セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて 作:Misma
「今まで、たくさん、たくさんお世話になりました」
セーラー戦士たちは、ユージアルの追跡を撒くため彼女が疲れ果てたであろう早朝に出発することとなった。
月の色が少し淡くなり、太陽がまだ地平線から顔を出していない頃合いである。
うさぎはぺこりと頭を下げ、衛も後ろのセーラー戦士たちも同様にした。
後ろには2頭のアプトノスが引く荷車が止まっている。その後方の2つ目の荷車には、食料も予備の武具もすべて詰め込みつなぎ合わせている。
村人たちは全員が集まり、マハイと村長を先頭として彼女らを名残惜しそうに見つめている。
「うさぎ、ほんとにこのまま出ていっていいの?」
隣のちびうさが、不安そうに聞いた。
「確かに、このままだとあいつに悪い噂を振りまかれたままだよ。本当のことをこの世界全体に広めた方が……」
まことも提案を口にしたが、うさぎは首を横に振った。
「うん、いいの。なるべくここの人たちを巻き込みたくないから」
「実際、今の時点で正体は明かさない方がいいかもしれない」
マハイが気難しい顔をして言った。
「この世界の人たちも一枚岩じゃない。君たちを恐れる人だって必ずいる」
うさぎが、瞳に悲しげな色を滲ませた。
亜美も、残念そうにだが頷いて答える。
「そうね。下手に正体を晒せばこの世界に大混乱を招く恐れがあるわ。そうなったらデス・バスターズどころじゃなくなる」
「あたしたちの問題はあたしたちで解決するってことかぁ、中々キビシーわね」
美奈子の口調は軽かったが、その目には苦々しさがはっきりと映っていた。
「きっとこの先、君たちには想像もつかない生き物や、人や、文化が待ち受けているだろう。時に、目を背けたくなる時もあるかもしれない」
衛が、そっと握りしめる拳に力を入れる。
「だが、あんたたちなら何とかできる……俺にはそんな気がしている」
うさぎは、マハイに柔らかく微笑んでみせた。
「うん、何とかして見せるわ。あたしたちはみんな、星の力を授かったセーラー戦士だもの」
彼女は、手元のハート型のコンパクトを握った。
太陽を背にしていても、それは美しく輝いていて存在感を放っている。
「ね、みんな」
うさぎが振り向くと、仲間たちも笑って頷いて答えた。
────
別れの時が来た。
日頃世話になっていた村人たちも列を作って荷車の周りに集まり、涙ぐんで村を護ってくれたことへの感謝と出発を悔やむ言葉を次々と口にする。
1人、前に一緒に遊んでいた女の子がうさぎに綺麗な白い花輪をくれた。
思わず彼女は涙を見せかけたが、上を見てなんとか涙が流れないようにして堪えきった。
マハイ、村長と戦士1人1人がしっかり別れの握手をしていく。彼の手はよぼよぼの皺だらけだったが、確かな力強い温かみを感じた。
最後にうさぎと村長が握手を交わし、遂に彼女たちは荷車に乗る。
それでもまだセーラー戦士たちは荷車の横の幌から顔を出し、なんとか村人たちの姿を捉えようとする。
「いつでも帰りたくなったら帰ってきなさい。わしらはいつでもオヌシたちを受け入れる」
「ええ、その時は必ず」
衛が、村長の言葉に真っ直ぐな声で返した。
容赦なく鳴る、御者が鞭を叩く音。
遂に車輪が動き出した。
小さくなっていく、手を振る人々。
彼女たちも、全力で振り返す。
「ではいつかまた会おう、我らが同胞よ!!」
マハイが叫び、うさぎも叫んで返した。
「さようなら!さようなら!!」
地平線から光が差し込み、新たな一日の始まりを告げた。
────
「ああ、遂に……村が遠くなっていく……」
アルテミスが、じんわりと赤くなった目で小さくなったココット村を眺めている。
「さあ、そろそろ旅の計画を──」
後ろを振り向いた瞬間、彼は言葉を失った。
「3ヶ月いただけなのにぃ……睡眠環境サイアクだったのにぃ……」
「ちょっとレイちゃん、まだ泣いてんのぉ……?」
「そう言う美奈子ちゃんだってぇ……」
どこを見ても涙が渦巻く地獄絵図であった。
うさぎなどは衛の右腕に抱きついて子どものように大泣きし、反対側にいるちびうさとルナに軽く引かれている。
亜美はまだマシなようだったが、それでも言葉に嗚咽が混じっている。
「……いつまでも……平和でいて欲しいわ……」
「んにしても奴ら、計画の中身は何なんだ!?罪のない人たちを騙そうとするなんざ許せないよっ……!!」
辛うじてまことが悲しみを怒りに変え、話を前に進める。
