を与えるようなことは……」

「流石にマハイさんなら大丈夫でしょ」

「マハイさん、全然良い人じゃん!あたしは全然オッケーよ」

 

 まこと、亜美、レイ、ちびうさの順に口々に言い合うのを、マハイは訝しげに見ている。

 

「そうね!口固そうだし、歳も歳だからすぐ忘れてくれるかも知れないし!」

「ちょっと美奈子ちゃんっ……」

 

 美奈子が割と大きい声でデリカシーがないことを言うとレイが咎め、マハイはかくんと肩を落とした。

 こほんと咳払いをし、うさぎたちはマハイから少しだけ遠ざかる。

 

「じゃあ……あまり驚かないでね」

 

 うさぎは、胸のコンパクトを握りしめ目を閉じた。

 セーラー戦士たちもロッドを取り出し、彼女たちを幻想的な光が包み込む。

 

 さっきまで地味な私服に身を包んでいた少女が、汚れひとつない純白のドレスに身を包んでいた。

 彼女自身が大きくなったと見紛うほど長い裾。胸には神々しい金の装飾、背中には大きなリボン。

 金髪のツインテールはより長くなり、1本1本がしなやかに輝く。

 額には眩い三日月の印。

 女神と見紛うほどの柔和な笑み。

 

「あたしは月の王国シルバー・ミレニアムの王女『プリンセス・セレニティ』」

 

 その隣にいるのは、マハイとさっきまで話していた背の高い男。

 濃い紺の鎧に、銀の肩当てと腰当。

 表が黒、裏が赤の鮮やかなマント。

 その果敢な出で立ちは騎士そのもの。

 彼は、マントをばさりと翻す。

 

「俺は地球国の王子『プリンス・エンディミオン』」

 

 まるで、2人の並び立つそこだけが別世界のようだった。

 マハイは思わず立ち上がって何回も目を擦り、目の前の光景が夢ではないと確認する。

 

「あたしたちは、かつて数千年前にあった2つの王国の人間の生まれ変わり。前世で敵に分かたれたあたしたちは、遥かな時を経てまた巡り合ったの」

「……じゃあ、あの娘たちも」

「ええ。この子たちはあたしたちを守ってくれる守護戦士。とは言っても、現世では友達って感じだけどね」

 

 セレニティが後ろに笑いかけると、戦士の姿となった彼女たちは先ほどと変わらない少女らしい微笑で答える。

 

「俺たちは数千年の時を超え、デス・バスターズのような輩と戦う使命があります。そして遠い未来には我々が再び王国を治め、この子を……」

 

 エンディミオンの前に立ちながら肩に手を置かれたセーラーちびムーンが、照れくさそうに笑う。

 

「そ、あたしはうさぎの後の女王様!びっくりしたでしょ!」

「なんだか……毎回君たちは俺の想像の斜め上をカッとんでくるな」

 

 マハイは気後れしたように笑い、自身の心を落ち着けるようにため息をついて椅子に座り直した。

 

「約束された運命の愛……か。人間、みんなこうだったらいいんだが」

 

 2人の姿を見ながら感慨深げに呟いたマハイの言葉を聞くと、セレニティは怒り肩でずかずかと歩み寄った。

 彼女は困惑するマハイの顔を両手で挟みこみ、無理やり自分の方へ向かせる。

 

「あのね!あたしたちは現世でもちゃーーんと過程を経て、少しずつ好きになってったのよ!そこんとこ間違ったらだめっ!」

 

 そのむんっと膨れた顔は『月野うさぎ』そのままだった。

 繊細な姿と裏腹の年相応の少女らしさに、マハイの口端から笑いが噴き出た。

 

「あぁはいはい、分かってるよ」

「そう、彼女の言う通りだからこそ、この姿を明かしました」

 

 エンディミオンは目を閉じると、すぐに衛の姿へと戻った。

 

「マハイさん。俺は前世の運命に胡坐をかかず、彼女に見合うぐらい強くなります。貴方がかつて、村を護るためそうしたように」

 

 彼は、マハイに手を差しだした。

 

「……そういうことか」

 

 マハイは微笑んで応じ、固く握手を交わす。

 

「『護る者』の強さ……どうか俺に存分見せつけてくれよ」

 

 一番納得行かないように顔を割り込ませたのは、セレニティだった。

 

「なによー、男の人2人でにやにやしちゃって。なんか上手いこと使われたような気分だわ!」

 

 少し離れたところでは、ルナとアルテミスが彼らの様子を見守っていた。

 

「だから男同士の秘密ってやつだろ、そっとしてやれって」

「ほんと便利よね~、その言葉」

 

 アルテミスが小声で宥めると、ルナが皮肉っぽい視線を向けた。

 

「ねえねえマハイさん、一体何話したんですか!?教えてくださーい!」

「いや、それはここで言うことじゃあ……」

「そんなこと言われたら余計に気になるじゃないですかー!」

「ちょっとだけで!ちょっとだけでいいですからぁー!」

 

 戦士陣は、秘密という言葉に過剰反応した美奈子、まこと、レイがマハイを質問攻めにしていた。

 セレニティはうさぎの姿に戻ると、衛の腕にぴったりとひっついて顔を見上げた。

 

「でも、あたしもまもちゃんに負けないように頑張る!」

「ああ、みんなで帰れるようにたくさん勉強しような」

「……勉強はヤダ」

 

 衛の微笑も虚しくぶすっと不貞腐れたうさぎは、不意に背後から二つの視線を感じる。

 

「へー、うさぎったらこの世界でもサボる気なんだー」

「うさぎちゃん、知識は力なりって前に教えたわよね?」

「うげっ、ちびうさに亜美ちゃん……」

 

 横槍が入ることで結局騒がしくなる夜のココット村。

 アルテミスはそれを見て、呆れたように笑った。

 

「……なんかしんみりした感じでは終わらないみたいだな」

「ま、いいでしょ。今まで散々苦労してきたんだからこのくらい」

 

 ルナは、月を──その先にある大地を見て、想った。

 

「まだまだ、あたしたちの旅はこれからよ」

 




マハイのおっさんはキャラづくりほんと難しかった。基本セラムンの美少女キャラが中心なので目立ち過ぎてもいけないし、かといって存在感薄すぎてもキャラの存在意義とか分からなくなるし。大体私がぼんやりと思ってる『モンハン世界のリアルプロハン』のイメージを具現化したようなキャラでした。
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