アルテミスはそれを見て内心ちょっとほっとする。
「妖魔化したライゼクスが放った、エナジーを吸収する『霧』……あれがヒントになる気がするわ」
亜美が鼻を赤くしながらも何とかまことの言葉に返す。
「あの先にあるのがあたしたちの世界へのリベンジなのは確かね」
美奈子は鼻声になりながらもそう言い、チリ紙でちーんと鼻を吹いた。
「でも、謎も残されてるわ」
レイが鼻を真っ赤にしながらも何とか正気を保ち、いつもの声の調子を取り戻す。
「奴らがこの世界の人々に取り入ろうとしてる理由よ!絶対なにか事情があるはず」
「ならこの行く先で『霧』の情報をもっと集め、帰る方法も含め探っていかないとねっ!」
美奈子は拳を前で握りしめるが、その時どん、どんと荷車の右方を叩く音が聞こえた。
「な、なに!?いきなり盗賊!?」
ちびうさは飛びあがり、衛の左腕に登るようにしてすがりつく。
「ちょっとうさぎ、びーびー泣いてないで外見てきなさいよ!」
うさぎは、荷車の中でも一番右方にいた。
レイが指示するが、彼女の大泣きはまだ止まない。
「だって~~、無理なもんは無理だも~~ん」
そんな中でもまだしつこく続く叩く音に、衛が痺れを切らした。
「ああもう、仕方ないなぁ……」
右腕にうさぎが引っ付いているので、右の幌に指先だけしか届かない。
「くそっ、見えない」
それでも何とか指を幌の下に引っ掛け、腕を上げようとした。
突然、彼の懸命な努力を待たず幕の下から長いものが突き入れられる。
真っ直ぐ向かうは、レイの顔ど真ん中。
「あ゛あ゛ーーーーーーーーむぎゅっ」
「……むぎゅ?」
悲鳴を止めた正体は、巨大なおたまだった。
流石にうさぎの涙もぱたんと止んだ。
「あっ、誰かに当たったニャル」
「ああほれ引きぃ、引きぃ」
誰か慌てる2人の声がしたあと少しずつおたまが引かれ、今度こそ大きく上に幕が引き上げられる。
「やーすまんすまん、誰かケガは……ああ……」
レイの顔の真ん中が綺麗なまん丸に赤くなり、彼女は意識を失っていた。
最初に正体に気づいたのは、うさぎに代わって右縁に飛び移り、外を覗き込んだルナだった。
「あれ、竜人商人さんに料理長さんじゃない!3日前に先に行ってたんじゃなかったの!?」
犯人の2人は、同じくアプトノスと御者に自身の屋台を隣で引かせている。
今彼女たちと隣り合って商人が座っているのは、後方の自身の移動屋台。
対して前方にあるキノコ型の乗り物は、料理長の屋台の移動形態である。
おたまを持っているのは前方の屋台の屋根から身体を出していた料理長で、よろめきながらも何とか今の幌を持ち上げた状態を保っている。
商人は、座布団に座ってお茶を飲みながら紫の日傘を差し、鍵型の杖でこん、と足元の屋台を突いた。
「ちょっとぶらぶらしとったらえらく長い隊列が来たもんやから、もしやと思うてな。あんたら、今からどうするつもりや?」
顔を見合わせるセーラー戦士たちだったが、衛が懐を探った。
「えーっと……取り敢えず最近話題の『闇の霧』の情報集めに近くのこの村に……」
彼が地図で指したのはココット村よりある程度大きい村だったが、即座に料理長は黙り込む。
「……そこニャルか……」
あまりの真剣さに、戦士たちは息を呑んで彼の顔を覗き込む。
「その村に行ったけど……実は……」
「実は……?」
「その村に行くと……」
「行くと……?」
「別に何もないニャ……「何もないんかーいっっ!」」
起き上がったレイがおたまの先を掴んで突き返した。
長いにも程がある柄が料理長の頬に直撃する。
商人はレイと料理長の激しい攻防をよそに、変わらぬ笑顔を戦士たちに向ける。
「ちょうどまだあの時の礼が足らんと思っとった頃や。良かったらわしらが伝手を使って、もっとええとこ案内しようか?」
彼は、鍵を持っていない方の手を大きく広げてみせた。
「そこならその村の10倍以上の人が、モノが、情報が集まる」
うさぎが泣いていたのも忘れ、荷車から勢いよく身を乗り出す。
「えっ、いいの!?」
商人は頷き、手元から白い鳩を取り出してみせた。
「この鳩を飛ばせばすぐにキャラバンの仲間へ連絡が行く。お節介好きな人らやから、すぐ返事来ると思うわ」
「そこ、何て言うところなんですか?」
亜美も幌の下から身を乗り出して聞くと、商人はよくぞ聞いてくれた、と言って咳払いをした。
「地図に載らぬ砂漠の超巨大市場、『バルバレ』や」
第1章『ココット村編』、完結!!!!
次回から第2章『バルバレ編』開始!!!!